教育業界ニュース

新学年2週目には年次更新完了…「School Data Sync」でICT利活用のスタートダッシュ

 愛媛県松山市では、多くの労力を費やす年次更新の解決に向けMicrosoftの「School Data Sync(学校データ同期、SDS)」を採用。SDSの導入背景や年次更新の流れ、現場でのメリットを松山市教育委員会に聞いた。

事例 ICT活用
PR
新学年2週目には年次更新完了…「School Data Sync」でICT利活用のスタートダッシュ
  • 新学年2週目には年次更新完了…「School Data Sync」でICT利活用のスタートダッシュ
  • 左からアイ・エヌ・エス(INS)の松下真也氏、松山市教育委員会の溝田祐一氏、小田浩範氏、美藤貴氏
  • 園田学園女子大学 人間教育学部・教授 堀田博史氏
  • 指導主事の小田浩範氏によれば、松山市の小中学校ではICT利活用が「当たり前」のものになっているという
  • Teamsを活用した生徒同士の交流のようす
  • 授業内外で実施しているReading Progressを活用した音読練習のようす
  • オンラインで開催された教員研修のようす
  • 新型コロナウイルス感染時の連絡もFormsで実施

 GIGAスクール構想による児童生徒への1人1台端末の整備がほぼ完了した今、多大な労力を費やす年次更新は、学校や教育委員会の切実な課題のひとつだ。Microsoft 365 Educationを基盤に教育ICTの活用を進める愛媛県松山市では、その解決に向けて児童生徒の名簿情報を用いたアカウント登録・管理、Microsoft Teams for Education (以下、Teams)の運用・管理を可能にする「School Data Sync(学校データ同期・以下、SDS)」を採用した。

 今回、松山市教育委員会 松山市教育研修センター事務所の情報化推進担当・指導主事 小田浩範氏、同 美藤貴氏、ICT環境整備担当・主査 溝田祐一氏、さらに同市のGIGAスクール端末整備では基本設計を、導入後はシステム等のサポートを担うアイ・エヌ・エス(INS)公共システム事業部部長の松下真也氏に取材を実施。SDS導入の背景や年次更新の流れ、現場でのメリットを伺った。

左からアイ・エヌ・エス(INS)の松下真也氏、松山市教育委員会の溝田祐一氏、小田浩範氏、美藤貴氏

 また文部科学省ICT活用教育アドバイザーとして全国の小中学校のICT活用に明るい園田学園女子大学 人間教育学部・教授の堀田博史先生に、松山市の取組みの注目ポイントや学校でのICT活用におけるアドバイスを伺った。

園田学園女子大学 人間教育学部・教授 堀田博史氏

端末持ち帰りによるシームレスな学びを実現

--まずは松山市におけるICT環境や端末選定の経緯を教えてください。

小田氏:松山市には小学校が53校、中学校が29校あり、児童生徒数は約38,000人です。1人1台端末はWindows端末を採用し、小学校は富士通製、中学校はNEC製です。クラウドを活用した学びを前提に、これまで利用していた教材がそのまま使えることや、校務でも利用しているため新たな使い方を学ばなくても良いことがWindowsの選定理由です。2020年度から開始した端末整備は2021年2月末に完了し、学校での活用を始めました。同年12月には端末の持ち帰りを試行し、2022年2月からは本格的に実施しています。試行では事前に家庭学習で効果的な活用法を学校にお伝えし、その後、試行中に各校で実施したことをまとめてフィードバック、ホームページにも情報を掲載しました。

指導主事の小田浩範氏によれば、松山市の小中学校ではICT利活用が「当たり前」のものになっているという

GIGAスクール構想の現在地と各学校や教育委員会が抱える課題

堀田先生:GIGAスクール構想は、いかにICTを活用するかに焦点が移りました。課題は、学校間・学校内で端末の活用に差があること。中学校区内の小学校間で活用に差がある場合は授業を進めにくくなるので、中学校区ごとに授業での端末活用の研修等が必要です。校務では、保護者へのお知らせ配布等がスムーズになりましたが、課題は年次更新です。学年の繰り上げ等、さまざまな教務・校務の情報を小学校の学年間および中学校に引き継ぐため、年度末には大量の作業が発生します。

コミュニケーションツールとしての活用が進む

--松山市内の小中学校ではどのようにMicrosoft 365を活用していますか。

小田氏:小規模校同士など、教室と教室をつないで実施するオンライン授業にTeamsを使っています。コロナで自宅待機の際には、家から授業に参加することも可能になりました。また、コロナで体育館に集まれない中、校内放送の代わりに双方向のやり取りができるTeamsを活用し、始業式や終業式、集会活動等も行いました。長期休みには、子供たちは家にいながら、先生が学校からチャットとファイル共有を利用して作文を指導した例もあります。

