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教員のつながりや交流からICTの日常活用率が13倍に、「小金井モデル」の挑戦

 小中学校での1人1台端末の整備が進み、いかに活用するかというステージに移っている。東京都小金井市がスタートした「小金井モデル」の1年間の取組みや成果、今後の展望をレポートする。

事例 ICT活用
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  • 「まなびポケット」児童・生徒日常活用率
  • 生徒活用ログの変化
  • 小金井市教育委員会 学校教育部指導室 西尾崇指導主事
  • NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進室 塩入彩夏氏
  • NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進室 仮屋園都萌氏
 GIGAスクール構想の前倒しにより小中学校での1人1台端末の整備が進み、現在はいかに活用するかというステージに移っている。東京都多摩地域東部に位置する小金井市は、東京学芸大学を有する教育熱心な都市。同市が推進する「小金井モデル」の1年間の取組みや成果、今後の展望等をレポートする。

産学官の三位一体で取り組む「小金井モデル」



 2021年4月20日、小金井市と学芸大学、NTTコミュニケーションズの三者は「GIGAスクール構想による個別最適化された深い学び等の実現に関する連携協定」を結び、産学官の三位一体による実証事業「小金井モデル」をスタートした。小金井市教育委員会 学校教育部指導室 西尾崇指導主事は、「小金井市教育委員会ではGIGAスクール構想による個別最適化された深い学び等の実現に向けて1人1台端末の活用を進めています。この推進に欠かせないのがICTの日常活用ですが課題が3点ありました。まず教員や学校によって活用状況に差があること、次に教員研修の実施が環境整備に追いついていないこと、そしてネットワーク環境や機器等の環境面の整備です」と語る。

小金井市教育委員会 学校教育部指導室 西尾崇指導主事
小金井市教育委員会 学校教育部指導室 西尾崇指導主事

 こうした課題を背景に生まれた「小金井モデル」では、まずICTの日常活用の推進が目標となった。NTTコミュニケーションズは「まなびポケット」を通じて、協働学習ツールやドリル教材、プログラミング等の豊富なコンテンツを提供し、同時に多様なコンテンツをしっかりと使えるようサポートの役割を担った。

さまざまな施策に取り組んだ1年間



 小金井市は、この1年間にさまざまな施策を実行してきた。まずは各学校の人的体制の拡充。各学校1名のICTリーダーに加え、各学年に1名のICTサポーターを配置した。これにより学年を通じた横のつながりが生まれ、ICTの活用を推進する体制ができたという。

 ICTサポーターの導入による学校現場の変化はすでに現れている。小金井市立小金井第三小学校で次世代教育推進委員 校内ICT活用推進委員長を務める立花黎先生は「各学年のICTサポーターが、ICTを使った新しい授業スタイルのアイデアを出して先行して実施し、その試みで得られた成果と課題に基づきながら、他の先生たちが実践するというのが通常の流れです。また、2020年度からのICT活用を通じて、実践した事例について学年間で共有したり、先生同士で教えあったりする文化がすでにできあがっています。そのため、ICTサポーター以外の先生が自分なりのアイデアに基づいてChromebookや『まなびポケット』を率先して使うケースもかなり増えています」と紹介した。

「まなびポケット」の詳細はこちら

 さらに活用事例を学校内外に共有できる仕組みを構築した。「まなびポケット」に含まれる「BANSHOT(バンショット)」では、スマートフォンやタブレットのカメラを使って授業の記録を共有できる。これを利用して他校の先生でも活用事例の閲覧が可能になった。「先生方は、学年や科目、単元ごとに、狙いや授業の流れをはじめ、このコンテンツをこう使ったという事例を書いています。今は他の先生方の多くが、こうした事例を参考に自らの授業で試みています」とNTTコミュニケーションズ スマートワールドビジネス部スマートエデュケーション推進室 塩入彩夏担当社員は振り返る。

NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進室 塩入彩夏氏
NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進室 塩入彩夏氏

