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大きく変わるこれからの教育を力強くサポート「次世代教育ネットワーキング機構」

 2023年4月、JTBは「一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構」を設立した。同機構の理事・事務局長である中野憲氏に、設立の経緯や現在の活動内容、今後の展望などを聞いた。

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次世代教育ネットワーキング機構 理事・事務局長 中野憲氏
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  • Global Link 2023のようす
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 2023年4月、JTBは「一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構」を設立した。これまでJTBグループが取り組んできた交流や体験のノウハウと、教育に関わるあらゆるステークホルダーとのネットワークにより“ココロ動かす学び”を創造し、次の時代を担う子どもたちの糧となる力の育成に貢献することを目指すという。同機構の理事・事務局長である中野憲氏に、設立の経緯や現在の活動内容、今後の展望などを聞いた。

次世代教育ネットワーキング機構

IQからEQへ。教育の大きな変化を捉えて次世代教育の普及を目指す

--「次世代教育ネットワーキング機構」を設立した経緯をお聞かせください。

 日本で今、進められている教育改革は、世の中の急速な変化にともない、これまでの教育における方向性や考え方と大きく異なります。単なる知識や技能を教えるだけでなく、子供たちの能力や資質といった基本的な力を高める場に学校が変わることが期待されています。IQ(知能指数)からEQ(心の知能指数)へのシフトが教育に求められているともいえるでしょう。机上の正解を探す力よりも、その場の状況に応じた最適解や納得解を導き出せる力が必要とされています。こうした変化を捉えて、次世代教育普及へのサポートを将来にわたって持続可能な形で続けたい。それが「次世代教育ネットワーキング機構」設立の理由です。

 今回の教育改革では、実体験のプロセスにおける体験価値がとても重視されています。当機構を設立したJTBは、持続可能な交流を創造していく「交流創造事業」を展開しています。たとえば、海外と日本の子供たちが交流する機会を維持継続することもその一部です。これまでJTBが教育におけるサービスやプログラムを提供する中で蓄積したノウハウやナレッジを生かして、当機構が次世代の担い手である子供たちの育成の一助となることが大切だと考えています。

 また現在、学校を取り巻く地域の企業や保護者などとネットワークを作り、教育に有効利用しようとする動きもあちこちで見られます。学校を社会と結び付けて多様な視点で教育を実施するためには“ネットワーキング”が大切です。私たちはさまざまな事業者や有識者、研究者とのつながりも広げていきます。当機構では、その有機的なつながりを教育界と共につくることで、次世代教育の推進や発展、浸透に寄与したい。また今後は研究・調査などのシンクタンク的な役割も担っていきたいと思っています。

 まずは中高生のグローバルな探究活動や、学校のカリキュラム・マネジメントの実施を支援するため、国際交流イベント「Global Link」の開催や、教育活動効果測定システム「J’s GROW」・探究学習支援ツール「探究スタートアップ」といった教材やコンテンツを開発し、提供していく「教育活動支援」。次に大学や研究機関、有識者など次世代教育に関わる実践的な情報を必要なシーンで配信・共有していく「ネットワーク形成」。さらに教育のシンクタンクとしてさまざまなリサーチやデータ収集・分析を行う「調査研究」。これらが「次世代教育ネットワーキング機構」の活動の3本柱です。

次世代教育と現場のニーズに適したサービスやプロダクト

--「教育活動支援」「ネットワーク形成」「調査研究」が活動の3本柱になるのですね。まずは、教育活動支援の1つである「Global Link」について教えてください。

 Global Linkは、例年、7月の終わりと8月の初めにシンガポールとオーストラリアで開催している中学・高校生のための国際的な研究発表コンテストです。シンガポールは2014年、オーストラリアは2018年に始まりました。研究者や大学の先生方の学会での発表と同様に、中学・高校生に向けた本格的な国際コンテストで、大学の教授や専門家に審査員をしていただき、厳格な審査を行ったうえで上位の受賞者には賞金や賞品を授与します。

 コロナ禍前までは右肩上がりで参加チームが増え、2019年は日本から27校182名、海外は5か国131名が参加しました。年によっても違いますが、シンガポール大会では日本をはじめシンガポール、ベトナム、フィリピン、タイ、台湾、マレーシア、インドネシアなどアジア各国および地域の生徒たちが参加しています。シンガポール大会は、基礎科学や応用化学から社会科学の分野まで研究テーマは幅広く、さまざまな発表で盛り上がります。オーストラリアのクイーンズランドでは、参加者が現地の生徒だけでなくオーストラリアに留学しているヨーロッパや南米の生徒など多岐にわたり、環境問題にフォーカスしたテーマの研究発表が行われます。

