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1人1台端末利活用がスタート、GIGA StuDXがもたらす豊かな学びの変革

 文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長(併)学びの先端技術活用推進室長(併)GIGAStuDX推進チームリーダー(イベント開催時)の板倉寛氏、先導的な教育ICT環境構築および支援に取り組む情報通信総合研究所の平井聡一郎氏を招きウェビナーを開催。

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1人1台端末利活用がスタート、GIGA StuDXがもたらす豊かな学びの変革
  • 1人1台端末利活用がスタート、GIGA StuDXがもたらす豊かな学びの変革

 リシードは2021年9月16日、文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長(併)学びの先端技術活用推進室長(併)GIGAStuDX推進チームリーダー(イベント開催時)の板倉寛氏、先導的な教育ICT環境構築および支援に取り組む情報通信総合研究所の平井聡一郎氏を招き「GIGAStuDX~豊かな学びへの改革」をテーマにウェビナーを開催した。

 国のGIGAスクール構想により、全国の教育現場へ1人1台ICT端末とその通信環境が整備されつつある。教育ICTがいよいよ実践の段階に入り、ICT利活用により新学習指導要領の目指す学びが実現することが期待されているが、実際の子供たちの学びはどのように変わり、また、現場はどのように実践していくべきなのだろうか。ICT利活用の現状と、それによりもたらされる教育の変化、今後の姿等について講演いただいた。

端末利用が始まり、校内通信環境に課題も

 板倉氏は「GIGAスクール構想と未来社会」と題して講演。板倉氏はまずGIGAスクール構想の現状について、1人1台端末環境の実践をスタートしたばかりの自治体が大半を占め、全体的な底上げが必要と説明。多くの学校にとってこの取組みは大きなチャレンジとなっており、そうした中でGIGAスクール構想を進めていくためには、国もできるだけ支援していくとともに、各教育委員会による地域の実態に応じた研修等の学校現場のサポートが欠かせず、お互いに助け合い、協働・自走できる体制の構築が必要と語った。

 また、8月末に公表されたGIGAスクール構想に関する各種調査の結果によると、全国の公立小中学校の96%で端末の利活用が始まっている。校内通信ネットワーク環境は2月の前回調査に比べ改善がみられるものの、通信速度に問題を抱えるケースが多くあり、専門家によるアセスメント(事前評価、検証)による原因特定が重要になるという。アセスメントは全自治体の3分の1で実施済みだが、今後も実施予定がない自治体が半数以上となっている。板倉氏は「通信が遅いと思った場合は、まず実際に活用される教室や学校のネットワークの入口部分でどのくらいの通信スピードが出ているかそれぞれ計測してみてほしい。入口部分で通信が遅ければ教育委員会に相談する必要があるし、入口部分では速いのに教室で遅ければ学校内部に問題がある可能性が高い。専門家の協力を得て状況を把握して徹底的に原因究明をしていくことが求められる。原因によっては学校や教室レベルの設定等の工夫によって速度の相当な改善がなされることもある」と徹底した現状把握を推奨した。教室における生徒1人当たりの通信速度としては、全員が動画を見る場合等を想定して、2Mbpsを目指すのが1つの目安とされる。GIGAスクールにおいて通信環境の整備は必須であり、なぜスピードが出ないのかという原因究明を専門家の協力を得て進めることが重要だと述べた。

GIGAを基盤とした令和の日本型学校教育を推進

 一方、新学習指導要領とGIGAスクール構想の関係については、「社会変化が速く複雑で予測困難な時代の中、変化を前向きに受け止め、社会や人生、生活をより豊かなものにするといった問題意識のもと学習指導要領が作られている」と述べ、「そのために必要な資質・能力の育成を図り、主体的・対話的で深い学びや個別最適な学び・協働的な学びを支える物的な環境整備の1つとしてGIGAスクール構想がある」と指摘。そのうえで板倉氏が所属している文部科学省の「GIGAStuDX(スタディーエックス)推進チーム」について紹介した。同チームは各都道府県の教育委員会に教育支援を行うほか、「StuDXStyle」サイトで全国の教育委員会・学校に向けて、「すぐにでも」「どの教科でも」「誰でも」生かせるよう1人1台端末の活用事例等の情報発信をしている。

 板倉氏は、GIGAスクール構想でオンライン化が進むことにより、さまざまな教育データが蓄積・可視化され、活用できるようになると説明。校務系データや学習履歴データの可視化により、学校や学級全体、児童生徒の状況を可視化できるため、学校経営方針の立案や個別の状況に応じた学習指導に役立てることが可能になり、さまざまな面における教育の質の向上につながると述べた。

