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将来につながる英語を学ぶ天王寺高校「TOEFL Junior」一斉受験の目的と効果

 「TOEFL Junior」を導入して将来につながる生きた英語を学ぶ大阪府立天王寺高校の英語教育について、吉岡校長先生と英語科の武井先生にインタビューした。

事例 活用例
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天王寺高校の英語授業のようす
  • 天王寺高校の英語授業のようす
  • 天王寺高校は生徒の将来を見据え、可能性を広げる英語教育を実践している
  • 天王寺高校の吉岡校長先生(左)と英語科教諭の武井先生(右)
 中高生を対象とした「TOEFL Junior」は、コミュニケーション能力とアカデミックな実践英語の運用能力を測るテストとして、教育現場への導入が広がっている。国際バカロレアの認定校では、850点以上のスコアをIBコースへの基準にする学校もあるほどだ。

 大阪屈指の進学校である大阪府立天王寺高等学校では2021年7月、高校1年生全員を対象に「TOEFL Junior」の一斉受験を初めて実施した。これは英語の学習初期段階の実力を測るためのプレテストとして行われ、さらに同校では今後、学校での学習を踏まえて、彼らが高校2年生になった際の2月にどれだけ力が伸びたのかを測る(ポストテスト)ため、再度一斉受験を予定している。導入した経緯や英語教育の取組み等について、校長の吉岡先生ならびに英語科教諭の武井先生に話を聞いた。

吉岡校長先生と武井先天王寺高校の吉岡校長先生(左)と英語科教諭の武井先生(右)
天王寺高校の吉岡校長先生(左)と英語科教諭の武井先生(右)


世界基準の英語運用能力を測定するTOEFL Junior



 TOEFL Juniorは英語を母語としない中高生の英語コミュニケーション能力を測るテストとして、2010年に米国で開発された。以後、世界標準の英語能力検定テストとして世界中に広まり、今や65か国の多くの機関がプレ・ポストテスト、実力測定、成績評価として活用している。日本でも大学入学共通テストの実用英語力測定へのシフトもあり、広がりつつある。

 TOEFL Juniorには「Standard」と「Speaking」の2種類があり、前者は読む・聞くの英語運用能力を世界基準で測定するテスト、後者は中級レベルのスピーキング能力を測定するテストとなっている。天王寺高校は、今回初めて「TOEFL Junior Standard」を導入した。


生徒の将来を見据えて可能性を広げる実践的な英語力を養う



--天王寺高校の英語教育ではどのようなことを目指されていますか。

武井先生:生徒たちには、答えのない未来を生き抜く力を身に付けてもらいたいと考えています。英語力が将来の選択の幅を広げる、可能性を広げるひとつの強みになるよう、言語・英語運用能力の素地を養うことが私たちのミッションです。将来社会に貢献できる若者を育成するにあたり、生徒たちが世界に出ていったときに、彼らが気後れせずに外国の若者たちと対峙できるような姿勢を養いたいと思っています。また、本校は生徒の英語活用への関心も高く、本校独自プログラムとして国際交流事業を展開したり、GLHS(※)10校の大阪府の取組みにも参加したりしています。

※GLHS…グローバルリーダーズハイスクール。大阪府の事業で、「豊かな感性と幅広い教養を身に付けた、社会に貢献する志を持つ、知識基盤社会をリードする人材を育成する」ことを目的に、府立高等学校の特色づくりの一環として、10校を選定し、文系・理系ともに対応した進学指導に特色を置いた専門学科を設置

吉岡校長:彼らが大学に進学したとき、研究室等でたくさんの留学生に出会います。高校を卒業してすぐ日常的に留学生とやり取りして、研究を進めていくという場面に直面しますので、高校でどれだけ英語の運用力を身に付けているかが直接関係してくると思うのです。本校の英語教育は、1年生のときから4技能を使って英語をマスターしていくという姿勢で授業に取り組んでいます。たとえば、1年生のポスター発表のときには留学生を招いて指導助言をしてもらう等、英語に対するモチベーションを高めるような取組みもしています。

普段の授業の中で英語による受発信を行い4技能を磨く



--大学入試のためではなく、その先の将来を見据えて使える英語力を身に付ける教育をしているのですね。4技能を磨く教育について、具体的にはどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。

