千葉大学インターカルチュラル・スタディセンター(ICSセンター)は2026年7月10日、2025年度に千葉県から受託して実施した「県立高等学校での外国人生徒等受入れ体制構築に向けた実態調査」の結果を公表した。外国ルーツをもつ生徒の約9割が学校生活を肯定的に捉える一方、学校側の実態把握や支援体制に課題があることが明らかになった。
近年、日本では在留外国人数が増加を続け、2025年には約400万人と過去最多を更新した。文部科学省の調査によれば、公立学校に在籍する「日本語指導が必要な児童生徒」はこの10年間で約2倍に増加し、2023年度には約6万9,000人と過去最多となった。
千葉県では外国人住民数が全国6位の約24万8,000人に達し、166の国・地域にルーツをもつ人々が暮らしている。外国人住民は千葉市、船橋市、松戸市、市川市、柏市など県北西部を中心に多く居住しているが、県内全域にも広がっている。日本語指導が必要な児童生徒数は2014年度から約2倍に増加しており、日本語指導だけでなく、学習支援・進路支援・生活適応支援など、ひとりひとりの状況に応じた支援の充実が求められている。
高校段階では、学習や学校生活、進路、家庭との連携などを含めた実態調査は全国的にも少なく、自治体レベルで体系的に調査された事例は限られていた。また、外国ルーツをもつ生徒が抱える課題は、日本語能力だけでは説明できず、学習、生活、家庭環境、文化的背景など、さまざまな要因が関係していることが指摘されているという。
こうした状況を踏まえ、ICSセンターは2025年度に千葉県から受託し、高校段階における外国ルーツをもつ生徒の実態を総合的に把握することを目的として「県立高等学校での外国人生徒等受入れ体制構築に向けた実態調査」を実施した。調査対象は千葉県の県立高校95校、外国にルーツをもつ生徒の担当教諭294名、外国にルーツをもつ生徒276名、外国にルーツをもつ生徒の保護者122名。調査期間は2025年11月から2026年3月。調査方法はオンラインによるWebフォーム回答。
なお、同調査で対象とした「外国にルーツをもつ生徒」とは、外国籍の生徒だけでなく、日本国籍であっても保護者のいずれかが外国籍または外国出身である生徒を含む。また、日本語指導が必要な生徒だけでなく、日本語で日常生活を送ることができる生徒も対象としている。
学校への調査では、外国ルーツをもつ生徒の在籍数を把握していない高校が約40%、国籍についても把握していない高校が67%あることが明らかになった。外国にルーツをもつ生徒の中には日本で生まれ育った子供もおり、取り立てて意識していないためとも考えられるが、個人情報保護を守りつつ多様な子供たちの実態を把握していくことの重要性が認識された。
教員への調査からは、対応マニュアルなどが未整備の学校が多く、教員は保護者対応や学習支援の方法などに課題を感じながら、ひとりひとりの状況に応じた支援を行っている実態も確認された。
外国ルーツをもつ生徒の約半数は日本生まれである一方、中学校以降に来日した生徒も一定数存在していた。来日時期や家庭で使用する言語、教育歴などの背景は多様であり、「外国ルーツをもつ生徒」を1つの集団として捉え支援することの危うさも明らかになった。
生徒への調査では、学校生活について約9割が肯定的に回答し、友人関係も良好であることがうかがえた。この背景には、教師や友人、クラスメイトとの人間関係が良好であり、安心して学校生活を送ることができていることが影響している可能性が考えられる。こうした良好な対人関係は、生徒の学校適応や学校生活への満足感を支える重要な要因の1つであると考えられるとしている。
一方、作文や国語、教科書理解など「書く力」や学習言語に課題を抱える生徒が多いこともわかった。また、日本語支援を必要と感じていない生徒も一定数存在し、一律ではなくひとりひとりの背景や状況に応じた支援の必要性が示された。
保護者の多くは長期在住者だったが、日本語での日常会話はできても読み書きには課題があるケースがみられた。また、進路に関する情報や学校制度について十分な情報が得られず、不安を抱えている実態も明らかになった。
同調査の特徴は、学校・教員・生徒・保護者の4者を対象に調査を実施し、それぞれの立場から実態を比較した点にある。その結果、教員や学校は支援上の課題を強く認識している一方で、生徒は学校生活を比較的前向きに捉え、保護者は学校とのつながりや進路情報に不安を抱えているなど、立場によって課題の捉え方や認識に違いがあることが明らかになった。
調査結果から、外国にルーツをもつ生徒の支援においては、従来型の限界として「日本語中心の支援」「一律的な支援」「教員個人への依存」が指摘された。今後の支援に向けて必要な転換として「日本語・学習・生活を統合した支援」「背景に応じた個別最適化」「生徒の自己認識を踏まえた支援」「学校全体での体制整備」「保護者への情報提供と支援」「認識や情報のズレを前提とした関係の再構築」の重要性が提言された。
調査の成果は、県立高等学校における初期指導体制の構築や、教員の異文化理解・対応力向上を目的とした研修カリキュラムの開発など、今後の教育施策へ活用される予定だ。
ICSセンターは異文化間教育を通じた多文化共生社会の実現を目指し、2016年に設立された。外国にルーツをもつ子供の教育支援、教員研修、人材育成プログラムの開発、留学生を活用した地域連携活動などを通じて、学校・地域・大学をつなぐ実践と研究を行っている。














