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平井聡一郎先生と語る、教室の今と近未来<10>Canva認定教育アンバサダー 清水智先生…表現広げるアプリで自由な学びを

 本企画では、教育ICTの環境構築と普及の先導者として全国をまわる平井聡一郎先生と、教育現場で奮闘する先生との対談から、変わりゆく教室の今と未来を見ていく。第10回目の対談は、ICT活用による自由な学びをサポートする清水智先生と、オンラインで行われた。

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平井聡一郎先生と語る、教室の今と近未来<10>Canva認定教育アンバサダー 清水智先生…表現広げるアプリで自由な学びを
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 コロナ禍をきっかけとしたGIGAスクール構想の急ピッチな推進により、ほぼ全国の小中学校に1人1台の端末が整備されて一巡した。各校ではそれぞれのやり方で端末が活用されるようになっているものの、事業者が提供するアプリを利用するに留まっていたり、教員が一方的に教えるやり方に留まるケースも少なくない。どのようにICTを活用すれば文部科学省が目指す「子供の主体的・対話的で深い学びの実現」が実践できるのだろうか。

 本企画では、小中学校教諭・校長・教育委員会指導主事として長年活躍し、今は教育ICTの環境構築と普及の先導者として全国をまわる平井聡一郎先生と、教育現場で奮闘する先生との対談から、変わりゆく教室の今と未来を見ていく。現場の先生から日々の取組みや教育に対する思いを聞き、今後の教室を展望するヒントを得たい。第10回目の今回は、東京都公立小学校教諭を経て長野県白馬村に移住し、TeacherCanvassador(Canva認定教育アンバサダー)および教育ICTアドバイザーとしてICT活用による自由な学びをサポートする清水智先生と、オンライン対談が行われた。

清水智先生

 Canva認定教育アンバサダー。元東京都公立小学校主幹教諭。多摩地域と小笠原諸島父島の小学校で勤務。主幹教諭として学校DX化やユネスコスクールとしてのESDを推進。小笠原という知名度を生かし衛星回線やSkypeなどで遠隔授業などに取り組む。その後、長野県へ移住し一般社団法人エンターキーの教育ICTアドバイザーとして長野県池田町を中心に活動。白馬村の小学校で高学年理科専科も行っている。

初任の日野市にて教員キャリアの3本柱を構築

平井先生:清水先生はもともと東京都日野市で教員をされていたのですよね。

清水先生:出身が日野市で、出身校である小学校で学生ボランティアを務め、そのまま教育実習、初任校採用とずっとお世話になり、教諭としては同校で8年間勤めました。日野市はICT活用が盛んで、ICT活用教育推進室が設置されたのが私の初任の年。それから日野市はICTと授業ユニバーサルデザインの両軸で推進していくことになり、初任から8年目まで、さまざまな体験を通して鍛えていただきました。

平井先生:教員スタート時にどういう環境にいたかというのはその後への影響が非常に大きいと思います。日野市でのご経験の影響を教えてください。また、具体的にどんなICT活用の授業を行いましたか。

清水先生:日野市で教育ICTに出会って、私の中で教員として「教育ICTと授業ユニバーサルデザイン、理科教育」のキャリアの3本柱ができました。また、理科教育では研究も行っていて、全国小学校理科教育研究会での発表など、日野市での若手教員時代に、いろいろなタイミングで理科とICTを組み合わせる機会をいただけたのもありがたかったですね。

 授業については、当時はまだWi-Fi環境が整っていませんでしたがパソコン室の整備はだいぶ進んでいたので、パソコン室を非常に良く利用していました。いわゆるタイピングと、ジャストスマイルの学習ソフトを使い倒した1~2年目でした。当時はICT支援室にICTサポートの方がいらして、リクエストすれば授業支援に来てくださったので、自分が失敗してもどうにかしてくれる方がいるという安心感がありました。

小笠原ではESDの推進を通してPBLの授業を展開

平井先生:そうした環境で、ジャストスマイルを活用して自分の考えをまとめて発表するようなアウトプットの授業も行っていたのですね。それらの経験をもって、次の小笠原へ行かれたと。小笠原ではどのようなことをされていたのでしょうか。

