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荒川区教育委員会、Microsoft 365 A5とAVDとGIGA端末でもっと子供たちに向きあえる時間を

 荒川区教育委員会は先生方の働き方改革や児童・生徒の教育の充実に向け、Microsoft 365 A5とAzure Virtual Desktopによる仮想環境を導入。荒川区教育委員会 事務局学務課 教育事業係 教育事業担当係長の柳生光彦氏にその背景や狙いを聞いた。

事例 ICT活用
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荒川区教育委員会、Microsoft 365 A5とAVDとGIGA端末でもっと子供たちに向きあえる時間を
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 GIGA端末の更新時期が訪れる中、教員の働き方改革や児童・生徒の教育の充実に向けた安全・安心な教育ICT環境の整備に注目が集まっている。他の自治体に先行してICT教育に取り組んできた東京都荒川区は、GIGA端末の更新時期を迎えたのを機に、校務系と学習系のシステムを支える基盤としてMicrosoft 365 A5とAzure Virtual Desktop(以下AVD)の導入を決定した。

 Microsoft 365 A5は、ゼロトラスト(※)セキュリティを実現するための幅広いセキュリティ機能が総合的に含まれたパッケージ。「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に準拠し、フルクラウド環境を実現する。

 AVDは、マイクロソフトのクラウドサービスAzureをベースに提供される仮想デスクトップ環境で、利用者がインターネットに接続してアクセスすれば、端末のOSに関わらず、どこからでもWindows OSのデスクトップ環境を使うことができる。

 東京都荒川区の公立小中学校で利用するタブレットPCや関係機器の設定、利用環境の設計・構築などは、内田洋行が担っている。今年(2024年)の夏休みには新しい端末を導入し、Microsoft 365 A5とAVDの運用を開始する予定だ。荒川区教育委員会 事務局学務課 教育事業係 教育事業担当係長の柳生光彦氏に、新たな環境構築を目指した背景や狙いを聞いた。

※ゼロトラストとは
 「何も信頼しない」ことを前提に対策を講じるセキュリティの考え方。従来は、信頼できる「内側(社内LANやVPN)」と信頼できない「外側(インターネット)」にネットワークを分け、その境界線でセキュリティ対策を講じ、外部からのサイバー攻撃を遮断してきたが、クラウドの普及により境界が曖昧となり、従来の対策では不十分になった。そこで広まったのがゼロトラストの考え方で、すべての通信を信頼しないことを前提に、さまざまなセキュリティ対策を講じていく。

ICT教育先進自治体である荒川区の目指す教育と課題

--荒川区の目指す教育とICTの役割、またこれまでの課題などを教えてください。

 荒川区では「未来を拓き、たくましく生きる子供を育成する」という目標を掲げて、21世紀に生きる子供たちが将来の夢や希望をもって主体的に学び育つことができるよう、さまざまな教育施策を推進してきました。その教育施策のひとつが教育ICT環境の充実です。2013年度から学校にタブレットPCを導入し、全国に先駆けてICT教育に取り組んできました。

 一方で、校務におけるICTの活用は他の自治体に比べて遅く、統合型の校務支援システムの運用を開始したのは2020年度からになります。導入前は、成績管理や学籍管理などを区で統一しておらず、PCを使ってはいましたがアナログな環境で校務を行っていました。学校を異動すると様式が変わるため、教員からは慣れるまでの負担が大きいという声もありました。

 また、他の自治体と同様、教員が非常に忙しいことも課題です。文部科学省や教育委員会から働き方改革に関するさまざまな指針が示されていますが、現場では日々の業務が忙しく、思うようにいかないのが現状です。

Microsoft 365 A5とAVD、GIGA端末でセキュアな環境へ

--GIGAスクール構想の第2期も荒川区はいち早く動かれていますね。

 荒川区は2019年度に現在使用しているタブレットPCを導入しましたので、他の自治体に先駆けて端末の更新時期を迎えました。今回の端末更新と新システムの導入では、教員の負担軽減を目指しています。より働きやすい環境を作るために、目の前の課題をひとつひとつ解決していきたいですね。

