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チョコレートから始まる「学びのSTEAM化」【株式会社omochi】

 令和4年度の「未来の教室」実証事業で株式会社omochiと大阪府太子町の小・中学校が実施した、STEAMライブラリーのコンテンツ「幸せな未来のためのチョコっと計画」を活用した事例を紹介します。

事例 ICT活用
授業の様子
  • 授業の様子
  • 授業で使用するワークシート
  • 最終スライド発表の様子
  • チョコレートから始まる「学びのSTEAM化」【株式会社omochi】

教科横断型の探究を強力にバックアップ「STEAMライブラリー」

 新しい学習指導要領では、教科を横断した探究的な学習が重視されています。経済産業省が取り組んでいる「未来の教室」事業の一環として、こうした新しい学びに活用できるよう、オンライン教材プラットフォームである「STEAMライブラリー」※1 をオンラインで無料公開しています。
 STEAMライブラリーでは、小学生から高校生を対象に、主教材(動画など)+授業用ワークシートや授業案などの補助教材で構成し、学習指導要領との紐づけや指導計画・指導案の掲載など、学校などの授業内で使いやすい教科横断型コンテンツを配信しております。
 今回は、令和4年度の「未来の教室」実証事業で実施した、株式会社omochiと大阪府太子町の小・中学校が実施した、STEAMライブラリーのコンテンツ「幸せな未来のためのチョコっと計画」※2 を活用した事例※3 を紹介します。

栄養教諭を起点とした教科連動での探究授業を展開

 太子町では幼小中一貫教育を目指しており、太子町立磯長小学校(以下、磯長小学校)で家庭科を担当する吉田美香教諭と、太子町立中学校で栄養教諭※4 を務める岡崎亜矢子教諭は、株式会社omochiとの実証事業として、ファシリテートの難しい探究的な学びを指導するため、STEAMライブラリーを活用した授業を校種を超えて連携し実施しました。
 当時、磯長小学校においては給食での残食が課題であり、その解消の糸口として、カリキュラムに「食」を切り口に「総合的な学習の時間」と他教科とが連動した「食育のSTEAM化」に取り組もうと考え、総合的な学習の時間に「幸せな未来のためのチョコっと計画」を活用することにしました。授業の構成として、前半は岡崎教諭がSTEAMライブラリーの教材をベースに進め、後半は吉田教諭がファシリテーターとなり、こどもたちがディスカッションをするという、チームティーチング方式で行いました。

授業の様子 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

みんなが幸せになるチョコレートとは…世界について考えるきっかけに

 「幸せな未来のためのチョコっと計画」は、STEAMライブラリー内でケイオーパートナーズチームが提供している小学4~6年生を対象とした教材です。「自分にとっても、だれかにとっても幸せな、みんなが幸せになるチョコレート」について考えることで、消費者、生産者など、さまざまな立場を踏まえ、社会の一員として考え、判断して行動する姿勢の育成をテーマに、全9コマにわたって構成されています。
 今回の実証で教員研修や授業の実施をサポートした株式会社omochiの土井仁吾氏は、この教材で得られることは、大きく2つあるのでは、といいます。
 1つめは、こどもたちにとって身近なチョコレートをテーマに、消費者や生産者など、さまざまな立場からの視点を学び、自分たちが社会の一員として何ができるかを考える力を育成することです。
 2つめは、持続可能な社会のために、今この瞬間からどう行動すべきかを考えることです。
 この教材は主に小学校高学年を対象に設計されていますが、今回の実証フィールドである太子町の授業では、小学校だけでなく、中学校でも活用されました。
 「教材に含まれている動画は、本物のカカオ豆の栽培の様子や、チョコレートの生産過程に関わるさまざまな立場の方のインタビューなどで構成されており、リアリティがあり、こどもたちのワクワク感を刺激するような設計になっています。全部で9コマありますが、目的に応じて3~4コマで実施してみたり、あるいは12~13コマまで内容を膨らませたりと、授業コマ数を柔軟に増減できる構成になっています」(土井氏)

チョコレートという身近なテーマだから取り組みやすい

 授業ではまず、岡崎教諭が数種類のチョコレートを用意してこどもたちに試食してもらい、味わいや香りをテイスティングしたり、パッケージを見比べたりするところから始まりました。授業中にチョコレートを食べられることはなかなかなく、こどもたちは授業を非常に楽しんでいました。
 後半のディスカッションでは、チョコレートに関わる知識のみでなく、「仲の良いあの子は、どんな意見をもっているのだろう?」という新たな関心が湧いたり、「普段あまり関わらない子と意見が一緒だった」といった意外な共通点を発見できたり、こどもたちは幅広い視点を得ることができたようです。
 一方で吉田教諭は、この授業を通じて、これまでのように教員がこどもたちに何かを「教える」のではなく、「教員もこどもたちも対等な立場でお互いに意見を交わすことができた」と振り返ります。
 「安価なチョコレートが作られる実情を知ると、『知ったからには何かしたいよね』と、こどもたちと同じ目線で授業が進められた気がします。正解がないので、勉強が得意かどうかは関係なく、自由な発想のもと、日ごろ授業中に挙手しない子が積極的に発言するなど、教科の学習では見られなかったこどもたちの新たな一面も垣間見えました」(吉田教諭)

