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Windowsが支える小山市のICT活用…授業・校務・研修を一体に

 2025年4月に開催されたセミナーで、児童生徒、教職員ともにWindows端末を活用している栃木県小山市の取組みが紹介された。GIGAスクール構想第1期における同市の取組み、そしてAI活用を見据えたGIGAスクール第2期への展望とは。

事例 ICT活用
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小山市教育委員会・小山市立教育研究所の小島寛義氏
  • 小山市教育委員会・小山市立教育研究所の小島寛義氏
  • 豊かな自然と歴史が調和する都市「栃木県小山市」
  • 小山市が作成した情報活用能力育成体系表
  • 予定はTeamsで確認する世界観へ
  • Teamsを通じて教員・生徒のインタラクティブなコミュニケーションを実現
  • 学習者主体の授業実践例
  • 学習者主体の授業実践例
  • 学習者主体の授業実践例

 栃木県小山市は、GIGAスクール構想第1期(以下、GIGA1.0)において、児童生徒、教職員共にWindows PCを活用している。2025年4月に開催されたセミナーにおいて、小山市教育委員会・小山市立教育研究所の小島寛義氏は、GIGA1.0における同市の取組み、そしてAI活用を見据えたGIGAスクール第2期(以下、GIGA2.0)への展望を語った。

端末は文房具、Windowsに統一して利活用を促進

 小山市には、小学校23校、中学校10校、義務教育学校1校がある。「子どもの瞳が輝き 笑顔があふれ 元気なあいさつが響く 学校づくり」を教育のスローガンに掲げ、児童生徒と先生のウェルビーイングを実現するため、ICT環境を着実に整備し、授業・校務・教員研修の三位一体による実践を積み重ねてきた。

豊かな自然と歴史が調和する都市「栃木県小山市」

 同市は、GIGA1.0において児童生徒・教職員のPCをWindowsに統一。以前から教職員はWindows PCを使っていたことから、児童生徒もOSを統一することで操作性や互換性のギャップをなくし、学習・指導・校務の連携を円滑にすることを目指した。「教員と子供たちが同じOSを使うことで、教材作成や共有、サポートの面で無理がないと判断しました」と小島氏は語る。子供と教員が同じ目線でICTを使える環境を意識し、GIGA端末整備が進められた。

 同市では、ある小学校の校長先生がいつも言っていた「端末は文房具」「端末は家からもってくる」という概念が市内の教育現場に広く浸透している。児童生徒、教職員がみんな、ICTを特別なものではなく、鉛筆やノートと同じように、日常的に使う学習ツールとして捉え、授業や課題に活用するスタイルが定着しているという。

 さらに、ICT活用の実践を支えるために情報活用能力育成体系表を教育委員会が独自に策定。教員のICT活用の共通の指針として、児童生徒の学年ごとの活用レベルや到達目標を明確化し提供している。この体系表に基づき、段階的に活用を深める教員研修も展開。このような仕組みが教員たちに安心感を与え、積極的なICT活用につながっている。

小山市が作成した情報活用能力育成体系表

学習eポータルとTeamsによるICTの“日常化”

 小山市ではMicrosoftアカウントによるSSO(シングルサインオン)を全校に導入し、学習eポータルを起点とする学習環境を構築した。児童生徒は登校後にPCを起動し、eポータルへログインすることが習慣になっている。小島氏は「小山市全体で、約9割の児童生徒がログインしている日も出てきた」と語る。日常的に使う文房具のひとつとしてICT活用を進めたことで、市全体で標準化された運用が定着しているのは注目すべき点だ。

 また、時間割や行事、日々の業務連絡も含めて予定はMicrosoft Teamsで確認する意識が高まっているのも特徴的だ。担任だけでなく、校長や養護教諭、学年主任など、さまざまな立場の教員がTeamsでの情報発信を日常的に行っている。たとえば、校長先生がその日の出来事をTeamsで発信し、児童に意見を求めるなど、ICTが双方向のコミュニケーションツールとして活用されている点にも注目したい。

Teamsを通じて教員・生徒のインタラクティブなコミュニケーションを実現

 さらに、児童生徒も、お楽しみ会についてのアンケートを取ったり、クラス遊びのゲームのルールをお知らせしたり、さまざまな場面でTeamsを利用。授業の板書を撮影して投稿することで、欠席者が見られるようにしている例もあり、児童生徒が主体的に情報発信のツールとして活用している。「想定以上に活用が広がり嬉しいです」と、小島氏はGIGA1.0での小山市の取組みを振り返った。

