教育業界ニュース

マイクロソフトが「教育×AI」のより良い未来へ果たす役割

 AIが普及する中、教育現場は今後どう変わるのか。また教育分野でAIを活用するためにはどんな視点が必要になるのか。日本マイクロソフトで教育分野を統括する宮崎翔太氏に、AI導入の現状や活用事例、今後の展望などについて聞いた。

事例 ICT活用
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日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 公共・社会基盤統括本部 教育戦略本部 本部長、日本教育事業統括 兼 GIGAスクール政策室長の宮崎翔太
  • 日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 公共・社会基盤統括本部 教育戦略本部 本部長、日本教育事業統括 兼 GIGAスクール政策室長の宮崎翔太
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 急速に社会に浸透しているAIは、これからの教育現場をどのように変えていくのだろうか。また教育現場でAIを活用するにはどのような視点が必要になるのだろうか。日本マイクロソフトで教育分野を統括する業務執行役員 パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長の宮崎翔太氏に、教育現場におけるAI導入の現状や活用事例、今後の展望などについて聞いた。

教育機関向けMicrosoft 365 Copilot

--新たな教育機関向けCopilotの概要を教えてください。

 2025年12月より、教育機関の教職員および13歳以上の学生を対象にMicrosoft 365 Copilotの教育機関向けアカデミックプランを1ユーザーあたり月額18ドルで提供しています。これまで教育機関でも、30ドルの法人向けプランをご利用いただいていましたので40%の値下げとなります。同時に機能拡張も行い、追加費用なしで教育に特化したAIエージェントの「Teach」と「Study & Learn」が利用可能になります。

 「Teach」は授業計画やクイズ、ルーブリックなどの資料作成をはじめ、言語・レベル・長さ・難易度、基準への整合性などの変更ができる先生向けのエージェントです。「Study & Learn」は個別最適化された学習体験を提供するためのエージェントで、すでにさまざまなアクティビティが組み込まれており、批判的な思考を育むのに役立ちます。

先生方の幸せが子供たちの幸せにつながる

--文部科学省が目指す、教職員が学校の内外を問わず業務を実施できる環境の実現に対する、マイクロソフトの取組みについてお聞かせください。

 文部科学省は、2029年度までにロケーションフリーによる校務の実現をKPIとして掲げています。私たちは、GIGAスクール構想を、児童生徒の学習端末の利活用にとどまらず、学校全体のDXを実現するためのプロジェクトだと受け止めてきました。

 GIGAスクール構想以前から、私たちは先生方の働き方改革をもっとも重要な柱のひとつとして位置付けています。なかでも、鴻巣市教育委員会が実現したゼロトラストの取組みは大きな注目を集め、現在では多くの自治体や学校がゼロトラスト環境の構築に取り組んでいます。こうした取組みの目的は、単にシステムを入れ替えることではありません。ロケーションフリーな環境を整えることで、これまで雑務とされてきた時間を圧縮し、その分、先生方がより創造的な業務や、子供たちと向き合う時間を増やしていくことが重要だと考えています。

--教育現場でAIを活用する意義についてはどのようにお考えですか。

 学習指導要領ではやるべきことが増え続け、子供たちやご家庭での課題感も多様になったために先生方は多忙を極めています。そうした状況では、まず時間を創出するためにAIを活用することが大きな意味をもちます。子供たちに向きあう時間や、新しい授業や学びを作る時間を作り、先生方がご自身の時間を過ごせるようにしていきたい。私たちは何より先生方が幸せになることこそが、子供たちの幸せにつながると考えています。

校務を支援するAIエージェント

--AIによる校務効率化の動向をお聞かせください。

 AIは急速に社会に広がっています。東京大学では、Copilotを活用した実証を行い、業務時間を20.6%削減できたという結果が示されています(「東京大学における生成AIの業務利活用に向けて」継続検証:2024年11月1日~2025年3月31日)。生成AIが注目され始めた当初は、より良い回答を引き出すための「プロンプトの書き方」が話題の中心でした。しかし現在は、AIが自律的に業務を支援するAIエージェントの導入へと関心が移りつつあります。

 学校には分野ごとに詳しい先生がいるように、年間行事や出張申請など目的別に役割をもつエージェントを用意することで、正確で効率的な回答が可能になります。学校内に蓄積された行事資料や各種ファイル、会議記録やチャットの情報をもとに、先生自身が数クリックでエージェントを作成し、情報更新にも自動で対応するようにしておけば、問合せのたびに先生が手を止めて対応する必要がなくなります。

AIの活用では先生の役割が重要に

--教育現場でCopilotはどのように活用されていますか。

 校務では、たとえばExcelデータの集計をCopilotに自然言語で指示して実行したり、Teamsの要約機能を使って会議の議事録をとったりして、ご活用いただいています。

 授業ではさまざまな形で活用いただいていますが、一例をあげると、文学作品の登場人物になりきるエージェントを作り、対話を通して登場人物の気持ちを考える実践も行われています。楽しみながら学べるだけでなく、あえて作品中では語られていない情報を加えることで、子供たちは物語を別の視点から捉え、批判的思考力を強化することができるようになります。先生方がAIをどう使うかで可能性は広がりますし、AIから離れて子供たちが考える時間を意図的に作ることも必要になりますので、今後は先生の役割がさらに重要になると考えています。