清水先生:日野市での経験を携えてまっさらな小笠原に行って、そこでゼロから作る面白さを経験しました。具体的にはESD(Education for Sustainable Development;持続可能な開発のための教育)をメインとした5年間を過ごし、主幹教諭として学校DX化やユネスコスクールとしてのESD推進に取り組みました。小笠原諸島は世界自然遺産の中に学校があるので、そこかしこに珍しい自然環境があり、学校の外に教材がたくさんあるような地域なんです。それを「総合」や「生活科」、最近だと「STEAM」の授業のような、教科を超えて横串でつなげるような指導計画を1・2年目で立て、初期段階だったICTネットワーク環境を3年目くらいから整えていきました。

 子供たちが使うICTについては整備されていませんでしたが、教員が使うネットワーク回線や機器などは整っていたので、ICTを使う授業はやりやすかったですね。ICTで問題を提示したり、小笠原という知名度を生かして各地域と衛星回線やSkypeなどでつないで遠隔授業をしたり。

平井先生:小笠原では子供たちのアウトプットはいかがでしたか。

清水先生:小笠原では紙ベースが多かったです。ただ、当時はちょうど思考ツールが流行り始めたころだったので、模造紙を何枚も使って思考ツールを書き比べて、自分たちの使いやすいツールを使って発表するようなことをしていました。教科の壁をできるだけ作らないようにしたいと思っていましたので。

平井先生:ICTを使うことは少なくても探究的な学びになることを目指して取り組まれていて、自然にPBLになっていたということですね。そうして積み重ねていった学びのアウトプットが今のCanva認定教育アンバサダーの活動にもつながっている。長野県にいらしたのはどういう経緯だったのですか。

清水先生:友人が多く、環境も良い白馬に住むのは昔からの夢でした。最初は教育業界で働くつもりはなかったものの、地元貢献のつもりで白馬村の隣にあります小谷村の小谷小学校に1年間赴いたら非常に素晴らしい環境でした。ICTインフラが抜群に整っていて、建物もイエナプランが実践できそうなオープンスペースの良い校舎で。常勤講師だったのでキャリアアップも気にせず、やりたいことをやりたいようにできる環境が整っていました。小笠原の続きができたという意味で非常に良い時間でした。

長野県でゼロベースからGIGAスクール構想をコンサル

平井先生:その講師経験を経て、今は一般社団法人エンターキーで長野県池田町を中心にICT教育アドバイザーをされているとのことですが、どういった活動をされているのですか。

清水先生:上司である濱田康が立ち上げた一般社団法人で、県内の教育委員会様のICTコンサルティング事業を請け負っています。濱田がネットワークの専門家で、私が教育現場を担当して授業もできるので、自治体のGIGAスクール構想を端末の選定からネットワークの構築、授業プランや指導案の作成まで丸ごと請け負って、本当にゼロベースから一緒に作るようなことをやっています。

平井先生:GIGAスクールのサポートセンターのような機能を有しているわけですね。ネットワーク専門家と教育に強い人が一緒にやってくれるというのは素晴らしいことですね。それと同時に小学校の非常勤講師もされているとか。

清水先生:現場の感覚を忘れないためにも年間の非常勤講師として、今年は白馬の小学校で5・6年生の理科専科を受けもっています。学校にはChromebookが整備されているので、ノートを使わずフルクラウドですべてGoogle Classroomで完結するようにやっています。

 授業内容もPBLにしていきたいのですが、そこは理科専科の苦しいところで、PBLをやるには国語や算数とうまく絡んでいかないと授業時間数として足りない。1日1コマしかない理科だと単元まるごとPBLにするのはまだ難しい印象です。総合をベースに教科教育を外付けするといった設計改善が必要になります。

