長時間かつ過密な勤務実態
--学校現場の勤務実態を教えてください。
先生の長時間労働はここ数年、全国的に大きな問題で、教員採用試験の受験者数の減少傾向から見ても教員人気は下降傾向にあるといえます。2016年に文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」を見ると、小中学校の平均では7時半前後に出勤して19時ごろまで学校にいる先生が多い。自治体や教育委員会、学校によっても異なりますが、一般的に45分の休憩を加えて8時過ぎから17時頃までが正規の勤務時間です。でも定時にきっぱり仕事が終わり、明日また頑張りますという先生は少ない。ある岐阜県の小学校における、2019年の時間外勤務のデータでは、月の残業時間が100時間超という先生も散見されています。倒れてもおかしくない、とても心配な水準です。

石川県では小中高の先生方に勤務実態を定期的に調査しています。この調査結果によると、残業時間が80時間以上の過労死ラインを超える方は減ってはいるものの、労働基準法改正後の原則45時間以内におさまる先生は、小学校ではおよそ半数、中学校では3割、高校では6割です。なお、ここには仕事の持ち帰りが含まれず、取れていない休憩時間分が控除されていたり、過少申告もないとはいえないため、額面どおりには受け止められません。岐阜市や石川県の状況がことさら悪いと申し上げたいわけではなく、これらの自治体では情報公開しているぶん、まだ良いほうです。

さらに、過密さ、ノンストップ労働である点も大きな問題です。前述の教員勤務実態調査によると、小学校の先生の1日あたりの平均休憩時間は6分、中学校の先生の場合は8分と、ほとんど休憩がとれていません。
「なぜ、先生たちはこれほど忙しく、また過密労働なのか」とよく聞かれるのですが、これはさまざまな要因が重なっています。まず授業コマ数。小学校の先生の約半数が1週間に26コマ以上もっています。中学校や高校は小学校ほどではありませんが、小学校の先生たちは10教科近くも準備が必要ですし、英語も増えましたから、本当に大変です。一方で、中学校や高校は部活動の負担が重い。部活動は、国や自治体のガイドラインができて、以前よりは休みを取るようになってはいますが、それでも先生方のボランタリーな精神で支えられている部分が大きいのが現状です。また土日や試合・遠征など拘束時間が多い割に手当が少なく、平日の手当はありません。
--先生による違いはあるのでしょうか。
2016年の教員勤務実態調査で、勤務時間が週60時間以上と週60時間未満の人の1日を比べたところ、60時間以上の先生は、授業準備や丸つけ、コメント書き等に使っている時間が多く、行事も丁寧に準備しているようすがうかがえました。両者にあまり違いがないのは、読書や出欠確認などの朝の業務、給食や掃除の時間でしたが、ここにもかなりの時間がかかっています。通知表なども時期になれば、土日を潰して所見を書くという先生は多いです。事務作業もたしかに問題ですし、ICT等をもっと使っていくべきですが、それだけが多忙の要因ではありません。聖域なくあらゆるところにメスを入れるべきでしょう。

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また忙しい先生は、多重に忙しいという点も重要です。教頭職や学年主任、教務主任などの役割があると、一層多忙化する傾向がデータ上でも確認できますし、おそらく多くの現場実感にも合うと思います。さらに学級担任の先生が研究主任や体育主任を兼ねるのも大変です。しかも、小学校ではあらゆる教科を教えながら、1年目の新人が、4月早々から学級担任を担うケースがほとんどです。小学校については、学習指導要領が変わってさらに教育の質の向上が求められる一方、残業をするなというのは明らかに困難な状況です。
--私立と公立による違いはありますか。
私立だから働き方改革が進んでいるとは一概には言えません。むしろ土曜授業や部活動、修学旅行などの行事は、生徒募集の観点もあり、充実させているので、先生方の負荷は重い場合があります。公立と違って人事異動がほとんどなく、学校の中で声をあげにくい(意見しにくい)こともあります。ただし、公立と異なり、労働基準監督署からのチェックで、だいぶ働き方を見直した学校もあります。とはいえ、本当に変わったかどうかの実態には不透明な部分もあります。
▼授業・校務での活用方法をチェック▼
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1人1台端末の活用が鍵
-- ICTの活用における課題や実態を教えてください。
保護者との情報共有はとても大切ですが、特に公立学校での情報共有ツールは、一斉配信メールとホームページへの情報アップ、紙の配布物が一般的かと思います。一部には紙の連絡帳をやめて、お知らせや欠席連絡をほぼデジタルで行う学校も出てきていますし、保護者向けアンケートをMicrosoft Formsなどを使って実施するところもありますね。
コロナ禍で課題になりましたが、いきなりオンライン授業ができなくても、オンライン会議システムなどで子供たちとつながって、何か困っていることがないか、元気にしているかを確認したり、児童・生徒がわからないことを質問できるようにしたりするなど、会話や相談をできる環境を整えることが大事です。プリント学習が必ずしも悪いわけではありませんが、学力も学習意欲もさまざまな子たちに一律の宿題、課題を与えて、その後先生からのフォローもほとんどないというケースが休校中はよく見られました。本当にそれでよかったのか、しっかり振り返る必要があると思います。
