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文科省 武藤氏X平井氏「NEXT GIGAを見据え現状を再点検」対談レポート

 リシードは2023年11月19日、文部科学省 初等中等教育局 武藤久慶氏と平井聡一郎氏によるウェビナー「NEXT GIGAを見据え現状を再点検」を開催した。対談のようすをレポートする。

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文科省 武藤氏X平井氏「NEXT GIGAを見据え現状を再点検」対談レポート
  • 文科省 武藤氏X平井氏「NEXT GIGAを見据え現状を再点検」対談レポート
  • 令和5年全国学力・学習状況調査からGIGAスクールの現状を解説
  • 校務DXのチェックリストで自己点検を促している
  • 生成AIを校務のたたき台として活用する例
  • 補正予算の概要。NEXT GIGAが動き出す

 小中学生におけるGIGAスクール端末の更新時期を見据えて2,643億円を盛り込んだ2023年度補正予算案が11月10日に閣議決定され、いよいよNEXT GIGAの姿が見えてきている。2023年11月19日にリシードは、文部科学省 初等中等教育局で学校デジタル化プロジェクトチームリーダー、修学支援・教材課長などを併任する武藤久慶氏と未来教育デザイン代表社員の平井聡一郎氏を招き、ウェビナー「NEXT GIGAを見据え現状を再点検」を開催した。対談のようすをレポートする。

NEXT GIGAを見据えGIGAスクール構想の現状を再点検

 冒頭で武藤氏は「多くの方の応援をいただき、次のGIGAスクールの更新費用が上乗せされ、端末単価は1万円アップ、予備機についても子供たちの数の15%分を購入できる予算になりました。これから国会で審議いただくことになります」と補正予算の概要に触れた。
 
 平井氏は「NEXT GIGAを見据えて現状を再点検し、立ち位置を知ることが大切です。今後さらに良いものにするためにも、GIGAに留まる学校なのか、その次を目指してやっている学校なのか、そもそもアナログに留まる学校なのか。まずは自分の学校や自治体はどこの段階にあるかを確認していただきたい」とセミナーの意義を確認して対談はスタートした。

学校は変わったのか? エビデンスから見るGIGAスクール構想の現状

 GIGAスクール構想により学校は変わったのだろうか。まずは令和5年度全国学力・学習状況調査における校長先生へのアンケート結果から考えていく。武藤氏はまず「ほぼ毎日授業で使った小学校は65.2%。GIGAスクールが始まって2年半、コロナ禍で学校現場は本当に大変な中で新しいものに取り組んでいただいた。そこは評価されるべきだと思います」と振り返った。その一方で、教職員と児童あるいは児童同士がやり取りする場面では一気に低い値になることを紹介。児童が自分で調べる場面はおよそ3割と端末が文房具にはなっていなく、さらに児童の特性や理解度、進路に合わせた利用といった個別最適に関する項目や持ち帰りにまで至らない現状が差になっているとした。この傾向は中学校の調査でも同様だという。

令和5年全国学力・学習状況調査からGIGAスクールの現状を解説

 平井氏は、児童同士がやり取りする場面の少なさから、先生と生徒の縦の学びから、児童同士という横の学びへの転換が、学びの質の変化につながるポイントではないかと示唆。武藤氏は「協働的な学びにクラウド環境が使われているのかがポイントです。また先生が完全にコントロールしていて、子供たちが自由に相互を参照して刺激し合いながら進めるといった端末の使い方がそもそも許されていない場合もあります」と背景を説明した。

 また武藤氏は、進まない端末の持ち帰りについて「緊急時に持ち帰る準備はできているとする教育委員会や学校が多いですが、帰宅時に緊急事態が起きた場合、学校に端末を取りに行けるのかを考えるだけでも、かなりの問題を孕んだポリシーだと思います。何かあっても子供たちが学びを継続できることが、どれだけ貴いことなのかを私たちはコロナ禍で学んだはずです。さらに協働的な学びを自宅で深めることもでき、家庭学習の課題提出や採点の効率化は先生方の働き方改革にもなります」と利点を強調した。平井氏は「持ち帰りを考えていくと、そもそも学校でしかできない学びと、家でやったほうが効果的な学びのバランスを考えて組み合わせる。それが新しい学校の姿かもしれません」と近い将来を見通した。

