教育現場では、AI活用によって教職員の働き方改革と子供たちの学びの質向上をどう実現するかが大きな関心事となっている。その一方で、先生方からは、クラウド型AIに機微情報を入力することへの不安や、業務のどの場面でAIを活用できるのかわかりにくいといった声も上がっている。さらに、端末のスペック不足が活用の妨げになるケースも指摘されている。Copilot+ PCを提供する日本マイクロソフト デバイスパートナーセールス事業本部 マーケティング戦略本部Commercial Windows戦略部長の仲西和彦氏にCopilot+ PCの機能や教育現場での活用シーン、今後の展望などを聞いた。

Windows史上最高の機能と安全性
--Copilot+ PCとはどのようなデバイスですか。
Copilot+ PCは生成AIモデル(SLM=Small Language Model、小規模言語モデル)とAI専用チップのNPU(Neural Processing Unit)を搭載しており、通常のWindows PCよりもパフォーマンスが非常に高いことが特徴です。NPUを搭載しているPCを一般的に「AI PC」とよびますが、Copilot+ PCはその中でも、1秒あたり40兆回以上の処理ができるNPUを搭載するものに限定されます。
これまでのPCはクラウドベースでAIを処理していましたが、Copilot+ PCはクラウドを利用せずにローカルに搭載されたAIモデルによる処理が行われます。
このNPUとAIモデルが、Copilot+ PCと従来のWindows PCの大きな違いです。Copilot+ PCには「Copilot+ PCさえあれば使えるAI機能」「Windows史上最高のパフォーマンス・セキュリティ」、そしてAIの処理を外部に接続せずに行う「エッジAI端末としてのCopilot+ PC」という3つのメリットがあります。
教育分野では特に教職員の方々が児童生徒の個人情報などをAIで扱う際に、クラウドに上げることを躊躇されるケースがあります。もちろんMicrosoft 365やAzureのセキュリティは堅牢ですが、いくら安全だとわかっていても、個人データなどを扱う場合、不安を感じることもあるのではないでしょうか。本当に安心して使うためには、自分のPC内で処理をし、外部にデータが漏れることなく、外からの干渉も受けないことが大切ですが、Copilot+ PCであればそれが実現します。
--高度な処理を行うとなると、バッテリーの減り方が気になります。
AI処理の専用チップであるNPUを搭載するCopilot+ PCは、バッテリーの持ちが良いことも特徴です。私はCopilot+ PCを使って1時間ほどのTeams会議を1日に4回から5回やっていますが、その間、充電は不要です。先生方も授業と校務を1台のPCで行うようになれば、バッテリー持ちは重要なポイントになりますね。

