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【NEE2023】「子どもデータ連携」で実現する切れ目のない支援…先進自治体の取組み

 2023年6月1日~3日に開催された「New Education Expo 2023 東京」(以下、NEE 2023東京)。その1日目には、本イベントを主催する内田洋行の教育データ連携事業と、実際の現場におけるデータ連携の取組みが紹介された。本記事では、そのようすをレポートする。

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セミナーのようす
  • セミナーのようす
  • 内田洋行 代表取締役社長 大久保昇氏
  • 内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメント ディビジョン ICT基盤システム開発部 共通基盤開発課 課長小森智子氏
  • 柏市教育委員会 学校教育部 児童生徒課 心理相談員 北村大明氏
  • 神奈川県開成町子育て健康課 子ども育成班主幹 高島大明氏

 2023年6月1日~3日に開催された「New Education Expo 2023 東京」(以下、NEE 2023東京)。その1日目には、本イベントを主催する内田洋行の教育データ連携事業と、実際の現場におけるデータ連携の取組みが紹介された。本記事では、そのようすをレポートする。

 デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省は2022年1月、「教育データ利活用ロードマップ」を策定し、教育のデジタル化のミッションとして「誰もが、いつでもどこからでも。誰とでも、自分らしく学べる社会」を掲げた。その論点には「データ連携による支援が必要なこどもへの支援の実現」も含まれており、各自治体が保有する教育・保育・福祉・医療などのデータを必要に応じて分野横断的に連携し、真に支援が必要な子供の発見、プッシュ型の支援を実現することを目指している。

 また、2022年度にはデジタル庁が「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」をスタート。2023年4月に創設されたこども家庭庁がこれを引き継ぐ形で「こどもデータ連携実証事業」として実施している。

 実証事業の採択団体である神奈川県開成町などでデータ連携を支援する内田洋行は、NEE2023東京の会場内の特設ブース内でデモンストレーションを実施。国や先進自治体の動向、そして内田洋行が取り組むデータ連携システムの構築について説明をおこなった。

組織の壁を越えたデータ連携で子供を見守る

 デモンストレーションではまず、内田洋行の代表取締役社長 大久保昇氏が挨拶をおこなった。教育におけるICT利活用が進み、2023年4月に実施された全国学力・学習状況調査では、中学生「英語」の「話すこと」がCBTで実施されるなど、教育に関する大規模なデータが集まり始めており、そのデータをどう生かすかが焦点となっている。大久保氏は、データ連携の前提として「データは、子供を選別するために使うわけではない」と強調しつつ、学校で得られる教育のデータと自治体が保有するデータをいかに連携し、役立てるかというテーマに取り組んでいると説明した。

内田洋行 代表取締役社長 大久保昇氏

 次に、内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメント ディビジョン ICT基盤システム開発部 共通基盤開発課 課長の小森智子氏が登壇。「こどもデータ連携」の概要やこれまでのデジタル庁、こども家庭庁の取組みなどを説明したうえで、「こどもデータ連携」には多くの解決しなければいけない課題があるとし、まずは学校や教育委員会、そして各地方自治体が部署ごとに保有する住民情報や福祉分野のデータを連携・可視化することから始める必要がある、と述べた。

内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメント ディビジョン
ICT基盤システム開発部 共通基盤開発課 課長小森智子氏

 続いて小森氏は「こどもデータ連携」による支援の例として、教育データをきっかけとした支援の流れを紹介した。一例として、単元テストの点数とドリル学習で問題を解いた数の相関を見るダッシュボードにおいて、ほかの子供では学習量の増加に比例して点数が上がっているのに対し、学習量が多いにも関わらず点数が上がっていない生徒がいる場合、ケアが必要な可能性が考えられる。対象の子供の学習時間帯を学習支援ツールで確認すると、早朝または深夜の学習が多いことがわかった。また、出欠状況を校務支援システムのデータで確認すると、ある時点から欠席や遅刻が増加している。自治体の福祉データを確認し、その時点から親が障害者になり、兄弟がいることもわかった。これらの情報をもとに、ヤングケアラーであるかもしれないという推察がつく。

 このように、学習データをきっかけに1人の子供についてさまざまなデータを組み合わせて多角的に分析することで、支援が必要な子供を発見する手助けとなる。「こどもデータ連携」が目指すのは、このようにデータを組織横断的に連携することで実現する問題解決だ。

 組織や部署の壁、ネットワークの分離、取り扱いに注意が必要な個人情報であることなど、データ連携においては解決するべき課題は多く存在している。また、紙での取り扱いが主でデジタル化が進んでいなければそもそもデジタルデータが存在せず、仮にデジタルデータがあっても整理・標準化などができていなければそのまま活用することはできない。小森氏は、そういった課題を解決するため、毎日のアンケートをもとに十分な量のデータを収集したり、相談情報などの数値化されてないテキストデータを分析するツールを活用したりといった取組みを紹介。そして、自治体・教育委員会・学校のデータをつなぎ、地域全体で子供たちの成長を育むシステムを構築し、子供の見守りに挑戦していきたいと述べ、デモンストレーションを締めくくった。