 さらに今の子供たちが、20代、30代として、社会の中心的な担い手となる2040年の社会は、超スマート社会といわれるSociety 5.0が到来し、人生100年時代、グローバル化、人口減少が一層進むと説明。こうした社会を見据えて、必要な第一歩として、GIGAスクールを基盤とした令和の日本型学校教育にしていかなければならないと述べ、子供たちが社会の変化を前向きにとらえて考えていけるように、すべての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びの実現、主体的・対話的で深い学びの視点から授業改善を実現していくと語った。

教育DXで学び・学校・未来が変わる

 続いて平井氏が「GIGAStuDX豊かな学びへの改革~教育DXが目指す学びの姿~」と題して講演。時代はポストGIGAとなり、現在ではICT機器整備からICT活用へとフェーズが変わったと説明した。社会のデジタル化によりマニュアル型やルーティン型の仕事がAIやロボットにとって代わられると予想され、今後の人間の仕事に必要な能力は、コミュニケーション・クリエイティビティ・スペシャリティだが、そうした能力は従来の知識伝達型の授業スタイルでは育たないと指摘。社会の求めるスキルが変わることから、それに対応するべく学習指導要領や大学入学共通テストも変わっており、もはやICT機器活用による学びの改革は当たり前になると平井氏。

 そこで重要になるのがデータのデジタル化だという。GIGAによりデジタル化が進み、これが教育DXにつながり、学び・学校・未来が変わることを教育DXにより目指していく。問題はどうやって学び・学校・未来を変えるかで、ポイントになるのは大人のマインドセットだと述べた。保護者や教員、社会全体が若者の未来を共有できれば自ずと古い価値観をアンラーニングでき、それには未来をイメージして必要な力を考えていくイマジネーションが大切になるとした。

将来活躍できる人間を育てるThink Bigを

 そのうえで、ポストGIGAの段階での阻害要因として、ハード系・ソフト系の課題があげられた。そもそもの課題はビジョンのない施策だとし、自治体がICTを整備する際に「こんな教育をしたい」という目指すものがないケースがあるため、平井氏は「Think Big」、最初から大まかな最終形の姿を描くことが重要と強調した。また、ハード系の課題として、通信環境があげられ、校内の通信環境のアセスメントと基幹ネットワークの整備が求められるとした。ソフト系の課題としては、マインドセットの改革であり、平井氏はICT機器を「まず・とにかく・いつでも・どこでも・自由に使う」ことを提案していると述べた。

 「まず・とにかく使う」には「Think Big, Start Small, Scale Fast」を提案した。ハードルを下げて小さく始めるStart Smallは、Think Bigに向かっていく意識や方向性が定まっていることが重要であり、その過程で大きく伸びていく(Scale Fast)という。現在、多くの学校は授業支援のアプリを活用しているが、それで止まってしまう恐れがあり、そこからThink Bigに向かって、より自由にさまざまなアプリを使いこなせるようになってほしいと述べ、その切り口がアウトプットのある学びであると提案した。アウトプットにおけるICT活用により、これまでの知識伝達および再生・再現型の授業から、情報収集・選択および情報発信型の探究の学びに移行すると語り、究極のアウトプットは動画作成であると述べた。

 さらに、学び方は探究的な学びになる。学習指導要領改訂のポイントをみると、「データの活用」が示され、数学的な見方・考え方を小・中学校で連携して進めていくとしている。具体的には、問題を把握・設定し、計画を立ててデータを集め、表・グラフに整理し、特徴や傾向を把握したうえで結論付ける取組みを進めることで、これにはコンピュータの表計算ソフトが必須だとした。読み書きそろばん、データの活用がこれからの基礎基本の力になると述べ、将来活躍できる人間を育てるThink Bigがあって、そのために今必要な力を育むことを現在の授業に落とし込んでいくことが大事だと述べた。

自分で考え判断するデジタルシチズンシップ教育が重要

 続いて平井氏は、ICTを「いつでも使う」ためにはクラウドでつながり、授業以外で活用すること、ペーパーレスがカギになると語った。例として子供たちの特別活動でオンラインを活用したり、先生方の校務の情報化を進めたりといったことがあげられ、こうすることで授業だけでなく学校全体のデジタル化が進んでいくとし、これが学校DXになるとした。学校DXが進むと授業で学んだことが授業以外でも活用されるようになり、相乗効果で授業での活用もさらに進み、学校全体の学びが変わっていく。また、先生にとっては、まずは校務にクラウドを入れて慣れていき、いつでもどこでも使えるようにすることで、そこから授業にも展開して、学校ICTが飛躍的に伸びると語った。

 ICTを「どこでも使う」では、持ち帰りはデフォルトであり、学校と家庭の学びがリンクする学びのデザインが必要となる。たとえばAIドリルやオンデマンド教材、プレゼン・動画作成等、子供が思う存分取り組みたい作業には家庭での学びが向いているとした。学ぶ内容に応じた学び方の多様化は、先生にとっても業務内容に応じた働く場所の多様化につながり、業務の整理や、出席簿等、校務支援システムのクラウド対応、セキュリティポリシーの策定が必要だと述べた。