授業で使用するワークシート 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

正解がないテーマだから誰もが輝ける

 吉田教諭によると、以前はこどもたちが「正解か否か」にこだわり、正しいことを言うべきという雰囲気が学年全体にあったと打ち明けます。
 「今回、この教材を通して、こどもたちが正解かどうかではなく自分たちなりの答えを見つけようとする力を身に付けたと感じます。小学校高学年にもなると周囲の目が気になり、否定されることを恐れて自分の意見を言えない子が増えてくるのですが、学習を進める中で、こどもたち一人ひとりが自分の考えを持ち、誰とでも対等に意見を交わせる環境に変わっていった気がします。これまで多数決で決めていたような場面でも、少数意見に耳を傾けようという姿勢も見られるようになりました」(吉田教諭)
 最後の授業では、全員がクラスの前でスライド発表を行います。当時、こどもたちが書いていた日記には、発表がうまくいくかという不安や緊張を感じていたことが記されていたそうです。
 「人前で話すことが苦手な子も一生懸命発表し、全員がやり遂げました。普段の教室はワイワイガヤガヤしていることも多いのに、この時ばかりはシーンと静かに、一人ひとりの話に聞き入っていました。発表が終わるたびに拍手が起き、こどもたちがこの授業に本気で取り組んでいたことを実感しました」(吉田教諭)
 土井氏は、こどもたちがここまで夢中になれたのは、「自分のお小遣いで手に入る『チョコレート』という身近な食べ物だったから」では、と指摘します。
 「特に印象に残っているのは、授業を通じて、こどもたちがジレンマを感じるようになったことです。少しお小遣いを節約して我慢すれば、フェアトレード認証のチョコレートが買え、倫理的に良い消費行動ができる。しかし、自分のお小遣いを使うとなると、なるべく安く、たくさんのチョコレートを買いたいという気持ちもあるというジレンマに悩む様子が見られたのです。さらに、フェアトレード認証のチョコレートを買ったとしても、果たしてそのお金が正しく使われるのかが気になったり、そもそもフェアトレードの仕組み自体に疑問を投じていたりする姿もあり、こどもたちがじっくりと考えを深めている姿が印象的でした」(土井氏)
 また、岡崎教諭は、教員としての世界観も揺さぶられ、もっと学びたいという気持ちが高まったといいます。「まだまだ世界には知らないことがいっぱいあることを痛感しました。探究型の授業は初めてでしたが、こどもたちと一緒に私たち教員も学び続けることなのだと気づかされました」

最終スライド発表の様子 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

探究は教員も一緒に学んでいけばいい

 岡崎教諭は、中学校の生徒指導教諭や土井氏と協力し、「幸せな未来のためのチョコっと計画」を、小学校だけでなく、中学校でも取り組むことを提案しました。授業数の制約はありましたが、バレンタインデーに合わせ、高校受験が終わった2月に生徒会活動の時間を使って中学校3年生向けに実施しました。
 「この日は普段授業に参加しづらい子たちも参加し、授業を楽しんでいました。さらに、この取組で児童労働に関心をもった生徒たちが、教材にも登場した児童労働廃止を訴えるNGO団体へ手紙を書き、アクション活動報告としてNGO団体のホームページに掲載されています。これがきっかけになり、今年度は中学校にお越しいただけることになりました。中学校では現在も授業が続いており、NGO団体の協力も得ながら、チョコレートをめぐるサプライチェーンに関しての探究学習に取り組んでいます。今回の教材のように、食育は身近でこどもたちが興味をもちやすく、教科横断的な探究学習には適していると感じます。探究学習は、学習時間の確保が難しいところですが、今後もさまざまな教科の先生たちと連携し、展開していきたいです」(岡崎教諭)
 今年度、太子中学校には、小学6年生のときに磯長小学校でこの授業を受けたこどもたちが入学してきました。多くの生徒たちは積極的に自分の意見を発言するなど、学びに対して意欲的であることから、それはこの探究学習の影響かもしれないと、学校側は驚いているそうです。
 この実証事業では、「食」という身近なテーマから、こどもたち一人ひとりが社会の一員としての意識をもち、さらには学びに対する意欲も変わるという示唆を得ました。
 「これまでの先生方は、『知識を正確に伝えなくてはいけない』という『教える』ことへの使命感が強かったと思いますが、岡崎先生がおっしゃったように、こうした教材を使ってその姿勢を程よく解きほぐし、『教員が全てを知っている必要はない。こどもたちと一緒に調べ、学んでいけばよい』という前向きな気持ちで、探究学習に取り組んでいってもらいたいと思います」(土井氏)
 今回の実証事例を、STEAMライブラリーを活用した教科横断的な学びの一例として、ぜひ参考にしてみてください。

画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

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※この記事は、令和5年度「学びと社会の連携促進事業「未来の教室」(学びの場)創出事業」で作成した、「未来の教室」通信を全文転載しているものです。
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《未来の教室(経済産業省)》

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