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研究者との共創を拡げる日本マイクロソフトの「AI for Science」

 AIが科学技術の進歩を加速させる中、日本マイクロソフトに「AI for Science」の取り組みと研究者との共創の展望、2026年4月27日開催予定の研究者および関係者向け説明会について話を聞いた。

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左から日本マイクロソフト 業務執行役員でパブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長の宮崎翔太氏、同パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部 カスタマーサクセスマネージャーの中田寿穂氏、Microsoft Corporation Worldwide Public Sector Industry Advisor DX/AX戦略室長の阪口福太郎氏
  • 左から日本マイクロソフト 業務執行役員でパブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長の宮崎翔太氏、同パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部 カスタマーサクセスマネージャーの中田寿穂氏、Microsoft Corporation Worldwide Public Sector Industry Advisor DX/AX戦略室長の阪口福太郎氏
  • 日本マイクロソフト 業務執行役員でパブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長の宮崎翔太氏
  • 日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部 カスタマーサクセスマネージャーの中田寿穂氏
  • 日本マイクロソフトSr. Specialist/Education AI 事業開発責任者の阪口福太郎氏
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  • 左から日本マイクロソフト 業務執行役員でパブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長の宮崎翔太氏、同パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部 カスタマーサクセスマネージャーの中田寿穂氏、Microsoft Corporation Worldwide Public Sector Industry Advisor DX/AX戦略室長の阪口福太郎氏

 AIが科学技術の進歩を加速させる中、日本でも政府の大規模投資「第7期科学技術・イノベーション基本計画」を背景に「AI for Science」への期待が高まっている。

 日本マイクロソフトの業務執行役員でパブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長の宮崎翔太氏、同パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部 カスタマーサクセスマネージャーの中田寿穂氏、同Sr. Specialist/Education AI 事業開発責任者の阪口福太郎氏に、AI for Scienceとは何か、また同社がAI for Scienceを通じて取り組む研究者との共創とはどのようなものか、さらに研究者やAI for Scienceを推進する大学関係者に向けて2026年4月27日に開催される説明会について話を聞いた。

投資拡大で「AI for Science」は加速する

--先日、政府が閣議決定した科学技術・イノベーション基本計画や、マイクロソフトによる日本のAIへの投資強化の概要や背景を教えてください。

宮崎氏:2026年3月27日に閣議決定された「第7期科学技術・イノベーション基本計画」において、科学技術は国家戦略の中核として位置付けられました。今後5年間で政府60兆円、官民合わせて180兆円規模を目指す過去最大の投資方針が示され、「AI for Science」も日本の科学再興を担う主要施策のひとつに組み込まれています。

 日本のAI for Scienceは、創薬や材料、気候科学などの広範な分野で、研究の速度と質を飛躍させる可能性を秘めています。これに関連し、弊社も約1.6兆円規模の投資を表明しました。データセンター等のインフラ整備、人材育成、サイバーセキュリティの強化に加え、AI for Scienceへの支援もその重要な柱となっています。

 おもな支援策は3つです。まずはAzure環境の無償利用権を日本円で約1.6億円分付与。次にフェローシップ制度として若手・次世代研究者を日本マイクロソフトに3か月から半年ほど受け入れ、ツールの使い方やグローバルな研究ネットワーク構築、テクノロジーの継続的な現場への落とし込みといったマインドセットの醸成を支援するプログラムを設置します。さらに人文社会科学系研究者に向けてAIやクラウドを活用するスキリングを促進します。

 また現在、文部科学省では人文学、社会科学から自然科学までのあらゆる分野の研究者等を対象に「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」というプロジェクトの公募を2026年4月17日に開始しました。1,000名の研究者に対して1年間で500万円の補助金が提供される予定で、1年という限られた期間で研究成果を出すのはハードルも高いため、マイクロソフトはその伴走支援に取り組む予定です。

 マイクロソフトはこれまで米国でのAI for Scienceにも関わっており、グローバルな知見をもとに日本での貢献が可能と考えています。日本は世界第3位、約70万人もの研究者が活躍する研究大国ですが、その一方で、研究の進め方が個々の研究室や研究者の裁量に委ねられていて、優れた知見が点在している現状にあります。

 今回、我々が提供するツールでは、先行研究をAIが分析して、十分に研究されていない研究領域をリコメンドすることも可能です。異なる研究分野間で因果関係や接合点を見出すことができれば、分野を超えた研究者同士の交流やデータシミュレーションが実現し、結果として新たなイノベーションが生まれるでしょう。

日本マイクロソフト 業務執行役員でパブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部長の宮崎翔太氏

AI for Scienceの時代

--「AI for Science」とは具体的にどのような取組みでしょうか。

中田氏:「AI for Science」という言葉は、2020年2月1日に公開された米国エネルギー省の論文に初めて登場しました。その論文では「コンピューティングにおける次世代の手法や科学的機会を広く表すもの」としてAI for Scienceは定義され、シミュレーションやHPC(High Performance Computing:高性能計算)、データ分析なども包含した次世代の科学研究手法と捉えられています。

