教育業界ニュース

平井聡一郎先生・後藤健夫氏対談…大学入試改革からのメッセージとは?変化する教室での学び<後編>

 大学入試改革と今後の学びの在り方について、2回にわたり深掘りしていく対談企画の後編。前編では「探究型学習」が共通テストで高得点をとる鍵だ、と話が展開された。後編ではこれからの大学のありかた、そして高校での学び、先生や保護者ができることについてお届けする。

教育行政 文部科学省
平井聡一郎先生・後藤健夫氏対談…大学入試改革からのメッセージとは?変化する教室での学び<後編>
  • 平井聡一郎先生・後藤健夫氏対談…大学入試改革からのメッセージとは?変化する教室での学び<後編>
  • 平井聡一郎先生・後藤健夫氏対談…大学入試改革からのメッセージとは?変化する教室での学び<後編>
  • 平井聡一郎先生・後藤健夫氏対談…大学入試改革からのメッセージとは?変化する教室での学び<後編>
  • 平井聡一郎先生・後藤健夫氏対談…大学入試改革からのメッセージとは?変化する教室での学び<後編>
 1人1台の端末をもつGIGAスクール構想や新しい学習指導要領の実施、大学入試センター試験から大学入学共通テストへの入試改革などにより、学校現場が変わり始め、日本の学校教育は大きな転換期を迎えている。新しい学習指導要領は、小学校は2020年度、中学校は2021年度、高校は2022年度から実施され、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の実現を通して知識および技能に加え、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力・人間力等をバランスよく育むとしている。

 そこで重視されているのが物事の本質を自ら探り、見極めようとする知の営み、探究型学習だ。今年初めて実施された大学入学共通テストでは探究的な要素が加わり、問題の傾向が大きく変わった。

 本企画では、小中学校教諭・校長・教育委員会指導主事として長年活躍し、今は教育ICTの環境構築と普及の先導者として全国をまわっている平井聡一郎先生と、教育行政委員や大学コンサルなどを幅広く務め、教育業界で影響力を増す教育ジャーナリスト&アクティビストの後藤健夫氏との対談から、大学入試改革と今後の学びの在り方について2回にわたり見ていく。後編は大学入試改革を踏まえて、今後の高校・大学における教育の方向性と探究的な学びを実現するための対応などを探った。

▶▶前編はこちらから

質の高い教育のオンライン化で大学偏在を均す



参考資料2-4 大学入学者選抜関連基礎資料集 第4分冊(制度概要及びデータ集関係)(その1)p.14


平井先生:大学入試改革が行われ、少子化が進む中で、これからは大学そのものの質が問われる時期に入ってきます。大学が今の数を維持していくのは難しいでしょう。

後藤氏:いま大学の入学者は63万人ですが、今年の出生者数を約80万人とすると、進学率8割でないとこの入学者数には届かない計算となります。進学率8割は高等教育としてはあり得ないですね。そうなると今の大学入学定員を維持できない。一方で、大学は偏在していて首都圏に多くある。県によっては国立大学しかない県もあり、家から通えるところに大学がない人がたくさんいるんですね。その偏在化をどうにかしないといけない。

平井先生:それについては、これからオンラインで対応できるようになると思います。米国のミネルヴァ大学(※)に代表されるように、レベルが高くてもオンラインでやっていけるという変化の兆しが出てきました。スマホ1台でどこでも学びの場になってしまうというすごい時代になりましたね。
※ミネルヴァ大学:世界最難関とされるアメリカのオンライン・全寮制大学。2014年創立。キャンパスを持たず、4年間で世界7都市を移動しながら学ぶ。

後藤氏:日本の大学もどんどんその方向に変わっていかないといけないと思います。ただ、デジタルから抜け落ちるリアルもあるので、それはなんなのかを見定めて、きちっとフォローできるようにすればいい。デジタルに頼り過ぎず、限界を見極めないといけないんですね。

平井先生:ハイブリッドな形もあると思うんです。学校でなければできない学びも、家でもどこでもできるものもある。これからは家庭と学校の学びを立体的に構成できるような授業デザインを創っていくことが必要ですね。

