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生成AIは第三の存在…活用で見えた「教師だから担えること」

 東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹先生はEDIX東京2024において、「教育現場で実際に生成AIと触れ合う子供たちの反応を知ってもらい、生成AIが教育にもたらす可能性について考え、その活用に取り組んでいくきっかけとなってほしい」という考えのもと、公開授業を行った。

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鈴木秀樹先生
  • 鈴木秀樹先生
  • EDIX東京の会場を回った子供たちはさまざまな製品に魅了されたという。
  • EDIX東京で行われたAIを活用した公開授業のようす。

 2024年5月に開催されたEDIX東京2024において、生成AIを活用した公開授業を行った東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹先生(兼 慶應義塾大学 非常勤講師)。

 これまでも積極的にICTやAI技術の教育活用に取り組んできた鈴木先生が、教育の未来をどのように見据え、教師は何を期待し、何を懸念し、何に取り組んでいくべきなのか、その思いを語った。

「第三の存在」としての可能性…生成AIがもたらす教育現場の変革

 鈴木先生は大学時代から、教育哲学者・村井実氏の「『人はみな善くなろうとしている』その善くなろうとする営みを支える、助けるのが教育だ」という教えを大事にしているという。子供たちはいろいろと“やらかす”のだが、いろいろなことをしながら「みんな善くなろうとしている」と話す。

 生成AIが教育に与える影響について、「先生」と「子供」しかいなかった教室の中に「“第三の存在”として生成AIを入れられることは、すごく大きい」と鈴木先生は語る。たとえば、子供がアウトプットしたものに対して先生が何かを言うと、子供はどうしても評価と捉えてしまう。あるいは先生がアドバイスをしたら、それは受け入れなければいけないもの、と捉えてしまいがちだ。しかし、生成AIが言ってきたことに対しては、極めて都合良く、良いものは採用し、疑問を感じたものは正直に「これは使えない」と言えるという。生成AIは、今まで教室の中にはありえなかった面白い存在だと述べている。

 鈴木先生は、子供たちの生成AIに対する評価は、実践を重ねるたびにころころ変わり、ジェットコースターのようだと語る。画像生成を見せれば「短時間でこんな絵が描ける」と驚くが、間違ったことや期待外れなことが返ってきたときには「何を言っているの?」となる。大人が危惧しているほど信じ込まないというのは、実際に授業で使ってみないと想像がつかなかったという。

 一方で、生成AIが出してきたもっともらしい答えに飛びついてしまう子供もいる。このような子供について鈴木先生は、「経験を積むとだんだんと落ち着いてくると思いますが、そのような意味でも学校教育の中で生成AIの活用は、これからたくさんやっていったほうが良いと思う」と述べた。

生成AIが創る教育の可能性…AIを信用しない子供たち

 EDIX東京のマイクロソフトブースで行われた公開授業では、「小金井小にあったら学校や授業がもっと良くなる製品を探そう」をテーマに、5年生の子供たちが会場内を取材。Swayを使ってレポートにまとめて発表し、それを生成AI「Copilot」に添削してもらい、その内容について話し合った。

 鈴木先生は公開授業を通して、思っていた以上に子供たちがCopilotを良い意味で信用していないと感じたという。Copilotが割とまともな答えを返してきたとき、鈴木先生が「自分の書いた文章と比べてどう?」と子供に問いかけると「負けた気がする」と答えた。「負けた気がする」ということは、子供は「生成AIに勝とうと思っていた」ということ。今までの教室の中にはいなかった「第三の存在」である生成AIは、非常に興味深く、教育的にいろいろと使いどころのある存在であると改めて感じたと語っている。

生成AIによる教育の未来、教師の役割とは

 「生成AIが登場しなかったら、日本の教育は本当に大変なことになっていたと思う」と話す鈴木先生。多様な子供たちに学校が対応してあわせていくことが求められ、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」が進められている今、深刻な教師不足の中で対応するのはとても大変だ。そんなときに、「第三の存在」として生成AIが教室の中にいることは本当に大きいという。