 5年に1度の端末更新の機会に、児童・生徒用端末と教員用端末をWindows OSからWebベースの他社OSの端末に入れ替えます。まず子供たちや教員にとって、どれだけ良いICT環境を構築できるか。特に教員の働き方改革に実効性のある手段としてAVDには大きな期待をもっています。

--Microsoft 365 A5とAVDを導入する理由を教えてください。

 教員の働き方改革や負担軽減のために利便性を向上させることは大切ですが、それと同時にセキュリティレベルを上げなければなりません。Microsoft 365 A5を利用すれば、ファイルの自動暗号化やAVDの仮想環境に接続できる端末のIPアドレスを指定できるなど、利便性を高めながらセキュリティレベルを向上できます。

 子供も教員もWindows OSから他社OSの端末に入れ替えましたが、校務ではやはりWindows環境が必要になる場面が多くあります。学習は他社のOS端末を利用したWindowsとは別のOS環境、校務はAVDのWindows環境を採用し、学習環境と校務環境でセグメントだけではなくOSも使い分けることで校務環境にある機微な情報を含むファイルが学習環境に流出しにくい仕組みになり、より強固なセキュリティを築くことができると考えました。

--Microsoft 365 A5とAVDで、教員は学習系と校務系を1台の端末で操作できるようになるのですね。

 はい、そうです。教員は学習系・校務系の業務を1台の端末で操作できますが、異なるOS環境の間ではファイルに互換性がないため、おのずとファイルのやり取りが発生しない状況を作ることができます。1台の端末ですが、OSによって学習系と校務系業務の住み分けを図ることで、より強固なセキュリティを実現できる構成になっています。

 今まで教員はWindows環境で校務系・学習系の業務をどちらもやっていました。今のところ荒川区では大きなインシデントは起きていませんが、どちらも同じWindows環境の場合、仮想環境内で作業するべきファイルでも、先生のPC、つまりローカル環境にダウンロードして仕事をしてしまう可能性がゼロではありません。それによって、端末紛失による情報漏えいなどのインシデントが起こるリスクが高まります。

 Windowsではない端末と、Microsoft 365 A5、AVDによる新しい環境では、OSによる業務の住み分けに加えて暗号化もできるので、二重三重に機微な情報が守られる環境が構築できると考えています。

 これまで教員は端末からリモートデスクトップサービスを通じて校務支援システムを操作していましたが、より使いやすいデスクトップ仮想化(Virtual Desktop Infrastracture、以下VDI)を模索していました。費用の面からリモートデスクトップを利用していましたが、今回の端末更新のタイミングで、GIGAスクール構想の補助金もあり、区の費用負担が圧縮できたため、AVDによる仮想環境を構築できることになりました。

 教員はこれまで、職員室に固定設置されたWindowsのノートPCで校務を行い、別に学習系の端末を持つという2台持ちをしていましたが、これを1台に集約し、インターネットにつながれば、どこでもAVDの校務環境にアクセスして利用できるようになります。

 ただ、新たに導入する端末ではCDやDVDを作ることができないなど、職員用のWindows PCをすべてなくすと、これまでできていた作業ができなくなってしまうケースもあることから、職員室には引き続きWindowsのノートPCを数台残し、端末を変更しても業務に支障が出ないように備えます。先生には、持ち運びできる新しい端末1台で学習系と校務系の業務をロケーションフリーでやってもらう予定です。

スピード感のある選定と導入の経緯

--今回の端末更新はどのような体制で動かれたのでしょうか。また、導入を決定するまでにどのくらいの期間がかかりましたか。

 他の自治体では教育ICT担当課などがありますが、荒川区は私ともう1人の係員の2人体制で、教育ICTを担当しています。人員が少ない分、大変なこともありますが、逆にさまざまな意思決定を迅速に行えるというメリットもあります。新しいシステムや端末の更新を決めるまでの準備はかなり前から取り組んでいましたが、ある程度の方向性が定まった後の細かい部分の決定については、スピード感をもって取り組めたと思います。

 GIGA端末のOS選定で事業者にプレゼンをしてもらうときも、荒川区は一般的なプロポーザルの手法を当てはめてOSを選定しました。OSの選定は2023年1月から始まって、学校での実証期間を経て最終的には7月に結論が出ました。比較的短い期間で決定したという点では、他の自治体の参考になるかもしれません。

