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【実践編】ICT活用で校務時間を劇的に削減、元教員社員が実現した校務効率化術とは

 高等学校における教育ICTの環境整備に注目が集まっている。「元教員が本気で考えた、働き方を劇的に変えるICTの小技10」を制作した日本マイクロソフトの栗原太郎氏に、ICTの導入と活用の実際を聞いた。

事例 ICT活用
【実践編】ICT活用で校務時間を劇的に削減、元教員社員が実現した校務効率化術とは
  • 【実践編】ICT活用で校務時間を劇的に削減、元教員社員が実現した校務効率化術とは
  • 元教師が本気で考えた、働き方を劇的に変える ICT の小技 10
  • 9.情報共有しやすいチームを作成しよう!
  • 1.子どもの様子がわかる学級通信を作ろう!
  • 3.卒業式の要項は第何版まで作っていますか?
  • 2.保護者面談の調整は秘書に任せよう!
  • 7.欠席連絡を自動で学年教員に通知しよう!
  • 4.保護者会の出欠を自動化しよう!
 小学校、中学校に続き、高等学校においてもGIGAスクール構想で生徒1人1台の学習用PCの整備が進んでいる。また、教員の勤務実態にも数多くの問題が指摘されていることから、校務におけるICT活用も叫ばれている。高等学校の教員経験を生かして “名もなき校務”の改善を支援する「元教員が本気で考えた、働き方を劇的に変えるICTの小技10(以下、小技10)」を制作した、日本マイクロソフト ソリューションスペシャリストの栗原太郎氏に、ICTの導入と活用で、すでにGIGAスクール構想により1人1台導入の始まった小学校、中学校、並びにこれから始まる高等学校がどう変わるのか、また「小技10」の制作背景や想いを聞いた。

SNSで話題になった「働き方を劇的に変えるICTの小技10」

課題は「働く場所と時間」「コミュニケーション」「集計や転記等の繰り返し」



 栗原氏は2020年3月まで聖徳大学附属 取手聖徳女子中学校・高等学校(以下、取手聖徳)で社会科「倫理」を担当。同校は学習指導要領が変わる中、それまでの講義型授業から探究型授業へのシフトを模索していた。そのためには何より教職員の「時間」の確保が必要で、栗原氏をはじめ学校全体が改革に取り組んだ。校務や授業等にICTを積極活用した同校は、探究型の学校へと変化していったという。

--教員の働き方改革をどのように進めたのでしょうか。

 取手聖徳には3つの課題がありました。まず「働く場所と時間」が選べないという点。セキュリティと利便性の同時実現は二律背反で、どちらかを選択すれば、もう一方を諦めなければならない状況でした。教員は校務系と学習系で使い分けるためにパソコンを複数台持っていたので、まずは安全に1つの端末に統合し、それまでは職員室でしか仕事ができなかったのを、どこでもできる状況にする必要がありました。

 私はこの環境を実現するために教員が意識しなくても良いセキュリティの設計に取り組みました。いわゆるゼロトラストセキュリティを取り入れることで、余計な心配をすることなくパソコンをフル活用できるようになり、学校現場でICTを使う環境が大きく変わったと思います。取手聖徳はコロナ禍の登校制限中も、教員・生徒全員が自宅から通常の授業をしていたようです。

 次に「教員同士のコミュニケーション」の課題です。特に教科や学年をまたいだ教員同士のコミュニケーションが難しく、校務分掌でも他で何をやっているかが見えない。そこで全教員が使えるTeamsに学校のチャネルを1つ作って、様々な活動を見えるようにしました。学校現場では、毎日の職員朝礼や職員会議、電話当番等も含めて、伝達事項がものすごく多い。伝言ゲームは数値化できるものでも就労時間の20%ほどを占めていました。それを取手聖徳はすべてカットでき、その分、生徒と向き合う時間や教員が協働的に学ぶ時間が増えました。

 3つ目は「集計や転記等の繰り返し」です。たとえば、保護者会のお知らせを紙で配る場合、取手聖徳では総務担当が作成して、学年主任に渡し、担任が配っていました。紙の場合は紛失する生徒もいますし、回収した後の出欠の集計作業もある。こうした煩雑な作業があらゆる場面で何度も出てくるのが学校現場です。

 そこでTeamsを利用して生徒へ直接伝える。保護者へのアンケートはFormsを利用して総務課からダイレクトに伝える。Formsならば、保護者は時間があるときに直接入力できますし、自動集計されるので、それまでの手打ち入力による集計作業が一切なくなりました。

