1人1台端末の整備と利活用を目指したファーストGIGAのスタートから4年、現在は「セカンドGIGA」へと移行が始まっている。セカンドGIGAの柱となるのがGIGA端末の更新、そして校務DXの推進だ。文部科学省は、GIGA端末の更新や校務DXの推進にあたり都道府県単位での「共同調達」の方針を打ち出している。端末の更新時期が迫る中、都道府県単位での「共同調達」のメリット、そして課題はどこにあるのだろうか。すでに取組みを始めている先行自治体の事例から共に考えたい。
セカンドGIGA、なぜ「共同調達」なのか
文部科学省は、2028年度を「GIGA第2期(セカンドGIGA)」と位置付け、予備機を含む1人1台端末の計画的な更新方針を決定。事務負担の軽減やスケールメリットによる調達・ランニングコストの低減、共同調達を通じたノウハウ共有による業務改善などの目的から、都道府県を中心とした「共同調達」を原則とする方針を示した。
「共同調達」にあたっては、文部科学省の補助のもと各都道府県に基金を設置し、5年間同等の条件で支援を継続することを前提に、共同調達会議への参加や最低スペック基準を満たすこと、各種計画の策定・公表などを補助要件として設定した。
「各種計画の策定」で示されたKPI
基金から補助を受けるための要件のひとつとして規定されているのが「各種計画の策定・公表」だ。具体的に策定を求めているのは、「端末整備・更新計画」「ネットワーク整備計画」「校務DX計画」「1人1台端末の利活用に係る計画」の4項目。策定にあたり「教育DXに係るKPI」が設定されており、それぞれ具体的な目標値が掲げられている。たとえば、「指導者用端末整備済み自治体の率」や「1人1台端末を週3回以上活用する学校の率」は、2024年度に100%達成が目標となっている。
校務DX計画にあたる部分では、「クラウド環境を活用した校務DXを積極的に推進している学校の率」および「次世代の校務システムの導入に向けた検討を行う自治体の率」の目標値が、2026年度に100%達成となっており、大きく進展を求められる項目のひとつとなっている。
県域での次世代校務支援システムを推進するメリット
次世代の校務システムの導入については、都道府県単位での共通化が推奨されており、文部科学省は2023年度に「次世代の校務デジタル化推進実証事業」を実施。県域での次世代校務支援システムの構築に向けたモデル実証研究を実施した。モデルケースを創出することで、全国レベルでの効果的かつ効率的なシステム入れ替えを促進したいねらい。
加えて、教職員の学習指導に係る負担軽減の観点から、都道府県域でのクラウド基盤の共通化や、そのための都道府県域内での共通アカウントの発行・付与といった、クラウドを活用した学習指導環境の共通化についても検討することの有意性が考えられる。
セカンドGIGAでは、共同調達を通じてデジタルの活用範囲を拡大することで、従来の時間と場所が制約された学校教育から、子供起点の公平で個別最適な学びと協働的な学びを一層推進させることが、大きなねらいのひとつとなっている。
先行自治体の事例から学ぶセカンドGIGAのステージ
実際に共同調達に踏み切った自治体では、どのような取組みが行われたのだろうか。今回は、2024年5月8日から3日間にわたり開催されたEDIX東京において、日本マイクロソフトのブースで行われた特別セミナーから、秋田県と鹿児島県の取組みを紹介する。
ICT活用後進県からの脱却
逆転の発想で挑んだ秋田県の「共同調達」
1例目は、文化庁政策課 課長補佐(前・秋田県教育庁義務教育課長)稲畑航平氏による特別セミナー「秋田県における次世代校務DXの推進」。秋田県は文部科学省の「次世代の校務デジタル化推進実証事業」に採択され、2023年度から次世代型の校務システムを県内全域で展開するために共同調達を進めた。2024年3月までこの事業プロジェクトに携わっていた稲畑氏が、秋田県が共同調達に踏み切った背景や成果、メリットなどを伝えた。
全国学力学習状況調査でトップレベルの学力を維持し続け、教育力の高さに定評のある秋田県。独自に取り組んできた探究型授業の成功例への自負から、ICT活用は全国でも下から数えたほうが早い位置にいたという。そこでまずは「校務のICT活用」を進めることを計画。ICT環境が整備されていない状況を逆手に取り、全県で一斉に進めるべく校務システムの共同調達に乗り出した。
