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なぜ学校に「ゼロトラスト」が必要なのか、次世代校務DXとデータ連携の全体像

 第31回「NEW EDUCATION EXPO 2026 東京」が、2026年6月4日から6日までの3日間にわたって東京・有明で開催された。会期1日目に行われた、内田洋行による特別セッション「内田洋行のゼロトラスト、次世代校務とのデータ連携についての取組」についてレポートする。

イベント 教員
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特別セッション「内田洋行のゼロトラスト、次世代校務とのデータ連携についての取組」のようす
  • 特別セッション「内田洋行のゼロトラスト、次世代校務とのデータ連携についての取組」のようす
  • 内田洋行 代表取締役社長の大久保昇氏
  • 内田洋行 システムエンジニアリング事業部 副事業部長の河合剛史氏
  • 内田洋行 システムエンジニアリング事業部 ネットワークサポートセンターの永山達也氏
  • 内田洋行 地域デジタル化推進部 次長の稲原裕介氏
  • 内田洋行 地域デジタル化推進部の関根知里氏
  • 教育現場の変化 ~実際に起こっていること~
  • 内田洋行は、技術導入にとどまらず、運用・保守、研修など、導入後も伴走支援を行い、教員や児童生徒が実際に使いこなせる環境づくりに取り組んでいる。

 第31回「NEW EDUCATION EXPO 2026 東京(以下、NEE)」が、2026年6月4日から6日までの3日間にわたって東京・有明で開催された。会期1日目には、内田洋行による特別セッション「内田洋行のゼロトラスト、次世代校務とのデータ連携についての取組」が行われた。

 GIGAスクール構想の進展により、学校ICT環境は大きな転換期を迎えている。本セッションでは、急速に進むクラウド化とデータ活用を前提に、学校におけるネットワーク環境と校務のあり方がどう変わるのかが具体事例とともに示された。

インターネット導入から30年、教育ICTは次の段階へ

 冒頭、内田洋行 代表取締役社長の大久保昇氏は、NEEの成り立ちに触れながら、日本の教育ICTの歩みを振り返った。1995年に始まったインターネットの教育利用に関する国家プロジェクトに同社も参画し、「つなぐ」段階から教育の変化を見つめ続けてきた歴史がある。当時は小中高校におけるインターネットの教育利用自体が先進的な取組みであり、大学も含めた学校関係者が集い、事例を共有する場としてNEEが始まったという。

内田洋行 代表取締役社長の大久保昇氏

 その後、学習指導要領にもインターネットの活用が位置付けられ、現在ではネットワーク前提の教育が一般化。コロナ禍を契機に「1人1台端末」は急速に普及し、約3万校に1,000万台規模の端末が整備された。

 こうした急速な普及は、「同時接続に耐えるネットワーク基盤」「急増する学習データの管理」「学習系と校務系のネットワーク分離の限界」「児童生徒約900万人の機微データの保護」といった、新たな課題を浮き彫りにした。なかでも、学校特有の「同時ログイン集中」は企業とは異なる高い瞬間負荷に対応する必要がある。「場合によっては企業や官公庁以上のネットワークが必要になる」と大久保氏は指摘する。これらを踏まえ、「ネットワーク統合」と「高度なセキュリティ」が次のテーマになると語った。

境界防御からゼロトラストへ、教育ネットワークの転換

 続いて、同社 システムエンジニアリング事業部 副事業部長の河合剛史氏と同事業部 ネットワークサポートセンターの永山達也氏が、「教育ネットワークを支えるゼロトラストへの取組」をテーマに講演した。

 河合氏はまず、セキュリティの新しい考え方であるゼロトラストについて説明した。従来の「境界防御型」は、学校内は安全、外部は危険とみなし、防御壁で守るという前提に立っていたが、クラウド利用の拡大により、守るべきデータはネットワークの外側にも広がっている。さらに、サイバー攻撃の高度化により、内部侵入リスクも高まっており、この前提自体が成り立たなくなりつつあるという。

