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文科省 安彦広斉氏・平井聡一郎氏対談…補助金獲得のカギは狙いの把握とビジョン

 リシードは2022年3月1日、文部科学省 の安彦広斉氏、情報通信総合研究所 特別研究員の平井聡一郎氏を招き「チャンスを逃さない!GIGA実現への国の補助金と活用法」をテーマにウェビナーを開催した。

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文科省 安彦広斉氏・平井聡一郎氏対談…補助金獲得のカギは狙いの把握とビジョン
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  • GIGAスクール運営支援センター整備事業
  • 学校のICTを活用した授業環境高度化推進事業
 リシードは2022年3月1日、文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課長(命)デジタル教科書基盤整備検討PTリーダー(併)デジタル庁統括官付参事官の安彦広斉氏、先導的な教育ICT環境構築および支援に取り組む情報通信総合研究所 特別研究員の平井聡一郎氏を招き「チャンスを逃さない!GIGA実現への国の補助金と活用法」をテーマにウェビナーを開催した。

 個別最適な学びを実現するために、国はGIGAスクール構想を前倒しし、学習ツールの1つとして小・中学校の児童・生徒に1人1台ICT端末とその通信環境を整備してきた。コロナ禍により、スピーディに整備が進められてきたが、運用段階に入り、ネットワーク回線の不備や、指導者端末の未整備等、顕在化してきた課題は多い。これらの課題に対応するため、文部科学省では令和3年度補正予算として201億円を計上し、令和4年度予算案としても33億円を計上している。

 「今回の補正予算による国の補助を最大限活用し、各自治体の教育委員会にはより良いICT教育の基盤を整えてほしい」と安彦氏は語る。今、実際の学校現場はどのような課題を抱え、どのような対策が必要なのだろうか。また、その課題を解決するための国の補助金の活用方法とは。今回の補正予算成立の最大の目的と、補助金を有効に活用する方法について講演いただいた。

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GIGAスクール構想推進のための令和4年度予算案と令和3年度補正予算



 安彦氏は「GIGAスクール構想の実現について~支援の加速によるGIGAの実装~」と題して講演を行った。まず、GIGAスクール構想の背景や、日本における教育の課題と現状について説明。他国と比較してICT教育が遅れており、それが、人口が急激に減少しつつある日本において、国の競争力低下につながる可能性があると述べた。

 安彦氏は「OECD 生徒の学力到達度調査2018年調査」(PISA2018)や「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS2019)の結果を引用し、数学や理科(科学)や読解力の成績は世界でもトップクラスであるとした。しかし、PISA2009デジタル読解力調査とあわせて考えると、ICTリテラシーがなければ、能力があっても結果を出せない時代になっていると指摘。さらに、日本は学校でのデジタル機器の利用がOECD諸国の中では最下位となっていることを説明し、日本のICT教育の遅れによる影響についての危機感を示した。

 ICT教育の推進が求められる中で提唱されたGIGAスクール構想は、コロナ禍により当初の予定を前倒して予算を確保。1人1台の端末と、そのためのネットワーク整備は急ピッチで進められ、2020年8月末には全国の公立小中学校の約96%で端末利活用が始まっていると回答。ICT環境の整備は一定の進捗が確認できた。しかし、運用の中で顕在化してきた課題が大きく3つあると指摘した。

 課題の1つ目は学校のICT運用支援や教員へのサポート体制だ。そもそも1人1台端末の普及や利活用に地域差が見られるうえに、ネットワークがつながりにくい、速度が遅い等のネットワーク環境の不備、初期設定やトラブルの対応が教員に大きな負担となっている。2つ目の課題は、教室環境等ハードの問題である。指導者である教員側の端末と生徒側の端末の購入タイミングが違うことから、OSやスペックに大きな差があり、表示方法や処理速度が異なることで指導に影響が出ている例がある他、指導者用端末や、遠隔授業時に必要なカメラ等の周辺機器の環境も準備されていないこと等があげられる。そして3つ目として、デジタル教科書の導入が不十分という点を指摘した。運用の中で見えてきた、これら3つの課題を解決していくために、文部科学省では令和3年度補正予算、および令和4年度当初予算案のとおり所要の経費を計上したと述べた。

GIGAスクール運営支援センター整備事業



 上述の1つ目の課題の解決方法として、文部科学省は「GIGAスクール運営支援センター」の設置が有効だとし、令和3年度補正予算および令和4年度当初予算を組んでいる。これまで、GIGAスクール運営のために、学校現場へICT支援員を配置する等、「人」中心の支援を展開してきた。しかし、運営の中で顕在化してきた技術的な問題を解決できるスキルをもった人材を、各自治体の教育委員会や各学校では確保できていないのが現状である。

 そこで、民間事業者を活用し、学校のICT運用を広域的に支援する「組織」中心の支援体制へと発展・充実させるため、「GIGAスクール運営支援センター整備事業」に対し、令和3年度補正予算52億円および令和4年度当初予算案10億円が計上された。

 この予算の狙いは、学校への支援をワンストップで担う「GIGAスクール運営支援センター」を各自治体等に整備し、自立してICT活用を進めるための運営支援体制の構築をサポートすることである。「GIGAスクール運営支援センター」は、都道府県等と他市町村が連携する“連携等実施型”を想定している。おもな委託業務は、ヘルプデスクの運営およびサポート対応やICT支援人材の不足・偏在の解消、休日等にICT端末を家庭に持ち帰った際における故障・トラブル等の対応支援、ネットワークトラブル等の技術支援等が見込まれている。これらを都道府県等が民間事業者へ業務委託するための費用の一部を国が補助することとなる。“連携実施型”とは、教育事務所単位等できるだけ広域で連携することで、これによりスケールメリットが働くうえに、地域差の解消にもつながると見込んでいる。

