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ICTを正しく自律的に使いこなす…デジタルシチズンシップ教育の重要性

 サイバーフェリックスは2020年10月30日、鹿児島市教育委員会教育部長 辻慎一郎氏および情報通信総合研究所特別研究員 平井聡一郎氏を招いたウェビナー「DQ学習とデジタルシチズンシップ教育の重要性」を開催した。

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「デジタルシチズンシップ教育の重要性」鹿児島市教委 辻慎一郎氏・平井聡一郎氏対談10/30
  • 「デジタルシチズンシップ教育の重要性」鹿児島市教委 辻慎一郎氏・平井聡一郎氏対談10/30
  • 社会の変化に常に対応し続け、自ら判断してデジタル社会を安全に行動できる自律的な市民を育成するデジタルシチズンシップの教育が求められている
  • 鹿児島市のDQ取組み。情報モラル教育をバージョンアップ
  • DQ学習のサイクル
 サイバーフェリックスは2021年10月30日、鹿児島市教育委員会教育部長として市内小中学校の情報モラル教育振興に取り組む辻慎一郎氏および、有識者として先導的な教育ICT環境構築・支援に取り組む情報通信総合研究所特別研究員の平井聡一郎氏を招いたウェビナー「DQ学習とデジタルシチズンシップ教育の重要性」を開催した。GIGAスクール構想により1人1台端末が実現した今だからこそ求められる、デジタルを正しく自律的に使いこなせる市民を育むデジタルシチズンシップ教育について、その重要性と実際の導入の仕方、それによってもたらされる学校の変化などについて議論した。

 辻氏はDQ(デジタルインテリジェンス)学習を目的に、鹿児島市内の全小中学校で情報モラルを育むオンラインプラットフォーム「DQ World」を導入した市の取組みを紹介。また、埼玉県で行われた実際の授業事例や、サイバーフェリックスが展開する「DQ World」の概要なども示され、デジタルシチズンシップ教育の取り組み方について方向性が検討された。

デジタル市民に必要な知識と判断力が身に付く「DQ World」



 全国の小中学校で1人1台端末の整備が整い、学校現場でいよいよICTが活用され始めている。そこで、デジタルならではのリスクやトラブルなどから子供たちを守るために、安全に正しくICTを使いこなす力を身に付けるデジタルシチズンシップ教育に注目が集まっている。DQ(デジタルインテリジェンス、IQのデジタル版)は、2018年にOECD/IEEE/DQ Institute等の国際機関によって共同宣言され、2020年にIEEEにより正式にデジタルスキルの国際規格として認定されている。

 サイバーフェリックスが国内で普及を進めている「DQ World」は、そうしたデジタル市民に必要なデジタルシチズンシップの8つのスキルを、子供たちがゲーム感覚で楽しく学べるオンライン教材である。同教材で身に付く力は、「1:スクリーンタイムの扱い」「2:プライバシーの扱い」「3:ネットいじめの扱い」「4:デジタル市民のアイデンティティ」「5:デジタルフットプリントの扱い」「6:サイバーセキュリティの扱い」「7:クリティカルシンキング」「8:デジタル共感力」の8スキル。

 「DQ World」はこれに基づいてカリキュラムが構成され、子供たちは動画やクイズなどを楽しみながらステージをクリアしていき、ゲーム感覚でデジタル市民として必要な知識と判断力を身に付けられるようになっている。ウェビナーでは、同教材を導入している鹿児島市の取組みや、その効果的な活用の仕方などが発信された。

自ら考え行動する子供主体の学びへ



 冒頭に登壇した平井氏は、「今なぜデジタルシチズンシップ?」と題して講演。GIGAスクール構想が進む中で機器整備がようやく終わり、いよいよ機器活用のフェーズに移行してきたと述べ、そこで子供たちに必要になるのがICTを正しく使いこなす情報リテラシーの技術であるとした。

 平井氏は子供たちが1人1台のデバイスを「まず・とにかく・いつでも・どこでも・自由に」使うのが重要だが、端末を持ち帰って授業外で活用する際に子供たちに使い方をゆだねることになるため、端末を自由に使える環境整備に加えて、情報リテラシーが求められると説明。従来の情報モラル教育は、たとえば端末の使用時間を決めるなど制限することで安全を確保するような他律的なものであったが、変化の激しいデジタル化された社会を生きるためには、そうした古いルールではカバーしきれないと指摘。社会の変化に常に対応し続け、自ら判断してデジタル社会を安全に行動できる自律的な市民を育成するデジタルシチズンシップの教育が求められていると語った。

