GIGAスクール構想の前倒しとコロナ禍により、ビデオ会議ツールを活用したオンライン授業が、多くの教育機関で実施されている。しかし、学校現場では、その準備や運営にさまざまな課題を抱え、快適に授業を行うため試行錯誤が繰り返されているようである。こうした状況の中、日本の教育機関にICTソリューションを提案しているSB C&S。同社は、ソフトバンクグループ企業の中でICT流通事業を担う会社で、日本のDX実現に向けて、ソフトウェアの流通やデバイス販売をはじめとして、インターネット回線、モバイルインターネットを基盤としたクラウドサービス、AIの解析サービスとプラットフォームサービス展開、スマートロボット、IoTソリューション等を提供している。
今回、より快適で教員への負担が少ない授業を実現するための方策を、SB C&Sの高野智氏に聞いた。
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Class・Zoom・Polyを組み合わせて実現するハイブリッド授業
オンライン授業や、登校による通常授業とオンライン授業を組み合わせたハイブリッド授業では、教室での機器準備に手間取り、授業の開始までに時間がとられたり、本来の授業準備にも集中できなくなったりと教員側の負担が大きい。高野氏は「快適なハイブリッド授業を実現するためには、機器の構成や操作をはじめとして、先生や生徒のICTの技術レベルや知識が必要です。教育現場の方からは、まずどんなものを揃えたら良いのか、どのように運用したら良いのかわからない、という声が多くあがっています」と実状を指摘した。SB C&Sでは、こうした課題の解決に向けて、Class、Zoom、Polyという3つの製品群を組み合わせたハイブリッド授業ソリューションとして提案している。
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ビデオ会議ツールの「Zoom」は日本でも認知度が高く、学校では授業だけでなく保護者とのやり取りにも利用されるケースが多い。その背景には、独自のデータ圧縮技術により、回線が不安定でも画像や音声の品質が安定していることがあげられる。その一方で、教員が日常的に行う出席管理やテスト等の教育活動のおよそ60%が、ビデオ会議ツールだけでは実現できないという。そこでSB C&Sは、Zoomだけでは実施できない部分を十二分に補完するため、Zoom向け授業支援ツール「Class」を採用。同時に、音声 及び 映像品質に優れた独自技術を保有しているブランド「Poly」を構成に取り入れた。これらの製品群は、実際にそれらを使用する教員と生徒の負荷を減らし、スムーズなハイブリッド授業の運営を実現することを第一に考えた結果、選ばれた組み合わせだ。
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ハイブリッド授業の活用は、パンデミックや自然災害等の有事における利用に留まらない。「平時でも利用の仕方によっては、これまでの教室における授業運営よりも学習効果を高められる面があると思います。たとえば、後ろの席に座っていて、板書や先生の表情を確認しにくい生徒が、教室でパソコンを開いて参加すれば、画面上で問題なく確認することができます。また、怪我や病気で移動が難しい場合や、何らかの事情で学校に行きにくい場合でも、自宅から授業が受けられます。平等な学びの実現に我々が提案しているハイブリッド授業ソリューションは役立つと考えています」(高野氏)
コロナ禍が続く現在、オンライン授業による学びの選択肢の提供は、受験生や保護者の学校選びにおいても重要な視点だ。またICTを活用した協働的な学び、探究的な学びへの期待も高まっている。1人1台端末を活用して距離や時間を超え、いかに新しい教育を推進できるか。そして学びを継続するために、教員の負担や時間をいかに減らしていけるかが焦点となっている。
「Class」を活用して簡単に。より良いハイブリッド授業へ
従来、教員は授業開始前には、さまざまな機器を立ち上げ、マイクやモニターを接続する等、やるべきことがとても多い。この機器構成では、教室や会議室での利用を想定したZoom Roomsを活用し、あらかじめマイクやカメラ等の周辺機器は教室にセットされ、授業開始時にはワンタップで機器を立ち上げられる。そしてClassとZoomが連携し、教員はClassのアイコンから簡単に授業を開始。高野氏は「1つの授業で機器準備に5分のロスがあるならば、1日5コマで25分、1週間(5日)で125分が失われることになります。1か月でおよそ8.5時間、1年ではおよそ100時間がロスになる計算です。ハイブリッド授業ソリューションの構成ならば、教員が準備に時間を奪われることがなく精神衛生面にも良いですよね」と時間のロスと労力を排除できるメリットを話した。
アメリカ発のZoom向け授業支援ツール「Class」は、スタンフォード大学やナイキの社員教育でも活用実績があり、現在シンガポールをはじめ世界各国での利用が増えているという。