小学校でも進むOneNote・Forms活用

 小山市では、児童生徒が自ら考え、調べ、表現しあう「学習者主体」の授業づくりにICTを積極的に取り入れてきた。代表的な実践のひとつが、小学3年生によるMicrosoft OneNoteを活用した総合的な学習の時間だ。ある学校では、児童が地域の課題や関心のあるテーマについてグループごとに調査を進める際、教員が単元全体の見通しをOneNoteで提示。調べる観点や手順を明確化したうえで、児童自身が得た情報をノートにまとめ、リンクや画像を貼りながらクラス全体で知識を共有していった。

 また、小学4年生の国語の授業では、Microsoft Formsを活用したアンケートづくりに取り組み、テーマ設定からデータの収集と集計、分析と表現まで一連のプロセスを体験した。ほかのあるクラスでは、音楽の授業で自分のリコーダー演奏を動画で撮影し、Forms経由で提出。児童のパフォーマンスを可視化し、教員は個別にフィードバックを行うことで、より効果的な指導が実現したという。

学習者主体の授業実践例

 「小学3・4年生でここまでできるのかと驚かれますが、PCの活用が日常に定着しているからこそ、子供たちも自然といろいろな使い方に挑戦してくれているのだと思います」と小島氏は語る。ICTはあくまで手段であり、目的は子供たちの主体性と表現力を引き出すことだ。その目的に対し、小山市の実践はいずれも、児童が「受け身」ではなく「発信者」になる経験を提供することで、学びの質的転換を着実に進めている。

先進的な実践で個別最適な学習を実現

 学びの個別最適化という点でも、小山市は先進的な実践を進めている。そのひとつが、「単元内自由進度学習」だ。教員がTeamsで教材、解説動画、課題、振返りシートなどを提供し、同じ学級内であっても、児童生徒が自分のペースで単元を進められるようにしている学校がある。

 ある学校の、小学6年生の音楽の授業では、事前に演奏見本動画や学習計画表をTeamsにアップし、児童が自分のペースで練習を行う「単元内一部自由進度学習」を実施。個人で黙々と取り組む児童もいれば、友達と相談しながら進める児童もおり、事後アンケートでは、8割の児童がこの授業スタイルに「満足」と回答したという。「自分のペース・やり方で学べる環境が子供たちに大きな安心感を与えたようです」と小島氏は話す。

 また、ある中学校では、数学の2次方程式で「単元内自由進度学習」を導入。Teamsに授業解説動画や問題プリント、解説資料をすべて集約し、生徒自身が計画的に進める形式を採用した。注目すべきは、通常の教室に通えない別室登校の生徒もこの授業にリアルタイムで参加できたことだ。保護者からは「ほかの教科でも同様の取組みをしてほしい」との要望が寄せられ、理科や社会など他教科にも実践が波及しているという。

学習者主体の授業実践例

 また、ICT実践に力を入れている教員が担当する小学3年生のクラスでは、理科の授業でExcelを活用したデータの可視化と分析にも挑戦。ゴムを使った距離予測実験において、児童がグループごとに実験結果をExcelに記録し、考察を重ね、再度実験と改善を繰り返すことで、科学的な思考力とICTリテラシーを育んだ。こうした授業が、研究指定校ではなく“普通の公立校”で展開されているとの説明に、会場からは驚きの声があがっていた。

プログラミング教育も「実用」へと進化

 さらに、小山市ではプログラミング教育にも力を入れており、小中連携の中で段階的に多様なプログラミング学習を導入。ビジュアルプログラミングのViscuitやScratch、micro:bitのほか、中学校ではより高度なテキストコーディングにも取り組んでおり、高校で必履修科目となった「情報I」に向けた準備を進めている。「中学校段階でテキストコーディングまで実践できたのは、Windowsの汎用性の高さが生きているからこそ」と、小島氏は振り返る。

小中学校から段階的なプログラミングを導入

Teamsを核にした“つながる校務”

 小山市では、授業や学習面のICT活用に加え、校務のデジタル化にも注力してきた。特に注目されるのが、Teamsを活用した校務連携の仕組みだ。校長会、養護教諭、栄養士、事務職員といった校務の多様な分野でTeamsが浸透し、学校間・職種間の「横のつながり」が生まれている。

 「私たちはリーディングDXスクール指定自治体ではありませんが、だからこそ、現場に必要な仕組みを地道に整えることができました」と小島氏は語る。たとえば給食業務では、市の給食担当と学校栄養士がTeams上のチャットで写真を共有しながら調整を行っている。従来は電話や紙ベースでのやり取りが中心だったが、チャットの活用により飛躍的に効率化を図ることができ、「かつては夜9時、10時まで残業していた職員が、今では定時で業務をこなせる日が多くなってきました」と時間短縮の効果を強調した。