Copilot+ PCで効率化される先生方の働き方
--Copilot+ PCのおもな機能や学校現場での活用シーンを教えてください。
まず、Copilot+ PCでのみ利用できる機能の一例として、「リコール」「Click to Do」「強化されたWindows検索」の3つの機能についてお話します。
リコール
リコールでは、PCの操作画面をおよそ5秒に1回のペースで保存します。たとえば、ファイル名がわからなくても、「循環図でCopilotを説明したプレゼン」というイメージで検索すれば、保存された画面から該当するものの一覧が表示されます。過去の作業の記録から、曖昧な記憶を手掛かりにコンテンツにたどり着くことが可能になるわけです。
マイクロソフトの調査では、先生やビジネスマンは週におよそ5時間、PC上で探し物をしていることがわかりました。たとえば、理科の授業で天秤の使い方を説明する際に、「天秤の~」といった曖昧な記憶でも、リコールを使えばイメージで検索することが可能です。
最近は、OutlookやTeams、LINE、さらには保護者連絡用の学校独自ツールなど、さまざまなコミュニケーション手段を使うため、どのツールでやり取りをしたのかわからなくなることがあります。そんなときはリコールを使えば、ツールの種類を問わず、横断的に検索できます。
リコールは便利な反面、機密情報やプライバシーの塊といえます。そのためリコールの起動時には、画面の前にいるのが本人かどうかを確認する「Windows Hello」の生体認証が求められます。また、情報システム部の方がネットワーク越しに保存画面を閲覧することもできません。
Click to Do
Click to Doは、リコールで表示した画像にカーソルを合わせると、AIが次に行いそうな操作を先回りして提案してくれる機能です。たとえば、リコールで見つけた写真にマウスオーバーすると、その写真を基に[画像検索する]、絵と文字が混在していれば[テキストをコピーする][画像を抽出する]などといった操作が表示されます。
さらに、数表が書かれたPDFにカーソルを合わせると、[Excelで数表を作成する]といった操作も提案してくれます。
強化されたWindows検索
強化されたWindows検索では、PCに保存されているファイルに対してリコールと同様の検索が可能です。たとえば犬の写真を見つけたいとき、これまではフォルダ名やファイル名を手がかりに探す必要がありましたが、「犬が写っている写真」や「犬」、あるいは犬種名を入力するだけで探すことができます。また、おたよりに赤い花のイラストを付けたいといった場面では、「赤い花」「チューリップ」など色や種類で検索することが可能です。
--学校現場で求められる個別対応や探究学習に役立つ機能はありますか。
ライブキャプション(リアルタイム)
Copilot+ PCの「ライブキャプション(リアルタイム)」は、話し言葉をその場で翻訳して表示する機能です。Teamsにもライブキャプションの翻訳機能がありますが、こちらはクラウドのエンジンを使用するため、発話から表示まで数秒の遅延が生じ、会話のテンポが落ちることがあります。一方で、Copilot+ PCのリアルタイム翻訳は待ち時間がほとんどありません。現時点では、日本語をはじめとする約40言語を英語に、27言語を中国語に翻訳でき、今後は双方向の翻訳も可能になる予定です。
学校では最近、日本語を母国語としないお子さんが増えており、その指導や保護者の方への対応に苦労されていると伺っています。そうしたシーンでも、ご活用いただけると考えています。また、たとえば探究活動で外国の方に話を聞くときにも利用いただけると思います。話した言語をそのまま字幕で表示することもできますので、耳が不自由な方などさまざまな特性の子供たちへの配慮も可能になると考えています。
コクリエーター
コクリエーターは、簡単な手書きスケッチや、読み込ませた元画像に、言葉で指示を与えることにより、指示に沿った画像を生成することができます。ペイントの機能として利用できます。
生成フィル・生成削除
生成フィルは、写真などの画像に新たなものを追加することができる機能です。たとえば、子供たちの写真にクリスマスの飾りを付けて学級だよりに載せるような活用が可能です。また、生成削除を使えば、写真に映った好ましくないものを自然に削除することもできます。
--教材作成に役立つ機能はありますか。
ラーニング ゾーン
ラーニング ゾーンは、既存の教材やコンテンツをもとに問題を自動生成し、解答した子供たちの理解度を確認できるものです。教材作成にはCopilot+ PCが必須ですが、利用は子供たちのWindows PCで可能です。学習者が問題を最後まで解くと、スコアと解答時間を確認でき、理解度などのレポートも自動生成されます。現時点では、出力は英語のみですが、将来的には日本語に対応する予定です。
このラーニング ゾーンを先生方にご利用いただくメリットは2つあると考えています。まず、PCにあるローカルデータをそのまま使えることです。自分の授業計画や教材をクラウドに上げたくない場合でもCopilot+ PC上で処理できます。次にAIが生成した問題をチェックして誤りを防ぐ仕組みがあること。内容が学術的に正しいかどうか、ハルシネーションを起こしていないかどうかを、文献と照合して検証できます(現状は英語のみ)。ラーニング ゾーンを使えば、2~3分、遅くても5分ほどで問題が生成されますので、先生方の問題作成時間はかなり節約できるでしょう。
改善の積み上げとスモールスタートの価値
--教員の働き方改革に対するインパクトはどのようにお考えでしょうか。
校務の時間削減がCopilot+ PCを利用する最大のポイントです。AIは人間の想像もつかないことをしてくれるという期待をもたれる方も多いと思いますが、私たちは、AIの価値は改善活動に近いと考えています。時間がかかっていた作業が、AIを使えば5分、10分節約できる。その積み重ねが大きな効率化につながります。まずは1週間でどれだけ自分の作業が楽になるのかを考えていただきたいと思います。
また、AIを学校に導入するには、事前準備の負担が大きいのが実情で、運用にはランニングコストも発生します。その点、Copilot+ PCは先生が個人で初期設定できる機能が多く、数名の先生にまず試していただくスモールスタートにも適しており、ランニングコストも不要です。さらに、クラウドAIをCopilot+ PC上で使用することも可能で、たとえば自分のアイデアをCopilotに相談し、壁打ち相手として新しい視点をもらったり、考えをブラッシュアップする使い方が効果的です。
AIは習うより慣れることが大切
--AIを活用するためのリテラシー向上や研修の必要性についてはいかがでしょうか。
AI活用にあたっては、習って使うよりも、まず触って慣れることが大切ですので、まずは使っていただければと思います。海外ではAIの使い方や教育への活用事例も多いので、私たちは、海外の先生と日本の先生の情報交換がもっと活発になれば良いと感じています。言葉の壁には、Copilot+ PCのライブキャプションを活用していただきたいですね。ライブキャプションやラーニング ゾーンの日本語対応もできるだけ早く実現したいと考えています。
先生の実践が拓くAI活用の未来
--Copilot+ PCがもたらす未来をお聞かせください。
Copilot+ PCと従来のAIの最大の違いは、使い込めば使い込むほど個人に最適化されて、Copilot+ PCがどんどん優秀な相棒になることです。Copilot+ PCのようなデバイスは今後、標準になると考えています。先生方にはぜひ将来を見据えて、今のうちにどう使えるのかを実際に触って研究していただき、良い活用例を発信していただきたいですね。先生方が実際に使っていくことで新たなアイデアが次々と生まれると思います。多くの先生方が使って事例が周知されれば、より先生方の働き方改革も進むと考えています。
--いずれはCopilot+ PCを子供たちが利用することで、より深い学びが広がるのでしょうか。
今後は、子供たちが学校でプログラミングを習うように、AIを習うようになるのではないでしょうか。その意味では、Copilot+ PCで動くAIツールをカスタマイズできる「Windows AI Foundry」といったプラットフォームを利用して、自分の思いどおりにAIを組んで活用することも考えられます。そして、そうした活動にはNPUが搭載されたPCが必須です。子供たちは将来に向けてAIを活用するスキルを獲得していくと考えています。

--ありがとうございました。
Copilot+ PCが備えるスペックや独自の機能は、今後の先生方の働き方改革や子供たちのより良い学びに向けて標準化されるべきものだと感じた。多くの先生方がCopilot+ PCを活用することで数多くの事例が生まれ、その情報がさらに共有されることを期待したい。









