生徒たちが主体的に学べる環境を整え、自律した女性を育成している茨城県取手市の取手聖徳女子高等学校。同校の特徴のひとつが「探究」「グローバル」「協働」に重点を置いた教育だ。探究の取組みでは「聖徳プロジェクト」とよばれる授業で必要なスキルを学び、課題解決型の活動に取り組みながら、興味あるテーマを掘り下げ、考え、まとめ、発信する力を伸ばしている。
同校では2019年よりMicrosoft 365 A5環境を採用し、生徒・教員ともICTを積極的に活用している。2024年10月から導入したマイクロソフトの生成AI「Copilot」によって探究活動の幅が広がり、効率も上がったという。同校の探究学習ではどのように生成AIを活用し、生徒の深い学びにつなげているのだろうか。ICT教育を担う増田瑞綺先生に、同校の探究学習の取組みとCopilotの活用について聞いた。
全学年必修の探究学習「聖徳プロジェクト」
--取手聖徳女子高校の探究学習の特色を教えてください。
増田先生:本校の探究学習「聖徳プロジェクト」は、自律した学習者や自走できる集団、生涯にわたって自ら学び続けることができる資質・能力を育てること、すなわち自ら学ぶ「学び屋さん」を育てることを目標に掲げています。

探究に関する授業は、全学年で「総合的な探究の時間」週2時間、「探究スキル」週1時間、「LHR」週1時間の計4時間が設けられています。さらに高校2・3年生では「教科探究」が週2時間、高校3年生では「進路研究」が週4時間あり、3年間で探究のサイクルを何度も繰り返します。3年間は7タームに分類されており、「探究って楽しい」という動機付けから始まり、高校2年生後半からは「プロジェクト」とよばれる卒業研究に取り組んでいきます。
入学当初は人と話すことや、人前で発表することが苦手な生徒もいますが、聖徳プロジェクトで「ペアで話してみよう」「グループで発表してみよう」「クラスの前で発表してみよう」と段階を踏みながら自分の考えや意見をアウトプットできるようにカリキュラムを組んでいます。
入学後に実施する3日間の宿泊行事「SEITOKU Freshmen’s Camp」(SFC)では、教科の勉強は行わず、グループでパスタやマシュマロなどを使ってできるだけ高いタワーを建てる「マシュマロチャレンジ」や、宇宙船に何を持っていくか優先順位を決める「NASAゲーム」などのプログラムを行います。それらを通して、初対面でも話しあって課題に取り組み、お互いに相手の意見を聞く態度や合意形成のプロセスを少しずつ学んでいきます。
聖徳プロジェクトだけでなく、すべての授業で生徒同士が対話を通して学び、助けあい、刺激しあいながら成長していくのが本校の特徴です。外部の先生が授業を見学すると「授業中に話している生徒が多いですね」と驚かれることがよくありますが、授業中に話しながら学びあう生徒たちの姿は、私たちにとっては日常の光景です。
授業によっては、教員が最初にやることだけ説明して、残りの時間は生徒が自主的に個人作業やグループワークをすることもよくあります。教員が生徒にひとつひとつ指導していくというよりは、生徒たち自身が3年間、グループワークやふりかえりを繰り返していく中で自分自身を相対化し、成長していくというのが本校の特徴です。
生徒も教員も日常的に良く話しあい、学びあう
--グループワークや振返りを繰り返すことで学びを深めていくのですね。探究の集大成となる卒業研究はどのように行っているのですか。
増田先生:卒業研究は高校2年生の後半から高校3年生まで、1人1テーマで行います。研究テーマは生徒によって異なり、そのとき疑問に思っていることや、興味をもっていることをテーマに据えています。
自分の興味・関心から研究で深掘りするための問いを出して、最終的なテーマに絞り込むまでが難しく、2~3か月かかります。最初はひたすら疑問出しをすることから始まり、生活の中で気になるキーワードを出す、キーワードをマインドマップに広げる、広げた先のキーワードからまた疑問の形にする、疑問について調べるのを繰り返す、調べてわからなかったところからテーマを絞るなどの過程を経てテーマを決めていきます。そして、そこから研究を進める方法を考え、実践して、結果をまとめ、文化祭で最終発表会を行い、最後に卒業論文として文集にまとめます。
一連の探究活動では、生徒が自ら取組みを進めていく裏で、教員は生徒がいかに学びを深めていくかというカリキュラム設計を話しあっています。本校では、教科は関係なく教員同士がお互いに授業を見学することもありますし、教員同士の情報共有は非常に多いと思います。生徒たちが今どのような力を伸ばすのが良いのか、そのために担任や各教科の教員がどのように授業を進めていくのかなどについて、教員同士も振返りを行いながら、たくさん話しあいます。
そして、これらの一連の活動の両輪となっているのがICTツールです。この秋から使い始めたCopilotは、教員が授業準備や校務を進めるうえでも、生徒たちの探究活動や卒業研究をサポートするうえでも、大変役に立っています。
文書作成から授業のアイデア出しまでCopilotを活用
--Copilotを探究学習でも活用されているのですね。導入の経緯を教えてください。
増田先生:もともと本校は学校をあげてICT活用に積極的で、GIGAスクール構想以前からMicrosoft 365を利用していました。生徒や教員間のコミュニケーションだけでなく、欠席連絡、体温管理、図書室の貸し出しシステムなど、先生方が協力することでさまざまなアプリを作成し、授業づくり以外にかかる校務作業の負担軽減を行ってきました。また、2019年よりMicrosoft 365 A5を使ったゼロトラストセキュリティを採用することで場所を問わない柔軟な働き方も実現しています。

