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宿題改革ー生徒の学びを主体化する家庭学習支援サービス「edich」

 「生徒が宿題をやってこない」という課題を家庭学習支援サービス「edich(エディッチ)」は、解決できるのか。聖徳学園中学・高等学校教諭 品田健氏、KDDI教育事業推進部部長 熊谷健氏、メイツ代表取締役 遠藤尚範氏の三者が語る。

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左から聖徳学園中学・高等学校教諭 品田健氏、KDDI教育事業推進部 部長 熊谷健氏、メイツ代表取締役 遠藤尚範氏
  • 左から聖徳学園中学・高等学校教諭 品田健氏、KDDI教育事業推進部 部長 熊谷健氏、メイツ代表取締役 遠藤尚範氏
  • KDDI教育事業推進部 部長の熊谷氏
  • 塾発のEdTechベンチャー メイツ代表取締役の遠藤尚範氏
  • 教育ICT活用の第1人者、聖徳学園中学・高等学校教諭の品田健氏
  • 左から聖徳学園中学・高等学校教諭 品田健氏、KDDI教育事業推進部 部長 熊谷健氏、メイツ代表取締役 遠藤尚範氏
 中高生の家庭学習は先生方からは見えにくい。家庭学習におけるさまざまな課題の解決に向けて、通信会社のKDDIと塾発のEdTechベンチャー“メイツ”がタッグを組んで家庭学習支援サービス「edich(エディッチ)」をスタートした。教育現場のICT利活用で経験豊かな聖徳学園中学・高等学校教諭の品田健氏、「edich」を提供するKDDI教育事業推進部部長の熊谷健氏、メイツ代表取締役の遠藤尚範氏に各々の立場から、中高生や学校・塾が抱える実際の課題や、「edich」による課題解決への可能性について語ってもらった。

“宿題=残業”生徒が抱える学習課題



--宿題や家庭学習における課題にはどのようなものがありますか。

品田氏:まず単純にやってこない。こちらは言ったつもり、生徒も聞いたつもりで、家に帰ると「うーん今日、何やるんだっけ」となる。そもそも「つもり」だけで伝わってないんですね。学校から家庭学習用ノートや手帳を持たされても、書いて開かないとダメ、仮に開いて眺めても実行しなければ宿題は終わりません。忘れる、故意にやらない、やろうとしてもわからない、などの原因がありますね。

 実は宿題をさっさと片付けてしまうような生徒に、その宿題は必要でない場合もあります。一方で、本当にやってもらいたい生徒は、その前の段階で躓いていて、やり方がわからない。先生にわからないと言うと授業で何を聞いていたんだと叱られるのではないかと不安になる。やるつもりがあって宿題を開いてもわからないので手につかず、できないということもあります。

 そうなると当然、宿題の効果がありません。先生もチェックや採点、コメントを入れて返却、やってこない生徒を放課後に呼び出して指導…とどんどん手間がかかる。宿題を出しても効果がでない原因は、やはり宿題自体が一律的なこと。個別に指導ができれば、その生徒に合ったものを出せますが、学校の場合は、ほぼ一律の宿題が多い。そうすると、どうしても効果が今ひとつになります。

 もうひとつの問題は、宿題が受け身で、やらされているものが多いということです。もちろん学校の先生の多くは、受け身のままで良いとは思っていません。もっと主体的に学んでほしい。ただ宿題を出せば出すほど言われたことしかやらなくなります。そもそも宿題を出さずに学校の中で完結できれば良いのですが、それも難しい状況ですね。

教育ICT活用の第1人者、聖徳学園中学・高等学校教諭の品田健氏
聖徳学園中学・高等学校教諭の品田健氏

--宿題を出すことが必ずしも生徒のためになるわけではないのですね。

品田氏: 本当にできる生徒ならばモチベーションもあって、どんどん自分でもやって主体的に学びますが、主体的に学ぶにもやっぱり時間が必要。帰って余裕があれば、もっと本も読めるし、少し先の学びに進むこともできる。できない子は宿題を始めたけど終わらない、どんどん時間がなくなる。ようやく終わって自分の好きなことをやっていると早く寝ろと。逆に宿題を遅くまで頑張ると、今度は朝起きられなくて叱られる。悪循環に陥るわけです。自分の時間が必要なのです。