教員研修はペーパーレス、Teamsで完結

 教員研修のあり方も、ICTによって大きく変わった。小山市ではPCの持込みを基本とする方針のもと、Teamsで研修専用のチームを編成。資料の配布、講師からのメッセージ、参加者間のやりとりまで、すべてTeams上で完結する方式に移行した。

 「先日実施した研修もペーパーレスで行いました。事前の資料提示から、講義、意見交換、事後課題の提出まですべてTeams上で行うことができるので、圧倒的な効率化が実現できています」(小島氏)。加えて、外部から招いた講師もTeamsに直接参加し、資料の共有やメッセージ投稿を通じて双方向のやり取りが可能に。外部講師と参加教員が活発なやり取りを交わしているという。

 教員同士がつながり、時間と場所を超えて学べる環境は、これからの人材育成にとっても欠かせない要素だ。教員の学び方そのものを刷新したこの取組みは、校内研修にとどまらず、道徳や人権などの教育課題研修にも波及。小山市全体で研修基盤として活用されつつある。

Windows PCの弱点と対応策、GIGA2.0に向けた取組み

 GIGA1.0でこれほどの実践を行ってきた小山市だが、Windows PCを活用する中でいくつかの課題も顕在化した。たとえば、PCの起動の遅さやネットワーク集中による負荷、アップデートのタイミングによる学習の中断などの悩みが学校現場からあがったという。

 これに対し、同市ではスリープ運用の徹底やクラウド同期の最適化、アップデートのタイミング調整などにより実質的な問題解消を図ってきた。こうした経験は、これから本格化するGIGA2.0での端末選定と運用設計にも大きく生かされている。

GIGA2.0はこれまでの実践をさらに強化

 GIGA2.0に向けて、小山市は引き続き市内すべてでWindows PCを選定。その理由は、 これまでに積み重ねてきた学習・校務の実践が、OS統一によって高い効果を発揮していたからにほかならない。

GIGA2.0の端末先行導入

 2025年1月には、GIGA2.0で調達したPCを市内小学校で先行導入。実証校の児童からは「起動が速くなった」「軽くて持ち帰りが楽になった」「タッチペンが本体に収納できるのが便利」といった声があがっているという。「処理速度やタイピング性など、PCのパフォーマンスは格段に向上しており、子供たちの学びにも良い影響を与えています。何より実際に活用する子供たちから高い評価を得られたことは大きな安心材料でした」と小島氏は話す。

 さらに、GIGA2.0では、フルクラウドを前提としたゼロトラスト環境の構築も進行中だ。Microsoft 365 A5ライセンスの活用が本格化する予定で、セキュリティの強化も同時に進めている。これにより、従来の校内完結型から、どこでも仕事・学習ができる新たな教育インフラが形成されようとしている。

ゼロトラスト環境の整備でセキュリティも強化

ゼロトラストとAI活用による教育改革

 GIGA2.0の中核をなすもうひとつの柱が、AI活用の本格展開である。小山市では、校務・授業の両方で生成AIの活用可能性を検証しており、すでに教育委員会主導で指導主事や管理主事を対象とした勉強会を複数回実施。AIの仕組みやリスク、使い方の基本を理解したうえで、具体的な活用に向けた検討が始まっている。

 実際に、ある指導主事は市内の体力テスト結果をAIアシスタント「Microsoft Copilot」に読み込ませ、対話形式でデータ分析を行い、傾向と課題を短時間で可視化。授業での活用も始まりつつあり、2025年春の時点で10校以上がAIツールを授業に導入しているという。調べ学習、アイデア出し、作文支援など、児童生徒の発想を広げるための補助ツールとして実験的に活用されており、「まずは教員が業務で使ってみる、そこから授業へつなげていくという自然な広がりを目指しています」と小島氏は語った。


 小山市がGIGAスクール構想を通じて目指すのは、単なるICT化ではなく、「子供たちと先生たちのウェルビーイングの実現」だ。そのために、授業・校務・研修という教育現場の3つの側面において、Windows PCとMicrosoftのツールを一貫して活用し、地に足のついた改革を積み重ねている。

 「ICTが進み、働き方は目に見えて変わっています。今では、小山市の先生になってほしい、と自信をもって言えるようになりました」と小島氏。これからGIGA2.0に突入する各自治体にとって、小山市の実践は現実的かつ持続可能なICT活用のヒントとなるのではないだろうか。

小山市事例 セミナー動画はこちら
《畑山望》

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