 そこでマイクロソフトでは、2022年7月に「AI for Science」という部門を設立し、研究機関のMicrosoft Researchとともに取り組みを進めてきました。

 科学的発見の歴史を振り返ると、人類はこれまで4つの大きな転換点を経験してきました。第1のパラダイムは「経験科学」で、経験から知見を得る段階です。第2のパラダイムは「理論科学」で、万有引力の法則など数式による理論化の段階でした。第3のパラダイムは「計算科学」で、コンピュータによる複雑な計算・シミュレーションが可能に。そこから、第4のパラダイムにおいて、大規模データから知見を抽出する「データ駆動型科学」に到達しました。

 そして現在、私たちは「第5のパラダイム」である「AI駆動型科学(AI for Science)」の時代を迎えています。これまでの科学は「人間が仮説を立て、実験を行う」というプロセスが主流でしたが、AI for Science では、AIが主体となって仮説の生成から実験設計、データ解析までを自律的に行います。24時間365日稼働し続けるAIは、人間には不可能な圧倒的なスピードで科学そのものを進化させています。

 成果はすでに多岐にわたる分野で現れています。たとえば、気象予報は従来、スーパーコンピュータで1日分に数十時間を要したものが、今では1分未満で10日先までの予報が可能となっています。エネルギー・物理分野では、核融合における複雑なプラズマ制御もAIの導入により予測と制御の実現が見え始めていますし、材料研究においては、結晶構造の生成から合成経路の予測までをAIが担うことで、新素材開発の効率が飛躍的に高まっています。

日本マイクロソフト パブリックセクター事業本部 教育・社会基盤統括本部 カスタマーサクセスマネージャーの中田寿穂氏

2026年は日本の「AI for Science元年」

--日本の研究者・大学をどのように支援していくお考えでしょうか。

中田氏:「AI for Science」部門では、「Azure AI Foundry」などのツール提供を通じ、研究者が最先端のAI環境を自在に利用できる基盤整備を進めています。マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏は「AIは科学そのものを加速する存在になる」と述べており、2024年にAI関連の研究がノーベル物理学賞・化学賞を受賞したことは、その象徴的な出来事といえるでしょう。

 日本政府による過去最大規模の大型投資も相まって、今年は日本の「AI for Science元年」として、科学技術が新たなステージへと進む記念すべき年になると期待されています。

阪口氏:弊社もお客様に製品・サービスを安価に提供できるよう、データセンターの冷却や燃料効率向上によるコスト削減の研究を進めています。冷却材の新しい物質の発見ではAIと量子コンピュータを活用し、36万の候補から絞り込んで約8日間で達成するという結果が出ています。

--人文社会科学系の研究では、どのようなところでAIが寄与するとお考えですか。

阪口氏:人文社会科学系のように一見するとデータ化が難しい分野については、2つのアプローチが考えられます。

 まず1つ目は、弊社がこれまで注力してきた「データをAIで整理する技術」の活用です。散らばった情報を構造化することで、分析可能な土台を整えることができます。2つ目は、人文社会科学分野にすでに蓄積されている「膨大な論文」そのものを活用することです。論文は、多くの人が理解できる形で実験結果や知見が整理された、非常に質の高い成果物の集積だと言えます。弊社では、こうした論文データを読み解き、情報同士の相関関係を可視化することで「次にどの領域に研究の焦点を当てるべきか」を導き出す「知識グラフ」というツールを用いたソリューションを準備しています。

中田氏:人間が1日に読める論文数は限られています。研究者は過去の論文から知見を得て、何かしらの発想をもって新しい研究を進めますが、その段階でAIが「知識グラフ」を作成することで、論文全体を俯瞰した分析が可能になります。この「知識グラフ」では、未開拓の研究分野や異分野間の相関なども発見できます。

 このように、AIを活用することで、人文社会科学系の研究においても従来とは異なるアプローチでの意思決定が可能になります。たとえば教育学の分野では、これまで「理論」として抽象化されていた知見と、刻一刻と変化する「学校現場」の具体的な状況を、AIによって有機的に結び付けることができます。これにより、教員は目の前の生徒や教室の課題に対して、真に効果的な解決策をデータに基づき導き出せるようになるでしょう。

宮崎氏:ここで大切なのは「研究者が主役」であることです。研究者が活動を行う中で、AIが貢献できる部分は数多くあります。AIを利用することで、たとえば従来なら検証できなかった仮説も見つけられるようになり、結果として、研究の本質的な部分により多くの時間を割けるようになります。

阪口氏:一方で、AIによってどれほど自動化が進んだとしても、最終的な成果物の責任を負うのは人間です。AIの回答を鵜呑みにしてしまえば、潜んでいるミスを見逃すことにも繋がりかねません。そのため、研究のプロセスに必ず人間が介在する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という考え方がきわめて重要になります。

 「Microsoft Discovery」では、このループの中に人間が組み込まれる仕組みを整え、人が主体的に関与できる場面を広げています。ただし、研究者自身に十分な専門知識がなければ、AIの結果に対して異議を唱えたり、反証を試みたりすることができず、結局はAIに従うだけになってしまいます。研究者には今後、AIの提示する内容を精査するための「判断力」や「思考力」が、より一層必要とされるようになるでしょう。

