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持続可能な部活動「未来のブカツ」の実現を目指す「うるま市モデル」とは

 経済産業省では、2022年9月に「未来のブカツ」ビジョンを取りまとめました。2017年からスポーツデータバンク沖縄株式会社と連携して、学校の部活動改革を行い、2021年度と2022年度に未来の教室事業に採択された沖縄県うるま市の事例を紹介します。

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剣道の練習に取り組む学生たち
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沖縄県うるま市が全国に先駆けて部活動改革

 経済産業省では、文部科学省が2020年9月に示した「令和5年度から休日の部活動を段階的に地域移行する」との方向性に呼応し、2020年10月から「地域×スポーツクラブ産業研究会」を発足し、2022年9月に最終提言として「未来のブカツ」ビジョンを取りまとめました。その提言と2022年産構審教育イノベーション小委員会の「中間とりまとめ」の論点、さらには、2022年12月に文部科学省が示した「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」も踏まえて、部活動の地域連携・地域移行の受け皿となる活動においても、多様な選択肢と探究的な環境の提供を目指しています。
 今回は、2017年からスポーツデータバンク沖縄株式会社(以下SDB 沖縄)と連携して、学校の部活動改革を行い、2021年度と2022年度に未来の教室事業に採択された沖縄県うるま市の事例を紹介します。

部活動の地域連携・移行を実現する「うるま市モデル」とは

剣道の練習に取り組む学生たち 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

 うるま市だけでなく、学校教員の多くが部活動の顧問として指導を務めていることから、指導経験がない教員には負担が大きかったり、放課後や休日など長時間勤務の要因になっていたりしている現状があります。また、うるま市においては子どもの部活動への加入率が低いことも課題でした。
 このことから、部活動の持続的な運営や子どもたちへの活動機会の確保のため、部活動改革の一つとして部活動の地域連携・移行に取り組み始めました。
 うるま市教育委員会事務局の仲村渠安一(なかんだかりやすかず)氏は、部活動の地域移行を進めるのは、そう簡単ではなかったと言います。
 「部活動改革は、自治体内でも、教育委員会と学校だけでなく、全庁的に部局を横断して取り組むことが重要です。クラブや施設の管理、指導員確保や財源の管理などは教育委員会事務局以外の部局とも連携をとる必要があります。
 今の子どもたちが大人になっても様々なスポーツを楽しみ、心身ともに健康でいられるような環境を整備することや全ての住民の暮らしの中にスポーツがあることが、自治体全体のメリットに繋がると考え、教育委員会だけでなく、長期的で広範な視点に立ち、自治体全体で取り組む必要があるのです。」

未来のブカツ実証事業における「うるま市モデル」とは

 2022年度の経済産業省「未来のブカツ」の実証事業では、うるま市での市全体での取組の集大成として「うるま市モデル」を構築しました。「うるま市モデル」は次の6つの柱によって構成され、無理のない形での地域移行を実現することを目指しました。

サッカーの練習を行う学生たち 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

(1)横断的な組織連携による運用体制
 部活動の地域移行は、教育委員会事務局が主導している自治体が多いですが、うるま市では、庁内に「地域移行推進プロジェクトチーム」を立ち上げ、教育委員会事務局だけではなく、地域スポーツの管轄や社会体育施設の管理を行う「経済産業部」、財源となる企業版ふるさと納税を所管している「企画政策課」など、複数の市長部局の部署が連携し、情報共有や課題解決を進めています。このような組織横断的な協力・連携体制をとることで、それぞれが担当意識を持ちながら一丸となって、各部局の視点からの提案や意見交換を可能としています。

(2)地域移行に対する保護者満足度の向上
 運動部の活動が地域のスポーツクラブに移行し、人材バンクよりマッチングされた競技の専門家が指導するにあたり、スポーツクラブの管理にはICTツールが活用されています。学校教員や保護者との間に情報の共有が図られ、保護者からは「連絡がスムーズ」「欠席の連絡がしやすく活動終了時間がわかったので安心した」といった肯定的な意見があがっており、生徒・保護者ともに満足度は高くなっています。また、この部活動の改革を通じて、指導者の指導スキルだけでなく、子どもたちのスポーツに対する技術力も飛躍的に向上しており、部活動に参加する子どもの数も増えてきています。

(3)指導者向けの研修・認証制度の構築
 一方で、学校管理下にある部活動から地域のスポーツ活動へ移行する際、保護者や子どもたちが安心して活動できるよう、指導者がその資質を備えているかどうかも重要な課題です。そこで、うるま市教育委員会と三井住友海上火災保険株式会社、SDB沖縄の3者が連携し、競技を問わず求められる救命救急や防犯、メンタルヘルスケアなど、7つのテーマについての知識が習得できるeラーニングによる学習環境を整備。指導者は研修を修了したかどうかの認証状況が開示されるので、保護者や子どもたちは安心して指導を受けることができます。