また、残念なことに学校はICTの活用や情報共有でこれまで痛い目にあっています。家庭で解決する話にもかかわらず、今もオンラインゲームでの課金や揉め事がなぜか学校に持ち込まれます。先生たちのなかには、最新のテクノロジーに対して萎縮して、メリットよりも「問題が起こったらどうしよう」が先に来る人もいます。これは学校ばかりを責められない側面もあります。
--学校現場はどう変わっていくべきなのでしょうか。
すでに小中学校は1人1台端末です。今後、それをどう活用できるかが鍵でしょう。学習コンテンツも充実すれば、ひとりひとりの学習履歴や興味関心に応じた宿題、自学自習がよりやりやすくなります。学習の継続状況やつまずきに応じて、先生は支援したり、協働的で探究的な学び、答えがない授業にもっと力を入れたりと、これまでとは違う動きがより重要になるでしょう。
もっとも、現状では「端末が来てトラブルが増える」と心配する先生も多く、まだまだ日常使いには遠い学校も多くあるようです。ほんの一部の授業でしか使わず、保管庫で死蔵しているケースや、家庭には持ち帰らない学校もありますが、もったいないですよね。これまでトラブル対応が大変でしたから、気持ちはよくわかりますが、ICTを日常的に使うことで、子供たちはマイパソコンだという気持ちになり、大事にするようになりますし、情報リテラシーなども上がってくると思います。
高校での1人1台端末の整備は、全国一律ではなく、自治体によっては保護者負担のところもあれば、公費のところもあり、また、各学校が調達から管理まで相当な手間をかけていたりするケースもあるようです。これでは、先生たちの負荷がさらに増えてしまいます。機器の調達や保護者負担の有無については、各学校の独自性はあまり必要ないことですから、教育委員会が全県あるいは複数の高校を束ねる方法が望ましいと思います。たとえば、保護者負担は求めるが、経済的に困窮する家庭は別途補助するなど。これが難しければ、せめて明確な指針を出すべきだと思います。もう少し教育委員会がリーダーシップを発揮したほうが良いですね。
ただいずれにしても、今、学校現場はさまざまなことに手一杯で、「ICTを活用した学びの充実などやる余裕はない」という声もたくさんあります。それだけ忙しいのは大きな問題なのですが、先生方は忙しくていろんな見直しができないという側面もある一方で、見直しができないから忙しくなる、という側面もあるのではないでしょうか。
しかし、問題を恐れるあまり何もできないのも、それこそ問題です。リスクはリスクでしっかりと見積もり、それに対する対応や対策をとらないといけません。何もやらないこともまた大きなリスクになります。
学校内にICT推進チームを
--ICTの活用を広めるためのアドバイスをお願いします。
ひとつは、ICTを推進するチームを学校内で作っていくこと。よくICT担当教員を1名だけを置く場合がありますが、得意な先生が異動するとまたトーンダウンします。ICTを他の先生方、苦手な先生方に伝達できるアンバサダー的役割の先生方を3~4人、あるいはもっと校内で増やしていくことが必要です。
また、伝達者側の先生方にもしかるべき研修を実施することが望ましいと思います。たとえばExcelの使い方ひとつとっても、時短できている先生と、全然使いこなせていない先生がいらっしゃいます。だれもが得意なことと苦手なことはありますので、ICTが苦手な先生は、得意な人に教えてもらえれば良いですね。オンラインの環境が整い始めたし、自分の好きなときにスキルアップができ、そういう方が校内で進んで他の先生方へスキルを伝達していける関係性ができると良いと思います。
子供たちが生き生きと学ぶ姿があれば、先生方のモチベーションは変わってきます。1人1台端末はまだ始まったばかりですが、子供たちひとりひとりの学びがより豊かになる部分がおおいにあるでしょう。そうした良さを伝えて、広げていくことが重要です。子供のほうがパソコンを覚えるのが早い場合もありますから、先生が子供たちから学ぶことも含めて考えたいところです。国や自治体、学校、保護者、それぞれが歩み寄って行動しなくては、学校現場に時間、ゆとりは生まれません。
キーワードは「任せる」「余白の時間」「聖域なく優先順位を決めることができる職場」
--働き方改革に向けて、先生の心構えで大切なことを教えてください。
「今のやりかたしかない」と固定観念でかたく捉え過ぎないことが大事だと思います。たとえば、コロナの影響で従来のような卒業式はできなくなった地域が多いですね。例年よりも準備に時間は取れなかったし、「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう」みたいな在校生からのかけ声もなくなったけれど、感動的な式になったというケースは多いのではないでしょうか。つまり、案外、これまでの業務でなくせるものや減らせるものはあるのです。
次に「任せる」こと。忙しいと人に説明する時間も惜しくなり、自分でやってしまうことがあります。しかし、多少手間でも人やICTに任せる発想をもっともつことが大切です。
これら2点に共通することとして、「余白の時間」を大切にする発想も大事だと思います。先生の仕事の中で、明らかに無駄だといえるものは少ないですよね。一部を除いて、ほとんどの業務は教育的な意義はあるはずです。「子供のために」と考えることは大事なことですが、これがある意味、殺し文句になり、さまざまな業務を手放せなくなっているし、早めの時間で切り上げる発想が生まれない原因になっています。あるいは、今までものすごく丁寧にやってきたので、それを変えることに恐怖心がある。