指導観・リテラシーにおける阻害要因

 阻害要因を洗い出して、ひとつひとつ丁寧に解決しなければ、より良い環境にはつながらない。平井氏は指導観やリテラシー、通信や端末、制限と阻害要因を大まかに分類し、まず指導観について、今までの教師主導の学びが教師と保護者に根強く残り、学校や教育委員会では生成AIなど新しいものを柔軟に受け止められないリテラシーにも課題があると語った。

 それに対して武藤氏は、教えるべきところを効率的に進めて、子供たち自身が考え活動し、そこから出てくるものを大事にする方向にシフトしていくべきだと述べ、平井氏は生成AIによって教師の役割も変化する中で「先生たちは自分で学び、考えて、判断して、行動できる子供たちを育てなければなりません。だからこそ文科省は主体的、対話的で深い学びという授業の指導観の転換を求めてきました。アンケート結果からわかるようにICTを使ってはいるものの学びの質的な転換はまだこれからです」と課題認識を新たにした。

 さらに管理職や教育委員会が現場の阻害要因になる場合があるという平井氏の指摘に武藤氏は「学習指導要領に記載されている情報活用能力は学習の基盤という位置付けで、教科のひとつひとつの指導方法よりも上位にある概念です。これだけ情報技術が進展している社会では、それをうまく使いこなして、より良く学んでいくことが大事です」と話し、平井氏は、教育長にきちんとした情報を伝達し利用する方向に進むようにするための、指導主事の役割も大事になると加えた。

通信と端末、制限における阻害要因

 通信と端末、制限は整備する側の問題となる。武藤氏は「クラウド・バイ・デフォルトで始まった政策で、通信と端末がサクサクと動くのは大前提です。前回は急いで導入したので、うまくいかない地域や学校があるのは事実で、問題はアセスメントが実施されていないことです。教育委員会が実際に速度を計測して問題を把握し、専門的なアセスメントを入れる必要があります。そのアセスメントの補助も出していますが、2022年の8月時点ではまだ4割以上の自治体で実施されていませんでした」と話した。また指導者用端末を導入していないところは4割に上る。武藤氏は「地方交付税で指導者用端末1人1台の財源はあるはずなので必ず買ってもらいたい」と述べた。

 また現在、学校や教育委員会がさまざまな「制限」をかけているケースも多い。教育委員会がチャットは禁止、学習系の情報もすべて個人情報だからと過剰に規制をかけてしまう。フィルタリングも非常にきついので思うように使えない場合がある。武藤氏は「教育委員会の整備やルールの問題で解決できるところは一気に直さないといけません。あまりにも制限が多いので今、校務DXのために学校34項目、教育委員会18項目のチェックリストを出して現場に見ていただいています。これから1人1台端末の更新の補助金を出していくことになりますが、その補助の要件にも加えたい」と現在の利用状況と今後の整備がリンクすることが示された。

 「通信のボトルネックを判断することは難しい。光ファイバーなのか、校舎の中か、スイッチかなどの切り分けができません。どこが悪いのかを診察して、診断して、治療する。そのためのアセスメントがなければ次に進めません。またある程度、負荷をかけなければわからないので、使っていないところは問題が表面化しません。使っているところほど、いろんな問題が出てくるので、これをどうしようかということは気が付きます」(平井氏)

 通信に関して武藤氏は「回線の契約や費用、どのくらいの速度が出ているかなどを悉皆調査しようと思います。これは学校の責任ではなく整備の問題なので、私たちは気合いを入れてやらなければいけないと思っています」と学校に速度を測ってもらう調査を近日中に予定していることを明かした。平井氏は「教育委員会や学校の皆さまは大変だけども、次の自分たちの環境が良くなるための調査なので、ぜひ協力をお願いします。こうしたデータがないと国としても予算や政策が打てません」と呼びかけた。

校務DXのチェックリストで自己点検を促している
リシード 学校インターネット回線速度計測

緊急提言から校務改革に向けて

 校務の改革も急務だ。中央教育審議会からは教師の働き方についての緊急提言が出され、当時の永岡文科大臣はメッセージを表明、文科省からも通達が出た。平井氏は「学校の改革、働き方改革は対処療法ではなく根本治療が必要です。働き方改革と学びの改革は一体で、学校をスリムにして教員が本務の授業づくりに集中できるようにしなければなりません。そのためにも総量削減で仕事全体の量を減らし、自分たちで全部をやろうとしていた意識を変えなければなりません」と根本からの校務改革と意識改革の必要性を訴えた。

