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多文化多言語の子供支援に生成AI活用…阪大と富士通Japanが共同研究

 大阪大学大学院人文学研究科附属複言語・複文化共存社会研究センター(以下、阪大ふくふくセンター)と富士通Japanは2025年6月30日、2025年6月から9月までの4か月間、多文化多言語の子供ひとりひとりに適切な教育を実現するため、小中高生の個別の指導計画の作成支援における生成AI活用に関する共同研究を実施すると発表した。

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共同研究および教育支援AIのイメージ
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 大阪大学大学院人文学研究科附属複言語・複文化共存社会研究センター(以下、阪大ふくふくセンター)と富士通Japanは2025年6月30日、2025年6月から9月までの4か月間、多文化多言語の子供ひとりひとりに適切な教育を実現するため、小中高生の個別の指導計画の作成支援における生成AI活用に関する共同研究を実施すると発表した。

 近年、日本においてマイノリティな多文化多言語の子供は急増しており、5歳から19歳までの外国籍の子供は48万人を超え、そのうち全国の公立小中高校に通っているのは約13万人にのぼる。学校現場では文化的・言語的に多様な背景をもつ子供の増加にともない、ひとりひとりの言語発達と教科学習との相互関係を的確に捉え、学習指導の方針や教育環境の整備を行うことが求められている。

 こうした課題に応えるべく、文部科学省は、適切な指導・支援につなげるための新たな言語能力評価の枠組みとして、2025年4月に「ことばの力のものさし」を公表し、「対話型アセスメントDLA」を改訂した。これらの開発には、阪大ふくふくセンター教育・研究部門長の櫻井千穂准教授が中心メンバーの1人として携わり、これまで全国の小中高校などで指導助言や指導計画づくりに取り組んできた。

 一方、富士通Japanは、教育機関や自治体向けのサービス提供やシステム構築により培ってきたノウハウをもとに、より良い学びの環境の実現に向け、デジタル技術を活用した子供たちの学習体験を高める支援などを行っている。今回、両者の背景や強みを活用して、多文化多言語の子供の指導における教員の専門性の向上とより良い教育環境の整備に寄与するべく共同研究を開始することになった。

 共同研究では、世界各国の文化や言語に精通し、これまで多文化多言語の子供たちへの支援に尽力してきた阪大ふくふくセンターの実践知や「ことばの力のものさし」などを生成AIに学習させることで、個別の指導計画のベースを作成するAIモデル(以下、教育支援AI)を開発するとともに、その有用性を検証する。教員の教育観に関わる個別の指導計画策定にAIを活用するのは全国初の取組みだという。

 具体的には、多文化多言語の子供への指導方法や対応姿勢について教員の気付きにつながるアドバイスや個別の指導計画案を提示するなど、教員の拠りどころとなる教育支援AIの開発と社会実装に取り組み、子供の言語発達に影響を及ぼすデータを収集し分析する。「ことばの力のものさし」などのガイドラインのほか、年齢・滞日期間・母語の力などの情報をもとに相関関係を分析し、個別の指導計画の作成における課題を抽出する。

 今後、両者は2025年度中をめどに大阪府の協力を得て教育支援AIの有効性検証を行い、多文化多言語の子供ひとりひとりが安心して学べる包摂的な教育環境の整備を加速させ、教育の質の向上と公正性の確保に貢献するとしている。

 阪大ふくふくセンターは、共同研究の成果をもとに、多文化多言語の子供のための教育支援AIにおいて、精度向上や利便性向上に向けた継続的な評価を行う。地域社会、地方自治体、学校の取組みに対するサポートを通して、今後も言語間や文化間、人と人との仲介者としての役割を果たし、社会課題の解決を目指す。富士通Japanは、共同研究の成果をもとに2028年3月までにサービス提供を目指している。多文化多言語の子供の教育支援における課題を抱える自治体や学校現場にサービスを提供していくことで、誰1人取り残さない学びの実現に貢献する。

 櫻井千穂准教授は、「日本においてマイノリティである多文化多言語の子供の教育環境の整備は、公正な社会の実現に不可欠です。また、こうした子供たちの言語と認知の発達を、環境との相互作用の中で捉え直す取組みは、教育の本質にも迫るものだと考えています。AI技術の活用により、専門性が教育現場に広く共有され、多文化多言語の子供ひとりひとりへの支援がより確かなものとなることで、誰もが安心して学べる教育の実現につながることを願っています。また、公教育における新たな協働モデルとして今後の教育政策や他分野への応用にも展開することを目指します」と述べている。

《吹野准》

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