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平井聡一郎先生と語る、教室の今と近未来<7>軽井沢風越学園 有山裕美子先生…アイデアをアウトプットする図書館

 第7回目の対談は工学院大学附属中学校・高等学校で司書教諭として図書館に「ファブスペース」を作り、今は長野県の幼小中一貫校・軽井沢風越学園にて子供たちのアウトプットを支援している有山裕美子先生とオンラインで開催された。

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平井聡一郎先生と語る、教室の今と近未来<7>軽井沢風越学園 有山裕美子先生…アイデアをアウトプットする図書館
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 学習指導要領の改訂とともに子供が1人1台の端末を持ち、ICTを活用した学びを実践するGIGAスクール構想の取組みが進められ、学校現場が大きく変わり始めている。今後はICTを用いたどんな授業が行われるようになるのだろうか。

 本企画では、小中学校教諭・校長・教育委員会指導主事として長年活躍し、今は教育ICTの環境構築と普及の先導者として全国をまわる平井聡一郎先生と、教育現場で奮闘する先生との対談から、変わりゆく教室の今と未来を見ていく。現場の先生から日々の取組みや授業に対する思いを聞き、今後の教室を展望するヒントを得たい。第7回目の対談は東京都の工学院大学附属中学校・高等学校で司書教諭として図書館に「ファブスペース」を作り、今は長野県の幼小中一貫校・軽井沢風越学園にて子供たちのアウトプットを支援している有山裕美子先生と、オンラインで開催された。

有山裕美子先生



 2020年4月に開校した自己主導・協同・探究の学びを展開する幼小中一貫校、軽井沢風越学園教諭。大学卒業後、公立小学校教諭、公立図書館非常勤職員を経て、前任である工学院大学附属中学校・高等学校へ。国語科・司書教諭として勤務し、学校図書館に生徒が自由にものづくりできる「ファブスペース」を設置。3Dプリンタなどのツールを備え、生徒のアイデアをアウトプットするデザイン思考の授業なども実施した。情報のインプットからアウトプットまでの総合的な学びのプロセスをサポートする情報センターとしての学校図書館の実践を切り拓いている。

図書館でアイデアをアウトプットする



平井先生:日本の学校の図書室は本置き場だったり、静かに本を読む勉強室になっていますよね。僕はそれが面白くなくて、海外の図書館のようにメディアステーションにしたいと思っているんです。その点、有山先生は他にはない取組みをしていて、注目していました。元々は図書館司書だったのですか。

有山先生:大学卒業後は公立小学校の教諭を5年間していました。出産、育休を経て退職し、通信教育で司書と司書教諭の免許を取得して、地元の公共図書館で非常勤職員として8年勤務しました。その後、工学院で中学・高校の図書館に司書として嘱託職員で採用されました。学校図書館にいると先生として教えたくなり、通信教育で高校教員の免許を取りまして、任用を司書教諭に変えていただきました。

平井先生:工学院ではどんな取組みをしてきましたか。

有山先生:最初は司書としての業務が中心で、授業等に関わることは少なかったのですが、教諭になってからは、図書館にあるものは図書だけではない、と電子書籍などさまざまなツールを拡充していきました。

 きっかけは図書教諭になったときに、デザイン思考という図書館を使った授業を受けもって、iPadで何ができるかを考えたことです。工学院はICT導入が早く7年前に1人1台のiPadを取り入れて、これを図書館でも活用できるように、授業の中で電子書籍や動画を作りました。図書館でできるアウトプットはレポートや論文作成だけではなく、形になるものがあっても面白いと思ったのです。グリーンバックを用意して撮影したり、別の用途で使っていた3Dプリンタを図書館に持ってくるなど、どんどん増えていきました。

 デザイン思考の授業では、アイデアを形にして、アウトプットする中で人の役に立つことを進めたり、発信していく取組みを進めていました。去年の授業が象徴的で、地元の八王子市役所とタイアップして、ふるさと納税を応援する動画をつくりました。八王子の産業を調べて、工場などを訪問してインタビューしたりしながら、それを宣伝・発信する動画をつくったのです。集めた素材から効果的に伝える3分間をどうやって作るか取捨選択し、著作権や肖像権も考慮しつつ、必要な情報をどう見せると心に響くかなどを試行錯誤し、テーマに沿ってアウトプットのプロセスを考えていく取組みをしていました。図書館は情報をインプットして取捨選択して、いちばん良いものを再構築し、アウトプットして振り返る場所だということを、授業の中でもやってきました。

平井先生:本当にさまざまなことをやられていますね。図書館は一般的にはインプットの場所ですが、有山先生はインプットしてアウトプットするまでをメディアルームとして支えるとお考えでしょうか。

有山先生:そのとおりです。学校図書館で子供たちがインプットして、アウトプットするまでのプロセスにすべて応えることができるのが理想ですね。それには司書だとやれることに限界があって、司書教諭になることで学習に結び付けていくことができると実感しました。

図書館と教科をつなげて授業をマネジメント



平井先生:司書は図書館のマネジメントだけど、司書教諭は、教科と図書館をマッチングして、プロデューサーとして新しいものを生み出す力があると思います。そういう存在が学校の中にいるのといないのとでは大きく違いますね。

有山先生:そう、プロデュースして、マネジメントして、自分自身も実践できるのです。もちろんすべてはできないけれど、子供たちのアウトプットの起爆剤になったり、こんなことができるというアプローチができたらと思います。

平井先生:有山先生の取組みで注目しているのはまさにその部分。日本の学校図書館は内向きなところが多いから、1歩踏み出して周りを巻き込んでいくようになってほしい。先生の取組みがロールモデルとして広まってくれたらと思います。