 また同市の公立小中学校全体におけるICTの活用推進を目的として、全12回にわたって開催された「次世代教育推進委員会」には、小金井市教育委員会とNTTコミュニケーションズ、各校のICTリーダーが参加し、進捗報告や先生同士の活用状況の共有、意見交換が行われたという。

 一方、ICTを苦手とする先生には取り組みやすい機会を創出。「まなびポケット」のCBT(Computer Based Testing)や、学級経営アセスメントツールであるWEBQU(ウェブキューユー、QU: Questionnaire Utilities)を使ったオンライン学習を進めたところ、CBTは91.8%とほとんどの先生方が利用した。授業におけるICT活用方法を知るために、小金井市立南中学校での公開授業や個別学習教材等を実際に触れて学ぶハンズオン形式のワークショップも開催された。

ICTの日常活用率が約13倍へ、190もの活用事例が集積



 取組みの成果は早くも数字に現れた。NTTコミュニケーションズ スマートワールドビジネス部スマートエデュケーション推進室 仮屋園都萌担当社員は「4月の連携協定のスタート時は、小金井市の小中学校全体におけるICT日常活用率は3.21%でした。これが9月には最高値の41.22%とおよそ13倍になりました。夏休み期間や行事の多い11月は授業時数が少ないので活用率は少し下がる傾向にありますが、現在は全体的に上向きです」と語る。

NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進室 仮屋園都萌氏
NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進室 仮屋園都萌氏

「まなびポケット」児童・生徒日常活用率
「まなびポケット」児童・生徒日常活用率

 100事例を目標としていた活用事例の作成は今、全教科合わせて190と倍近くに達している。仮屋園氏は「取組み開始から数か月が経過すると、先生方が自発的に共有するマインドに変わり、事例が自ずと集まるようになりました。『BANSHOT』には小金井市のグループがあり、小金井市内の他の学校ではどのような活用をしているのか可視化されています。そこでの交流から先生方の意識が変わっていったと思います」と先生同士の交流が成果に結び付いたことを実感していた。

ICTをまず使ってみる



 2021年4月の段階では先生の間でも、急に連携協定が始まり端末が配られてもどうしたら良いかわからないといった空気もあったという。それが夏休み前には、「とにかく使ってみよう」となり、協働学習ツールの取組みが複数校で始まった。徐々に先生たちが慣れることで、ようやく授業に導入するイメージができ、そこから「もっとこう使ったら良いんじゃないか」といった会話が増えたという。塩入氏は「実際に使ってみることが重要です。先生たちの間では、こうした授業でこんな良さがある、こんな業務の負担が軽減されるという声をきっかけに活用の幅が広がります」と実践の大切さを説明した。

 教員サイドからも、効果を実感する声が寄せられている。立花先生は「GIGAスクール構想に則ったICT活用の取組みを進める中で、数多くの教育用アプリケーションに触れ、授業での生かし方を考えて実践し、効果を確認するという貴重な機会を得ることができました。その学習プロセスの中で、先生たちの間で互いにアイデアを出しあったり、実践の結果を報告しあったり、コンテンツの活用法を教えあったりする文化も醸成されたように感じています。これまでの取組みを通じて学んだこと、そして育まれた文化を、児童の主体的な学び、あるいは学びの高度化にフルに生かしていきたいと考えています」と語る。

 校務軽減につながったICT活用事例が他校に広がったケースもある。「スクールタクト」を活用したICTによる健康観察では、紙への記入やヒアリングで日に20分かかっていた生徒の健康チェックを、生徒自身が入力し、先生が一覧でチェックすることで、わずか2分に短縮。この事例をもとにNTTコミュニケーションズが作成した「健康観察マニュアル」は現在、他校でも活用されているという。

 また、ドリル教材を活用することでプリント作成の時間が削減され、進捗が速い生徒への追加分のプリント配布もとてもスムーズになった。仮屋園氏によれば、この活用例も先生同士の共有によって急速に広まったという。

自発的に利用する児童・生徒



 児童・生徒の活用ログでは当初、協働学習コンテンツを中心に授業内での利用にとどまっていたが、現在ではドリル教材等、他のコンテンツの利用が授業外でも増えているという。特に、児童・生徒が自主的に楽しく学べるコンテンツは人気があるそうで、児童・生徒自身が気に入ったものを先生が知らないところで利用し、逆に先生が児童・生徒から教わるケースもあるという。