Copilotを使うようになったのは、私が昨年(2024年)9月に参加した研修がきっかけです。研修でCopilotの活用について学び、教員内のTeamsで早速Copilotを紹介したところ、数名の教員が興味をもってくれました。そこで、職員室内の「学びあいスペース」で、皆でCopilotを実際に触りながら使い方や活用方法を話していました。11月には、職員会議の冒頭10分間で全職員を対象としたCopilot体験会を実施しました。お互いにわからないところを教えあいながら「すごい!」「こんなこともできるんだ」「こうやって入力したけど、うまく返ってこない」などと言いながら、楽しい雰囲気で取り組めたと思います。

--皆さん積極的に試されたのですね。先生方は、どのような場面でCopilotを活用していますか。
増田先生:使い始めて数か月しか経っていませんが、教員向けアンケートの案内文や、保護者に向けた文書の作成、文章の要約、小論文の添削、授業のアイデア出しなどの準備、テストの問題文作成、ルーブリックの作成などで活用しています。
気負わず、こまめに、トライアンドエラーを繰り返し使うことで、当初に比べるとだいぶ的を射た指示を出せるようになってきたと思います。今でも教員同士で良い使い方を話しあいながら、日々学んでいる状況です。
作業時間が短縮され、指導の質が高まる
--Copilotが導入されたことによって、授業や校務における変化はありましたか。
増田先生:「作業効率が良くなったこと」「生徒への評価が常にぶれず、時短できるようになり、生徒ひとりひとりへの指導の質を高める余裕がうまれたこと」の2つがあげられます。
作業効率については、問題作成や評価などの作業が非常に効率化できるようになりました。本校では学期ごとに各教科2~3回ずつ、小論文やレポートの課題を出しているのですが、問題作成や評価に非常に時間と手間がかかっていました。レポート課題にCopilotを使ったという教員は、テーマの案出しをしてもらったり、参考になる記事や、提出された小論文の評価の観点も提案してもらったりしたそうです。また、英語科の教員は、英検文法問題の例題の作成にあたり、Copilotを使うことで作業時間を大幅に短縮できるようになり、助かっていると話していました。
ぶれない評価を短時間でできるようになったという点では、レポートやテストを採点する際に、Copilotを使ってルーブリックを作成しました。これまでも自身でルーブリックを作って評価していたのですが、人間がやると時間がかかるだけでなく、だんだん評価にぶれが生じてしまいます。そこで、Copilotでひな形を作り、さらに「論理的な構成とはどういうことか」といったこともCopilotで検証して、その内容も入れつつ、評価項目を調整しながら、ルーブリックを作成していきました。そして、実際に生徒が書いた文章を入力して評価させるところまでCopilotを使っています。
生徒20人分の小論文を添削する際、人力だと評価するだけで3日かかっていましたが、Copilotを使うとスピーディーかつ評価軸もぶれず、1日で作業が終わるため、教員が最終確認をしたうえで、生徒ひとりひとりにコメントを返せる余裕が生まれました。
ゼロの状態から自分でルーブリック作っていく作業は大変ですが、Copilotにまずたたき台を作ってもらってから、それを自分で調整していく作業は少ない負担で作り直すサイクルを回すことができ、より手厚い対応ができる余裕も生まれるので、生徒のためにもなると感じています。
テーマ決めや研究方法の検討など探究の入口支援に活用
--わずか数か月で使いこなされているのですね。生徒の探究学習ではCopilotをどのように活用していますか。
増田先生:実はCopilotを教員同士で試していた際に、いちばん盛りあがった話題が「これを探究にどう使えるか」でした。
探究学習で、生徒たちから「キーワードはあるけどそこからどういう論点になるかがわからない」「テーマは決まったけど、実際にどうやって実験をやれば良いかわからない」と相談されることがよくあります。キーワードからどのような論点になるかということのアドバイスに、教員も難しさを感じていました。
そこにCopilotを取り入れることができれば、教員が生徒と一緒に、Copilotに「このキーワードからどういう論点にできそうか」「アンケートをするならどういう項目を聞けば分析できそうか」などの問いを投げかけて、サポートできるようになると考えたのです。入口となるテーマ決めや、研究方法の検討・妥当性などは、教員自身も不安に感じている部分なので、そこを助けてもらえるのは非常にありがたいです。
実際に理数探究の授業で、テーマ決めをしている生徒との会話の中から、「ゲームに興味があるけど、どういう研究テーマにしたら良いかわからない」と質問されました。これまでは先生がもっている知識や、過去の似た事例を参考にして対応していましたが、生徒と一緒にCopilotに聞いてみたら「こんなテーマでできる」「学問的にこんな切り口にできる」「こんなステップで探究ができる」といくつも提案してくれました。
教員と生徒という関係性の外から、Copilotが第三者として別の視点から複数提案してくれるので、生徒も抵抗なく受け入れられ、その提案をもとにまた会話が生まれると感じました。
--Copilotを活用して、今後どのような学びを実現したいですか。
増田先生:校内全体で授業の中や、探究活動の「聖徳プロジェクト」の中でどんどん使っていきたいです。
興味あるテーマを深掘りし、自ら調べ、仲間や先生と話しあい、研究をまとめて作文・発表などのアウトプットを繰り返す探究活動を進めている取手聖徳女子高等学校。同校では特徴ある探究学習「聖徳プロジェクト」を効率よく、より豊かなものにするツールとしてCopilotを活用していることがうかがえた。生徒も教員もよく対話する文化が根付いている同校では、Copilotともやり取りを重ね、皆でトライアンドエラーを繰り返すことで知見を積み、短期間での普及・実装に至っている。Copilotのサポートでさらに豊かさが増す、同校の探究学習に注目したい。
聖徳大学附属 取手聖徳女子高等学校Microsoft Copilot活用事例