教育DXを支えるのは、最先端のテクノロジーだけではない。現場の先生たちが安心してICTを活用できるように、寄り添い、支え続ける“人のサポート”こそが、教育DXを円滑に機能させる鍵となっている。
システムディは、全国の教育機関や自治体に向けて、学園運営システム「Campus Plan」や校務支援システム「School Engine」などを提供してきた老舗IT企業で、1984年の創業以来、一貫して「現場に寄り添うパッケージ開発」を続けてきた。同社は2026年1月、Amazon Connectを活用したコールセンター運用のクラウド化に踏み切り、さらなる業務効率化と顧客満足度の向上を目指している。
学園ソリューション事業部 営業部 テクニカルサポート課 課長の棚原氏、公教育ソリューション事業部 CS部 サポート課 課長の髙山氏に、新たなコールセンターを整備する狙いと現状の課題、そして教育DXを支え、その先に描く未来について話を聞いた。
Amazon Connectとは?
Amazon Connectは、AWSが提供するクラウド型コンタクトセンターサービス。インフラ構築不要で、電話やチャットによる顧客対応を簡単に開始できる。また、利用状況に合わせてアカウント数も柔軟に増減が可能だ。AIによる音声認識や分析機能を活用し、顧客体験の向上と運用コスト削減を実現する。
円滑な次世代校務DXの支援により、教育に集中できる環境を
--教育分野のDXに取り組むうえで大切にしている価値観や理念についてお聞かせください。
棚原氏:学園ソリューション事業部は、おもに大学や専門学校、私立中高などの私立学校を対象に「Campus Plan(キャンパスプラン)」という学園運営システムを提供しています。ユーザーである教職員の皆さまは授業や学生対応、会計処理など非常に多くの業務を抱えています。私たちは、そうした複雑で多様な業務をもっとわかりやすく、もっと便利にし、教職員が教育や学生サービスに集中できる環境を整えることを目指しています。
DXという言葉はICT導入と同義で語られがちですが、私たちは「ICTを活用して人が本来の業務に専念できる仕組みを作ること」だと思っています。そのために、現場の方たちが困ったときにすぐ相談できるサポート体制の構築も、DXの重要な一部だと考えています。

髙山氏:私の所属する公教育ソリューション事業部は、全国の公立小中高校向けの校務支援クラウドサービス「School Engine(スクールエンジン)」を展開しています。教育現場で子供たちと向きあっている先生方が授業準備や校務に追われる中で、校務支援システムにトラブルや不明点が少しでも生じると業務全体が滞ってしまいます。煩雑な校務処理をICTの力で効率化するだけでなく、「手が止まってしまう」状況をできる限り減らし、先生が教育に専念できるよう支えることが私たちの使命だと思っています。

学園・公教育の両事業が先行してクラウド型コールセンターを整備
--新しく整備されるコールセンターについて教えてください。
棚原氏:弊社は、文教分野・公共分野・健康分野・民間分野のサービスを展開していますが、まずは文教分野に特化した2つの事業部、学園ソリューション事業部と公教育ソリューション事業部で先行して進めることになりました。両事業部のサポートシステムを統合し、より効率的に運用できるように整備を進めています。将来的には、システムディで展開しているほかの事業部にも順次拡大していく予定です。
髙山氏:問合せ用の回線はサービスごとに分かれていますが、体制や方針に大きな違いはありません。どちらも専任のサポートスタッフを配置し、それぞれの現場事情に即した対応を行います。
--コールセンターに寄せられる問合せはどのような内容が多いですか。
棚原氏:8割ほどが操作方法や運用に関するご相談です。「このデータをどこに入力すればよいか」といった質問が中心です。
髙山氏:公教育のほうも同様で、「やりたいことがうまくできない」「エラーが出た」といった問合せが多いです。 “システムの不具合”というより、使い方の確認に関する内容が多くを占めています。
教育現場ではエラーや操作でわからないことがあると授業や校務そのものが止まってしまいます。教職員の皆さまに余計な手間や時間を取らせることにもなるため、問合せには即時対応し、スムーズに解決することが必須であると考えています。そうした現場を意識した課題が、今回のクラウド化プロジェクトの出発点になりました。