 「このままでは学校という大事な場は若者から選ばれなくなってしまいます。ただ、中には働き方改革を進めて、校務の総量を減らしている学校もあります。できることはしっかりやっていくことが大切です。一方で、まだファックスを使っている、1人1台アカウントになっていない、クラウドを使っていない、すべてを紙でやっているといった学校もあります。先ほど紹介したチェックリストを現場の先生方にご理解いただきながら着実に進めたいと思います」(武藤氏)

 次に校務における生成AIの活用にテーマが展開。平井氏は「先生がAIを使うことに対して、まだまだ制限を加える教育委員会や学校があります」と指摘した。経済産業省が「未来の教室」で生成AIを使った実証授業を始めることにも触れ、文部科学省「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」で示されたAIによるたたき台の作成を例に、子供たちが使う前に先生方が校務の中で使って慣れることが重要だとした。
 
 「AIで指導案やテスト問題のたたき台を作るとなったときに、私が大事だと思うのはやはり指導観です。それで教師主導の授業の指導案を作られても困ります。AIを使うことは、先生方が授業や学びについて考えるきっかけになりますし、行事の計画も子供たちを主体にするプロンプトを書くと意識が変わる。子供たちは何かを解決しようとするからAIを使うので、必然的に学びは主体的になります。こうした観点でAIを捉えるためにも、まずは先生方に触ってみてほしい。お絵かきでも夕食のレシピを考えるためにでも良いからまずは使ってみて、どんなことができるのかを知って活用してほしいです」(平井氏)

生成AIを校務のたたき台として活用する例

注目されるNEXT GIGAの環境整備

 NEXT GIGAは今後どのような方向で整備されるのか。「日常的な端末の活用を行う地方自治体の故障率も踏まえて予備機とし、都道府県に基金を設置して5年間の支援を継続します。そのときに都道府県の単位を中心とした共同調達の仕組みも検討。おおむね更新が終わる想定の2026年度中に、地方自治体における執行状況や実際の端末の活用状況を検証し、次の更新に向けて今後の支援のあり方を検討する形です。こうしたことを踏まえて、補正予算案は冒頭に言ったように単価が1万円アップし、予備機は15%になりました。ただ、これらの補助にはさまざまな条件を付していく予定です」(武藤氏)

 補助については、指導者用端末の導入やネットワークのアセスメント、基本的なGIGA環境でできる校務DXの徹底などを条件に入れることを検討中だという。端末単価については5.5万円の中にどのようなスペックや何を含めるのかを早急に検討して早めに提示したいとした。共同調達に関しては「財政的な観点や価格を抑えられることもあるので、基本的には都道府県単位での共同調達をしてほしいと思います。前回、小さな自治体では、あまり良い条件で調達できないという課題もありました。ある程度のロットを確保して価格交渉していただくという意味でも共同調達は大事です。またこれまでの反省から、調達や選定におけるきめ細かいガイドラインなどを作成して提示したいと思います」(武藤氏)

 平井氏は「各自治体は何をやりたいのか、どんな授業をやりたいのかというビジョンをもって、そのためにはどんな端末が必要かを考えてほしい。自分たちでわからないならばGIGAスクールのアドバイザーなどから意見を聞いて、子供たちの学びにより良いものを選んでいただきたい」と呼びかけた。
 
 「どこかで大規模なピッチイベントをやろうと調整しています。5.5万円ベースの基本パックの提案と、その基本パックにデジタルドリル付き、SIM込み(LTEモデル)などの応用パッケージを合わせてご提案いただく。そこに共同調達担当者が必ず参加してある程度の競争をしてもらい、あとはそれぞれの自治体で仕様を固めて、さらに競うイメージです」(武藤氏)

補正予算の概要。NEXT GIGAが動き出す

 対談の最後には、現場は進めたいが管理職や教育委員会がやらせてくれないといった悩みも寄せられ、武藤氏は「ぜひどこの自治体で何が困っているかを具体的に教えてください」と呼びかけた。武藤氏のチームでは幹部職員と一緒に首長に直接、働きかけることも検討するという。「クラウド活用への過剰なレギュレーションや反対は、教育改革の方向性にも学習指導要領にも合致していません。GIGAスクール構想により不登校の子どもたちや特別支援の子供たちもがアクセシビリティの恩恵を受けられ、学びの複線化など授業も変わってきています。その一方で、ずっと変わらない学校や教室があるのは、これ以上、座視できません」(武藤氏)

 先生と子供たちのより良い学びや働く環境の整備に向けて、スピードをもって改革に取り組むことが教育現場には求められている。この対談を参考に動きを加速してほしい。

《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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