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ICT活用で「アクティブ・ラーニング」と「ルーブリック評価」を促進…さいたま市立土呂中学校

 さいたま市立土呂中学校では、「生徒が学習者としてどのように学ぶのか」という視点で授業が組み立てられている。校長の大原照光先生、「ルーブリック評価の活用」の研究主任でもある成田和基先生(国語)にお話を伺った。

事例 ICT活用
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ICT活用で「アクティブ・ラーニング」と「ルーブリック評価」を促進…さいたま市立土呂中学校
  • ICT活用で「アクティブ・ラーニング」と「ルーブリック評価」を促進…さいたま市立土呂中学校
  • 大原校長先生は「広い意味での基礎学力をしっかりつけ、主体的・対話的で深い学びを通して社会を生き抜く力を身に付けてほしい」と語る
  • 成田先生の国語の授業でのルーブリック評価基準。学習のポイントが生徒たちにも詳細に伝わる
  • 発表では、どの班もまず結論を提示する。その後、本文の表現を引用し、根拠を示しながら説得力をもって伝えることを重視していた
  • それぞれの班の発表スライドも個人の端末で見ることができるため、疑問を感じたところにさかのぼって確認することができる
  • 先生がオクリンクで送ったカードに班の発表に対する評価を打ち込み、共有する
  • 議論が深まらないときには、先生からヒントカードをタイミング良く送ることで活発化する
  • 成田先生はルーブリック評価の課題研究主任を務め、率先して研究に取り組んでいる

 1996年(平成8年)の開校当初から、「主体的に生きる人間の育成」を教育目標としているさいたま市立土呂中学校。ここ数年はICTやルーブリック評価の活用とともに、課題解決学習や話しあい活動等も積極的に取り入れ、「生徒が学習者としてどのように学ぶのか」という視点で授業が組み立てられている。校長の大原照光先生、「ルーブリック評価の活用」の研究主任でもある成田和基先生(国語)にお話を伺った。

  • ◇ルーブリック評価で広い意味での学力をサポート
    ◇カードを書き換え、ベストタイミングでオクリンク送信
    ◇主体性をもって「社会を生き抜く力」をつけてほしい

     
    <プロフィール>

    所在地:埼玉県さいたま市
    学校名:さいたま市立土呂中学校
    生徒数:449人
    1クラスの人数:35人~40人
    特色:2019年度から「さいたま市『アクティブ・ラーニング』型授業」研究指定校。同年より「ルーブリック評価の活用」を一部で導入。話しあい活動があらゆる授業に取り入れられているため、生徒たちは各授業でスムーズに話しあいに入ることができる。

 

ルーブリック評価で広い意味での学力をサポート

大原校長先生:本校の教育目標は、「主体的に生きる人間の育成」です。この「主体的」という言葉は新しい学習指導要領でも引き続き重視されていますが、これから子供たちが生きていくうえで欠かせない資質です。社会に出ると正解のない課題にどのようにトライをするかが問われます。

 新型コロナに関しても、誰も正解がわからない混乱の中から、全世界の大人たちが試行錯誤しながらすでに3年が経ちました。正解が見えない課題は、いろいろな考えをもつ人たちと知恵を出しあい、より良い解を導くことが求められるのです。

大原校長先生は「広い意味での基礎学力をしっかりつけ、
主体的・対話的で深い学びを通して社会を生き抜く力を身に付けてほしい」と語る

大原校長先生:本校の生徒たちの学校評価アンケートを見ると、全体的に肯定的な意見が高いポイントを示しています。ただ、その中で「挙手をして積極的に発言し授業に参加している」という数値が少し低く、課題だと感じていました。

 そのような課題がある中でも、ミライシードのオクリンクを使って自分の意見を表現することが活発にできています。ICT端末を使うことは、子供たちの隠れた表現力をぐっと引き出すために非常に有効です。

--ICT導入による学力への影響はありましたか。

大原校長先生:まず、「学力とは何か」に立ち返る必要がありますね。各教科の定期テストによる点数評価ももちろん大事ではありますが、本校ではそこに至るまでの過程を評価するルーブリック評価は、基礎学力の定着や学力向上に非常に重要だと考えています。

成田先生の国語の授業でのルーブリック評価基準。学習のポイントが生徒たちにも詳細に伝わる

 導入して2年が経ちますが、評価基準が提示されますから生徒にも学習のポイントがわかりやすく、学習意欲が高まります。さらに、基準をもとにABCの評価をつけて終わりではなく、CをBに、BをAに引き上げていくためにどうすれば良いかを先生たちが考え、子供たちを支援することを大切にしています。

 ルーブリック評価を導入したことによって、つまずきのポイント等、ひとりひとりの状況がよくわかるようになり、助言もしやすくなりました。ペーパーテストの結果だけに頼らない、広い意味での学力向上につながっています。

カードを書き換え、ベストタイミングでオクリンク送信

--具体的な授業のようすを教えていただけますか。

成田先生:たとえば、1年生のヘルマン=ヘッセの「少年の日の思い出」では、最初に文章全体を通読してムーブノートで全員の感想や疑問を共有しました。単元の始めにルーブリックの評価基準も確認します。その後、6時限をかけて班ごとに設定した課題について話しあい、発表会に向けてスライドを作成しました。

