教育現場にも生成AIの活用が急速に広がっている。授業準備や資料作成、会議運営といった日常的な校務の効率化から、児童生徒ひとりひとりにあわせた学びの最適化まで、教育とAIの関係は“実験段階”を超え、日常の教育活動に浸透しつつある。
中でも、Microsoft 365に統合された生成AI「Copilot」や、AI処理を端末上で実行できる新世代デバイス「Copilot+ PC」は、教員の働き方と児童生徒の学びに新たな可能性を拓く存在である。
こうした教育現場へのテクノロジー導入を支えているのが、ICT商材の販売からソリューション構築まで幅広く展開するソフトバンクグループのSB C&Sだ。全国の学校・自治体へのICT支援やクラウドサービス導入を数多く手がけ、教育DXの最前線を走る同社は、AI時代の学びをどう見据えているのか。SB C&S ICT事業本部の土肥達郎氏に、CopilotやCopilot+ PCが教育現場にもたらす新しい価値について聞いた。

課題をAIで解決、DXを加速するチャンス
--教育現場ではAI活用の注目が高まっています。教育現場でAIを活用するメリットを教えてください。
土肥氏:教員の業務量は非常に多く、人手不足も深刻です。また、実業務において特定の職員に負担が集中するケースもあると聞いています。AIを活用すると、業務負担の偏りが解消でき、教員本来の業務に集中できるようになると考えています。たとえば、PowerPointやWordの操作が苦手でも、AIに「行事案内を300字で作って」と指示するだけで文章を生成できます。資料作成や書類整理の時間を減らし、児童生徒と向きあう時間を確保できるようになるのです。
「校務のDX化もままならないのにAIなんて無理」という意見もありますが、DXがうまくいっていなくても、AIは活用できると思います。生成AIは自然言語で対話できるので、ツールの習熟度に関係なく使うことができます。資料作成や議事録の整理などの業務をAIと共に担うことで、タスクの簡略化、作業スピードの向上により個々の生産性が高まり、教員は児童生徒の支援や教材研究に集中できます。さらに、これまで経験や勘に頼っていた個人個人がもつナレッジをデータ化し、参照にAIを活用することで、ベテラン教員がもつ良質なノウハウを新任・若手の教員に共有できるようにもなり、俗人化の解消や全職員のスキルの平準化も実現することができます。
AI活用は「AI人材」育成の第一歩
--生徒のAI活用にはどのような意義があると思われますか。また、安全に使うために気を付けることを教えてください。
土肥氏:生徒のAI活用は、社会で求められる「AI人材」の育成に役立つと考えています。AI人材とは、AIモデルの開発者だけでなく、AIを活用できる人も含まれます。社会で活躍するAI人材になるためには、教育段階からAIに慣れ、使いこなす経験を積むことが重要です。レポート要約や文章成形、データのグラフ化など、日常的にAIとやり取りを重ねることで「ここはAIに任せられる」と自然に判断できるようになります。最初は「便利だから使う」で構いません。こうした体験を積み重ねることが、結果的に“AIを活用できる人材”を育てることにつながっていくのだと思います。
文部科学省のガイドラインでも触れられているように、利用対象年齢や保護者同意、データ管理など、環境に応じたルールづくりが不可欠です。ガバナンスやセキュリティが担保されたサービスを選ぶことが学習現場におけるAI活用の第一歩だと考えています。
そして、すべてのタスクをAI任せにするのではなく、AIとの共創も体感することが大事です。現時点でのAIは、ルーチンワークなどの定型化されたタスクは得意ですが、たとえば都度判断を求められるような非定型的なタスク完結は難しく、あくまで仕事の2~3割を担うサブツールと捉えることが重要です。「With AI(AIと共に)」活用する感覚を身に付けることが、これからの社会で求められる重要なスキルとなります。
AIは“寄り添う相談相手”
--「悩みをAIに相談する」子供が増えていると言われています。AIを“相談相手”として活用することの有用性と、注意点を教えてください。
土肥氏:人間ではないからこそ遠慮なく話せる“心理的ハードルの低さ”が、大きな価値のひとつだと思います。音声対話モードは進化しており、まるで人間と対話しているような体験を我々に提供してくれます。また、AIは時間帯や状況を問わず、いつでも話しかけることができるので、そのことも相談における心理的ハードルを下げているとも感じます。AIは先生や親とはまた違った形で“寄り添う相手”です。対話を通じて考えを整理し、誰かに相談する前の準備として情報をまとめるサポートの役割も果たします。AIに相談することで「1人で抱え込まなくて良いんだ」と感じる子供が増えるなら、非常に大きな意味があることでしょう。
このようなAIを安全かつ効果的に活用するためには、学校側が積極的にガイドラインを示し、AIリテラシーを育成していくことが重要です。たとえば、学校側がAI専用の相談窓口を用意し、生徒に対して「個人情報を入れない」「暴力的な言葉を避ける」といったルールを明確に教えることで、生徒がAIの適切な使い方を体感できます。これは、今後の社会で必要となるAIガバナンスを学校に通っている間に体感的に身に付けるための土台作りとなります。

統合性とセキュリティ、教育現場に最適なCopilot
--Microsoftが提供する生成AI「Copilot」の特長を教えてください。
土肥氏:最大の特長は、統合性とセキュリティです。Copilot は、Microsoft製品に付帯するAI機能ですので、Windows 11はもちろん、教員の校務効率化に不可欠なMicrosoft 365(Office製品)にも統合されており、また、一部機能においてはバンドル提供されるため、コストパフォーマンスが非常に優れています。