天王寺高校は普段の授業で英語の4技能を磨く
天王寺高校は普段の授業で英語の4技能を磨く


武井先生: 1~2年生では訳読中心の授業は行っていません。また、オールイングリッシュに近い授業をしているのですが、10年前と比べると、生徒たちが英語で何かしようという姿勢が強く出ていると思います。「これは何についての話なのか」といった指示もすべて英語でやっていますし、動画や音声、パワーポイント等も使い、教科書で習ったことを自分の英語で伝える、1分間スピーチをするといったリテリングの実技試験もひとりひとりに行っています。ネイティブ教員がおり、生徒が英語を口にする機会も多いので、普通の授業でやっていることが自然と4技能を育んでいるのではないかと思います。

吉岡校長:リテリングは普段の授業でもやっています。本文を読み、読んだ後に今のパラグラフは何を言っていたかを自分の言葉でまとめながらパートナーやペアの生徒に伝えていく。そのときにどれだけ正確で、正しい、伝わる英語を使っているかというのがポイントになります。

 また、本校では以前から自分が話している英語を録音し、それを後から文字に書き起こすディクテーションも行っています。ディクテーションした英語を自分で直すことで、正しい英語をチェックしながら進めることができます。このような取組みにより4技能がミックスされた授業が展開できているのではないかと思います。

--天王寺高校では、アカデミックな場面で正確に受発信する授業に取り組まれているのですね。ネイティブの先生とのやり取りも多いのでしょうか。

吉岡校長:大阪府はネイティブの方を英語教員として採用しており、本校にも配属されています。教員としての採用ですから生徒たちをより深く指導してもらえていますし、さらにALTも加わって指導してもらえる環境が整っています。

武井先生:ALTの授業の中では英語のエッセイを書いて提出する等、生徒たちが書いたものを直接見てもらう機会は多いです。

これまでの英語の積み上げを振り返る機会に



--そうした英語教育を進める中で、TOEFL Juniorを導入された経緯と、このテストのどういった点が御校の教育方針と合致したのかを教えてください。

武井先生: 1点目はTOEFL Juniorが世界規模、世界基準で、信頼できるテストである点です。世界における自分の立ち位置もわかりますし、本校が生徒に本物を体験させるということを教育の柱のひとつにしているので、そのような意味でも世界基準の試験を受けるというのは価値があると思いました。CEFR(※)のB2まで、コミュニケーションスキルだけでなくアカデミックスキルも判断してもらえる客観性・信頼性がある点にも魅力を感じています。

※CEFR…Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment:外国語の学習、教授、評価 のためのヨーロッパ共通参照枠。外国語運用能力の評価のための包括的な基盤として、2001年に欧州評議会が発表。外国語運用能力をA1、A2、B1、B2、C1、C2と6段階のレベルに分類している。

 2点目は、本校を卒業して大学に進学した生徒の多くが1年生の4月に英語のクラス分けでTOEFL ITPを受けている点です。それであれば、高校時代にCEFR B2を目標に学習すること、そしてTOEFL Juniorを経験することは高校卒業後、後々のつながりに良いのではないかと考えました。

 3点目は、TOEFL Juniorが合否ではなく、スコアという形で生徒に成績を返せるという点です。正解不正解ではなくて、どの程度英語を運用できるのか、どれくらい英語でコミュニケーションできるのかを世界基準のスコアで確認できるという点に、非常に意義を感じました。

 大阪府では英検等を高校入試で点数化できる制度があるため、多くの中学生が英検資格をもって高校に入学します。たとえば英検2級を取得した場合、高校入試で英語科試験の80%の点数を保障する制度になっているので、本校の場合は半数以上の生徒が英検2級を取得して入学してきます。ただし、生徒たちに話を聞くと「英検に受かった後は英語の勉強をしていない」という声もあったので、試験に合格することが目的になってしまってはいないかと懸念していました。

 また、非常に良い姿勢で授業を受けているのに「自分は中学校で英検2級を取れていないから英語ができない」と思ってしまっている生徒もいました。それらを踏まえて、高校入学時点で今までの英語学習の積み上げを振り返る機会になればと思い、TOEFL Juniorを1年生全員に受験してもらいました。

--1年生のTOEFL Junior受験にあたり、学校で何か対策をされましたか。

武井先生:テストのための対策は特に何もしておりません。ただ、受験料のこともありますので、保護者向けにこのような試験を学校で行いますという連絡文書を出しました。生徒に対しても、彼らは合格・不合格の試験しか受けたことがないので、「TOEFL Juniorという自分のこれまでの積み上げを問う試験をしますよ、わからなくても先に進み、立ち止まっちゃいけない試験なんですよ」という説明をしました。そのうえで、公式問題集からこのような問題が出るというのを一部抜粋して渡しただけです。