美藤氏:私は昨年まで学校現場にいました。コロナ禍のオンライン授業を想定した「Teams練習」では、時間を決めてご家庭の環境からビデオ会議に入る練習をしました。先生たちが教室から、家にいる子供たちとじゃんけん等のアクティビティをするのは新鮮でした。コロナ禍で登校できない時期には、クラス全員とビデオ会議をつないで子供たちの笑顔が見られて、先生たちも安心しました。

Teamsを活用した生徒同士の交流のようす

小田氏:他にも多くの活用がありますが、特に「Reading Progress(※)」は授業だけでなく、家での音読練習にも利用しています。子供たちはただ読むのではなく、練習してから録音して提出するなど、学習の充実につながっています。

※Reading Progress:Microsoft Teams for Educationで利用できる無料ツール。日本語や英語の音読が流暢にできているかをAIが自動採点し、個別の指導に役立てることができる。

授業内外で実施しているReading Progressを活用した音読練習のようす

コミュニケーションツールの利用で話す力を引き出す

堀田先生:授業でのMicrosoft 365の活用や端末持ち帰りによるシームレスな学び、Teamsによるフォローアップといった松山市の取組みは良い事例です。対面では人数や時間、空間の制約がありますが、クラウドでは友達のアウトプットをいつでもどこでも見られます。また授業ではあまり話さない子供がオンラインでは活発に話すなど、コミュニケーションツールによって「話す力」を引き出すケースも見受けられます。

校務のデジタル化が現場の負荷を軽減

--Microsoft 365の活用で、先生の働き方にはどのような効果がありましたか。

小田氏:Teamsによる研修や会議で先生の移動時間が節約されましたし、OneDriveはどこでもデータにアクセスして編集や共有が可能なので、USBメモリを持って歩かずとも良くなりました。

オンラインで開催された教員研修のようす

 紙で集めていた保護者向けのアンケートもFormsで実施することで、省力化できました。また、手順書を作成して配り、市内の全学校で、コロナ感染時に家庭からFormsに入力する仕組みを作りました。入力されるとPower Automateで学校ごとのExcelに一覧として情報がまとまり、Teamsにメッセージを自動送信して学校内で共有できます。同時に市内全校の状況がExcelの一覧にまとまり、教育委員会で確認できるようになりました。これまでは毎日、学校が情報を取りまとめて教育委員会に報告していましたが、自動化で現場の負担が減りました。今では欠席連絡に応用する学校もあります。

新型コロナウイルス感染時の連絡もFormsで実施

ICTで校務を自動化するメリットは大きい

堀田先生:Teams上での職員会議、OneDriveの活用等は利便性が高く、「紙が良い」という声があっても逆行せずに推進してほしいと思います。松山市はコロナ禍での保護者連絡をFormsで行い、集計や情報共有をPower Automateで自動化しています。こうした自動化の併用は、校務の情報化推進にはベストマッチで、現場のメリットも大きいと思います。

誰もが利用できるSDSで年次更新の負担を軽減

--松山市では、ICT端末やアカウントの年次更新にどのような課題がありましたか。

小田氏:GIGA端末導入前は、学校ではパソコン室だけを運用していて名簿更新も学校にお任せしていましたが、運用開始の足並みは揃っていませんでした。GIGA端末の導入後は、日常的に活用するツールとして新クラスですぐに使えるかどうかがポイントです。初年度は、2月に活用が始まり3月には年次更新が来ました。新しいクラスが決まるのは4月に入ってからで、そこからデータを集めて更新するため、まさに時間との戦いでした。

--そこでSDSが導入されたわけですね。SDSを選択するに至った経緯を教えてください。

INS 松下氏:最も重視したのは保守性と継続性です。最終的には教育委員会や学校が自らできるようにしたい。その観点で最適な方法を探し、Microsoft純正のソリューションであるSDSを選択しました。

School Data Sync(SDS)とは

School Data Sync(学校データ同期、SDS)は、学校の管理者が学校・生徒の名簿情報のデータをMicrosoft 365に読み込むための無償のツール。生徒や教員のMicrosoft 365アカウントの作成や履修情報をベースとしてTeamsのチームを作成することができる。また、保護者情報をCSVファイルで取り込み、生徒アカウントと紐づけて同期することも可能だ。