当初、旧来型の閉域網ネットワークでの共同調達を計画したが、全県をカバーする閉域網のネットワークはなく、構築コストも莫大な試算になったという。そこに示されたのが、文部科学省の「次世代の校務デジタル化推進実証事業」の方向性だった。特に注目したのは「ネットワーク統合」だったという。閉域網のネットワークを必要とせず、いわゆる普通のインターネットを通じて校務支援システムにアクセスできる環境を非常に安価に構築できる、まさに秋田県の状況にあったものだと確信したと稲畑氏は話す。
秋田県が行った共同調達の特徴のひとつが、共同調達の範囲を拡大し、校務支援システムだけではなく周辺のシステムもその範囲に含めた点だ。複数の自治体が集まって実施する共同調達では、共通した部分に絞って小さく調達するのがセオリーとされている。それをあえて拡大し、保護者連絡システムや振り返り支援ツール、ファイルサーバ、汎用クラウドツール、教育ダッシュボード、さらにセキュリティ対策まで、必要なものすべてを範囲に入れた。
その結果、学校・児童生徒・保護者間のデータ連携が容易にできるようになり、手入力が必要だったデータも自動化が可能に。万全なセキュリティ対策のもと、校務全般の負担軽減を実現したという。
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秋田県が次世代の校務デジタル化システムの柱としたのが「Microsoft 365 A5」。ネットワーク統合と範囲を拡大した共同調達により、市区町村レベルでは実現が難しいレベルのシステム構築に成功した。さらに、システム構築当初は想定していなかった効果として、県という大きなMicrosoft 365のテナントの中で教員同士がコミュニケーションを取れるようになった点が大きなメリットとなった。
これまで市町村の枠を超えてデジタルでコミュニケーションを行う基盤がなかったが、実現してみると現場レベルで非常に強力な武器となることがわかってきたという。
秋田県の共同調達の2つ目の特徴が、移行暫定期を設けた点だ。システム構築は県教委が担ったが、現場の市町村では移行に際し大きな負担が生じてしまう。そこで、まずは暫定的に接続して校務支援システムの使い方に慣れてもらい、移行のしやすい長期休み等のタイミングで新しい環境に移行するという段階的な導入を計画。現場の負担を極力軽減しながら、緩やかに全県に次世代型校務DX環境を整備していくスキームを描いている。
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稲畑氏は「次世代型校務DXはセキュリティ対策が要です。秋田県では、校務支援システムをAzureに置き、Microsoft AzureとMicrosoft 365 A5の連携で全体を最適化できる優れた構成になりました。県全体で共同調達した効果は非常に大きく、今後、県単位で進める場合には参考にしていただければと思います」と語った。
オール鹿児島で地域独自の課題を解決
県域教育用アカウントの「共同調達」
2例目は、鹿児島県教育庁高校教育課 学校教育ICT推進班 主任指導主事の中村太一氏、指導主事の川原省吾氏による特別セミナー「オール鹿児島で、子供も教師も誰一人取り残さない『ICTによる学びの変革』のための第1歩~県域教育用アカウントの導入と活用~」。
鹿児島県は、2024年度より県教育委員会のキャッチコピーに「意識改革」を掲げ、教員の意識、子供たちの授業観を変えていく取組みをしている。小中高が連携してオール鹿児島でICT化を推進するにあたり大きな役割を担ったのが、ファーストGIGA時に進めた県域教育用アカウントの導入だ。セミナーでは、県域教育用アカウントの役割と活用メリットについて紹介した。
鹿児島県では、ファーストGIGA当初の端末整備の段階から県域教育用アカウントの導入を同時進行で進めていった経緯がある。導入にあたっては、2020年4月から構想に着手し、全県でアカウント管理運用することのメリットについて市町村教育委員会に意向調査を実施。説明会や研修会などを経て、2021年3月に児童生徒へのアカウントを付与、4月から活用できる環境を整備したという。