 これに対しゼロトラストでは、「すべての通信を検証」「内部・外部を区別せずに保護」「ユーザー認証や暗号化を前提とする」といった考え方を採用する。その結果、利用者が特別に意識せずともセキュリティが担保される環境が実現すると河合氏は述べた。

 導入自治体の事例からは、おもに次のような効果が示された。

セキュリティの強化

 USBメモリでのデータ受け渡しが不要になり、情報漏えいリスクを低減。多要素認証や暗号化が前提となることで、「意識しなくても安全」な環境が実現する。

働き方改革

 校務用・学習用で端末を使い分ける必要がなくなり、1台で業務が完結。ネットワーク切替えの手間が解消され、校内外を問わず業務が可能となる。

教育活動の高度化

 校務データと学習データの連携が進み、データに基づく指導や分析が実現。クラウド化により運用負荷やBCP(事業継続計画)負担も軽減される。

教育現場の変化 ~実際に起こっていること~

 同社はすでに50以上の自治体で展開しており、ゼロトラストは単なるセキュリティ対策にとどまらず、学校の運用や教育活動そのものを支える基盤として位置付けられている。

3つの自治体事例にみる「段階的進化」

 こうした変化は、自治体ごとに段階を踏みながら具体化している。永山氏は、導入事例を通じてその進展を紹介した。同社では、技術導入にとどまらず、運用・保守、研修など、導入後も伴走支援を行い、教員や児童生徒が実際に使いこなせる環境づくりに取り組んでいる。

 まず2021年の埼玉県鴻巣市では、約1万台の端末環境を前提としたICT基盤を整備し、教育ICTのフルクラウド化を実現した。これは、Microsoft 365 A5の活用により、セキュリティと利便性を両立し、GIGAスクール構想初期における先行モデルとして位置付けられる取組みとなった。単なる端末整備にとどまらず、「使い続けられる基盤」まで含めて構築された点が特徴だ。

埼玉県鴻巣市の事例

 続く2024年の東京都荒川区では、1台のChromebookで校務と学習のどちらにも対応できる環境づくりが進められた。仮想デスクトップ環境と多要素認証を組みあわせることで、異なるOS環境でも安全に校務へアクセスできる仕組みを構築。「マルチOS」による新しい働き方を実現し、複数のクラウドアプリケーションを円滑に運用できる基盤を整えた。さらに、キャッシュサーバーの導入により、デジタル教科書の利用時などに発生するネットワーク負荷の軽減にも対応し、GIGA第2期における実運用を見据えた環境が整備されている。

東京都荒川区の事例

 そして最新の東京都府中市の事例では、これまでの取組みを踏まえた「次世代校務DX基盤」が構築されている。ゼロトラストを前提とした統合ネットワークに加え、SASE(※1)により場所を問わないアクセス環境を整備するとともに、アカウント管理の一元化と証明書認証を組みあわせてセキュリティを強化した。さらに、利用状況を可視化するダッシュボードの整備や、Microsoft 365 Copilotを活用した生成AIの導入により、教職員の校務負担軽減も図っている。次世代の標準モデルとして注目される取組みとなっている。

※1:SASE(Secure Access Service Edge)とは、別々の製品サービスとして提供されてきたネットワーク機能とセキュリティ機能を、クラウド上で包括的に提供するサービス。


東京都府中市の事例

校務DXの鍵は「データ連携」

 セッションの後半では、同社 地域デジタル化推進部 次長の稲原裕介氏と、同部 関根知里氏が、「校務DX、次世代校務とのデータ連携について」をテーマに、校務支援システムを中心としたデータ連携の取組みを紹介した。

 まず稲原氏は、学校・自治体・家庭に分散するさまざまな子供のデータを連携させ、新たな価値を生み出し、学びの支援につなげていく考え方を示した。単一の情報ではなく複数のデータを組みあわせて分析・共有することにより、学校現場においてもより適切な判断や支援が可能になると説明。さらに、同社が進めている学校・教育委員会や自治体のデジタル化によって蓄積されたデータを横断的につなぐことで、学習支援だけでなく児童生徒の見守りにもつなげていく構想を紹介した。