 そうした周囲との連携やPBLを広めていくことについて、周りへの伝え方を模索しています。ほかの先生に私は「ICT系の人」だと思われがちなのですが、実際は理科の本質の部分を大事にしていて、観察・実験がメインだと思っています。このことをどう周りの先生にも伝えていくか。実際に授業を見に来てもらって、話したり、対話したりしないと伝わらないというのが1学期を終えて思ったところです。

子供の動画づくりと口コミで広がったCanva

平井先生:Canva認定教育アンバサダーとしてはどういったことをしているのですか。

清水先生:長野県内外でのCanva for Education(以下、C4E) の導入相談から、実際の授業での運用や授業づくりを伴走しています。

 Canvaを利用し始めて2年半になります。もとはと言えば個人で利用していて便利だと思っていたところ、Canva Japanから教育利用できる自治体の募集があり、ちょうど学校現場からも「動画編集がしたい」「縦書きがしたい」「著作権をクリアした画像や素材を使いたい」といった要望が出ていて、すべてを実現させてくれるのがCanvaでした。教育長に直談判して、自治体として最初に手をあげて、池田町に日本で初めてC4Eを本格導入することとなり、約3か月で実装になりました。

 もともと導入していたGWS(Google Workspace)でも縦書きができないことはないのですが、C4Eを使っていただいた先生方の反応がものすごく良かったんですね。今の使い方としては、私はCanvaのデータをそのまま使うことはあまりなくて、Canvaで作ったデータをGoogle スライドの背景画像として挿入して、そこに子供たちが班の考えを書いていくとか、ワークシート代わりに使ったりとか、そうした使い方が多くなりました。CanvaはUIの良さとか、使える素材の豊富さとか、教科書体フォントが入っているとか、そうしたかゆいところに手が届くツールとして非常に使いやすく、CanvaとGWSを両輪で使うような感じになっています。

平井先生:それはいちばん自然な使い方ですね。GWSはビジネスツールだから、遊び心やワクワク感がない。CanvaはUIが簡単でクリエイティブな作業に向くけれど、コミュニケーションツールとしては弱い。そこでGoogleのネットワークの強さと、Canvaのクリエイティブなアプリとしての強さを生かし、お互いの弱いところを補う形で使っているんですね。Canvaはどうやって周りに広げたのですか。

清水先生:池田町では先生方ではなく、子供たちが主導で広まっていきました。中学校の卒業生を送る会で中学1・2年生の生徒会の子たちがCanvaを活用した動画編集にハマって、先生方にも「これは中学生でも使いやすい」と広まった。その噂を聞きつけた小学6年生が自分たちのクラスムービーを作りあげまして、「Canvaの動画はいける」と子供同士に広がっていった。Canvaが池田町の子供たちに広がったのは、動画編集がきっかけだったのです。

平井先生:それは面白いですね。先生主導だと作りやすいポスター作りから始まるのだけど、子供主導で広まったから子供自身に馴染みのある動画から始まったのですね。そして、中学校から小学校に下りてきたというのも珍しいケース。中学校の先生方は受験や部活が忙しくて、目先の勉強にあせってしまい、肝心の学びに行かないことが多い。だから、ゆとりのある小学校でICTの学びを深めて、ICTが使える子たちが中学校に進学して、そこで子供たちが勝手にやり始めるというパターンが一般的なんです。

清水先生:池田町は中学校の先生方も使いこなしてますし、生徒会の生徒たちも勝手にいろいろやり取りをしていますね。今の中学3年生なんかは中学1年生のときからずっとCanvaを使ってきたのでネイティブ世代として、本当に自由に使っています。

平井先生:そうやってそれぞれの授業で使ったことをもとにして、特別活動でバンバンと生かしていくのが自然な姿じゃないですか。日常的に使うことが大事なのであって、普段から自分の考えをどうやってまとめて出すかというところだと思いますね。そういうアウトプットをいかに自然にするかという点で、Canvaは大きな影響力をもつと思います。

