城西大学経済学部の松宮慎治助教は、2012年度から2021年度までの10年間にわたるデータを用いて私立大学の定員割れ要因を分析した。研究の結果、一般的にいわれる地方大学の不利益はみられず、むしろ3大都市圏の都市郊外に立地する大学のほうが定員割れリスクが高いことがわかった。この研究論文は日本教育学会が発行する「教育学研究」93巻1号に掲載された。
現在、日本の私立大学の約6割が定員割れの状態にあるとされ、大きな社会問題となっている。これまでマスメディアなどでは、偏差値による大学間の序列化と市場淘汰や、少子化が進行する地方に立地する小規模な大学の不利益といった文脈で語られることが多かった。しかし、実際にどのような要因が定員割れを左右しているのかについて、データにもとづいた統計的な分析は必ずしも十分に行われてこなかった。そこで同研究では、私立大学の定員割れの精確な要因を探ることを目的に、高度な統計手法を用いて分析を試みた。
分析には、2012~2021年度の私立大学に関するパネルデータを用い、地域要因と大学要因を区別して検証できる「マルチレベルモデル」を採用した。さらに、大学のブランド力など長期的な要因(ストック)と、年度ごとの変化(フロー)を分けて分析する「Within-Betweenランダム効果モデル」を活用。18歳人口や県民所得などの地域データに加え、学生数や偏差値、就職率など大学ごとの指標を分析した。
分析の結果、おもに3つのことが明らかになった。1つ目は「都市郊外というリスク」。一般的に定員割れのリスクが高いとされてきた地方に大学が所在すること自体は、直接的にリスクを高める要因にはなっていなかった。むしろリスクが顕著だったのは、3大都市圏(埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫)のうち、政令指定都市以外の「都市郊外」に所在する大学であった。これは、都心部へのアクセスや学生生活の魅力といった点で、都心の大学との競争にさらされやすい環境にあることなどが背景にあると考えられる。
2つ目は「過去の運営がストックとして効く」という点である。偏差値や就職率といった受験生が大学を選ぶうえで重視する指標は、毎年の短期的な変化(フロー)よりも、その大学が長年積み上げてきた実績や評価の差(ストック)として、定員充足に影響していることが示唆された。このことは、単年度だけ就職率の数値を向上させたり、見かけの偏差値を操作したりしようとしても、すぐには受験生の獲得には直結しない可能性を示している。大学経営においては、長期的な視点に立った教育・研究活動の充実による信頼構築が不可欠であるといえる。
3つ目は「規模の安定化の重要性」である。偏差値や就職率とは対照的に、大学の規模(学生の実数)については、それが減り続けているプロセス自体(フロー)が、深刻な定員割れのリスクをさらに高めるという「負のスパイラル」を生む傾向があることがわかった。学生数が減少すると、大学の活力や財政基盤が弱まり、それがさらなる学生離れを招くという悪循環に陥りやすい。このため、経営改善においては、定員を削減して見かけの充足率を高く見せることよりも、まずは大学の収入に直結する学生の実数を維持し、規模を安定させることが重要であると考えられる。
同研究では、私立大学の経営は立地や偏差値だけでは説明できず、大学ごとのブランド力なども重要な要因であることが示された。研究チームは、女子大学の共学化についても、志願者層の拡大とブランド価値の維持の両面から慎重な検討が必要だと指摘。今後はさらに分析を進め、大学経営に役立つ知見の提供を目指すとしている。
論文のタイトルは「私立大学の定員割れを規定する要因の探索:地域・大学・時点のマルチレベルモデルから」。著者は松宮慎治氏。掲載誌は「教育学研究」第93巻第1号(2026年3月)。なお、同研究はJSPS科研費(JP24K16629、JP24K00387)の助成を受けて行われた。








