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【NEE2023】ChatGPTはなぜ間違える?AIネイティブ時代の新たな教育への転換

 New Education Expo 2023東京の初日、セミナー「ChatGPTの衝撃!教育現場は生成AIとどう向き合うか」が開催された。登壇したのは日経BP 日経BOOKSユニット長補佐の中野淳氏、早稲田大学理工学術院教授の深澤良彰氏。会場には多くの教育関係者が集まり、超満員となった。

教材・サービス 授業
早稲田大学理工学術院教授 深澤良彰氏
  • 早稲田大学理工学術院教授 深澤良彰氏
  • 日経BP 日経BOOKSユニット長補佐 中野淳氏
  • セミナー会場のようす

 2023年6月1日から3日、New Education Expo 2023東京がTFTビルで開催された。最新の教育ICT、教育DX関連製品・サービスが展示されたほか、各分野における専門家によるセミナーも数多く実施された。

 イベント初日、NEE2023の開幕を飾るセミナーとして、いま大きな注目を集めているトピック「生成AI」の教育現場における活用に関するセミナー「ChatGPTの衝撃!教育現場は生成AIとどう向き合うか」が開催された。登壇したのは日経BP 日経BOOKSユニット長補佐の中野淳氏、早稲田大学理工学術院教授で大学ICT推進協議会の前会長である深澤良彰氏。会場には多くの教育関係者が集まり、超満員となった。

会場には教育関係者が多く集まり、超満員となった

生成AIの注意点と「秘書」としての活用

 冒頭で中野氏より、ChatGPTをはじめとする生成AIの概要と教育業界の反応について概要が説明された。

 OpenAI社が提供するChatGPTは、対話形式の生成AIサービス。ユーザーの質問や指示に対してAIからの回答を得るかたちで利用できる。一般的な知識だけでなく、入力した文章の要約・翻訳・校正、プログラムコードの修正、企画の立案ができるほか、表形式のデータ列挙、さらには小説・詩の創作も行うことができる。

 ChatGPTは、自然でいかにもそれらしい文章で回答してくれるが、その内容の正確性にはまだ改善の余地があり、中野氏は「ハルシネーション(幻覚)」とよばれるそれらの不正確な回答に十分注意すべきだと指摘する。

 ハルシネーションの例として、ChatGPTに「小田原評定の由来を教えて」と尋ねた際の回答のようすが紹介された。ChatGPTは「小田原評定は、1590年に豊臣秀吉が北条氏に対して行った対策の一環として、小田原城において行われた大規模な審判・評定のことです。」と回答。その後も、その経緯や背景知識を、もっともらしい文章で続けている。しかし実際には、小田原評定は北条氏が豊臣秀吉軍に対する対応を話し合った会議である。現時点では、ChatGPTは日本の歴史の知識に関して正確な内容を回答できないようだ。ほかにも、最新の大規模言語モデルGPT-4は2021年9月以降の情報に回答することができない。

 このように、一部の内容について大きな課題も抱えるChatGPTではあるが、対話の中で具体的な条件を提示したり、「もっと詳しく」等の指示を行ったりすることで、本当に求めている回答が得られる可能性は高まる。

日経BP 日経BOOKSユニット長補佐の中野淳氏

 さて、教育現場においては、この生成AIとどのように付き合っていくべきなのか。Microsoftは、同社が提供するOfficeアプリケーションにおいて対話型AIを組み込み、より効率的、創造的な操作を可能にする「Microsoft 365 Copilot」を発表した。今後、社会の多くのシーンで生成AIの活用が期待される中、教育現場において「AIを使わない」というのは無理がある、と中野氏は指摘する。そして、AIを使うのであれば、従来多くの授業や課題、試験で用いられてきた一問一答形式の問題だけでは成り立たなくなる、という。

 文部科学省は2023年5月16日、生成AIの利活用に関するガイドラインを今夏にも取りまとめることを明らかにした。また2023年5月29日、国立大学協会は生成AIの利活用について会長コメントを公表。「生成AIの利用を一律に禁止することは求めない」と明記しつつ、学生の安易な生成AI利用がもたらす影響への懸念をふまえ、「明確なルール化を図ることが推奨される」とした。