 実は全国のGIGAスクールの取組みで、ほとんどの学校がアプリでやっていることをまとめて発表するくらいで止まってしまっている。その次のステップが子供同士のやり取りなんですよね。先生と子供たちのやりとりという「縦の学びのライン」から、子供たち同士がやりとりする「横の学びのライン」に変わらないと、生徒が先生に学びをゆだねる構図が変わらない。だから、ICT活用で子供同士のやり取りまで行くとひとつの壁を越えたことになると思います。池田町はすでに子供同士の学びになっているのが素晴らしいですね。

AIは使うのが前提、教師の評価スキルが問われるように

平井先生:それともうひとつ、AIについて。CanvaもAIによる生成ができますよね。その辺りはどう考えますか。

清水先生:Canvaに関しては、規約として「13歳未満はCanvaはAIの利用を想定しない」となっています。ただ、Canvaがそう言ってはいるのですが、実際には使えるというところで困っています。ユーザーである児童生徒の向き合い方はまだ模索中で、先生方にはどんどん使ってみることを推奨しているところですね。ただ、先日CanvaのAIがアップデートされて、差別的とか暴力的といった表現がある場合は遮断されるシステムができあがっていました。そういう意味ではアプリのほうもfor Educationに寄ってくるのではという印象はありますね。

平井先生:やはり基盤となる文章を書く力などが身に付いていないとNGという判断で、小学生は使わない。中学生以上も、AIが出力したものをそのまま提出しない。AIを活用して作成したものはAI使用を明記する。それは必須になるのではと思います。

 文部科学省が通知した「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の作成に私も関わりましたが、生成AIの動きが早すぎて、制度や法律、教科書、学習指導要領も追いついていないんですね。だったらまずはガイドラインを出そう、でもしょっちゅう変わるということは明記しておこうと。ただ、方向性は「使うのは前提」です。使うのは前提だけど、大きな失敗はしないように、ようすを見ながら少しずつ進もうというもの。

 そして、これから重要になるのが先生側の評価のスキルですね。AIが勝手にきれいなものを作ってしまうので、きちんと教科のねらいに即して生徒の作品を評価しなければならない。作品が何を伝えようとしているのかをくみ取らないといけないので、こちらの力が問われるようになりますね。

 そうしたいろいろな課題はあるものの、大きな可能性をもったCanvaでこれからどのように授業を変えていきたいと思いますか。

清水先生:地域や子供が抱えている「学びに届いてない」「学びが苦手」といった課題に対して、Canvaが応援団のひとつになれたら良いと思っています。学びの場へのサポートというか、学びたい子はどんどんCanvaを使えば良いし、学びにくい子も「Canvaでもどう」というようなアプローチができるかなと思っています。学びが楽しい、学ぶ楽しさを味わわせてくれるスイッチになればと。Canva の中であれば比較的安心して「自律的な学び」ツールとしての活用が可能であり、主体的・対話的で深い学びが実現するためのひとつのツールだと感じていますので、ぜひ期待してほしいと思います。

平井先生:子供たちが自由な学びを獲得するためのツールなのですね。教諭という立場でなくても、これから地方の教育を変えていくという点で清水先生の取組みがどんどん広がっていくことを期待しています。これからも頑張ってください。

自由に使える道具と好きに使える環境を子供に届ける

 子供たちが思いを自由に表現できる道具と、それを好きに使える環境を手にしたときのエネルギーと爆発力は凄まじい。清水先生のお話からは、Canvaを手にした池田町の子供たちのハマり具合やイキイキとした表情が目に浮かぶようであった。そして、その魅力が瞬く間に子供同士で広がり、大人も巻き込み、新しいうねりとなって学びを変えている池田町の取組みは、おおいに参考になるだろう。清水先生の地域の学びをICTで活性化していく活動に今後も期待したい。

平井聡一郎

合同会社未来教育デザイン代表社員。元・教育委員会 指導主事。小学校、中学校の教諭、管理職22年間と指導主事11年間の経験を経て、2017年より現職。古河市教育委員会で3年間にわたり、全国初のセルラーモデルiPad導入、クラウド活用、エバンジェリスト制度というリーダー教員育成システム等、先導的な教育 ICT 環境構築に取り組んでいる。
《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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