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Classには、自動出欠確認・集計、動画や資料の共有、小テストの実施と自動採点、教室内のカメラのコントロール、ブレイクアウトルームのモニタリング、さらには受講生のデスクトップをモニターする試験監督ビューまで、ハイブリッド授業に役立つ機能が数多く含まれている。
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ICTに慣れた教員でも授業中に複数のアプリを行き来するのは負担があるが、Classを利用すれば資料やビデオの共有が1つのアプリケーション内で完結する。たとえば、事前にYouTube上の動画のURLをClass側に準備しておけば、アプリケーションの画面を切り替えずに生徒へ共有することが可能だ。動画視聴は、教員だけが停止や再生をコントロールできるモードと生徒が自分でコントロールできるモードを選べる。
Classには授業のスケジュール機能があり、期間を設定して資料を展開すれば、生徒は授業後でも参照できて、個別に資料を配布する二度手間もない。新しいスケジュールを一括登録することも可能。また、Class上でテストの作成や実施もでき、実施したテストは瞬時に自動採点できる。
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教室全体や板書を写すカメラは、ClassとZoom Roomsのコントローラーと連携させて操作できる。大きな教室や講堂で授業を展開する場合は、複数のモニターにそれぞれ、教員の使用している資料、先生ご自身のアップ、オンライン参加者の表示も可能だ。Zoom単体では教員がその他の参加者にまぎれてしまうが、Classでは教員が画面左上に常時表示される。「板書のカメラも固定できますので、視力が良くない人やオンラインの参加でも、教室で参加している人と遜色なく授業が受けられます」(高野氏)
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Classにはグループワークでよく利用されるブレイクアウトルームにも利便性が高い機能がある。グループは自動的に作成でき、教員側は各グループをまとめて表示することでルームに入らなくても全体の状況を把握できる。「どこのグループが活性化していて、どこのグループがそうではないのかを、教室での授業と同じように見渡せます。発言が少ないとわかれば、そこに先生が参加することもできますし、生徒も良い緊張感をもって授業に参加できます」(高野氏)
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試験監督ビューでは、その生徒のカメラ映像とパソコンのデスクトップ画面を同時に閲覧できる。生徒が問題につまずいている場合など、教員から能動的にチャットし、確認や個別支援することも可能だ。高野氏は「この機能をうまく使えば、先生が生徒の解答を試験監督ビューで閲覧し、面白い答えを生徒からみんなに話してもらうこともできます」と授業活性化のヒントを話した。
ClassはLMS(Learning Management System、学習管理システム)との連携も可能で、授業を録画してLMSにアーカイブすれば、講義動画や演習をオンデマンド型で配信するシステムを構築し、「ハイフレックス授業」が実現する。こうした学習環境によって、生徒は自分のペースで学習を進められ、わからないところを何度も繰り返して視聴し、テストでチェックすることで、理解度や達成度の向上も期待できる。
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Classでハイブリッド授業を実施し、LMSで学習管理をする二本柱での運用ができるため、今後のICT教育の拡充には心強い。なお、Classでは生徒がアクセスした時間と退室した時間をスタンプとして残しているため、独自に出欠を記録し、集計が可能となっている。
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Classで注目すべきはダッシュボード。教員や生徒の発話時間や挙手回数等を閲覧できる機能だ。誰がどれくらいの時間話しているのかを可視化する。「先生による一方的な授業になっていないか、双方向の授業になっているかを把握できます。また生徒がどれだけ挙手をしたのかも見ることができます」と高野氏は授業改善に役立つ機能を紹介した。
ハイブリッド環境に欠かせない臨場感を提供する「Poly」
60年以上前からヘッドセットを提供しているPlantronicsという老舗メーカーが、ビデオ会議システムを30年間提供してきたPolycomを統合して「Poly」というブランドを立ち上げた。現在はHP傘下にあるPolyが提供するビデオ会議関連機器は映像・音質に定評があり、ZoomやMicrosoft Teamsの認定も取得している。