 中野氏は、教育現場における生成AIの活用について、生成AIが誤った回答をする質問文を見つけ、どの部分が誤りかを説明するなど、授業においてうまく活用できる可能性を紹介した。また、たとえば研修内容の企画案をまとめるなど、生成AIを「秘書」として活用することで校務の効率化に直結することが期待される。いずれにしても、生成AIの得手不得手を正しく理解し、入力する情報の取り扱いにも十分注意する必要があるだろう。

 中野氏は最後に、教育活用の実践事例の収集や情報共有が重要であると締めくくった。

なぜ生成AIは間違えてしまうのか

 次に、早稲田大学理工学術院 教授の深澤良彰氏が登壇。生成AIに関する基本情報や仕組み、そして教育機関における生成AI活用の事例や注意点を紹介した。

 まず深澤氏は、生成AIの仕組みをもとに、なぜ生成AIが間違えてしまうのかについて解説した。ChatGPTの土台となっている「GPT(Generated Pre-trained Transformer)」とは、大量のデータをもとに学習を行う文章生成言語モデルのひとつ。大規模なコーパス(自然言語のデータベース)をもとに、ある単語・文章の次に来る単語を、コーパス中の出現頻度をもとに計算・提示する。つまり、もっとも出現しやすい単語、それらしい単語を予測して、ユーザーが求めているであろう文章を生成するというのが基本的な仕組みであるが、その内容が正しいとは限らない

 また、最新の言語モデルであるGPT-4は2021年9月以降の出来事についてデータをもっていない。こうした仕組みを理解すれば、ChatGPTの回答が必ずしも真実とは限らないのがわかるだろう。深澤氏は、「間違えて当たり前」だと述べた。

早稲田大学理工学術院 教授の深澤良彰氏

教育機関の対応事例と活用方法

 各教育機関は生成AIの利用についてどのような対応を取ればよいのだろうか。教育現場での生成AI利用については、肯定派・否定派さまざまな意見が存在し、AIによる生成文を自動検出するツールも登場しているが、すべての論文に対して検証を行い、どれだけ使用されている場合、成果物として認めないかといった判断を行うのは現実的ではない。深澤氏は「この議論の本質は、電卓やコンピュータ、検索エンジンが普及した際と同じ」だと指摘。「『デジタルネイティブ』のように『AIネイティブ』の子供たちが生まれてくる。そういったとき、生成AIを完全に排除した教育ではなく、AIの強みを生かした教育を検討するべきだ」と述べた。

 ここで深澤氏は『孫子』の一節「彼を知り己を知れば百戦殆からず」を引用。まずは教員自身が生成AIを使ってみることが重要だと強調した。生成AIには何ができて何ができないのか、課題を解かせるとどのような答えが出力されるのか、適切な課題文は何かなど、生成AIを検証・理解することが、生成AIの存在を前提とした教育に変えていく第一歩となる。そのうえで、生成AIから得られるような一般解ではなく、「前回の授業の結果を用いて述べよ」「あなたの経験に基づいて述べよ」のように特殊解を求めたり、下書きや参考文献等を提出させて思考のプロセスも評価対象としたり、プレゼンや生徒同士のレビューによって理解度を評価したりと、教員が工夫を欠かすことはできない、とした。

 そして、生成AIとの向き合い方として、棋士の藤井聡太氏のようにAIを使って日々研究すること、AIを秘書として使い最終的な判断は自分で下すこと、生成AIが出力するもっともらしいことを見破る工夫をすること、の3点にまとめ、講演を終えた。

国内外の事例を参考に、一貫した方針を決める

 講演後のディスカッションでは、中野氏が深澤氏に対し「初等中等・高等教育機関はそれぞれどのように方針をまとめていけば良いのか」と質問。深澤氏は、大学を中心にすでに多くの教育機関が生成AIに関する方針やガイドラインを公表していることに触れ、欧米の大学等を含め国内外の事例を集めることから始めること、そしてそれをもとに、校内で教員ごとに対応の差が生まれないように一貫した方針を定めることが重要だと答えた。


 「生成AIをとにかく使ってみること」というアドバイスを聞いたとき、このテーマはGIGAスクール構想による1人1台端末の整備と似通ったものであると感じた。つまり、新しい技術が広く浸透し、社会で当たり前のものとして活用され始めている中で、教育現場でのみその活用を行わない、あるいは禁止するという選択を取るのは非現実的だ。変化の激しい社会で活躍する人材を育てていくうえで、知識とモラルを身に付け、ICTや生成AIを積極的に正しく活用する能力・姿勢が教員にも求められている。

《多賀秀明》

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