有山先生:ありがとうございます。今はさらにGIGAスクールになって、言うまでもないことですが、学校図書館は紙の本に固執している時代ではないと思っています。紙の本もすごく重要なのですが、ネットも含めたあらゆる情報を図書館でつかんだうえで、いろんなところに提供したりつなげたりできるようになれたらと思います。

 去年は休校になって、ますますそう感じましたね。図書館という場がなくなることでお手上げになってしまったら、情報センターとして機能しない。学校図書館の危機だと思うんです。

「困ったことがあれば図書館へ」にしたい



平井先生:マルチメディアの学校図書館になっていかないといけないと思います。ところで、アウトプットのツールがデジタルだけでなく、3Dプリンタなどリアルのものも導入していますよね。このきっかけは何でしょうか。

有山先生:多様なアウトプットの方法のひとつだと思っています。子供が表現したいときに技術がないから作れないのはよくないと思っていて、表現することを大事にしたい。そのためにも興味や関心を引き付けて、できあがったときの達成感や自信ももたせてあげたい。

 図書館は情報を調べることも、作ることもできるので、ここに来ればわからないことがわかる、問題が解決する、困ったら図書館へおいで、というようになれたらと。

 加えて、そうしたFabツールが特別な鍵のかかる部屋にあると使いにくいけど、図書館にあると使いやすいし、みんなの目に入るんですよ。図書館は誰でも入れて、鍵もかかってないし、必ず人がいる。

平井先生:人がいることが重要で、いつでも使い方などを聞くことができる。司書がいない単なる本部屋になっては意味がないと思います。そういう意味で日本の学校図書館は変わっていかなければならない。現在勤務している風越学園の図書館はどうですか。風越に入ったきっかけは何でしょうか。

なりたい自分を描けるようになる仕掛け作り



有山先生:風越は図書館の中に学校があるという構造になっていて、あらゆる場所で子供が本を読んでいます。一般的な学校図書館とはまったく違うと思います。

 風越に入ったきっかけは、元々小学校教員をしていたので初等教育に戻りたかったこと。風越は面白いことをやっているので自分もやりたいという思いと、すべての教科を教えられて、生活にも関わることのできる小学校教育に戻りたい気持ちがありました。図書館は元々すべての教科分野を網羅しているので、小学校だと私自身が直接関わって図書館の全分野を生かすことができて、マネジメントできるわけです。

平井先生:岩瀬先生も、教科と図書館を組み合わせて、授業をデザインする図書館のスペシャリストとしての有山先生に期待しているんだと思います。風越でやっていきたいことは何ですか。

有山先生:4月から風越に来て、今は学園を見ながら、自分ができることを考えているところですね。子供がなりたい自分を描けるようになるしかけは何だろうと思っていて、その種をたくさんまいていきたい

 今は担任をもっていませんが、異年齢集団の中の小学3~4年生のラーニンググループを担当していて、土台の学びとなるテーマプロジェクトを受けもっています。そこでは子供たちがテーマごとに取り組んでいるので、学びの地図としてプロセスを考えて作っていきたいです。「風越では、どんな子どもにも幸せな子ども時代を過ごしてほしい、そしてその遊びが学びへとつながっていくという人間の自然な育ちを大切にした学校を作りたい」(「子ども」表記は原文ママ)、という思いがその教育の根本にあります。私もまたその思いを大切にしながら、子供たちの学びをサポートしていきたいです。地域との連携はすでにやっていますが、今後もやっていきたいです。

アンテナを高くもって面白いことを探す



平井先生:風越でほかの先生に広めていきたいことはありますか。

有山先生:工学院では1人でやることが多かったのですが、風越では全体を巻き込んでできる予感がしています。いろんな人がいるのをうまくつないでいく中で、なりたい自分になれるような仕掛けをして、面白いことができるのではないかと思っています。

 国語科のスタッフみんなで電子書籍づくりも始めたんですよ。1人でやる大切さと、仲間とやる豊かさを行き来したいです。

平井先生:みんなでやったほうがわくわくするし楽しいですね。公立校も頑張らないとだめですね。今は私学がモデルを示して公教育を刺激してくれているけど、お互いに刺激を与える関係にならないと日本の教育自体が停滞してしまう。ではこれから取り組む先生方にアドバイスをお願いします。

有山先生:まずは自分が楽しむ気持ちがあると良いですね。子供と一緒に楽しむ、面白がる気持ちが大事。アンテナを高くして、面白いことを探してほしい。研修に積極的に出て、いろんな人とつながっていくことが大事だと思います。

平井先生:教員に必要なファクターのひとつが好奇心ですね。これが面白そうというものをやっていくためにアンテナを高く、外に何かを求めていくことが必要で、これからの先生にとって大事になってくると思います。有山先生の今後のご活躍に期待しています。

GIGAスクール時代の子供たちにワクワクする図書館を



 学校図書館の新しいあり方を自ら切り開いてきた有山先生。学校図書館にファブスペースを設けて、多様なアウトプットもできる場所を提供し、子供の表現を引き出してきた。GIGAスクールが導入され、紙の本置き場でしかない図書館はあり方を問われる時代だが、有山先生が提供している、子供のやりたいことをかなえてくれる、夢を描くフォローをしてくれる学校図書館は新たな形としてひとつのモデルになっている。GIGAスクール時代の子供たちにも、そういったワクワクする場所である図書館を提供していきたい。

平井聡一郎(ひらいそういちろう)
 情報通信総合研究所 特別研究員。元・教育委員会 指導主事。小学校、中学校の教諭、管理職22年間と指導主事11年間の経験を経て、2017年より現職。古河市教育委員会で3年間にわたり、全国初のセルラーモデルiPad導入、クラウド活用、エバンジェリスト制度というリーダー教員育成システムなど、先導的な教育 ICT 環境構築に取り組んでいる。
《羽田美里》

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