“名もなき校務”を自動化



 校務には、さまざまなことを二重に転記することや同じ業務を何回も繰り返す“名もなき校務”が存在しますが、そのプロセスはTeamsやForms等を活用すれば自動化することが可能です。取手聖徳では、GIGAスクール構想やコロナ禍よりも前から、教員全員がTeamsやFormsを使いこなせる状況で、2020年3月ごろまでには4人に1人の教員が校務効率化のためのアプリを作成していました。それにより、電話当番、出願申請、体温集計、出欠黒板、図書館のシステム等が自動化され、単純作業に時間を取られなくなりました。

 こうした自動化は「Power Platform」というアプリケーションで実現できます。今までITのプロでないとできなかったような自動化やアプリ開発、データ分析を一般の人でも簡単にできるようにしたもので、マイクロソフトでは「アプリ作成の民主化」ともよばれています。取手聖徳ではこのPower Platformをいろいろな教員が使って、自分たちで身の回りの課題を解決していきました。学校での教員の働き方が、テクノロジーによって劇的に変革できるチャンスが到来したのだと思います。

 教務主任や体育主任、教科ごとの主任等のミドルマネージャーはとても多忙で、いかに負担を軽減できるかが重要です。たとえば、教務主任は多方面の調整を常にしているのですが、毎日2時間ほどかけていた作業を、数分で終わるよう自動化する。すると、別の業務に専念できるようになりますし、役割も変わっていきます。

 ICTを活用して校務を自動化し、生徒との学びの時間を創出できた取手聖徳のスペシャル事例動画は、日本マイクロソフトのYouTubeチャンネルにて公開されている。


ICTを活用する土壌はコミュニケーションで作られる



--取手聖徳でICTを導入するときに教員の方々とはどのようなコミュニケーションをしていましたか。

 私の場合、コーヒーを淹れて他の教員に配ることで、話すきっかけを作っていました。1日1回は、ほぼ全員と1分でも30秒でも雑談する時間を作る。それは管理職とのコミュニケーションでも同様です。管理職と話す人が限定されるような空気もありましたが、いろいろな教員との協力が必要なので、そうした空気を打破することが大事でした。

 管理職の教員にも積極的に話しかけ、相談をして、同じ悩みをもつ他の教員も呼んでくる。そんなふうにどんどん輪を広げるとみんな喜んでくれました。学校現場はそうした空気感が本質的には嫌いではないんです。職員室を学級に見立てて、どうやって人と人とを繋げていき、グループを流動的にするか、まさに学級経営みたいなことをやっていきました。すると、ずっと座っていたような人たちが、徐々に出歩くようになって、いろいろな教員の話を聞いてくれるようになり、そこから面白いものがあれば取りあげていくようになった。これは大きな成果だと思いました。

--年齢ギャップもコミュニケーションで解消したということでしょうか。

 そうですね、たとえば、年配の方には“ICTに対する不安感”みたいなものが強い場合があります。すべての知識を習得していないと始められない、あるいは自分の知識がゼロだと思っている場合もあります。極論すればTeamsはLINEやメールの延長ですが、それを自分は知識がゼロだと思っていて怖くて使えない。そんな方には「お孫さんとLINEしているじゃないですか!」と、笑い話をしながら勧めることもありました。

 特に私が意識して伝えていたのは「ミスをしても問題ない」ということ。ボタンを押して壊したらどうしようと思う方もいる。そういうときには、「クラウドサービスなので壊しましょう。これ消してみましょう、戻しますから」とやってみる。また、クラウドサービスでは常に最新情報がアップデートされて、継続して使い続けるものであることも伝えました。

 若手と年配の教員が混ざることは大切です。若い教員はICTに対する抵抗はないが、経験値でそれをどう継続的に効果的に使っていくかのノウハウが乏しい場合がある。一方、年配の教員には今までのノウハウがあるが、これまで使えるテクノロジーがなかったので、諦めていた部分がある。そうした授業や業務への課題をICTで解決し、その教員の教育に対する価値観や、やりたい授業を実現できる状況にする。すると、その教員の周りに人が集まってくるんです。

今すぐにできる「時間」を生み出す支援へ



--「小技10」を制作した動機や経緯を教えてください。

 私の大学の教職課程では、教員の過労死の現状を訴えた書籍が必読書でしたので、もともと教員の現状を課題意識としてもっていました。根本的に制度から変えなければいけないことはあります。その一方で、ICTを使えば無駄な業務を限りなくゼロにできる。もちろん、それでも部活や授業がぎっしりで、もう回らない状況だということは理解しています。ただ現場でもできることはある。すべてを解決できるわけではなくても、何かしら助ける手段を提供したいと思い「小技10」を制作しました。

効果がわかりやすいものから取り組む



--「小技10」の中で代表的なものを教えてください。

 私はまず、すべての教員が使うTeamsを作ってくださいといつも言っています。チャットツールにおける双方向のコミュニケーションが教員全員でされているかどうかで、学校全体のICT活用の浸透度がわかります。その意味でも「小技10」では、「情報共有しやすいチームを作成しよう!」が大切なのです。