しかし、思い切って減らしてみたり、ICTなどに「任せる」ことで、時間対効果(時間あたりの教育効果)は高まります。ここで生まれた時間で、自分の好きなことにもっと時間を使ったり、たまには読書などをしたり。子供たちに探究や思考力が大事だと言っているのですから、先生方も探究し、学び続ける時間をもっと取り戻す必要があると思います。

最後に、子供のためとされることからも「聖域なく優先順位を決めることができる職場」かどうかが重要です。もちろん文科省や教育委員会の施策も重要ですが、各校の校長裁量でできることはかなりあるので、校長の覚悟と勇気はとても大事です。ただ校長だけに頼るのではなく、校長に対してアイデアを出したり、教職員でしっかり合意形成をしたりできる職場環境である必要があります。言い換えれば「心理的安全性」の高い職場かどうかという問題です。
そうした職場を作るためには、あまりしがらみのない外部人材を入れて、先生方のこだわりや固定観念を揉みほぐすことも必要になる場合もあるでしょう。ICTの活用についても、得意な人や先行例から学ぶ時間も必要だと思います。
--保護者に向けて、ICT活用の理解を促すために必要なことはありますか。
たまに校長先生方から聞くのは、保護者には働き方改革の話をしにくいと。コロナで行事はこう見直すとは言えるが、先生方の勤務時間を短縮するための見直しには言及できない。「先生がラクしたいんですか?」と思われるかもしれないし、遠慮しているわけです。しかし、そこはもっと保護者と正直に向き合ったほうが良いと思います。
もちろんいろいろな保護者がいます。しかし、これまでの慣習を見直したり、ICTなどを使って先生方の時間を生み出したりすることは、先生方が子供たちに多少なりとも余裕をもって向き合え、子供の声を良く聞くことにもつながります。
それに、先生たちの学びの時間を生み出すことは、教育の質にも直結してきます。たとえば、現状では猛練習する吹奏楽部の顧問はコンサートにも行けないという話をよく聞きますが、先生自身のさまざまな経験は子供たちの指導に役立ちます。保護者からの理解を得るためには、マイナス面だけではなく、プラス面もきちんと伝え、安心できる伝え方をする工夫が必要です。
--ありがとうございました。
名もなき校務の効率化や、オンライン授業の実現へ
インタビューでは「先生の時間の自由が、児童・生徒と向き合う時間の確保につながる。教育効果の質の向上には余白が必要」という妹尾氏のコメントが印象に残った。しかしその余白を生み出すためには、数々の名もなき校務を効率化させる必要がある。この課題を解決するひとつの手段として、教育機関向けソリューションであるMicrosoft 365 Educationを紹介する。
たとえば、保護者と学校間の情報連携に利用すれば双方のメリットは大きい。Microsoft FormsやMicrosoft Teamsを使った欠席連絡は、従来の紙ベースでの連絡帳のやり取りや朝の電話の取り次ぎなどの業務を簡略化・自動化する。情報伝達の漏れもない。またMicrosoft Teams を介することで、Swayなどで作成した楽しい学級通信なども、印刷せずにデジタルのままで保護者と共有できる。
Microsoft Teamsを基盤とすれば、PowerPointやWordなどの共同編集も容易になり、児童・生徒の協働学習も効果的に進められる。オンライン授業も、スケジュールの作成・共有、授業の配信、出欠の確認、資料の画面共有、子供たち同士の話し合いやチャットでの意見交換、挙手機能など、機能が充実している。
学校現場のICT活用に関する有益な情報や事例は、マイクロソフトのサイトで随時アップデート中。学級通信作成、保護者面談調整、出欠管理など、さまざまな校務の効率化につながるヒントや、働き方を変える ICT の小技集を紹介しており、SNSでも話題となっている。業務負担と組織構造が ICT で変われば、学び方、教え方、働き方はより良いものになるだろう。詳しくは下記サイトをぜひご覧いただきたい。
▼授業・校務での活用方法をチェック▼
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どう選ぶ?高校生のパソコン選びのコツ
妹尾昌俊氏
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教育研究家、合同会社ライフ&ワーク 代表
文科省での講演のほか全国各地の管理職、教員、事務職員の研修、教育委員会等のアドバイザーとして活躍。また、学校業務改善アドバイザー(文科省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、石川県、高知県、宮崎県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁と文化庁の部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員等も務めた。著書に『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『教師崩壊』、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』など多数。