Global Link Singapore 2023のようす

 参加生徒たちはイベントを通してお互いの研究について意見を交わし、さまざまなアクティビティの中で文化の違いなども体感していきます。コンテストでありながらも国際交流の色合いも濃いイベントです。日本から参加した生徒たちは、国際舞台で日本語を使わない時間を過ごし、日常とは違った特別な体験ができます。研究とプレゼンテーションを磨きあげて、審査員とのシビアなQ&Aを経て順位が決まり、さらにさまざまな交流の中で人間的な幅や人脈も広がります。コンテストに出場した生徒の多くが、その後、優秀な大学や大学院などに進学し、多方面で活躍しています。この大会がさらに継続し成長することで、将来的に社会を牽引する人材の育成に寄与できると考えています。

--今年(2023年)参加された生徒たちのようすをお聞かせください。

 長いコロナ禍明けでリアルイベント再開のタイミングとなりましたが、今年のシンガポール大会には日本から15校78名、海外から4か国90名の参加がありました。どの年にも共通していますが、参加者はみなパッションに溢れ、主体性、物事への興味関心が高く、自分たちの研究に懸命に打ち込んでいます。賞に選ばれなくて悔しがったり、審査員に対してどこが悪かったのかを質問したりと、とてもこだわりが強く頼もしさを感じました。

 プレゼンテーションや審査とは別に、全参加生徒が交流する時間を設けましたが、やはり「自分の研究を知ってほしい」「ほかの高校生たちがどんな研究をしているのか知りたい」という並々ならぬ熱意を感じました。Global Linkの開催地でもある南洋理工大学(NTU)のキャンパスツアーや、現地企業の研究施設なども見学し、比較文化・比較構造的なアクティビティーも新鮮な経験だったと思います。またダンスやゲームの時間も盛り上がり、充実したイベントでした。

 日本では海外研修の一環として参加を計画する学校もあり、SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)では参加に予算が組まれることもあります。コンテストに参加すると修了証が得られるので、それを実績として総合型選抜大学入試に役立てる高校生もいますね。Global Linkはコンテストですが、将来、発表を検討する生徒が見学したり、純粋に交流や応援を目的に参加したりするだけでも十分に価値がある体験だと思います。

Global Link Queensland 2023のようす

教育活動の効果を可視化してカリキュラム・マネジメントにつなげる「J’s GROW」

--教育活動効果測定システム「J’s GROW」とはどんなものなのでしょうか。

 J’s GROWは、学校の中で行われるさまざまな行事や教育活動の効果測定ができるシステムで、もともとは企業の採用基準データの一部として開発されたシステムがベースとなっています。「コンピテンシー」と呼ばれる非認知領域のさまざまな能力や価値基準を独自の技術とアルゴリズムにより、測定・データ化することで「可視化」できるアセスメントツールです。2023年9月にローンチされました。

 「J’s GROW」を使うことで、学内行事や探究学習などの教育活動において、参加した生徒たちの反応や、参加したことでの意識やコンピテンシーにどのような変化があったかを測定することができます。さらにそれらの変化と教育活動との相関性をわかりやすく可視化できるようになっています。たとえば、修学旅行を例にすると、修学旅行の前後に生徒がスマートフォンやタブレットでJ’s GROWを受検することで、生徒たちが修学旅行のどの活動に興味や意識をもったのか、コンピテンシーの全体としての変化や修学旅行の活動との相関性を明らかにすることができます。このように客観的な分析データと、日ごろの学校の先生方の豊富な経験・知見などを掛けあわせることで、測定した行事などがどうであったかを適切に把握し、それを基に次回に向けた改善を重ねていくことで、学校ごとに最適なカリキュラム・マネジメントの実践が可能になると考えています。

J’s GROW「生徒向け個人レポート」

--現場の先生方の反応はいかがですか。

 ローンチしてまだ1か月程度ですが、導入のご相談が増えています。県単位で採用を検討するというご相談もあって、やはり教育改革の方向性をにらみ、非認知領域の能力に関するデータの取得およびその活用について興味関心のある自治体や教育機関が増えているのだと思います。県単位など広い範囲での取組みは、データ分析の面でも非常に望ましいものになると考えています。