 朝の連絡等、教職員全員が見なくてはいけないものや、電話当番、欠席連絡等、日常的に全員が使って負担が大幅に減るものをICT化することが肝心です。授業だけで始めると、その教員1人に質問が集中します。その人が専門家になるんですね。まずは教員全員が使う環境を整えるところから始めて、そこでミスしても良いような状況をつくる。その中でいろいろな実験をして、自分たちの業務を改善できるようにしてほしいと思います。



「子どものようすがわかる学級通信を作ろう!」


 抵抗なく取り組んでもらうことも大切です。ここではSwayというアプリを使って写真をドラッグ&ドロップすれば、誰でも学級通信が作れるという小技を紹介しました。初めて取り組む場合は、こうした簡単なところから手掛けるのも良いでしょう。



「卒業式の要項は第何版まで作っていますか?」


 クラウドの本質を取りあげました。今までは、作成中のものが消えることが怖いので常に上書き保存をし、共同編集では版の管理が手間になる心配もあったかと思います。Teamsにファイルをドラッグ&ドロップすれば、自動保存やバージョン履歴管理も可能になることから、複数教員間での作業効率が向上します。



「保護者面談の調整は秘書に任せよう!」


 マイクロソフトの製品には多様なアプリケーションがあり、ネットにあるような仕組みも簡単に実現できます。ここでは美容室の予約システムで使われているBookingsを活用しています。保護者面談をすべて紙で調整すると、教員側での処理が本当に大変なんです。



「欠席連絡を自動で学年教員に通知しよう!」


 何から始めれば良いか迷う場合は、目に見える形で効果があるものに取り組むのが良いでしょう。いきなり職員会議をすべて電子化しようとしても、効果が想像しにくい場合があります。欠席連絡の自動化は、保護者からも好評です。「小技10」を見た保護者から、うちの学校にもこれを入れてほしいという声を多くいただいています。慣れてくれば数分で作ることができますので、短時間でみんながハッピーになる小技です。



--保護者から「連絡事項は紙でないと困る」と言われた場合はどうしますか。

 そういった声が出て「前の状態に戻る」ことはよく起きますね。その場合はデジタルを基本にしながら、紙も用意するという対応をすれば良いと思います。紙の選択肢を残せば反発も少なく、使ううちに、ほとんどの人がICTの良さに気が付くと思います。

時間を確保することから未来を創る



--これからICTの導入・活用を進める教員の方々へメッセージをお願いします。

 大切なことは、すべてを私個人がやったわけではないということです。私は、先生は世の中でもっとも面白い仕事で、優秀でクリエイティブな人ばかりだと思っています。なので、一度自分で使ってみればすぐにマスターしてくれます。取手聖徳で自動化に取り組んだ教員は、マイクロソフトの社員よりも詳しく、社員に驚かれていました。

 またTeamsやForms等のICTがなければ、保護者への連絡や伝達、探究型学習等の新しい授業観や教育観をもとにした学習も、持続的ではない形でスタートしてしまうと思います。生徒は論文を書くにもFormsでアンケートを取ったり、Teamsで部活ごとにチャネルを開いたり、生徒会もビデオ会議をしながらやっていたりと、どんどんと使いこなしています。取手聖徳には、地域課題を解決するアプリを開発した生徒もいました。

 教員が「時間」を確保して、心から「学校は楽しい」と思って働く。それがどんどん広がるためにICTはあるのだと思います。教員側が楽しければ生徒たちも楽しく活動でき、日本の未来は明るくなる。「学校が一番クリエイティブな場になるべきだ」というのは私の持論ですが、自分が送り出してきた生徒たちは、本当に何かを変えていける存在になっていきました。そこには間違いなくICTが基盤にあったと感じています。

--ありがとうございました。

 栗原氏が制作した「働き方を劇的に変える ICT の小技 10」はこちらから見ることができる。また、取手聖徳の事例動画内で紹介した「電話当番・欠席連絡の自動化」「体温管理・出欠黒板の自動化」など、校務を劇的に改善するアプリを20分で作る方法も詳しく動画で紹介されている。



 今、SNSをはじめとして「小技10」への反響はさらに高まっているという。もちろん、栗原氏が話すように「小技10」ですべてが解決するわけではないが、これをきっかけにして、教員に今以上に時間や余裕や余白ができれば、子供たちの学びもさらに豊かになるのではないだろうか。

栗原太郎さん


 
大学卒業後、高校の社会科教諭を経て日本マイクロソフト株式会社に入社。現在Microsoft 365を中心としたスペシャリストとして学校のICT化推進に従事。教員時代は「栗太(くりた)先生」の愛称で生徒から親しまれていた。
《佐久間武》

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