 「人間の教師でなければできないことは何か」は、とても重要な問いだ。GIGAスクール構想でタブレットが導入され、子供たちはパソコンでいろいろできるようになったが、やはり先生がいないとうまくいかないところがある。そこはどこだろうと、鈴木先生はずっと問い続けてきた。

 「ちょっとした学習指導や子供たちひとりひとりに合わせたサポートは、生成AIが十分できるだろう。だが、子供たちに本当の意味で学びの楽しさ、学んだ充実感を味わわせるのは、生成AIではまだ厳しいのではないか」と鈴木先生は語る。公開授業の中でも、生成AIに手伝ってもらいながら感想文を書くことを実践したが、なかなか良い文章ができあがったにも関わらず、子供たちからは「本当にこれで良いのかどうか、ちょっと自信がない」「今回はちょっとAIに頼りすぎてしまったから、次回は自分の考えでもっと書きたい」といった感想が寄せられた。

 生成AIをどう使うのが望ましいかを教師が決める時代はもう終わっていて、子供たち自身が「自分にとって生成AIはこう使うのがいちばん良い」と考える時代がやってきている。子供たちがたくさんの経験を経て、その結果どのように生成AIを使うのが自分にとっていちばん良いのかを考える。子供たちが正しく判断できるように導いていくのが、教師の仕事なのだろう。

 GIGAスクール構想の当初、子供たちが危ない使い方をしないようにとガチガチにセキュリティを固めて自由に利用できないようにしたところは、活用が進まなかったケースもあった。生成AIも同じで、ある程度の自由を与えてどんどん使っていかないと活用が進まないという。子供たちが自由に触ることでさまざまなトラブルが起こることが考えられるが、それを一緒に乗り越えていく姿勢でいくしかない、と鈴木先生は述べた。

生成AIの教育現場への導入と、第三者的立場がもたらす効果

 生成AIを教育現場に導入する際、「まずは触ってみましょう」「良く知りましょう」となりがちだが、「授業で何を実現したいのか」を吟味することは欠かせない。生成AIの使用が目的化してしまい、生成AIを使いたいからこの授業をやるというように、逆転してしまっては意味がなくなってしまう。授業でやりたい内容があって、そのために生成AIが役に立つなら使う、というスタンスで考えることが重要だという。

 また、今、増加している不登校の子供たちにとって、対話の相手として生成AIが役立つ可能性は大きいと鈴木先生は語る。先生のアドバイスでは納得できない場合もあるが、生成AIは子供たちに寄り添う存在としても役に立つ余地があると考えているという。

EDIXでの公開授業と社会科見学がもたらしたインパクト

 今回の子供たちへの公開授業は、EDIX史上初めての試みだった。容赦なくダメ出しをし、良い製品は「絶対うちの学校にほしい」と言う子供たちが、実際に製品を使ったときの体験や反応、意見をEDIXの会場に持ち込むことが、日本の教育にとってひとつインパクトになるのではないか。社会科見学にはそんなねらいがあったという。

 実際に、子供たちはさまざまな製品に魅了されていた。さらに自分たちの疑問や質問に対して、各ブースの大人たちが実物を見せながら、あるいは体験させてくれながら丁寧に一生懸命話してくれたというのは、とても嬉しく貴重な体験となったようだ。

 生徒が生成AIに振り回されず「自分で選択する」姿を見せることができた公開授業には多くの反響が寄せられた。「自分もEDIXに子供たちを連れてきて公開授業をしてみたい」という感想を抱いた若い先生方もいたようだ。このような反響に、鈴木先生も公開授業に挑んだ意味があったと手応えを感じたという。

鈴木秀樹先生インタビュー全文はこちら

 生成AIはこれからの教育を変えていく大きな可能性を秘めている。同時に、人である教師が何を担うべきなのかを示唆する存在にもなりえる。「自ら善くなろうとする」子供たちに教師と生成AIがそれぞれの役割で寄り添い、力となっていく未来に大きな期待が寄せられる。

東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹先生インタビュー
Microsoftパンフレット「今すぐ使えるCopilot」
《畑山望》

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