 そして、そうした他律から自律への理念は、先に改訂された新学習指導要領にもあてはまっていると説明。新学習指導要領が目指す「これからの社会がどんなに変化して予測困難になっても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、…(略)」という姿は、まさにデジタルシチズンシップと理念を共有しており、同じものを目指しているとした。そのうえで、デジタルシチズンシップを学校教育に取り入れることをきっかけに、一斉教授・知識伝達型の学びから子供たち主体の学びにマインドチャンジが可能だと述べ、そうして学びを変えることにより学校を変え、子供の未来を変えることができると力強く語った。
社会の変化に常に対応し続け、自ら判断してデジタル社会を安全に行動できる自律的な市民を育成するデジタルシチズンシップの教育が求められている

「DQ World」活用により自ら学び取る授業へ変革



 次いで、辻氏は「鹿児島市のDQ取組みの現状−新しい時代に必要な情報モラルをDQ Worldで育てる—」と題して講演した。情報モラルは新学習指導要領においても学習基盤となる資質・能力であると位置付けられていることを紹介し、それをふまえて、小・中学校117校、児童・生徒約3万3,000人を抱える鹿児島市では、令和3年度からEdTech導入補助金を活用して市内の小中学校全校に「DQ World」を導入したと説明した。

 これまで行ってきた情報モラル教育に加えて、さらに1人1台時代の新しい情報モラル教育にバージョンアップを図り、インターネット活用を前提としたデジタル社会を生きるために必要な資質・能力を明確にして包括的に習得することを期待している。具体的な「DQ World」への期待と、新しい情報モラル教育が目指すものとして、「育成したい情報モラルの内容を明確にする」「個別・学校単位でのスコアを指導に生かす」「保護者との連携の取組みをさらに充実させる」「得意な教員の百歩から教員全員の一歩による指導へ」「教師が教える学校から子供が学び取る学校へ」を示した。

鹿児島市のDQ取組み。情報モラル教育をバージョンアップ
 「DQ World」が情報モラルにおける8つのスキルを明確化し、それらの項目について、それぞれ学校・個人単位でスコアを提示することにふれ、スコアというエビデンスに基づく指導改善ができることや、保護者ともスコアを媒介により連携を深められると期待を述べた。情報モラル教育は現場の教員がどう指導すれば良いか迷ったり偏ったりしがちだが、「DQ World」はその点とっつきやすく、わかりやすいうえ、子供が自分のペースで学べることから、自ら学び取る授業への変革に役立つのではないかと述べた。

変化に対応し続けて自律する力を身に付ける



 その後、辻氏、平井氏による対談が行われた。新しいものを導入するのに抵抗感を示すことも多い学校現場だが、鹿児島市ではどのように導入したのかという話題について、辻氏は「DQ World」の良さとして個別最適な学びができる一方で、授業で協働的な学びにも使えることをあげ、授業内でも家でも休み時間でも広く活用できることを校長先生方に示して受け入れられたと語った。そのうえで、より多くの先生が始めの1歩に踏み出せるよう、先生方の共通の土壌である道徳の授業での活用を例示したという。

 「新しいことを始めるとき大事なのは最初の1歩で、1歩が踏み出せると次の2歩3歩につながるので、1歩目のハードルは低く設定している」と辻氏。それには平井氏も「そうやって1つの事例やモデルケースを示すことで、方向性をもったスモールスタートを提示すればだんだん広がっていく」と賛同した。鹿児島市の「DQ World」の取組みは、9月に全校への導入が始まり、今後はオンライン・オフラインでのセミナーやワークショップを開くことを検討しているという。

 また、今後「DQ World」をさらに広めて効果を高めるための取組みとしては、辻氏は「子供が自分のペースで学習する個別最適な学びを進めていき、それをもとに授業で協働的な学びを行ってさらに深めていく。先生が決まりを作って守るよう指導するのではもう現状に追いつかない。子供たちが自ら学んでいく中で自分たちの力でルールなどを作って、自分を律していく教育につなげられたら」と語った。

 平井氏は「自らコントロールする自律ができないと変化が激しい時代に生き抜いていけない。先生方や保護者にもデジタルシチズンシップが必要だと思う。規範意識からダメと諭すよりも、個人情報保護法といった法律や、インターネットの仕組みなどをわかったうえで判断することが重要で、こうしたネットワークの知識の理解を大人もともに進めていくのが大事」だと語った。

DQ学習を整理して各学校・授業に合うようローカライズ



 そのうえで、実際のデジタルシチズンシップ教育の授業事例として、埼玉県川越市の小学校で行われたクリティカルシンキングの授業が紹介された。これは、ネットのフェイクニュースを見て、嘘か本当か見抜くために、情報の真偽を判断する手法を学んだもの。なぜこれが本当なのか、または嘘なのか、どうすればそれを見抜いて確認できるのかといった手法を子供たちがネット検索などを駆使して調べ、考え、話し合っていく。それに伴い、インターネットの知識や技能なども併せて学べるという。