--SDSを活用した年次更新の手順や作業内容等を教えてください。

小田氏:まず3月に小学6年生が、進学する中学校をFormsで自ら入力することから始まります。次に、その情報を教育委員会で取りまとめて中学校に送り、そのデータに新しいクラスを入力して戻してもらいます。2022年度の場合は、その締切りが4月7日(木)で、金・土・日曜日に名簿を更新し、11日(月)には学校にお渡しして運用ができるようになりました。また新クラスによるTeams上のチームは事前にこちらで作成して、各チームを先生がアクティブにすればすぐに利用できるようにしました。今は転出・転入もSDSの名簿を整理するだけでチームに自動で反映されます。

新学年早々のアカウント運用開始を実現した、松山市の年度更新スケジュール

INS 松下氏:初年度は学校から集める名簿や提出するものが非常に多く、1つのExcelファイルにたくさんシートがあるものを学校にお渡しして、すべてのデータを入力してもらいましたが、入力・確認するものがあまりに多く、ミスが大量に発生して修正に時間を奪われてしまいました。またMicrosoft 365以外の他のクラウドサービスや既存のソフトウェア等も、それぞれが形式の異なる名簿情報を持ち、すべてを更新する必要がありました。その反省から2年目は、Formsで6年生の進学先を入力するなど、なるべく最小限の情報だけを学校に入れてもらい、名簿の形式も工夫して目標期間内で終わるようになりました。

SDSを活用しての年次更新で使用する名簿の例

 こうした年次更新で最も重要なのは、やはりMicrosoft 365と連携して名簿の同期ができる、SDSのような純正ソフトの存在です。SDSでなければ手動や他のプログラムを使って行わざるをえません。すると、さらに手間がかかり専門的な作業になります。スクリプトやプログラムを独自で組む場合もあると思いますが、専門の技術者がいなければできません。誰もが持続的にできるのがSDSのメリットです。

INS 松下真也氏は、教育委員会・学校現場でスムーズに年次更新を行えるようになることが目標だと語る

SDSで正確かつ短期間での年次更新が実現する

堀田先生:従来から年次更新は大きな課題で、手作業での間違いも多く発生し、新学期早々にIDが使えないといった問題が起こっていましたが、SDSを導入した松山市は新学期の早い時期での運用が実現できています。SDSは時間短縮とともに人の手によるミスを防止します。個人情報保護の観点から、教育委員会や各学校のICT担当、ICT支援員が独自に年次更新を行う場合も、SDSは心強いと思います。

ネクストGIGAに向けてひとつずつ進む松山市

--今後のICT環境整備や活用について展望を教えてください。

溝田氏:GIGAスクール構想で整備した端末は5年ほど経つとリプレイスの時期が来ます。また松山市は以前から校務支援システムも学校事務の意見を取り入れながら改良してきましたが、それも再構築の時期です。ネットワークも校務系と学習系をこれまで分離していましたが、今後は統合に向かうので、どう対応するかを考えていきます。

小田氏:活用は日常化していますが、今後は授業での有効活用を進めたいです。今までと同じような授業の中でICTを活用するだけではなく、ICTを活用することで授業をどう改善していくかがとても重要だと考えています

--教育データの利活用についての展望を教えてください。

小田氏:まずネットワークの統合とデータの統合からですね。そこから、子供たちの状態がひと目でわかるダッシュボード機能によって不登校傾向になりそうな子供に気づく、というように、先生が今まで勘や経験で判断していたものをデータで裏付けして、経験の浅い先生にも役立てられれば良いと思います

ネクストGIGAは「端末のリプレイス」と「教育データの利活用」からスタート

堀田先生:今後は端末のリプレイスに向けて、従来の端末やアプリの見直しが始まります。この2年間の子供たちや教職員のようすを踏まえて検討し、松山市のような好事例を参考にしてほしいと思います。また教育データの利活用では、学習やコミュニケーションのログ、アンケートや成績データ、保健室等の多様なデータを組み合わせて、いかに子供たちへの支援に役立てるか。教員の指導を改善できるデータをわかりやすく可視化できると良いでしょう。

取材後記

 松山市は授業や校務の課題解決に向けて、実現可能性を自ら模索して合理的に選択・導入、その後も指導主事が研修やサイトの情報発信等で細やかなサポートを継続している。こうした姿勢や活動があれば、教職員の働き方はさらに改善され、子供たちの安全・安心な学習環境は実現に向かうのではないだろうか。今後も松山市のネクストGIGAにおける動向を注目したい。

School Data Sync(SDS)を詳しく見る
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

+ 続きを読む

この記事はいかがでしたか?

  • いいね
  • 大好き
  • 驚いた
  • つまらない
  • かなしい

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top