オフィスにいなければ電話に出られない…分散勤務を阻む課題
--これまでのコールセンター運用には、どのような課題があったのでしょうか。
棚原氏:学園ソリューション事業部では、ソフトフォン(パソコンやスマホなどの端末に専用ソフトをインストールし、インターネット回線で通話する電話システム)を導入していましたが、録音や文字起こしなどをするためには外部製品が必要で、費用がかかるため十分に活用できていませんでした。その結果、通話内容をリアルタイムで蓄積・共有できず、繁忙期には記録を残せないまま次の電話対応に追われるという課題がありました。
髙山氏:公教育ソリューション事業部はそれ以前の段階で、オフィスフォン、いわゆる固定電話による対応でした。コロナ禍の在宅勤務・分散出社の時期には、必ず誰かが出社して電話を取る必要がありました。さらに、GIGAスクール構想や校務支援システムの導入が進んだ2022~2023年ごろからは問合せが急増し、対応が逼迫していました。学校現場のデジタル化が大きく進化しようとする中、それを支える側の私たちの体制も大きく変革する必要がありました。
Amazon Connect導入で、リアルタイム共有と迅速な対応を実現
--今回導入されるAmazon Connectとは、どのようなサービスなのでしょうか。
髙山氏:Amazon Connectは、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)が提供する、生成AIを活用したクラウド型のコンタクトセンター基盤です。電話・チャット・メッセージなどの問合せチャネルを統合管理でき、企業が社内電話システムを自社内に構築する、従来のオンプレミス型PBXのような設備投資が不要です。利用規模に応じて柔軟に拡張できるほか、通話の自動録音、文字起こしといった機能に加え、生成AIによる通話要約や回答候補の提示、感情分析など、AI技術により応対品の向上が期待できる点が特長です。
システムディは、こうした最新のクラウド基盤を教育分野に適した形で生かし、サポート体制を再構築しました。
棚原氏:導入にあたり、何よりもメリットになると感じた点は、自動録音と文字起こし、問合せ内容の要約をリアルタイムで行える点です。教育現場という性質上、例年、年度末・年度初めの3~4月は問合せが一気に増える繁忙期となり、通話内容を手動で記録する時間もありませんでした。特に、開発や営業サイドに共有しなければならないトラブルなどの場合は、タイムリーな対応が何より重要になりますが、繁忙期はそこにタイムラグが発生してしまうケースもありました。
髙山氏:既存のCRM(顧客管理システム)との連携が強化されました。以前は電話を受けながら社内のナレッジシステムを検索し、同様のケースを手動でピックアップしていましたが、Amazon Connectとの統合により、過去のナレッジから最適な回答候補が自動提示されることで、1件あたりの応対時間が短縮され、結果として、1日の対応件数の増加や、確認に要する時間の削減が期待でき、対応スピードと正確性の両立を図れます。これにより、今まで以上に現場の手を止めない、より丁寧で的確なサポートが可能になる、非常に重要な仕組みだと捉えています。

--既存のシステムとどのように連携するのでしょうか。
髙山氏:既存のCRM(顧客管理システム)との連携が強化されました。以前は電話を受けながら社内のナレッジシステムを検索し、同様のケースを手動でピックアップしていましたが、Amazon Connectとの統合により、過去の問合せ履歴や関連情報が自動的にポップアップ表示されるようになります。これにより、対応スピードと正確性の両立を図れます。
また、過去のナレッジから最適な回答候補が自動提示されることで、1件あたりの応対時間が短縮され、結果として、1日の対応件数の増加や、確認に要する時間の削減が期待できます。これにより、今まで以上に現場の手を止めない、より丁寧で的確なサポートが可能になる、非常に重要な仕組みだと捉えています。
棚原氏:常に動き続ける教育現場では、「困ったときにすぐ解決したい」というニーズが強く、メールやWebフォームからの問合せに比べ、圧倒的に電話での問合せが多いという傾向にあります。そのため、電話窓口は自動音声ではなく、オペレーターに直接つながる仕組みにしています。即解決を望む先生方にとって、電話応対の品質向上が教育DXを進めるための安心感につながればと考えています。