(4)民間による学校体育施設の指定管理者制度導入の試み
 多くの場合、学校の体育施設は学校の管理下で運用されている中、うるま市では、学校体育施設を利活用することで収益確保の観点から、民間などによる「指定管理者制度」の導入を目指しています。「指定管理者制度」※ は、公の施設をノウハウのある民間事業者などに管理してもらう制度です。学校教育に支障のない限り、自治体ごとに条例制定が可能という法的な見解の下、うるま市は条例によって指定管理者制度の制定を目指しています。また、現在は人手に頼っている鍵の開け閉めやアナログな予約管理などをDX化したり、クラウドカメラの設置によって24時間施設の安全・防犯機能を強化したりと、ICTツールを積極的に取り入れることで、公の施設が最大限に活用され、幼児から高齢者まで、幅広い世代が多様なスポーツの体験機会を得られる環境づくりを目指しています。

(5)地域で自走できる多様な財源の確保
 運用面について、国などからの補助金に頼るだけでは、生徒や地域住民にとって必要なスポーツ環境を持続させることは難しいため、地域で自走化できる仕組みをつくることが不可欠です。うるま市では、企画政策課が中心となって「企業版ふるさと納税」を活用し、自走に向けた財源確保となりうるかの検証を進めています。また、クラウドファンディングや地域企業からの寄付、企業協賛など、財源の多様化を目指しているところです。

(6)企業協賛型・アクティベーションによる支援
 地域で自走できる仕組みづくりにおいては、地域企業による支援のほか、企業からの直接的な支援として、「アクティベーション」という手法があります。これは企業が、直接顧客に自社のノウハウを使ったサービスを提供することで、その企業における顧客生涯価値(企業に対し顧客がどれほどの利益をもたらしたか)をさらに向上させるというものです。(2)で触れたように、うるま市では、三井住友海上火災保険株式会社がスポーツや安全の講習会を実施するなど、この取組の大切なパートナーとして関わっています。企業としても、この取組に協賛することで、アクティベーションによって直接顧客からの手応えを得ながら、いずれはそのサービスを横展開し、より多くの地域での課題を解決するとともに、自社への認知度向上にも繋げていけるのです。

※ 指定管理者制度:地方自治法第244条の2において制定

部活動改革にとどまらず、市全体で生涯スポーツ環境を整備

 うるま市を含め、沖縄県内外の約40もの自治体で、部活動の地域移行を手がけているSDB 沖縄代表の石塚氏は、この部活動改革について、「外部の専門家が部活動を支援することに対し、先生方や保護者の皆さんがポジティブに受け入れてくれていること」が重要だと指摘します。「指導や財源確保、施設管理などを学校の外部に委託するというのは、地域からの信頼の土台があってこそ進められるものです。現在うるま市では80を超える部活動があり、このうち約30の部活動が地域連携・移行に取り組んでいます。この先の課題としては、財源の確保と同時に受益者負担をどうするかです。地域移行が完了するまでは、市の独自予算を充てるので保護者負担は発生しませんが、アンケート調査では保護者の5割が費用負担について不安を持っており、いずれは受益者負担をどう抑えるかの工夫が求められるでしょう。」

テニスの指導を受ける学生たち 画像提供:未来の教室 ~learning innovation~

 一方で仲村渠氏は、「『子どもたちに有益な事業を展開する』という最上位の目標を共有できていること」が成功の秘訣だと語ります。「どうしても行政は縦割りで、部活動についても、教育委員会と学校の中だけに閉じた課題になったり、自治体の内部でも他部署と責任を押し付け合ったりしがちです。しかし、全ての関係者が最上位の目標を共有すれば、各々が自分ごとと捉えて協力し合い、自治体全体として取り組めるようになるはずです。」
 仲村渠氏は、「スポーツは街づくりの一環」と強調します。
 「部活動が持続困難になるということは、将来スポーツを楽しむ人が減り、街に活気がなくなり、住民の心身の健康が損なわれて、医療費の拡大にも繋がりかねません。ですからこれは、単なる部活動の存続云々ではなく、スポーツ産業の振興や地域の活性化といった、自治体全体の未来に関わる重大な課題として取り組む必要があるのです。」
 「うるま市モデル」は、先進事例として沖縄県主催の検討会議でも積極的に情報共有されており、来年度に向けて、県内の様々な自治体が加速度的に部活の地域移行の準備を進めています。今後は、「うるま市モデル」が全国にも展開されることが期待されています。

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※この記事は、令和5年度「学びと社会の連携促進事業「未来の教室」(学びの場)創出事業」で作成した、「未来の教室」通信を全文転載しているものです。
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《未来の教室(経済産業省)》

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