 こうした授業では、先生が一方的に教えるのではなく、子供と一緒に考えるオープンエンド(結論を出さない)のやり方が多くなると言い、実際に平井氏が行った授業でも、「混沌とした時代になり、物事は簡単に決めつけられない、世の中は非常に複雑だ」と終わったこともあったという。

 辻氏はこれを受けて、「こうした事例は取り入れやすくて良いと思う。教科分けが難しく、また、教育現場もカツカツのため、どの時間でやるのか悩むところだが、ちょうどいま来年度の課程を編成している時期なので、どの教科でできるか、総合的な学習でできるかなど各学校で検討できれば良いと思う。1つの教科に限定せず、各学校で自分の学校に合ったやり方で取り入れるのも良い。カリキュラム・オーバーロードだからこそ、教科横断的な視点で教育過程を編成し、効率的・効果的に資質・能力を育てる視点を意識して、鹿児島市でも各学校でのローカライズをしていきたい」と語った。

 平井氏も、「今回のフェイクニュースという切り口は、たとえば社会科にもつながるし、技術・家庭科にもなる。情報の取捨選択や見極めを探究的に学ぶとするなら総合的な学習にもなる。学びの内容を整理して、各学校にて教科への落とし込みをやっていけたら良いと思う。今はこういった教材を作っていく段階にあるのではないか」。そして「DQ World」は海外で作られた世界標準の内容なので、日本の文化に合った形に落とし込むローカライズが必要となるとした。辻氏も、それに同意し、世界標準を大事にしつつ、ローカライズさせていく過程も学びの1つになりうると述べ、教材もバージョンアップしていきたいと語った。

家での個別最適な学びと学校での協働的な学びをリンクする



 対談はさらに盛り上がり、指導者の意識変革と課題についてのトピックでは、「日本の先生方は決められたものを子供に教えるスタイルで長年やってきたので、新しいものを急に取り入れることが苦手だが、『DQ World』は指導内容を8つに分けてさらにその内容をそれぞれ整理してあるためわかりやすい。新しい教え方として1歩踏み出すきっかけになることを期待している」「家で何回も繰り返すオンデマンドのような学びと、学校の授業の学びをうまくリンクさせることが大事。これまでは学校で教えたことを家で復習するという流れだったが、個別最適化された学びでは授業中にやらなくても良い。家や休み時間でやった学びの記録をもとに学校の授業をつくっても良い」「休み時間にしても良いなら、新しい内容でも取り組みやすいと学校側からも好評を得ている。学校現場はすでにいっぱいいっぱいなので、『DQ World』やデジタルシチズンシップ教育をきっかけに、学校の授業設計をする際の考え方を変えていけたら」「学校では、対面だからこそできる学びが求められ、それを改めて整理する必要がある。コロナ禍でオンラインのメリット・デメリットが見えてきた。学校ではたとえば子供同士で行うディベートなど、家で深めてきた知識や学びをもとに協働的な学びを進めていくべき。そうしたモデルや指導案を作ることが、指導者の意識変革につながるのではないか」など多くの意見が出され、ICTは最早先生や親が子供に教えるというレベルではなく、学ぶ内容も常に変わっていくので、ゼロスタートで子供とともに学んでいけば良いのではないか、走りながら考えていくべき、などと結論付けられた。

情報モラル教育の悩みを「DQ World」が解決



 最後に、サイバーフェリックスから「DQ World」のサービス概要が紹介された。

 「DQ World」は2020、2021年における経済産業省のEdTech導入補助金事業に採択され、導入校数は鹿児島市教育委員会を含めて全国で250校以上、5万人以上の児童生徒にリーチしている。学習サイクルは、生徒が楽しみながら学べるオンライン教材の「DQ World」を軸とし、そのデータを基にスクールレポートが出される。先生方はスクールレポートをもとに改善を図ることができ、そのための補助教材として学習指導書も提示されている。

DQ学習のサイクル
 また、「DQ World」を学んだあとにおさらいできるワークブックも用意。同社担当者は、GIGAスクール時代に情報モラル教育に取り組む教育現場における「どう取り組めば良いかわからない」「独自に取り組んでいるが負荷が高い」「ネットトラブル発生を防ぎたい」などの悩みをDQ Worldで一挙に解決できると説明した。DQ Worldは、無料で利用できる実証実験プログラムを2021年度末まで展開している。
《羽田美里》

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