 最後にICTを「自由に使う」ためには、「脱ルール」あるのみと述べ、ICTを適切に使いこなせる市民となるデジタルシチズンシップ教育が重要と説明。デジタルシチズンシップは自分で考え判断し、行動できるという学習指導要領が目指す姿を体現するもので、これにより、従来の管理する生徒指導や学校自体も、学習者主体に変革していくという。平井氏は、「子供たちに自分たちで考えて判断し行動していくという意識をもたせる教育が求められていくが、そのためには今、学び・学校・未来を変えていく必要があり、とにかくやってみること、やりながら考えることが大切」と語った。

校内アセスメントで通信環境の現状と課題を把握する

 講演終了後、板倉、平井の両氏による質疑応答と対談が行われた。

 「校内通信インフラについての考え方は」という質問について、板倉氏は「1人当たりの通信速度2Mbpsを目指すのが現実的だと思うが、大規模校では実現できていない。たとえば、直接型で速い回線を契約しており、学校の入口では生徒数と比しても十分な通信速度が出ているのに教室内の通信速度が相当遅い場合は、学校内に問題があるケースが多い。機器の設定の変更、古い規格の機器やケーブルの取り換え等によって改善できることもある。外部専門家の力を借りて、各校における通信インフラ環境を検証し、現状や足元の課題が何か把握して、ひとつひとつ解決していくしかないと思う」と語った。

 平井氏は「学校外では、自治体がもつセンターのファイアーウォールやサーバ等がボトルネックになる可能性がある。一方でよくあるのは、校内ネットワークのどこが問題になっているかわからないことで、学校内のアセスメントが大事になる。これには来年度の文部科学省概算要求のGIGAスクール運営支援センター整備事業が活用できるのではないか」と述べ、それに対して板倉氏は「同事業でアセスメントも対象になっている。第三者の通信情報技術の専門家にみてもらう必要があると思っている」と答えた。

 平井氏はさらに「これからICT活用が進むほど、いざ使ってみて困ったというケースが山ほど出てくるはず。自治体に専門家がいないと、どこに相談したら良いかわからない。教育CIOのような教育と技術の両方がわかる存在が自治体に必要だと思う」と提案。板倉氏は「同じ問題意識をもっている。必要なサポートは引き続き重要で、来年度概算要求している運営支援センター事業は市町村の連携実施型を中心に想定し、小さな市町村でも相談先に困らないよう、都道府県等が一緒になってやっていくように考えている。また、ICT活用が学校の基盤、学習の基本になる以上、校長先生もICTの基礎的な知識を持つ必要があるし、学校内にICTがわかる人間が何人かいる必要がある。ICT支援員はもちろん重要だが、専門家ではない。現場の人間がある程度ICTの勉強をしながら一定の知識を持つことが重要である。そのためにもまずは自分で学校内の通信速度を計る等、手軽なところからでも取り組んでほしい」と語った。

未来を生きる自立した子供の学びの環境を作る

 また、「脱ルールは賛成ながら、町田市で起きたようないじめの問題が起きるのではと心配」という質問については、板倉氏は「ICTも1つの道具なので、良い使い方も悪い使い方もある。どうすればより良い学び方ができるかを学習することが大事。これまで国際学力調査(PISA)の調査参加国の中で、日本の学校はICTを授業でもっとも使わず、ICTの活用に関与してこなかった。一方で、日本の子供は学校の外では調査参加国でICTをもっともチャットやゲームに使っている結果が出たのだから、学校が関わることで子供たちの人生にプラスになるようなICTの使い方を伝えていくことが重要だ。これからさらに拡大するデジタル社会の中でいかに生きていくか、負の面からも目をそらさずに向き合って考えていく」と答えた。

 平井氏は「デジタルシチズンシップの考え方が腑に落ちる。デジタル化された世の中ではコンピュータサイエンスの知識が必要で、正しい知識をもってそれをもとに判断していくことが市民教育になる。アップロードしたものは消せないこと等、ネットワークの仕組みを理解しておけば、危険を認識して判断できる。こういったものがこれから必要だが、今は過渡期なので、たとえば、共有のパスワードだとなりすましが起きるかもしれないと考える想像力が重要。学校でさまざまな教科の中で取り上げて、ICT活用の中で学んでいくことが必要になると思うが、試行錯誤しながらも取り組んでいくべき」と述べた。

 最後のコメントで板倉氏は、「学校のデジタル化は持続可能なものにしていかなければならない。教育の改善もあるが、校務の効率化も重要。より人間らしい強みを生かすために、全体を捉えながらデジタル化を進めなければならないが、まだ道半ばであり、大いに議論しつつ着実に進めたい」とした。平井氏は「ただThink Bigを伝えたい。そもそも何を目指していくかをぶれないようにする。未来を生きる自立した子供たちの学びの環境をつくる、その1点で徹していけばよいと思う」と語った。

《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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