通常、市町村教育委員会または学校単位で取得することの多いアカウントを県全域で使用できる県域教育用アカウントとして共同調達することで、市町村教委はドメイン取得や更新費用、事務作業が不要になる。加えて、アカウント作成に関するポリシーを県が策定することで、設定業務も簡略化。児童生徒のアカウント作成作業も不要となり、作業負担は大幅に軽減されたという。
学校現場では、市町村により異なるOSを導入しているケースもある。それでも、すべての公立学校で「Microsoft 365」と「Google for Education」の両方の利用を可能にし、児童生徒には小中高12年間使用できるアカウントを、教職員には県内のどこに異動しても使用できるアカウントを付与。これにより、児童生徒ひとりひとりの12年間にわたる学習成果物の保存や蓄積が可能となった。
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また、離島などの小規模校も多く存在する鹿児島県では、離島から鹿児島市内の学校へ進学、転校するといった際にも、同じアカウントを使用できるようになったメリットは大きいという。さらに、児童生徒の協働的な学習や、Teamsを活用した小規模校との合同授業の実施など、県独自の地域的な課題にもマッチしたさまざまなスタイルの学習に対応できる環境が整備された。
実際の運用にあたっては、アカウント管理に関する役割と作業担当を記した業務一覧表を作成。すべての作業を県教委に集約するのではなく、パスワードのリセットは各学校管理者に、県外の私立学校からの転入児童生徒の新規アカウント作成は市町村教委に権限を付与するなど、タイムロスなく現場が動きやすい仕組みを構築。セカンドGIGAに向けても、こうした権限の付与が現場の柔軟な対応につながるひとつのポイントとなりそうだ。
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県域全体で教育用アカウントを利用することで、県教委と市町村教委、学校間の連絡やデータの共有、更新などが容易にできるようになり、非常に便利だと川原氏は語る。Teams上に開設した、県域教育用アカウントをもつ教職員対象の情報発信・共有プラットフォーム「KagoGIGA情報交流室」では、教職員同士で問題提起と解決が行われるなど、鹿児島全域の教職員が連携しながら協働するシステムができあがっているという。
個人情報を多く含むアカウントだが、高いレベルのセキュリティまでカバーするMicrosoft 365をうまく活用しながら進めることで、セカンドGIGAにおいても「誰1人取り残さない鹿児島」を実現するべく教育DXをさらに加速していきたいと語った。
両県の事例を見ると、県全域でMicrosoft 365によるデジタル環境を整備したことで、運用コストや事務作業などの負担を軽減できただけでなく、セキュリティやコミュニケーションに関して大きなスケールメリットを得られていることがわかる。
1人1台端末を「使う」ことに注力したファーストGIGAから、セカンドGIGAでは「使いこなし、新たな価値を生む」ことが求められる。秋田県、鹿児島県では、校務システムやアカウントの共同調達により安心安全なデジタル環境下で、児童生徒・教員・保護者の円滑なコミュニケーションと協働的・創造的な学びの実現に動き出している。さらに、県教委・市町村教委・学校間が格差なく協働することで、教育DXが一気に加速する可能性を感じた。
文部科学省は、セカンドGIGAで達成するべきKPIとして「個別最適・協働的な学びの充実」「情報活用能力の向上」「学びの保障」「働き方改革への寄与」の4つの方向性を示している。いずれも自治体・学校単位で達成できるものではない。共同調達は、単に都道府県が主導して調達する面だけでなく、その後の教育のあり方や質の向上、働き方改革に根本からアプローチできる解決策のひとつとなり得るのではないだろうか。
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