発表では、どの班もまず結論を提示する。
その後、本文の表現を引用し、根拠を示しながら説得力をもって伝えることを重視していた
それぞれの班の発表スライドも個人の端末で見ることができるため、
疑問を感じたところにさかのぼって確認することができる

 今日の授業はこの単元のまとめの段階で、2つの班がそれぞれの考察をスライドで発表しました。スライド作成では、作品の本文中に出てくる言葉を根拠として、人物像や心情の変化をとらえることを大事にするように伝えています。見ている生徒たちはオクリンクでその発表の評価を送り、発表した班員がそれぞれの班に1人ずつ入り、評価や疑問を聞いてコメントを返します。

先生がオクリンクで送ったカードに班の発表に対する評価を打ち込み、共有する

 ICTの導入以前から、付箋や模造紙等を使って意見の共有していたのですが、付箋ははがれますし、字が汚いと読みづらい。時間もかかることに加えて、保管のうまく出来ない生徒がいることもありました。しかし、オクリンクを利用することで課題のある子もスムーズに入力でき、子供たちの相互評価が一瞬でできて読みやすくなりました。

--生徒同士で話しあいを進めていましたが、なかなか議論が深まらないとき、成田先生がタイミング良く送ったスライドが印象的でした。

成田先生:班の中で評価を伝えあい、話しあう時間として10分確保していたのですが、1年生だとまだなかなか議論が深まらず、少し時間の余ることが多かったのです。そこで、私からの疑問や注目点をヒントカードとしてオクリンクで投げかけ、もう少し深めてほしいところに焦点を当てるようにしました。

 子供たちが発表や話しあい活動をしている間に、そのようすを見ながら臨機応変にオクリンクのカードを書き換え、タイミングを見計らって送ることができるのはとても助かりますし、効果的だと感じています。プリントだと急に修正することはできませんから、これはICTならではですね。

議論が深まらないときには、先生からヒントカードをタイミング良く送ることで活発化する

 国語は生徒たちにとって学ぶ目的がつかみづらい教科でもありますが、私がいつも生徒たちに伝えているのは、生きていくうえで誰もが使う力を国語で身に付けているということです。人と話す、文章を書く、何が書いてあるかを読み取るという力は、どんな仕事をするにも必要です。同じように、ICTを使いこなすこともこれからの生きる力に直結すると考えています。

成田先生はルーブリック評価の課題研究主任を務め、率先して研究に取り組んでいる

 紙媒体とICTはそれぞれの目的によって使い分けていますが、同じ効果なら、これからの社会で不可欠なICTを選ぶようにしています。私自身、教員になってからパソコンを使うようになり、ずいぶん苦労しましたので(笑)。

主体性をもって「社会を生き抜く力」をつけてほしい

大原校長先生:成田先生の国語でもありましたが、本校では、すべての教科で最後に「振り返りの時間」を設けています。振り返りは非常に重要です。個人の考えをもち、集団で話しあって共有し、その活動を通してもう一度自分の考えを見直す「個→集団→個」のサイクルが大事だと考えています。

成田先生:また、その振り返りを文章に表現することを積み重ねていきますから、3年生になるころには驚くほど文章を書けるようになります。原稿用紙1枚くらいはサラリと書けるようになりますね。

大原校長先生:子供たちにとってICT端末は身近なもので、使うことはまったく苦ではありません。教員が子供たちに教えてもらうこともあるくらいです。端末が入ったことで子供たちは表現方法の選択肢が増えました。発表や手書きの作文が苦手でも、タイピングするのは得意な子もいます。学習意欲が以前より高まった子も少なくありません。個別最適な学びにフィットするツールだと思います。

 本校でアクティブ・ラーニングとルーブリック評価の研究が始まって5年を迎えます。どちらも全教科で行っているので、先生たちにも子供たちにもかなり定着してきましたし、ICTはこれらを促進しています。具体的な点としては、「話しあい活動や発表活動に対する苦手意識」「自分で考えて主体的に学習に取り組む」という2つの課題を克服しているという手応えがあります。

昨年まで小学生だった生徒たち。1年間でそれぞれの意見を出しあえるようになってきた

 子供たちは中学校を卒業すると、3年後には18歳、成人になります。成人として社会に関わっていくとき、社会を生き抜く力を身に付けるには、「主体性」が重要になります。

 きちんと自分の考えをアウトプットし、多様な意見を聞き、自分の考えを再構築する。自分と相反する意見をもつ相手との議論の中で、その時々の着地点を見つける。そうすることでさまざまなアイデアや納得解が生まれ、社会を生き抜く力がついていきます。私は、土呂中学校の生徒たちにはそのような力をぜひ身に付けてほしいと願っています。

撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 取材・文/太田美由紀
※取材の内容は2023年3月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。

 ベネッセでは、ミライシードを活用し教育をアップデートしようとチャレンジする先生・組織を応援し、その取組みを全国に広めたいという思いから、「ミライシードサミット2023」の開催を決定。「ミライシードサミット2023」では、基調講演、ミライシードアワード2022授賞式・アワード受賞者によるユーザーセッションを予定している。

 「ミライシードサミット2023」の概要は下記のボタンより確認してほしい。

ミライシードサミット2023
《編集部》

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