大学の個性化



参考資料2-4 大学入学者選抜関連基礎資料集 第4分冊(制度概要及びデータ集関係)(その1)p.15


平井先生:ところで、大学入試では共通テストで学力を担保して、2次試験は各校が独自問題で個性化していくとなると、大学の目指すものが2次試験に反映されていくのではないでしょうか。

後藤氏:それがまさしく大学の3つのポリシーなんですよ。3つのポリシーは、どういった人を養成するのかというディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)と、そういう人を養成するためのカリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)、そして、そのカリキュラムに対応するような入学者を獲得するアドミッション・ポリシー(入学者受入れの方針)。あくまで学位を与える基準となるディプロマが先にあって、それに基づいたカリキュラムがある。そのカリキュラムに対応できる人間を入学者として受け入れるわけですね。

平井先生:順番が逆になってはダメですね。これは企業も同じだと思います。こういうものを目指しているから、これができる人間がほしいんだという、目指すものがあってこそ受け入れる人間があるわけで、大学のほうもそれをしっかり示していくことが大事ですね。でも実際にはそれを示せる大学と示せない大学があるじゃないですか。ここがこれからの大学の分かれ道になるんじゃないかと。

後藤氏:そうですね。それともうひとつ、大学に対する社会の期待ですよね。社会の期待によって、ディプロマが決まるわけですよ。ディプロマ・ポリシーってすべての学校が同じである必要はなくて、それぞれの大学が個性化してそれぞれの人材を輩出すれば良いんです。それを各校がきちんと定められるかというところなんですが、難しい大学も多いのが現状です。

大学はリベラルアーツで社会変化への対応力を養う



平井先生:教育に対する社会の期待の面でいうと、デジタル化の浸透により、世の中の仕事のうち考えずに繰り返しやる仕事が消えて、自分で考えるクリエイティブな仕事が残るとなったら、学校教育はそれに対応できないとなりませんね。

後藤氏:これは難しい問題なんだけど、今回の学習指導要領は2030年までは見通しているわけですね。しかし、次の学習指導要領ではこれだけデジタル化が進んでいる中、2040年まで見通すのは無理でしょう。

平井先生:今や10年ひと昔ではなくふた昔。僕もこの先ICTがどうなるのかと聞かれても、5年先はおろか、1年先、半年先すらもわからないです。

後藤氏:そういう世の中で、これだけの数の大学が対応できるかどうか。さらに教員はスーパーマンじゃない。大学の対応力が求められているんです。簡単にいえば、大学ではやはりリベラルアーツ(※)を進めて広く学ぶべきです。野球の内野手は守備のとき腰を下に落として球がどこにとんできても対応できる状態にあるでしょう、そういうスタンスを求められているんですよ。
※リベラルアーツ:文科省によると、「専門職業教育としての技術の習得とは異なり、思考力・判断力のための一般的知識の提供や知的能力を発展させることを目標にする教育を指すもの」とされている。

平井先生:世の中の変化が速くて、仕事もどうなるかもわからないけど、どこに行っても良いようなベースの部分を作る、となるとリベラルアーツになる、と。

後藤氏:そうなんです。野球の内野手のような状態を保って、右の球でも左の球でもどこにでも取りに行けるように、その重心の取り方が重要なんですよ。自分にとっての重心の置き方の得意な方向性を探っていくのがこれからの学び方であり、探究であるとも思います。

平井先生:片側に寄ってしまうと、抜かれてしまうからね。そうなると、これからは文系理系関係なくどこへでも行けるように広くやっておかないとならないですね。

後藤氏:重要なのは、大学がリベラルアーツに変われるかどうかです。元来大学の学士課程で学ぶことはそのようにあるべきだと思います。医学など一部の専門性が高い分野を除けば、法学や工学をテーマとして「学び方を学ぶ」ことを目指せばいいんです。その過程でテーマ固有の概念を理解していくのです。

 それともうひとつ、さきほども話に出たリモート学習ですね。単なる知識の伝達はビデオ動画で済ませて授業ではもっと議論をするべきですね。さらにデジタルをうまく使って、その大学にない講座でもどんどん取りに行き、幅広く学べるようにする。そうなったときに、大学そのものの価値って何なのかとなるんですよ。僕は最終的には大学という価値はなくなると思っている。それよりも大学の研究室の価値になるんじゃないかと。