日本マイクロソフトSr. Specialist/Education AI 事業開発責任者の阪口福太郎氏

AIで研究チームを編成し最適解へ「Microsoft Discovery」

--Microsoft Discoveryについて詳しく教えてください。

阪口氏:「Microsoft Discovery」は、2025年5月19日に開催された「Microsoft Build 2025」で発表されたサービスです(4月23日にPublic Preview)。その名のとおり未踏の領域における「新たな発見」や「候補の絞り込み」を強力に支援するプラットフォームです。

 最大の特徴は、複雑な課題に対してAIが問いを立て、それを解決するためのタスクを自律的に立案する点にあります。タスクが生成されると、システム内で複数のAIエージェントが自動的に立ち上がり、最適な「仮想タスクフォース」の編成を競いあいながら、最良の結果を導き出します。

 この仕組みの画期的な点は、現実世界では困難な「最適な研究チームの複数編成」を、仮想空間で瞬時に実行できることにあります。研究者は、AIが提示する複数の成果を確認しながら、「どこで研究を完結させるか」あるいは「さらに高みを目指すか」を柔軟に判断できます。これまでは世界中の専門家を集めなければ不可能だった課題も、AIを活用することで時間やコスト、人的制約を大幅に超えて挑戦できるようになります。

 また、共同研究におけるマッチングにも威力を発揮します。本来、共同研究のパートナー選びには、論文や日頃の活動実績など多面的な情報が必要ですが、人間の目には限界があります。そこで大学内の全研究者をシステムに登録すれば、AIが膨大なデータをもとに、人が気付かなかった最適な組合せを提案してくれます。

 すでに海外の大学では実証実験が進んでおり、3,000万件もの候補からAIが物質探索の絞り込みを行うなど、具体的な成果が生まれつつあります。個人の能力や研究室という枠組みを超え、大学単位、あるいはそれ以上の規模でデータが結び付くことで、人間だけでは決して到達できなかった「新しい気付き」や「世紀の発見」が現実のものになろうとしています。

中田氏:セキュリティに懸念を抱かれるかもしれませんが、ユーザーごとに見られる範囲を、システム側で設定することができます。研究データは秘匿すべきものとオープンにすべきものが混在しているものですが、閲覧の可否をユーザー認証ベースで適切に管理できます。

宮崎氏:分野を超えて連携しつつも、研究データは絶対に守られることがAI for Scienceの重要な視点です。マイクロソフトが年次で発行する防衛レポート「Microsoft Digital Defense Report」の2025年版によると、サイバーセキュリティの脅威にさらされやすい対象として研究機関は全体の第3位となっています。マイクロソフトではゼロトラストの基盤と認証の仕組みで、あらゆるお客様のデータをお守りしています。現在、東京大学での研究にも、この基盤をご活用いただいています。

 またこの4月に慶應義塾大学と連携協定を締結し、全職員約3,000名にMicrosoft 365 Copilotを採用いただきました。まずは職員の皆さんの業務効率を高め、付加価値の高い仕事の実現と、研究者を支える時間の創出を図ります。多くの大学では、研究者も研究以外の業務を行ったり、教鞭を執ったりしていますので、このAI for Scienceを進めるにあたってはOfficeやMicrosoft 365 Copilotをご利用いただくことで、どのように事務作業を効率化できるかもあわせてご提案していきます。

AI for Scienceによる研究活動の高度化と加速

--マイクロソフトによるAI for Scienceの展望を教えてください。

宮崎氏:さらに産学連携を進めたいと考えています。日本では今、博士人材が決定的に足りていない、博士になっても良い仕事に就けないといった課題があります。

 そこでマイクロソフトだけではなく、さまざまな産業界のパートナーと一緒に、他の国とも連携しながら研究人材を増やしていけるよう取り組んでいきます。そして日本の70万人の研究者の方々がAIの活用で研究を高度化し、より早く科学的な発見が生まれる土壌を整えたい。我々の技術と人材育成の観点で、複数のパートナーと一緒に日本の研究活動を盛り上げていきたいと考えています。

--4月27日に開催予定の説明会について教えてください。

阪口氏:説明会では、AI for Scienceに関する弊社の考えや活動実績などを紹介するとともに、今後のご支援について発表します。また現在、弊社の基盤を利用しながら研究を進めていらっしゃる事例や、今回の取り組みを共に盛り上げていただくパートナーさまとの懇親会も予定しています。4月17日に公募が始まった文部科学省の「SPReAD」に関心をおもちの研究者の方々や、研究を推進・支援するご担当者の方々のご参加をぜひお待ちしています。

--ありがとうございました。

 マイクロソフトのAI for Scienceは、日本の研究基盤を変革し、社会課題の解決や科学的発見の加速に大きく寄与すると考えられる。多くの研究者やAI for Scienceの担当者が、説明会で活発に交流することを期待したい。

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《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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