効率化の目的は人員削減ではなく、価値創出の時間に
--Amazon Connect導入によって、業務効率にはどのような変化が見込まれますか。
棚原氏:今回の取組みは、人員を減らすことが目的ではありません。通話の自動記録や要約によって生まれた時間を、製品開発や顧客フィードバック分析といった新たな価値創出に充てたいと考えています。これまで「記録や報告」に費やしていた時間を「改善や提案」に変えていくことで、サービスの質を高めたいと思っています。
髙山氏:クラウド化によって、在宅勤務でもオフィスと同じクオリティの応対が可能になります。応対品質や体制をさらにアップデートすると同時に、スタッフ自身の働きやすさも重視し、教育現場支援と同時に社内の働き方改革にもつながる取組みとして進めていきたいと考えています。
クラウドだからできる柔軟な運用
--クラウド化にあたっては、どのような点を重視されたのでしょうか。
棚原氏:アカウントの増減を柔軟に行える点です。教育分野では年度が切り替わる時期に問合せが集中しますが、Amazon Connectでは短期間だけオペレーターを増員するなど、繁忙期にあわせた運用が可能です。今後、弊社の「Campus Plan」や「School Engine」の導入校がさらに増え、窓口対応の増員を検討する際にも、柔軟に対応できる点はありがたいです。また、電話フローをノーコードで設計できるので、運用状況を見ながら柔軟に見直すことができるというのも、応対品質向上の観点から魅力のひとつだと感じています。
髙山氏:柔軟な運用と、技術的な一元化が両立できる点は大きなメリットだと感じています。録音から文字起こし、要約までを同一プラットフォームで完結できる点もクラウドならではの利点です。Amazon Connectで統合することで、他社製品を併用することなく、開発部門や営業部門との情報共有がスムーズになると見込んでいます。
蓄積されるナレッジで、サポート業務を次のステージへ
--蓄積、分析された問合せ内容は、今後どのように活用していく予定ですか。
髙山氏:通話記録や要約データをナレッジとして整理し、FAQやマニュアルの改善に生かしていきたいと考えています。問合せ傾向を分析することで、現場の“つまずき”を可視化し、教育DX全体の質を高めていきたいです。
棚原氏:AIの要約機能を使うことで、従来は担当者の経験や勘に頼っていた報告が、より正確で迅速な情報共有に変わると期待しています。問合せ内容を開発などの他部門と即時に共有し、現場の声をスピーディーに反映、改善できる体制を整えることで、サポート業務をひとつ上のステージに進化させたいと考えています。
--最後に、教育機関の皆さまに向けてメッセージをお願いします。
棚原氏:私たちは、システムを「安心して長く使っていただく」ことを第一に考えています。何かあってもすぐに相談でき、確実に解決へ導ける。そんな信頼関係を築きたいと思っています。今回のコールセンター整備が、そのための大きな一歩になると確信しています。
髙山氏:教職員の皆さまの困りごとを即時解決することは、我々の重要な使命です。ICTに慣れている方だけでなく、不慣れな方も、年度始めの新任校での利用であっても、どのような問合せにも的確に対応することで、サービス全体の質をさらに高めていきたいと考えています。教育現場の皆さまが安心して使える環境を守るために、クラウド化によっていつでもどこでも変わらない品質のサポートを提供し、AIをうまく活用しながら、人にしかできない温かいサポートを続けていきたいと思っています。
システムディAmazonConnect
システムディが進めるクラウド型コールセンターは、単なる効率化ではなく、教育現場の“困りごと”に迅速かつ的確に応え、教職員が教育に専念できる環境を支える仕組みとなる。Amazon Connectによるリアルタイム共有とナレッジ活用は、現場の声を即座に製品改善につなげ、サービス全体の質向上に大きく貢献するだろう。新コールセンターの本格稼働後は、教育DXの中核を担うサポート拠点として進化が期待される。テクノロジーが進化しても、最後に現場を支えるのは“人”。教育を陰で支えるサポートの質向上こそ、次の教育DXを動かす原動力になると感じた。