平井先生:本来はそこじゃないですか。大学に行くんじゃなくて、これがやりたいからここの研究室に行くんだ、というのが本来の姿だと思います。

後藤氏:<前編>で述べたように、学生がそれまで学んできた過程を審査して、「こういうのをやってきたから、面白いからお前はこの研究室に来い」という研究室選抜みたいなものがあるのが理想だと思っています。

平井先生:そこでちゃんと学生に来てもらえるような大学にしなければならない、ということですよね。

後藤氏:そう。この先、履修状況はブロックチェーンでデジタルバッチが発行されてそれで管理できます。それらを考慮した上で研究室への入室審査をする。研究室によって序列ができて、それによって難易度ができ、研究室自体もしのぎを削るわけですよ。

高校は広く学ぶ普通教育で探究を進める



平井先生:そうなると、高校自体の学びはどう変わっていくべきなのでしょうか。

後藤氏:普通教育なんです。普通の意味は「普く(あまねく)・通じる」という意味、つまり「普遍に通用する」ということ。高校の教育って普遍であり、まさにリベラルアーツなんです。

平井先生:高校もリベラルアーツで質が問われるわけだ。従来の受験用の文理分けは意味がないですね。そこはやっぱり教員たちの意識も授業そのものも変わっていかないといけないですね。

後藤氏:授業はどんどん探究学習になるべきですよね。教科を探究的に進めていって、その経験をもって、教科越境的に総合的な探究の時間をやれば良い。
▷高校における探究型学習とは

平井先生:そうですよね。先生は普通の教科は教えるものだと思いこんでいるので、いっぺんひっくり返さないとならない。今までの知識伝達型や固定概念からの脱却が必要ですね。

後藤氏:先生はすべてを知っていないといけない、すべてを教えてあげるんだという概念から一度離れてみることをお勧めします。探究への転換がまさにその形で、以前経産省の実証事業で大人のPBL(Project Based Learning、課題解決型学習)をやったとき、醸造メーカーの課題解決がテーマで、お酒をどう売るかがイシューだったんです。受講者が酒好きで酒のことを深く調べていて、僕は酒について非常に詳しくなった。僕は何も知らなくても、やっているうちに知るようになる。これが、これからの教員の立場です。教員は生徒が探究的になるようにアシストができれば良いんですよ。

文部科学省【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説p.20


「生きる」=「探究」



平井先生:生きていくって探究だと思います。僕らも死ぬまでそうじゃないですか。社会全体がどんどん変化していくんだから、それに対応して探究して、自分をリニューアルしていくのが人生100年時代に絶対必要になる。

後藤氏:わからなかったことや深く知りたかったことを、探究してわかるようになる。問いが生まれて、その解が見つかってもさらにそこから問いが生まれる、という経験を何度もする。その練習を小学校からして、楽しいなと感じるのが大事。そこから全部始まるんです、学ぶということは。

 さらに言えば、経験や具体的な事象を抽象化して他の経験や事象に転用したり、仮説検証を繰り返すことで論理的思考や批判的思考、メタ認知の能力を高めたりするような学習の習慣が身につくといいですね。抽象化と仮説検証がうまくできるようになると、自分の判断や意見に自信を持つことができます。そうした上で対話ができると、より良い課題解決ができるようになるでしょう。これからは素早く情報処理をして試験で高得点を取ることよりも、未知の課題を設定し解決ができることが、「優秀」であることに置き換わります。

平井先生:今回は大学入試をテーマにしているけど、そのベースになる部分は小中学校からずっと積み重なっていますね。探究でわかることを全部先生が与えてしまうような知識伝達の授業ではもう学びはない。スキルを伸ばす部分はAIドリルなどがやってくれるので、学校の教室での学びは何か、というのを本気で考える時代になったと思います。

後藤氏:今は、調べる手立てはいくらでもあるんです。こんなに情報が溢れた豊かな時代はないですよ。

平井先生:スマホ・ネットがあれば何でも調べられる。これこそ平等じゃないですか。これを1人1人が生かすかですよね。

後藤氏:そう、それを変なところに閉じ込めないということです。

平井先生:僕は「まず使う、とにかく使う、いつでも使う、どこでも使う、自由に使う」と言っていますが、これをやっていかないとダメ。自由に使う環境を整えてあげれば、子供たちは自然に学びを求めていくんじゃないかと思います。