2回目のテストで高校での英語授業効果を測定



--1年生の7月にプレ形式、2年生の2月にポスト形式でテストのタイミングを設定された理由をお聞かせください。

武井先生:テスト導入のきっかけは、英検2級を取ってから勉強していないという声を聞き、生徒たちの英語力を知りたいと感じたことです。将来的に実践的な英語力は必要とされるでしょうし、そのためにも現時点の能力を知る必要があると考えたからです。一方で、天王寺高校に入ってどれだけ英語力を伸ばすことができたのかを測るのもテストの目的だと考えました。入学し、やっと高校生活になじんできた1年生の7月、そして約2年間天王寺高校で学んできた2年生の2月。この時期に受験すれば、天王寺高校で学んだことが英語力の伸長につながったのかどうかという判断ができると思ったのでこの時期を選びました。

--今回の1年生でのTOEFL Junior実施はいかがでしたか。

武井先生:生徒たちはこのようなタイプのテストを受けたのは初めてだったと思いますが、普段からオールイングリッシュに近い形で授業を行っており、ネイティブ教員の授業もありますので、生徒たちはそれほど抵抗なく試験に取り組めたのではないかと思っています。不安な声はまったく出ず、保護者にもご理解いただけ、良い意味で受け入れられたのではと思っています。

 また、成績を見て思ったことは2つあります。生徒がどんな力をもって学校に入ってきているかが気になっていたのですが、世界平均とそれほど大きな差がなかったということです。彼らは中学校まで一生懸命勉強してきて、ある程度の力をもっているということが確認できました。もうひとつは、生徒たちも英検2級を取ったから英語ができるとはまったく思っていなくて、やらないといけないという気持ちになってくれたので、良いモチベーションにつながったのではないかと思っています。

TOEFL Junior受験が生徒たちの英語学習に対する良いモチベーションにつながっているという
TOEFL Junior受験が生徒たちの英語学習に対する良いモチベーションにつながっているという


--日ごろの英語学習への影響等、生徒に変化はありましたか。

武井先生:昔に比べると、生徒たちが英語を口にしたり、プレゼンテーションをしたりすることが増えたので、受け身ではなくやり取りをすることに対して躊躇がない、そのような姿勢につながっているのではないかと思います。

吉岡校長:大学に行って海外ともやり取りをしなければならないし、アカデミックな世界で英語を使わなければなりません。生徒たちがグローバルに活躍できるよう、そのための英語力を測る指標としてTOEFL Juniorを実施し、それが普段の授業とつながっています。テストと普段の学習が相互に関係して力をつけていくことを期待していますし、そのように受け取ってくれていると思っています。

--次回の高校2年生2月に受けるテストに対してどのようなことを期待していますか。

武井先生:テストの目的のひとつに本校での英語力の伸びを測ることがあるので、私たち英語科教員の2年間の指導が問われると考えています。私たちの指導が本当に彼らの力の伸びにつながったのか、世界基準においてこれで良いのかといった意味で、期待よりも緊張しているというのが本心です。

--中学校から英語を頑張っていた生徒が、高校に入っても継続して英語に取り組んで、その成果が出るのですね。

武井先生:本校は、将来英語を使って国際社会で働きたいとか、英語を活用できるようなことをやっていきたいという意欲が高い生徒が多いと思います。大学に行ってすぐに留学したいという生徒もいます。本校はSSH(※)ということもあり理科系の分野に進む生徒が多いのですが、そのような分野だからこそ大学の研究室でアジアからの留学生とともに研究をするとか、世界に向けて論文を発表するとか、近いうちにアカデミックな英語を使わなければならない場面に遭遇することが予想されます。自分たちの将来に英語が必要であるということをさまざまな場面で学んでいますので、そのような意味でも目標に向かって頑張ってくれているのではないかと思います。

※SSH…スーパーサイエンスハイスクール。文部科学省が将来の国際的な科学技術関係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施する高等学校等を指定している

TOEFL Juniorと日々の授業が相乗効果に



 受験英語・文法語彙特化型と揶揄されがちだった日本の英語教育だが、がアカデミックな場でも活用できるような英語力を培うものへと大きく変わりつつあることを感じたインタビューだった。先進を行く天王寺高校では、英語をツールとしてとらえ、世界基準で使える実用的な英語4技能を授業で学び、そうした日々の積み上げや授業効果の客観的な測定としてTOEFL Juniorを活用している。同テストにより、生徒は今現在の自分の実用英語力を確認し、英語力の積み上げや伸びを実感でき、さらにやる気につながっていく。同校では今後も日々の授業や学習を踏まえ、TOEFL Juniorを活用して、さらに世界で使える英語力を伸ばしていくのだろう。テストと日々の授業が効果的に絡み合い、良い相乗効果を生み出しているようすを垣間見ることができた。
《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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