 個別の学習では、高校生が英作文の添削にAIを活用する事例も出てきています。

 また、東京都では生成AI研究校による教育現場でのAI活用の研究を重ねて、2025年度に全都立学校の14万人の児童生徒と教職員2万人の計16万人という規模で、「都立AI」という独自のエージェントの活用が始まっています。「都立AI」は、生成AIを活用した授業や探究学習のサポート、教職員の事務文書作成の効率化などに幅広く活用されています。

日本マイクロソフト 教育ICT成功事例集

--Copilotを利用されている先生からの声は届いていますか。

 現在、Microsoft 365 Copilotを試験導入いただいている愛知県立一宮高校の鈴木淳子先生が「Copilotの最大の強みは、WordやExcelなどのマイクロソフト製品に組み込まれていること」と話されていました。先生方が校務や教材作成で日常的に利用しているMicrosoft 365アプリを、直接Copilotが支援してくれます。また最近のアップデートで、無償版のCopilotチャットがWord、Excel、PowerPointでも使えるようになり、さらに身近になりました。

安全安心を高めるマイクロソフトの取組み

--生成AIの登場により、学校に変化はみられますか。

 最近、中学生や高校生に講演をさせていただく機会がありますが、生徒さんたちにとって生成AIが身近な存在になっていることを感じます。その一方で、先生方には不安もあるようです。Copilotを利用できる年齢は13歳以上ですが、年齢制限のない生成AIもあり、各社のスタンスは異なっています。発達段階にある子供たちが生成AIを使うことのマイナスの影響、将来の雇用や教員の役割の変化など、先に広がる社会の姿について多くの先生方が関心を寄せています。

 マイクロソフトは今年7月、初等中等教育機関に向けて約6,000億円規模の投資を行い、AI技術の提供や教員を含むスキル・資格取得の支援、教育・雇用分野の研究所設立などを行うことを発表しました。私たちもAIの利便性だけに目を向けるのではなく、リスクにも向き合い、高等教育機関の先生方との研究を通じて、安心して使えるAIの情報を発信していきたいと考えています。

--セキュリティやプライバシー、データ活用における不安にはどのような対策が考えられますか。

 マイクロソフトが年次で発行している防衛レポート「Microsoft Digital Defense Report」の2025年版によると、サイバーセキュリティの脅威は急速に広がっています。教育分野、特に研究機関への攻撃は全体で第3位を占めており、攻撃の手口も多様化しています。そこで私たちも、教育分野への対策の優先度を高めています。

 教職員の方々からは、AIの安全性に対する不安の声も多く聞かれます。マイクロソフトでは、生成AIに入力された“お客さまのデータはお客さまのものである”との考えのもと、AIモデルの学習には使用しません。成績やテスト問題などの機微な情報についても、アクセス権のない人が閲覧できない仕組みを採用しています。また、差別や暴力、命に関わる不適切な表現は生成前にブロックされ、著作権侵害への懸念についてもお客さまを守る仕組みを用意しています。

 Microsoft 365 A5では、管理機能で、先生方が利用するパソコンでデータが守られない生成AIを使っていないかを確認できます。知らずに個人情報を入力することを防ぐために、機微情報をアップロードさせないための制御も可能です。Copilotに先生方がどういうプロンプトを入力したのかも管理者はすべて確認でき、不適切なプロンプトを試しただけでもアラートを出すことができます。また、先生方や管理者の方々への研修も数多く実施させていただいています。

人間とAIの共創へ

--最後に、教育現場の皆さまへのメッセージをお願いいたします。

 AIやエージェントの機能が高度化しても、それを子供たちの学びにどう生かすかは、先生方の知見に委ねられます。AIは先生の代わりになる存在ではなく、先生と一緒に学びをつくるパートナーであると考えています。子供たちも、AIの答えをそのまま受け取るのではなく、自分の意見を考える姿勢が重要です。その橋渡し役を担えるのは、先生や保護者です。AIの外で考える時間や、「なぜ」と問いを立てる力が、これまで以上に求められます。

 マイクロソフトは、引き続きFuture Ready Skills(Communication:議論しあう力、Collaboration:協働しあう力、Critical Thinking:疑問を逃さない思考性、Creativity:創造性、Curiosity:好奇心、Computational Thinking:計算論的思)が重要だと考えています。マイクロソフトのCEOサティア・ナデラは、何でも知っている(know it all)会社から、何でも学ぶ(learn it all)会社への変化を唱えています。

 常識がどんどん変化する時代において、学び続けられる力を育てていく。それがAIを利活用するために重要な要素だと考えています。AIを使うかどうか、どこまで任せるかを判断し、最終的に使いこなすのは人間です。人間中心のAI社会を、これからも先生方や保護者の皆様、そして子供たちと共につくっていきたいと考えています。

Copilot +PC 特集

--ありがとうございました。

 教育現場ではAIによる校務効率化と新たな学びの形が模索されている。さらに身近になったMicrosoft 365 Copilotにより、先生方の校務負担が軽減し、AIと共創することで子供たちの学びに新たな価値がもたらされることに期待したい。

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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