学校・自治体・家庭に分散するさまざまな子供のデータを連携させ、新たな価値を生み出し、学びの支援につなげていく

 そのうえで、データ連携のあり方として、自社独自の仕様に依存するのではなく、「1EdTech Consortium」などの標準仕様に基づいて連携を進める方針を示した。特定システムに閉じることなく、多様なシステム間のデータ連携を可能にし、拡張性と持続性の高い基盤の構築を目指すという。こうした考えのもと、次世代校務DXではデータ連携を中核に据えていくとした。

 その後、これまでに紹介されたネットワーク統合の取組みを踏まえ、校務支援システムを中心とした具体的なデータ連携の事例へと話題を移した。校務支援システムは従来、教員向けの業務ツールとして捉えられてきたが、今後は児童生徒や保護者を含む多様な関係者のデータをつなぐハブとしての役割が期待されると述べた。

 続いて、関根氏は、実際の運用事例について説明した。ここで焦点となるのは、保護者や児童生徒がもつデータが校務支援システムに集約されることで、教職員の働き方改革につながっている点だという。

 保護者のデータについては、名簿や欠席・遅刻連絡に加え、通知表のデータ配信や家庭環境調査票のアプリ入力など、従来は紙で行われていた情報のデジタル化が進んでいる。

 一方、児童生徒のデータについても、朝の健康観察などを1人1台端末から入力し、教員へリアルタイムに集約される仕組みが整いつつある。こうしたデータは業務効率化にとどまらず、蓄積されることで児童生徒自身の振り返りや、教員による継続的な見守りにもつながる点に価値があると関根氏は述べた。

デジタル化とデータ連携を行い、教職員の働き方改革を支援

 さらに、教育相談の機能も整備されており、児童生徒が相談相手の教員を選んでコミュニケーションを取ることが可能となっている。校務支援システムや学習eポータルの枠を超え、子供が自ら声をあげやすい環境づくりが進められている。

 こうして蓄積された校務データは、次の活用段階へと進みつつある。その一例として、関根氏は生成AIとの連携をあげた。文部科学省の実証事業に参画し、通知表所見の作成や学級編成への活用が検証されており、校務負担軽減に資する技術として実用化に向けた開発が進められている。

 最後に、こうしたデータ連携は校務・学習にとどまらず、行政データとの接続も視野に入れているとした。分散していたデータを横断的につなぐことで、教職員の負担軽減とともに、その成果を児童生徒へ還元していく。学習eポータルやダッシュボードを通じて可視化・活用を進め、教育の質向上につなげていく考えを示した。

質疑応答で見えた課題と今後の方向性

 最後に行われた質疑応答では、ゼロトラストやデータ連携の実装に向けた課題と今後の方向性が示された。

 生成AIの進展に伴うサイバー攻撃への対応についての問いに対し、河合氏は、教育委員会のネットワークでも同様のリスクが想定されると指摘。そのうえで、クラウドサービスの選定段階からセキュリティ基準を重視するとともに、アクセス制御など利用側での対策も組みあわせることで、多層的にセキュリティを確保していく考えを示した。

 一方、自治体を越えたデータ連携については、現状は市町村単位での管理が基本としつつ、転入出時のデータ移行はデジタル化が進みつつあると説明。広域活用については個人情報保護との両立が不可欠であり、当面は統計データなどを中心に段階的に進めていく方針が示された。


 GIGAスクール構想によって端末整備が進んだ一方、現場では「どう活用するか」「どう守るか」が問われる段階に入っている。教育DXの成否は、端末整備の先にあるその活用力によって左右されるといえよう。本セッションは、ゼロトラストとデータ連携によってもたらされる新しい教育のあり方と、それをより有益なものにするための具体的な策を示すものとなった。


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《編集部》

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