保護者も担任も孤立させない支援体制を

 同日、公共ICTフォーラム2023で開催されたセミナー「子どもデータの連携と活用で学びと子育てを支える自治体先進事例」では、データ連携体制の構築を図る2自治体の担当者が登壇し、子供の健康的な学びを支える取組みを紹介した。

柏市教育委員会 学校教育部 児童生徒課 心理相談員 北村大明氏

 柏市教育委員会 学校教育部 児童生徒課 心理相談員の北村大明氏は、市内の学校の担任教員や保護者から児童生徒の支援に関する相談を受け、助言を行う巡回相談を行っている。年間200回もの訪問を行う北村氏はその経験をもとに、困りごとを抱える子供やその保護者、担任に起きてしまいがちな精神的な負担や孤立について説明した。

 担任は多忙で、常にマルチタスクと意思決定が必要とされている。さらに児童生徒の情報は個人に蓄積しやすく共有する余裕がなくなれば、児童生徒の行動の背景に目が向かず、場当たり的な対応をしてしまう場合があると北村氏は指摘する。一方保護者は、「子供の養育は親の自己責任」という暗黙のプレッシャーから相談相手がおらず、地域や親族から孤立してしまったり、行政の支援にうまく頼ったりすることができない場合がある。こうした孤立や情報不足から不安や不満が両者に溜まれば、コミュニケーションがうまくいかなくなってしまう。北村氏は、「保護者も支援者も子育て支援チームの重要な一員」であり、「安心して人に依存して、共に学び、共に育つ関係を構築する」ことが大切だと説明。保護者や学校に対して積極的に出向いていき、継続的なモニタリングができる相談体制を構築する重要性を説いた。

 こうした相談体制には、スムーズなデータ連携による十分な情報共有ができるシステムが不可欠だ。柏市では現在、子供の成長過程でのデータの収集・蓄積と、組織や管轄を越えたスムーズな情報共有を実現するシステムの構築を図っているという。そのシステムと、人に寄り添う相談体制を確立することで柏市が目指すのは、「切れ目のない」支援の実現だ。最後に北村氏は「当事者が、今度はほかの誰かの相談に乗り、自身の経験をポジティブなかたちに変換して伝えられるような相談体制を目指したい」と述べ、講演を終えた。

データ連携でより良い町づくり

 次に、神奈川県開成町子育て健康課 子ども育成班主幹の高島大明氏が登壇した。神奈川県でもっとも小さい町で、人口2万人に満たない開成町は、暮らしやすい街づくりに取り組んでおり、2020年までの5年間の人口増加率は7.7%と神奈川県内でもっとも高い。その街づくりには子育て支援策も含まれており、2020年にはそれまで分かれていた児童福祉分野と母子保健分野の担当課を統合し「子育て健康課」を新設。2024年度には「子ども家庭センター」の設置も予定しており、妊娠期から成人まで切れ目のない支援の実現を目指しているという。

神奈川県開成町子育て健康課 子ども育成班主幹 高島大明氏

 開成町では、転入世帯増加による家庭環境の背景がわからない家庭の増加や、ヤングケアラーや親の精神疾患といった相談内容の複雑化など、子育て支援における課題を抱えていた。また、子供に関するデータの連携については、各機関や部署が個別にデータを管理し、システムごとにばらばらに管理されているなどの課題があった。こうした背景から、先述の「こどもデータ連携実証事業」に参画。2024年度からの本稼働を予定している子供見守りシステムにより、子供に関するデータを連携することで家庭の要支援リスクを判定・分析・可視化し、支援家庭の早期発見、早期支援を目指している。システム稼働後は、データ連携システムによるリスク判定を含む情報をもとに、子ども家庭センターを中心に支援対象を判定、家庭訪問などの支援を行っていくという。

 最後に高島氏は、データ連携の課題として、個人情報の取り扱いについての問題のほか、データ項目の選定と現在紙で管理している情報のデータ化、十分なデータ数の確保などをあげた。

試行錯誤を続け、システムを構築していく

 セミナーの最後には先述のデモンストレーションに登壇した内田洋行 小森氏が、開成町のデータ連携システム構築における内田洋行の支援内容について説明した。開成町と内田洋行は、町として目指す支援の形を実現するために、何を目指していて、そのためにはどんなデータが必要なのか、そしてそのデータをどのように分析・判定するかなど、多くのポイントについて協力して取り組んでいる。小森氏は、その中でも意識的に取り組んでいることとして、「『こどもデータ連携』の設計・構築手順に正解はない。ともに試行錯誤できる仕組みを用い、データの利活用がしやすいよう構築していく」こと、そして「子供の見守りをするのは『人』であり『システム』ではない。あくまでも支援者が主体となって見守りを行い、システムがそれを支えることを目指す」ことの2点をあげた。そして、「データをつなぐ仕組みを作ることで、自治体の力になりたい」と語り、講演を終えた。

 小森氏や各自治体の担当者が語ったように、子供に関するデータを連携し、支援につなげる体制を確立するまでには、多くの課題があり、試行錯誤が続きそうだ。だが、自治体が目指す子育て支援のビジョンと熱意は確かなものだった。先進自治体の取組みが全国に波及し、ICTを活用した切れ目のない子育て支援が実現することに期待したい。

《編集部》

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