リフレクションを用いた探究サポート教材「探究スタートアップ」

--11月1日に発売された「探究スタートアップ~発見!わたしのモノの見方・考え方~」について教えてください。

 「探究スタートアップ」は、探究に取り組む生徒が自分や他者のモノの見方や考え方(メンタルモデル)を発見できるようになることを目的とした教材です。自分の内面を客観的・俯瞰的に省みて、経験を客観視することで新たな学びや気付きを得て、未来の意思決定と行動に生かす「リフレクション(※)」のメソッドをベースにしています。

※「リフレクション」は、経済産業省の提唱する「人生100年時代の社会人基礎力」として注目されている。
探究スタートアップ 発見!わたしのモノの見方・考え方

 現在、探究学習の導入が広く進んでいますが、多くの生徒はまず探究をするための基礎的な準備(身体作り)ができていないことが多いと考えています。まずウォーミングアップで身体を温めて、使う筋肉をトレーニングして、そこから探究活動に臨む。その準備ためのウォームアップ教材を、リフレクションの第一人者である昭和女子大学ダイバーシティ推進機構キャリアカレッジ学院長の熊平美香先生と共同で開発しました。

 リフレクションツールを使って、生徒が自分の「意見・経験・感情」を認識して分析することで、自分のモノの見方や考え方(自己の価値観)を発見していきます。自分のモヤッとした「思い」を、分解して考えるトレーニングがリフレクションでは大事なポイントです。この自分自身や周りの人のメンタルモデルを理解することで、お互いの認識が深まります。チームやクラスの人間関係も良好になります。私たちも何度もリフレクションを試していますが、大人でもいかに日常的に物事を切り分けて考えていないかに気付くことが多く、ロジカルなモノの見方や考え方に対する大きな一助になると思います。

 下記に掲載した「次世代教育フォーラム2023」の中で、熊平先生に「リフレクション」について詳しくお話しいただきます。ぜひご視聴ください。

次世代教育フォーラム2023「リフレクション ~ジブンゴトになる探究の基礎づくり~」
「次世代教育フォーラム2023」詳細はこちら

 また別途、2024年明けに熊平先生による学校の先生方向けの探究スタートアップ「体験会」を予定しています。探究をうまく進めるためにも、まずは多くの先生方に触れていただきたいと考えています。(こちらのご案内はフォーラム内、および公式Webサイトで行います。)

教育現場に、より良いものや新たなものを提供し続ける

--今後の展望をお聞かせください。

 私たちの法人名のとおり、次世代教育の普及に寄与するための、より良いプログラムやスキームなど、今まで世の中になかったものを形にしていきたいと考えています。またセミナーなどによる情報配信については、多角的なアプローチから教育の現状を俯瞰・分析した、総合的かつ本質的な視点からの情報共有の展開をしたいと思っています。

 リアル開催のイベントもかなり戻ってきていますので、来年度はシンポジウムやセミナーなど、ネットワークをより広げるための活動も行いたいと考えています。また、「開かれた教育」を提唱する文部科学省により、学校と地域を密接に結び付けるさまざまな取組みが行われる中でのご相談も寄せられています。さまざまな形で次世代教育の普及を進めるために、私たちがアドバイザー的なポジションで地域や行政、学校へのお手伝いができればと考えています。

--最後に中学校、高等学校の先生方にメッセージをお願いします。

 学校現場は今、次々に新しい概念や事案が増える一方で、なかなか断捨離ができ難い状況と伺っています。文部科学省からもカリキュラム・マネジメントの重要性が提唱されていますが、具体的な手法や対策については、総論的にいまだ手探りな状態を抜け出せていないのではないでしょうか。このようなカリキュラム構築における実施事項の取捨選択の際に、たとえば私たちの「J’s GROW」は、エビデンス・データの1つとして、個々の学校ごとに有効なカリキュラムのデザイン・実践、および検証に効果的に活用していただける可能性があると考えています。

 「教育は国家百年の計」といわれます。当機構の標榜する次世代教育の普及が、ひいては将来の国づくりの一助となり、持続可能で幸せな未来の実現に貢献できることを願いつつ活動していきたいと思います。そのためにも、多くの関係者の皆さまに機構の活動へのご理解とご参画をいただければ、うれしく思います。

--ありがとうございました。

 大きく変わろうとしている教育に対して、多くの学校ではさまざまな悩みも存在する。次世代教育に向けて学校のサポートを標榜する「次世代教育ネットワーキング機構」の存在に、教育現場の真のパートナーとして期待が高まる。

次世代教育ネットワーキング機構
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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