2025年2月14日、中央教育審議会初等中等教育分科会のデジタル学習基盤特別委員会に設置されたデジタル教科書推進ワーキンググループ(WG)が、デジタル教科書の現状と今後の方針について中間的な取りまとめを発表した。これは、デジタル教科書の制度的な位置付けや推進方策を検討するためのもので、GIGAスクール構想の進展を背景に、教育現場でのデジタル教科書の活用をさらに促進することを目的としている。
デジタル教科書は、情報技術を活用して学習に困難を抱える児童生徒を含め、学びの充実を図るための特別な教材として、2019年度から制度化された。2021年度からは実証事業として、2024年度からは本格導入として国から提供されている。これにより、1人1台端末や通信ネットワークの整備が進み、デジタル教科書の普及が進展している。
デジタル教科書の制度化当初、日本の学校におけるICTの活用は国際的に遅れていた。PISA2018では、日本の関連指標がOECD加盟国で最下位の水準であり、学校の授業でのデジタル機器の利用時間が短いことが指摘されていた。しかし、GIGAスクール構想の下で、1人1台端末と高速大容量の通信ネットワークが整備され、教育ICT環境の実現が進んでいる。
デジタル教科書推進WGは、デジタル教科書の効果や課題について学校現場や関係団体、有識者から意見を聴取し、精力的に検討を行ってきた。特に、デジタル教科書の制度的な位置付けの基本的方向性は、国民各層や教育関係者にとって今後の展開が予見可能となるよう、早期に示す必要があるとされている。
デジタル教科書の導入は、GIGAスクール構想の一環として進められており、「主体的・対話的で深い学び」や「個別最適な学びと協働的な学び」が重視されている。次期学習指導要領に向けた検討では、教科書のページ数の増加による現場の負担感を背景に、デジタル学習基盤を前提とした新たな学びにふさわしい教科書の内容・分量、デジタル教科書の在り方が論点となっている。
デジタル教科書は、教材等と効果的に組み合わせて活用することで、今まではできなかった主体的・対話的で深い学び、個別最適な学びや協働的な学び、授業改善や資質・能力の育成につながったとの多くの現場の声がある。具体例として、英語の発音を自分のペースで何度も確認し、算数の図形やグラフを動かし試行錯誤して考えることがあげられる。
デジタル教科書の普及に伴い、教育データの利活用や学習支援ソフトウェアとの連携も期待されている。新型コロナウイルスの影響やAIの普及により、ICTが社会に急速に浸透する中、教育現場でもデジタル教科書の導入が進んでいる。2024年8月時点で、学習支援ソフトウェアを導入している自治体は96%にのぼり、デジタルドリルやデジタルコンテンツの使用も進んでいる。これにより、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が図られている。
デジタル教科書のアクセシビリティ機能(文字の拡大、色変更、音声読み上げ、ルビ表示等)により、学習上の困難さを低減し、理解を促進する効果も報告されている。1年間デジタル教科書を使用すると学力調査の得点が向上したという研究や自治体の例もあり、成績や学力が向上したという報告がある。
一方で、デジタル教科書の課題として、アカウント設定やフリーズ対応等の環境面、効果的な活用方法に関する情報不足等の活用面での課題が指摘されている。健康影響については、専門家の意見として、授業では常に手元の教科書を見ているわけではなく、紙かデジタルかを問わず長時間継続して近距離で注視することは避けるべきとされている。
デジタル教科書の制度的位置付けについては、紙の教科書の内容をそのままデジタル化した「教科書代替教材」として使用されているが、無償給与の対象ではない。当面の間は紙と併用されている。諸外国では、教科書として紙の図書のみを認める制度の国は主要国ではほとんど見られない。
デジタル教科書の発行・活用状況については、制作面では2019年には約20%前後だったが、2025年には小中学校で約100%、高校で約76%に達している。導入面では、国から英語は約100%、算数・数学は約55%の小中学校等に提供されている。活用面では、6割以上が1/4回から毎回授業で使用されており、使用歴や端末使用に比例して増加している。
今後のデジタル教科書の在り方については、教育現場の創意工夫を最大限生み出す環境が重要とされ、社会の急速な変化やさまざまな教育ニーズに対して柔軟に対応できる制度設計が求められている。紙かデジタルかといった「二項対立」に陥ることなく、どちらの良さも考慮し、教育の質の向上のために適切に取り入れ、生かしていくことが重要とされている。
デジタル教科書の導入時期については、遅くとも次期学習指導要領の実施に合わせて導入される予定である。関係者の理解を得るためには、デジタル活用を自己目的化せず、児童生徒の学びの充実が最重要目的であるという趣旨の十分な理解が図られることが求められている。
今後の推進方策としては、従来の方向性を維持し、現行の課題を改善しつつ、制度改正を見据えた取組みが必要とされている。制度改正により新たな教科書が配布されるまでの当面の間、現行の紙とデジタルの併用を継続する方針である。英語、算数・数学の導入以降は、他の教科も含め、現場のニーズや活用状況、導入の影響等を勘案して、さらなる推進方策が検討される。