生徒活用ログの変化
生徒活用ログの変化

 「生徒会での活用から先生に波及した中学校の事例がありました。ICTの活用がなかなか進んでいない学校でしたが、生徒会で生徒自らがICTを使って議事録や計画を作って先生に共有していきました。すると、こんな風に生徒が使っているのかとなり、今度は先生も使うように。生徒から先生へという流れは面白いですね」と塩入氏は好事例を紹介する。先述の「スクールタクト」の健康管理では、自由記入欄に生徒たちが書き込み始めたのを契機に、生徒と先生の交換日記的な役割も生まれたという。大人だけでは思いもよらない場面での活用が広がる可能性もある。

「小金井モデル」は次のステージへ



 現在、小金井市では1年間の取組みの成果を踏まえ、今後どのような施策を打つかを検討しているという。

 西尾指導主事は、今後の展望について次のように述べた。「小金井モデルは、1人1台端末の整備および活用の充実だけが目的ではありません。これからの時代を生き抜くために必要な資質・能力を育成するため、主体的・対話的で深い学びの実現や各教科の本質に迫る授業の実践、課題発見学習や体験学習等の充実を図っていきたい。そして、教師主導型の授業から児童・生徒が主体的に学ぶ授業への変革を実現するためには、さらに1人1台端末の効果的な活用が必要です。その活用から広がる学びの可能性を、全教員で共通理解することも必要でしょう。今後もICTの効果的な活用により、誰一人取り残されることのない豊かな学びの実現という視点を軸に、授業の在り方を模索していきます」

 文部科学省ICT活用教育アドバイザーで学校現場でのICT活用の取組みに詳しい情報通信総合研究所 特別研究員の平井聡一郎氏は、「小金井モデル」を次のように評価し、期待を寄せる。

 「GIGAスクール構想による教育改革は2年目となる2022年度の取組みが教育改革の正念場となり、自治体単位での横展開された成功モデルが求められる。そこで小金井市教育委員会のGIGAスクール構想推進『小金井モデル』が持続可能なモデルとして参考となるのである。

 『小金井モデル』の特徴はシステマチックな点にある。教育改革を教育委員会だけでなく、大学、企業と連携し、それぞれの強みを生かしているのである。つまり、単発な改革でなく、組織として取り組む持続可能な改革なのである。たとえば、アプリケーションの選定から導入研修はNTTコミュニケーションズ、指導力向上に向けた本質的な教員研修やプラン作成は学芸大学という連携ができている。このような連携では、どうしても外部に依存しがちになることが懸念されるが、小金井市は、ICT活用ログで学校ごとの活用状況を分析することで、外部のサポートの比率を段階的に少なくし、学校が自走できるように工夫されており、他の自治体の参考となる。現在は量的なデータが中心であるが、今後、質的な分析に取り組むことで、さらに成果をあげるだろう。

 さて、小金井市の教育改革の今後の課題として、授業以外の教育活動全体でのICT機器活用があげられる。つまり、児童生徒、および先生の日常的なICT機器活用である。活用の進んでいる学校ほど、特別活動を中心に授業以外の活用が進んでいる。これは、児童生徒の家庭での活用も同様で、端末持ち帰りの目的は宿題だけではなく、連絡帳的な利用といったコミュニケーション、スケジュール管理等の日常的な活用である。このような端末の普段使いが進むことで、活用の幅が拡がり、小金井市の学校DXがさらに進むことが期待される

 この「小金井モデル」の詳細については、2022年3月30日に「ICT活用の日常化への道のりを大公開!『まなびポケット×学校×教育委員会』のシナジー効果で活用率が13倍!課題と突破口とは?」と題した教育委員会限定のウェビナーが開催される予定だ。実際に現場に携わる担当者も数多く登壇することから、よりリアルな声が聞けるだろう。コミュニケーションの基盤が整いつつある「小金井モデル」の進化に注目したい。
(セミナーは終了しました)

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《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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