SB C&Sは、このPolyの機器をソリューションに組み込み、教室では全体を見渡すカメラや板書・手元を写すカメラ、マイク、スピーカーを設置。オンラインの参加者にはヘッドセットやカメラ、スピーカーフォン等をトータルで提供し、ハイブリッド授業に最適な受講環境を実現していくという。
「GIGAスクールで1人1台の端末が整備されましたが、先生がオンライン授業をするときに板書が見えなかったり、先生自身がパソコンを持って板書を写したりと、とても苦労が多いと聞いています」と高野氏が話すように、オンライン授業を展開するには適切なICT環境を整備する必要のある学校が数多く存在している。Polyのカメラには、マスクをしていても自動で話者にピントを合わせてズームでき、話者が動いても自動的に追尾、話す人が変わると順番にズームアップする機能を有している製品が多数ある。「先生は授業中、板書を書いたり、動き回ったりする場合も多いので、自動追尾機能のあるPolyのカメラならば、オンラインで受講する方にもリアルな教室のようすをお送りできます」(高野氏)
また教室だけではなく、自室で受講する生徒にも役立つヘッドセットやスピーカーフォンもある。片耳型のPoly Voyager 5200ワイヤレスヘッドセットをはじめ、Polyのヘッドセットやマイクは、たとえ高速道路の高架下の交通量が多い場所であっても、車の騒音がほとんど聞こえないほどのノイズキャンセリング機能をもっている。
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USBでパソコンにつなぐPoly Studio P5は、マグネットですぐに着脱できるコンパクトで自由度の高いWebカメラ。教員の書画カメラとしての利用にも役立ち、安定的に設置できるスタンドも構成に入れる予定だという。たとえば、生徒が数学で問題を解いているときに、手元をきれいに、文字もくっきりと写すため、画面越しにどこでつまずいているのかを把握するといった使い方も有効だ。
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ハイブリッド授業における最大のハードルはやはり「音声の品質」ではないだろうか。話者の声が聞き取れなければ、教員・生徒双方のストレスを一気に高めてしまう。前述したPoly製品のノイズキャンセリング機能は教室外のざわつきや生徒が廊下を走る音も小さくする。仮想の壁を設けて、その壁の外にある音を拾わない「Acoustic Fence機能」では、コロナ禍で教室のドアや窓を開けて換気をする場合もクリアな音質を確保する。
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国内でもより良いハイブリッド授業の試みが始まっている
国内では仙台育英学園高等学校や関西大学でClassが導入され、より良いハイブリッド授業へのトライが始まっている。またアメリカでは、ハイブリッド授業やオンデマンド配信で受講できるハイフレックス授業も盛んに行われているという。高野氏は「小中高、大学で子供たちみんなが平等に授業を受けられる第一歩を、これからも提案させていただきたいと考えています。たとえば、最初は視聴覚室や一教室から導入してみるのも良いでしょう。まずは実際に体感して子供たちの声を聞き、先生ご自身も使ってみることで、ICTを活用した授業運営を推進できる環境を作り上げていけると思います」と意気込みを語った。
SB C&Sが提案する「Class・Zoom・Poly」のハイブリッド授業ソリューションでは、誰もが使い慣れているOSであり、また本ソリューションにしっかりと動作検証されているWindows 11が基盤となっている。これは教員や生徒が戸惑うことなくスムーズに授業に集中できることを実現するため、しっかりと動作検証が行われ、もっとも使い慣れているものが重要であるという方針によるものだという。「ICTを使いこなすというよりも、ICTの力を使って、いかにシンプルに授業に集中できるかにまずは重きを置いて考えた結果、このソリューション構成に辿り着きました。もちろんSB C&Sでは、他のOSを利用している場合でも、その教育機関の課題にあったベストな提案をしていきます」(高野氏)
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SB C&S主催 教育関連イベント・セミナーはこちら「アフターGIGA」という言葉が散見される今も、教員からはICT教育の授業運営に十分なサポートが得られていないと聞くことがある。SB C&Sのソリューションは、そうした負担の多い教育現場のDXを力強く支えるものだと感じた。また今後、このソリューションで得られた学習データに基づく客観性を伴った教育が実現すれば、きっと子供たち中心の学びに向かう重要な起点になるだろう。