日本の教育は今、GIGAスクール構想による1人1台端末の整備から、いかにICTを子供たちの学びに活用できるかへと進みつつある。2022年10月31日、さいたま市教育委員会は「さいたま市スマートスクールプロジェクト(以下、SSSP)」の本格稼働に向けて、ベネッセコーポレーション、ライフイズテック、日本マイクロソフト、内田洋行の4社と個別に連携協定を締結。「一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、新たな価値を創造していく力をはぐくむ教育の実現」をビジョンとして、学校現場の学び方、教え方、働き方の改革を推進する。
協定調印式には、ベネッセホールディングス 代表取締役社長 CEOで、ベネッセコーポレーション 代表取締役社長の小林仁氏、ライフイズテック 取締役・最高教育戦略責任者の讃井康智氏、日本マイクロソフト 執行役員・パブリックセクター事業本部 文教営業統括本部 統括本部長の中井陽子氏、内田洋行 代表取締役社長の大久保昇氏が出席(※連携企業はアルファベット順)。またSSSPの共同研究会アドバイザーで東京大学、慶應義塾大学 教授の鈴木寛氏、さいたま市GIGAスクール構想推進本部長、さいたま市教育委員会 教育長の細田眞由美氏、さいたま市GIGAスクール構想 ITスペシャリストの山本修平氏(4名の代表として)が登壇した。
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プロジェクトの概要説明で細田教育長は「『SSSP』という名称には私どもが大切にしていきたい理念も込められています。まずICTの利活用によるさらなる進化、学校が抱えるさまざまな教育課題の解決に向け、デバイスやクラウド環境の活用を前提とした最先端技術の利活用も視野に入れて、ICT活用の研究を進めていきます」と話し、メタバースを利用した不登校児童生徒の支援等にも触れた。また、「膨大に蓄積される教育データの活用に関する真価を探ります。教育データからのエビデンスが子供たちのアウトプットやパフォーマンスにどのようにリンクしているのかをサイエンスに進化させたい。また教育におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の深化を図ります。子供のグッドパフォーマンスにつながる教師の指導にはどのような特徴や傾向があったのかを明らかにし、その知見が他の子供たちに、そして学校全体、さらには全国の学校に普遍的なナレッジになればと考えています」と細田氏はSSSPの展望を語った。
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「スクールダッシュボード」が新しい学び、新しい学校を創出
このSSSPの核とされたのが「スクールダッシュボード」の開発だ。学校現場で日々蓄積される教育活動に関するビッグデータを相互に連携し、多様なデータを一元的に可視化する。これまでの教職員の経験に加えて、データを活用した学校経営や指導の改善等を図るという。このスクールダッシュボードは現在、内田洋行により、11校の教育データをもとにプロトタイプの開発が進められている。ボードには学校、教師、児童生徒にかかる基本情報や指導記録、子供たちのライフログ等の膨大な教育データを集約。プロトタイプは各企業とアドバイザーの鈴木氏、そしてITスペシャリストのアドバイスを受けながら研究が進められ、2023年度にはさいたま市の全市立学校に展開する見込みだという。
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EdTech4社との連携協力でビジョンの実現を目指す
今後、SSSPでは協定を締結した各企業の強みを生かし、教育データの利活用や新たな学びのデザイン、組織文化の変革、業務改革の推進等のさまざまな分野でのコラボレーションを図る。各社の支援内容は下記のとおり。
ベネッセコーポレーション
ベネッセコーポレーションは、学校および家庭学習も含めた学びのトータルデザイン、未来志向の学習を活用した効果的な学習内容の研究の役割を担う。ベネッセコーポレーション 代表取締役社長の小林氏は「このさいたま市との取組みが、日本における学校教育変革の先駆的なものになるという期待をしています。私どももしっかりと役割を果たしていきたい」と話し、学校と家庭相互の学習データから多角的な視点で児童生徒の学びを支援するモデルの構築、同社の学習支援ソフトウェア「ミライシード」の学習ログを活用した、ひとりひとりに寄り添った効果的な指導の改善があげられた。
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ライフイズテック
ライフイズテックは、プログラミング学習教材「Life is Tech! Lesson」の提供と学習データ取得および効果測定、実践的なPBL(課題解決型学習)に基づく教科横断的な学びのデザインを担う。ライフイズテック 取締役・最高教育戦略責任者の讃井氏は「未来に向けて人材育成をしていく必要があります。子供たちの生きていく世界ではAIやICTを使うのは当然で、自分で課題を設定し、自分で課題を解決していく当事者になる子供たちを育てる必要があります」と展望を話した。同社は今回、特に中学校の技術の授業をメインにプログラミングスキルを中心とした基礎学習を展開する他、教科横断の探究型の学びをデザインし、さまざまな学習データから児童生徒と教員を支援していくという。
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日本マイクロソフト
日本マイクロソフトは、組織文化変革の推進、「Microsoft Azure」を基盤としたスクールダッシュボードの環境整備、業務の整理・標準化・電子化の推進を担うという。日本マイクロソフト 執行役員の中井氏は「教え方、学び方、働き方の3つは常につながっています。この3つの課題をMicrosoftの教育ソリューションで解決しながら、最終的には生徒の学びを進化させたい」と話した。同社は、Microsoftが世界中で取り組んだ教育改革の知見から先生方のICT活用を支援。またデータから見えるインサイトをもとに教員がひとりひとりの子供にいかに深い指導をできるかをテーマに、そのための安心・安全に使えるクラウド環境や世界標準のセキュリティの提供、デジタルによる業務の整理や標準化、教員の働き方改革の推進をあげた。
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内田洋行
内田洋行は、スクールダッシュボードの開発や学習eポータル「L-Gate」の活用によるライフログの取得と蓄積、システムの利活用にともなう教師の働き方改革の推進を担う。内田洋行 代表取締役社長の大久保氏は、国が進める教育データの可視化・標準化、文部科学省が実施する令和5年度の全国学力・学習状況調査での中学校3年生英語「話すこと」のCBTシステム「MEXCBT(メクビット)」に対応した学習eポータル導入といった背景を説明。今回のスクールダッシュボードの開発は、さいたま市で導入されている同社の学習eポータル「L-Gate」から学習データやライフログを可視化し、子供たちの力を引き出すという。
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圧倒的な規模による100%のカバレッジに期待
このSSSPには、東京大学、慶應義塾大学 教授の鈴木寛氏がアドバイザーとして就任した。同市のITスペシャリストと共に学術的・専門的知見から、このプロジェクトを推進するという。鈴木氏は「今回はベストチームが集まりました。今年は学制150年。まさに150年ぶりの教育改革、教育維新が今、起こっています。すでに、さいたま市の学校現場では今まで見たこともないような学びを小学生や中学生が見事にやっています。私の予想をはるかに上回るスピードとクオリティと深さです」と話した。また、さいたま市の人口約133万人、小中学校164の規模で100%のカバレッジをするのは圧倒的だとし、このカバレッジによるデータ連結と抽出、そこからのスクールダッシュボードのカスタマイズによる進化に大きな期待を寄せていた。
SSSPでは、教育データから客観的なエビデンスをとらえることで教員の指導を改善し、さらに教員の働き方改革も進めるという強い意志を感じた。こうした取組みが進めば、子供たちの学校や家庭での安全・安心は担保され、新たな視点でひとりひとりの可能性が引き出されるのではないだろうか。今後のSSSPの展開に注目したい。