 OSと端末が決まって、今回の端末更新では前回よりも費用を圧縮することができました。前回は、端末の更新時期が早かったせいで十分に活用できなかったGIGAスクール構想の補助金も、今回はおおむね活用できる目処がつきました。そこで、この機会にVDIを導入すれば、先生がロケーションフリーで仕事ができ、働き方改革も進められると考え、VDI を検討することになりました。

 まずはVDIをクラウド環境にするか、オンプレミス環境にするかというところから検討しました。オンプレミス環境はコスト面や実物がある中での安心感がありましたが、教育委員会や評価委員会の専門委員の方たち含めて、クラウドバイデフォルトの流れを重視し、クラウド環境にすることに決まりました。具体的には、端末のOSが決まった7月から1年も経たないうちにMicrosoft 365 A5とAVDの導入が決定しています。

先生たちが子供たちと向き合う時間を創出する

--今回導入する新しい環境を、今後どのように使っていきたいとお考えですか。

 Microsoft 365 A5とAVDではアクセスできる端末やIPアドレスが制限できますので、将来的に教育委員会の職員が利用している庁内の行政端末からもAVD環境にアクセスして校務などの内容確認ができれば、教育委員会にもメリットが生まれると考えています。

 校長先生や副校長先生は、行政系のWindows PC、教育委員会から配布されている校務用のWindows PC、さらに学習系のタブレットと3台持ちです。校長先生は行政系のWindows PCをメインに使われていますが、かなり不便を感じているという声もありますので、今後は行政系の端末からもVDI環境にアクセスできるようにして、校長先生、副校長先生の負担を少しでも軽減したいと考えています。今は、実現に向けて動いているところです。

 今後はこうしたセキュアなICT環境を基盤に、先生には今よりももっと授業や子供たちに集中してもらえるようにしていきたいです。校務も大事ですが、子供たちに向き合う、子供たちと接することが先生方の本来の業務ですから、教育委員会はそれが可能になる環境をできる限り整えていきます。

 Microsoft 365 A5とAVD、新しい端末の環境は、2024年度の夏休みから運用を開始する予定です。早ければ夏休み中に教員に新しい端末が配布され、それを使ってAVD環境にアクセスできるようになります。現在の環境では学校へ行かないと校務ができませんが、新しい環境ならば、校外からも校務が可能になります。新しいシステムをぜひ教員には十分活用してもらって、働き方改革につなげていければと思います。

 2学期以降、AVDを使った校務環境の本格的な運用がはじまります。「こういうことができたほうが良い」「ここは制限をかけたほうが良い」という声が現場からどんどん出てくると思いますので、先生方の意見を参考にしながら調整をしていきたいと思います。

5年後「使ってきて良かった」と思える環境に

--全国の教育委員会の方たちも、荒川区の事例を注目していると思います。

 こうした大きなシステムの変更ができるのは、5年に1度の端末更新の時期だからこそです。現在と同じような環境を継続すれば、更新時の教育委員会やユーザーの負担は少なくて済みますが、単に端末が更新されて新しくなるだけで目に見えた効果は期待できません。5年後「使ってきて良かった」と思える環境にしたい。そのためには新しい事例やシステムの運用方法をできる限り検討し、より子供たちや教員にとって使いやすく、負担の軽減にもつながるシステムを構築していくことが大切になると考えています。

 荒川区がAVDを導入して、Windowによる校務環境を作り、1台の端末で学習系と校務系の住み分けを図るイメージは、同じような悩みや端末構成をお考えの自治体にとってもセキュリティや利便性向上の観点で有用になるかもしれません。ぜひ参考にしてもらえたらと思います。

--ありがとうございました。

 取材から感じたのは、柳生氏が子供たちと先生方の時間を創出するために何ができるかを考え、現場を支えようとする思いの強さ。Microsoft 365 A5とAVDならば、OSを超えたセキュアな教育ICT環境を実現できる。多くの自治体の教育ICT担当者の方々にとっても良い事例になるのではないだろうか。

Microsoft が提供する学びのプラットフォーム
Microsoft 365 Education

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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