Copilotを活用することでチャットアプリとしての機能はもちろん、たとえばWindowsの設定変更を自然言語で実行したり、Wordを使った学校行事の案内を自然言語で指示をすることで文章を生成してくれます。
このように学校現場で日常的に使われているアプリに組み込まれており、使い手が「やりたいことに手が届く」を体感できることがCopilotの強みです。
さらに、個人情報保護の観点からも安心して利用できます。Copilotに対するユーザープロンプト(入力内容)でAIが学習しないよう、オプトアウトの設定が可能です。Microsoft 365を保有している組織の法人向けアカウント(教育機関向けライセンスを含む)でCopilotを利用する場合は、エンタープライズセキュリティが実装されます。これにより、その組織のテナント(利用環境)内のデータは保護されるため、高いセキュリティとガバナンスの下で安心して利用することが可能です。
--生徒がCopilotを体感することの意義についても教えてください。
土肥氏:学校教育でCopilotに触れることは、将来の“働く力”を育てることにも直結します。多くの企業がWindowsとMicrosoft 365を採用していることから、Copilotを使いこなすスキルは、生徒が社会に出る際に非常に有用な価値となります。
「仕事を奪うのはAIではなく『AIを使う人』があなたの仕事を奪う」という話がよく話題になっているように、AI活用が当たり前になる時代において、仕事で求められるスピード感はAIを利用することが前提に変わってきます。それにより、新入社員の段階でAIを使いこなせる人と、そうでない人との間に、生産性の大きな差が生まれる可能性が生じます。
ひとりひとりに寄り添う専任アシスタント「Copilot+ PC」
--Copilot+ PCは、Copilotとどのような点が違うのでしょうか。
土肥氏:Copilot+ PCは、AI処理をクラウドだけではなく端末上でも実行できるように設計された新世代のPCです。AIの計算処理に特化したプロセッサー「NPU」を搭載し、端末上でAIを動かすために必要な処理性能をもっています。これにより、クラウドへの接続なしに、ローカル環境で独自に作成したAIモデルやエージェントの実行が可能になります。これは、インターネットに接続できない移動中やネットワーク環境が不安定な場所でもAIを活用できるだけでなく、クラウドにデータをアップロードする必要がないため、より強固なセキュリティを実現します。
さらに、Copilot+ PCには、自分の作業をさかのぼって再現できる「リコール」、音声をリアルタイムに翻訳し字幕を表示する「ライブキャプション」、ほしい画像を生成できる「コクリエイター」などの独自の機能も搭載されています。
このようにCopilot+ PCは、汎用AIであるCopilotよりさらに一歩踏み込んだ「パーソナルアシスタント」のような存在といえます。Copilot+ PCが広く普及すれば、教員ひとりひとりにAIアシスタントを常駐させることも実現可能です。教員の作業や思考の流れを理解し、必要な情報やタスクを先回りして提示してくれるようになる。AIが教員それぞれのスタイルに寄り添いながら支援することで、教育現場の生産性向上と豊かな創造性を育むこととの両立が可能になる未来は、もうすぐそこに来ていると思います。
AI活用は日常の延長線上、教育の質を高める第一歩
--これからAIを活用してみようとしている方へメッセージをお願いします。
土肥氏:「AIはハードルが高い」と感じる先生も多いですが、AIは「触ってなんぼ」です。詳しくないからこそ、まずは触ってみることが重要です。初めてAIに触れる際のハードルを下げるには、仕事ではなく、まず身近なプライベートから使ってみることをお勧めします。たとえば、「週末の予定を立てて」「海外旅行の計画を立てて」など、身近なことから試してみてはいかがでしょうか。自分が疑問に思っていることを音声モードで「これってどういう意味?」と一言聞いてみるだけでも良いのです。
プライベートで慣れてきたら、次に仕事に転換するステップとして、「この仕事、無駄だと思うんだけど」「これしんどいな、AIでどうにかならない?」といった、今の仕事の文句・愚痴をAIにぶつけてみてください(笑)。人が無駄だと思うことや愚痴の対象となる業務の多くはおそらく、AIが得意とするルーチンワークです。この「愚痴の洗い出し」は、実はAIで何ができるかを見つけるための大事なステップなのです。
そして、成功体験を積んだら、ぜひそれを他の先生方と共有してください。教育現場において、成功事例を共有することで、校務におけるAI活用の文化や土壌が作られていくと思います。CopilotとCopilot+ PCは、先生方の働き方と児童生徒の学びを革新する強力なツールです。まずは一歩踏み出して、その可能性を体感していただきたいと思います。
AI活用は特別な活動ではなく、日常の延長線上にあります。少しずつ慣れていくことで、確実に教育の質が上がっていくでしょう。SB C&Sは今後も、AIやCopilot+ PC関連情報をブログなどで発信していく予定です。ぜひ一度のぞいてみてください。
SB C&S「GIGAスクール」コラムAIが特別な存在から「身近な相棒」へと変わる時代。その最初の一歩を踏み出す勇気が、次の学びのステージを切り開いていく。土肥氏の言葉から、「AIは人に寄り添う存在である」ことを強く感じた。Copilotが学校全体の働きを支え、Copilot+ PCが教員ひとりひとりの力を引き出す。AIが人の創造性を広げ、教育が本来目指す「共に学ぶ姿」を再び取り戻す未来は、もう目の前に来ているのではないだろうか。