GIGAスクール運営支援センター整備事業
GIGAスクール運営支援センター整備事業

 安彦氏は「この補助金はそれぞれの自治体にICT教育/GIGAスクール構想の推進を主体的に実施していただくための国からの支援なので、何をどう進めたいのかによって優先順位は変わってくると思う。教育のありかた、ICT教育の進め方等は各自治体でビジョンを描き、検討してほしい。GIGAスクール運営支援センターの業務の幅や活用方法等に決まった答えはない。柔軟に対応していく姿勢が我々にもある」と述べた。

学校のICTを活用した授業環境高度化推進事業



 指導者用端末の未整備や古いOSであることによる弊害、さらに遠隔授業実施環境が不十分であることを改善するため、「学校のICTを活用した授業環境高度化推進事業」には令和3年度補正予算として84億円が計上されている。

 時間や場所の制約を受けず、子供たちの発達段階に応じて質の高い教育を実施するためには、オンライン教育の授業環境を高度化していく必要がある。さらにコロナ禍において、遠隔授業等のオンライン学習を本格化させている学校現場には新たなニーズも発生している。これらの課題に対応するため、追加的に環境整備する場合の経費について補助を申請できる。

 たとえば、地方財政措置分(普通教室分)を超えた指導者用端末機器の整備や、すでに指導者用端末を整備済である場合はオンライン教育推進機器、遠隔教育支援ツールであるカメラやマイク、スタジオを揃えるといった取組みにも、この補助を活用できる。

学校のICTを活用した授業環境高度化推進事業
学校のICTを活用した授業環境高度化推進事業

 現在、公立高校の令和4年度新1年生に対しては、ほぼ全員に1人1台の端末を用意することができると見込んでいるが、この背景には「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」がある。この補助金をうまく使った自治体は、新入生のみならず、すでに高校1~3年まで全員にICT端末を揃えることができた。つまりは国の予算の狙いを上手くとらえ、補助金を活用できるかできないかで、差が出てくるということである。

 安彦氏は「この補正予算は令和3年度補正予算限りの措置のため、見逃さずに予算上限まで積極的に活用をし、ICTの高度化を進めてほしい」と語った。

「どんな教育を目指すのか」ビジョンを叶えるために国の補助金活用を



ネットワーク環境の整備



 続いて平井氏が参加し、対談形式で今回の補正予算についての詳細な説明が展開された。冒頭では、今回のウェビナーの企画意図を平井氏があらためて説明。「文部科学省が組んだ補正予算の内容を正しく理解し、キャッチアップしてほしい。せっかく活用できる制度があるにも関わらず、制度を知らないことで、ICT環境の整備、GIGAスクール構想の推進の大きなチャンスを逃すことになる。制度を最大限活用してほしい」と述べた。

 安彦氏の講演のとおり、令和3年度補正予算の大きな2つの柱は「GIGAスクール運営支援センター」の整備、そして「授業環境高度化推進」である。「GIGAスクール運営支援センター整備において最大の課題は、ネットワーク環境不備への対応である」と指摘する平井氏に対し、安彦氏は「GIGAスクール運営支援センター事業の一環として、ネットワークアセスメントを実施し、応急対応をする予算が組まれている」と回答。

 校内LAN整備についても、コロナ禍においてスピーディに実施されたことにより、委託先の精査ができなかったこと等から、不備が出てきているという実態が浮上。課題を一掃するための予算である今回の補助金を活用し、自分たちのGIGAスクール運営における課題を把握することが肝要であり、令和6年度から本格的に開始予定であるデジタル教科書の運用までに環境整備を急ぎたい、とした。

 今回の補助金の対象は、アセスメント~応急対応までが中心であり、結果を鑑みて対応を切り分け、次年度以降の補助金活用先等を検討してほしいと、アセスメントの重要性について強調した。

 また、ヘルプデスク等の支援体制の充実については、情報の共有や予算の大きさという面でも、自治体同士の連携によるスケールメリットを働かせることで、多くの自治体、学校が恩恵を受けることができると説明。自治体同士の横の連携という事例が少ないうえに、連携したことによるスケールメリットが働くイメージがつきにくいため、適宜成功事例を文部科学省から発信していくと安彦氏は述べた。

授業環境高度化推進



 また、2つ目の柱である「授業環境高度化推進」については、コロナ禍により突貫工事のように整備が進められたため、児童・生徒の授業用端末が整備された一方で教員の授業用端末の整備が進まず、スペックやOSの足並みが揃わないというような、さまざまな課題を残していると平井氏は指摘。今回の補正予算は、こういった課題を解決するための補正予算だと捉えていると述べた。これに対し安彦氏は「まずは指導者用端末の1人1台整備を実現することが一番の目的だ」と回答した。

 さらに、これをすでにクリアしている学校については、今回の補助金を使用し、授業環境高度化という目的のために今まで以上に自由度の高い補助金なので、幅広く活用してほしいと語った。

 最後に、平井氏は「文部科学省が今回の補正予算を計上した理由を正しく理解したうえで、子供たちのために学校現場の教育環境をより良いものにしてほしい。GIGAスクール構想を成功させるために、立場を越えてのニーズや想いのすりあわせが大事だ」と述べた。安彦氏は「何よりも大事なことは、それぞれの自治体や教育委員会、学校が自分たちの実現したい教育の形をビジョンとして共有することが大切だ。子供たちのためにより良い教育を叶えるためにおおいに補助金や地方交付税を活用してほしい」と締めくくった。

 ウェビナーの後半では、安彦氏、平井氏が参加者から募集した質問に回答した。その内容については、質疑応答まとめ記事で確認いただきたい。

ウェビナー質疑応答まとめ
《田中真穂》

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