生徒は自分で考え、先生はアシストを、保護者は固定概念を捨てる



平井先生:生徒へのメッセージとしては、ぜひ進路やキャリアを自分で考えてほしい。高校生には常々、自分の人生を人に委ねるんじゃないと言っているんです。親の意見や学校側の進路指導なんて気にせずに自分で考えろと。

後藤氏:そう、それができるかどうかが自立した学習者で、自己学習調整能力なんです。大学の見方というのはたくさんあって、たとえばさまざまな軸で大学を評価した「大学ランキング」(朝日新聞出版社)などが参考になります。あれをとことん見てみると、大学の見方が変わって、大学を多面的に見ることができる。受験生も大学を多面的・総合的に評価するべきなんです。大学に何を期待できるのか考えながら、自分がどの軸で大学を見るか、という視点を養うことが大事です。

 高校の先生については、生徒の進路指導において、生徒の話をとことん聞いてあげて、大学に何を期待するのかまでおろしていく。それを踏まえて選択肢を増やしてあげるのが高校の進路指導の役割です。

平井先生:とことん聞くことによって、生徒がどんどん考えるようになる。生徒が調べてくれるので先生は何も知らなくて良い。探究の学びそのものですね。

高校の先生は大学入試から解放されたほうが良い。それよりも生徒が探究的になることが重要で、探究的になれば共通テストや推薦入試などにも有利になり、生徒は勝手に学ぶので先生も楽になると思います。

 保護者については、従来の知識伝達型学習から脱却して、見方を変えないといけない。もっと社会の変化に対して敏感になってほしいです。今までの価値観でいろんなことを選択していたらまずい。

後藤氏:これは若者の未来を共有できているかどうかの問題で、今学んでいる若者が社会に出たときにどういう状態であったら良いか。高校までの教育はそのためにあると思います。だからこそ、高校では教科「情報」が重要になり、誰もがプログラミングの知識を修得しておく必要があるんです。保護者や先生方は、若者の未来を共有して、支援してあげてほしいと思います。

子供も、大人も探究しながら人生を歩む



 大学入試改革は教育改革であると語られた対談。大学入試の共通テストが探究型問題に変わることにより、高校の学びもそれに呼応して探究が進められるようになる。それはいみじくも、従来の知識伝達型授業を脱却し、先生はすべてを知りすべてを教える責務から解放されることになる。変化が大きい社会で未来を予測することは難しく、大事なのは何が来ても対応できるように大学でも高校でも広く教養を身に付けることだと強調された。保護者においては知識伝達型学習の固定概念を捨てて、子供が自ら調べて学びを深め、進路を決めていく探究を見守るとともに、保護者自身も変化する社会を見定め対応する、自身の探究を楽しんでも良いかもしれない。

後藤健夫氏


教育ジャーナリスト&アクティビスト。大手予備校の河合塾勤務を経て、大学コンサルタントとして独立。大学のAO入試の開発、入試分析・設計、情報センター設立等に関与したほか、塾・高校の進学アドバイザーや教育支援産業顧問、教育行政委員など幅広く務める。早稲田大学法科大学院設立に参加。教育機関や自治体などでの講演および、メディア執筆も多数。


前編「大学入試は公平から”不公平感なく公正な選抜へ”」

高校における探究型学習とは


 2018年に告示された高校の新学習指導要領では「生涯にわたって探究を深める未来の創り手として送り出していくことがこれまで以上に求められるため、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善が必要」とし、「探究」がキーワードとなっている。
 古典探究・地理探究・日本史探究・世界史探究・理数探究基礎・理数探究の7つの探究科目が設置されるほか、従来の「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に改めるとしている。「総合的な探究の時間」は2022年度より全国の高等学校で新設される予定だ。
文章へ戻る
《羽田美里》

この記事はいかがでしたか?

  • いいね
  • 大好き
  • 驚いた
  • つまらない
  • かなしい

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top