教育業界ニュース

インクルーシブ教育の新モデル「学校作業療法室」普及へ、飛騨市が研究プロジェクト

 岐阜県飛騨市は2025年10月より、名古屋市立大学の塩津裕康講師らの研究チームと共同で、全国初となる小中学校への作業療法士配置「学校作業療法室」を他地域にも横展開できるインクルーシブ教育システムとして確立することを目指すプロジェクトを開始した。

教育行政 教育委員会
子供たちの支援をする学校作業療法士
  • 子供たちの支援をする学校作業療法士
  • 作業療法士(OT)を配置する「学校作業療法室」の取組み
  • 小中高生の自殺者数年次推移(引用:文部科学省ホームページより)
  • 目指すインクルーシブ教育モデル
  • 名古屋市立大学塩津裕康講師、飛騨市長ら研究メンバー

 岐阜県飛騨市は2025年10月より、名古屋市立大学の塩津裕康講師らの研究チームと共同で、全国初となる小中学校への作業療法士配置「学校作業療法室」を他地域にも横展開できるインクルーシブ教育システムとして確立することを目指すプロジェクトを開始した。

 飛騨市では2023年度より、市内の小中学校全8校に作業療法士が月2回訪問し、子供たちの学習や生活の困りごと、教員の子供たちへの対応等での困りごとなどの相談にのり、子供が生き生きと学校生活を送るサポートをしている。学校内には作業療法士が学校滞在時に拠点とする作業療法士室も配置しており、作戦ルームなどと呼んで子供たちに浸透している学校もある。

 作業療法士とは、単に身体機能の回復を目指すだけでなく、その人が望む「自分らしい生活」を送れるように、身体、心、認知機能に加え、生活を取り巻く環境など全体的な視点からその人の望む生活の支援を行い、健康と幸福を促進していくリハビリテーションの専門職。英語表記の「Occupational Therapist」から、OTとも呼ばれる。「作業」とは、日常生活に必要な食事、入浴、仕事、遊びなど生活活動全般のことをいう。

 文部科学省の調査によると、特別な教育的支援を要する児童生徒の割合は6.5%(2012年)から8.8%(2022年)に急増している。加えて、教員の過重労働・メンタルヘルス不調、さらには児童生徒の不登校の増加といった問題が深刻化しており、学校現場における大きな社会問題となっている。さらに、小中学生の自殺は近年増加傾向で、過去最多の数値になっている。

 飛騨市でも、この全国的な傾向と同様に、学習や学校生活に参加しづらいという特別な支援を要する児童生徒が増加し、教員の業務負担が深刻化。そこで「学校作業療法室」を2023年から開始したところ、児童生徒の活動・参加スコアの改善、児童生徒の主体的な取組み姿勢の増加、教員の負担軽減といった結果につながったという。

 全国各地より学校作業療法室の設置について視察や問合せを受けることも多くなり、こうした社会課題に対応できる学校作業療法室の取組みを他の自治体でも実施できるよう仕組み化していくことも考えていこうと、社会技術研究開発センター(RISTEX)による「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラムシナリオ創出フェーズ」の研究提案の募集に、名古屋市立大学塩津裕康講師が研究代表者、飛騨市長が協働実施者となって提案をまとめ応募した。これが全国44件のさまざまな分野からの応募の中の2件に採択され、2025年10月から2年間にわたり社会実装にかかる研究を進めていくことになった。

 研究では、学びや学校生活の参加に特別な支援を必要とする児童生徒の増加や教員の過重労働など教育現場を取り巻く社会課題に対応するために教育・保健医療・行政の3分野が連携。具体的には「エビデンスに基づくモデルの構築」「技術普及ツールの開発(ICTシステム)」「OTの育成」「全国ネットワークの構築」に取り組む。

 「エビデンスに基づくモデルの構築」では、不登校数や医療受診動向、福祉相談件数・内容などを調査し、学校作業療法の効果を個人、学級、学校、自治体など多角的に検証。「技術普及ツールの開発」では、多地域展開を見据え、教育現場で支援する作業療法士の質を向上・保障するためのICTシステムの開発を進める。「OTの育成」については、飛騨市での学校現場で実際に作業療法を展開している作業療法士による学校作業療法士のOJT育成の実践を通じ、その方法、実践ツールなどを確立する。

 「全国ネットワークの構築」では、教育・保健医療・行政連携によるインクルーシブ教育システムを多地域展開するために、コンソーシアム設立を目指す。実践水準の標準化、人材育成の共同運営などに取り組む。作業療法の導入を見据える長野県駒ケ根市や長崎市、福島市などの参画を想定して進めていく。

 インクルーシブ教育の新たなモデルとして、複数地域での横展開の検証を行い、全国普及に資するシナリオを創出することを目指すとしている。

《風巻塔子》

この記事はいかがでしたか?

  • いいね
  • 大好き
  • 驚いた
  • つまらない
  • かなしい

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top