日本学術会議は2026年9月4日、見解「初等中等教育における算数・数学教育の改善について」を公表した。次期学習指導要領を見据え、数学的素養の向上やデジタル技術の活用、統計、STEM教育など、算数・数学教育の改善に向けた考え方を示している。
見解では、TIMSS2023などの国際調査で日本の児童生徒の算数・数学の成績は世界トップレベルにある一方、理数系科目を得意とする割合は減少傾向にあると指摘。学校段階が上がるにつれて、数学を実生活に活用したり、自分の考えを説明したりする学習が限られ、「公式や解法の暗記、計算手続きの習熟」が中心になりがちな現状に課題を示している。
計算技能の習得に偏った学習については、数学を使って現実の問題を捉え、考察する学びへの転換が必要だとした。デジタル技術の進展を踏まえ、電卓や表計算ソフト、数学アプリなども、計算を代行する道具ではなく、数量関係を探索し、予想や検証を行うための「思考ツール」として授業に位置付けることを求めている。
また、授業で電卓やデジタルツールの利用を促しながら、テストでは使用を認めないといった矛盾を解消する必要があると指摘。全国学力・学習状況調査や定期考査でも、目的に応じて電卓やアプリなどの使用を認める問題を導入し、思考力・判断力を適切に評価できる環境への転換を促した。さらに、アルゴリズムの考え方を重視し、情報科やプログラミング教育と連携して「計算論的思考」を育成することも提案している。
特に高校数学については、文系進学者もデータ社会を生きるための数学的素養を身に付ける必要があるとして、履修のあり方を見直すべきとした。「数学II」に加え、「場合の数と確率」「数列」「行列」「統計的推測」などの学習機会を確保することが望ましいとしている。
また、現在検討されている「数学ガイダンス(仮)」や「社会を読み解く数学(仮)」の趣旨を評価し、これを実現するため「数学I」の標準単位数を現行の3単位から4単位へ変更することを提案。高校1年次には、新たな選択科目の「場合の数と確率」1単位を含め、計5単位分の数学を履修できる機会を維持することを求めた。
統計教育については、「問題―計画―データ―分析―結論」という統計的探究のプロセスを重視し、他教科や「総合的な探究の時間」などとの連携を進める必要があると指摘。具体的には、「オッズの概念と計算方法」「ランダム割付け」「単回帰分析」などの導入や、ヒストグラムの指導における「度数密度」の導入を提案している。
STEM/STEAM教育では、数学を単なる計算の道具ではなく、現実の課題を捉えて構造化し、解決に向かうための「思考の基盤」として位置付けることが重要とした。文理の区分を越え、データサイエンスなどを活用しながら、他者と協働して課題解決や社会的な合意形成を行う学びを推進するよう求めている。
さらに、多様性のある算数・数学教育の実現に向け、ジェンダー・ダイバーシティの視点を重視。理数分野への進学をめぐる社会的・文化的なバイアスや、保護者・教員の進路観、女性教員などのロールモデル不足が、女子の理工系進学に影響する可能性を指摘し、教職課程や教員研修でのジェンダー・ダイバーシティ教育の推進、地域格差の是正、文理分断を前提としない教育課程の設計などの検討を促した。
見解の最後では、次期学習指導要領に向けた改善事項として、(1)数学的素養の向上、(2)情報技術の活用促進、(3)数理科学・データサイエンス・AIを基盤とした統計教育の充実、(4)STEM/STEAM教育の推進、(5)多様性を踏まえた制度設計の5点をあげた。
日本学術会議は、こうした改善を通じて、算数・数学を「公式や解法を覚えて計算する教科」にとどめず、デジタル技術やデータを活用しながら、現実の課題を数学的に捉え、考え、解決するための学びへと転換していくことを求めている。