 たとえば、週7日勤務で、いつもは夕方の6時ぐらいまで働き、その後2、3時間の残業が無給で課せられている企業には誰も行かないと思います。でも生徒の現状ではそうなっている。授業は6、7時間、そのあとクラブがあって、家に帰って2、3時間かけて宿題や予習、復習。まさに「宿題は生徒にとって残業」なんですね。

KDDI×メイツが挑むテクノロジーによる宿題改革



--今回、家庭学習支援のサービスを提供されましたが、KDDIとして今後、どのように教育事業に取り組んでいかれるのでしょうか。

熊谷氏:今年の4月、KDDIに教育事業推進部ができました。実は、KDDIで教育という名前が付いた部署は初めてで、会社として「教育」を真剣にやっていこうということの表れと言えます。今、私たちが手掛ける教育事業は、グループ会社の英会話のイーオン、小学生向け職業体験のキッザニア、今回の中学・高校生向け家庭学習支援サービス「edich」などがあります。

KDDI教育事業推進部 部長の熊谷氏
KDDI教育事業推進部 部長の熊谷氏

家庭学習支援サービス「edich」とは
 「edich」という名前は、educationのed、ICTのi、coachのchを組み合わせたもの。生徒は自宅にいながら、スマートフォンやタブレット、PCなどを通じたチャットや電話によって、サポートを受けられる(詳細は文末の動画参照)。「計画支援サービス」では、学習計画の進捗状況をコーチが毎日見守りアドバイスを行う。「質問対応サービス」では、学習上の質問に対してメイツに所属する国公立大・難関私大の学生講師が対応。それらを支える「学習スケジュール管理アプリ」は、1週間単位のスケジューラ、学習内容を記録する学習管理機能、オペレーションセンターとチャットや電話でやり取りできるサービスが提供されている。

--「edich」を、どのように活用してもらいたいとお考えでしょうか。

熊谷氏:学校や民間の教育事業では、ある意味、先生の“秘伝のたれ”を使って教える場合が多いと思います。また生徒の情報や学習状況の管理の多くが、まだアナログで紙が主流。しかし今後、全体の品質をボトムアップするには、その“秘伝のたれ”やアナログの情報を引き継ぐことが求められます。私のこれまでの経験から感じるのは、デジタルから得られるデータにはもちろん価値があるが、これまでのアナログによるデータにも価値があるということです。思っている以上にさまざまな発見ができるわけです。

 多くのEdTechでは子供たちにアプローチする際に、一足飛びにデジタルで完結させようとしますが、「edich」はデジタルとリアルを良い距離で融合しています。その良い塩梅が、子供たちに対してより良いアプローチになればと思います。「edich」は主役ではなく、あくまで子供たちがストレスなく、やる気になるためのツールです。また先生と生徒との結節点を「edich」で作りたい。かゆいところに手が届くような黒子になれると良いですね。デジタルで得られるデータだけでなく、ぬくもりのあるデータ、これまで見過ごしてきたアナログによるデータを分析から生きたものにして、先生や生徒に活用いただき、日本の教育をボトムアップしたいと考えています。

--メイツがKDDIと「edich」で協業に至った経緯を教えてください。

遠藤氏:メイツは、私が早稲田大学在学中の2010年に作った学習塾がスタートです。塾では先生の力量から、どうしても教えられる生徒の人数が最大で3、4人。どうにかして1人の先生で、多人数に対する個別最適な指導をしていけるかを考えました。テクノロジーによる再現性を重視して、2013年からはiPadを塾に導入し、エンジニアとともに塾の教務と生徒指導で利用するサービスを開発していきました。現在は、学習塾管理システムや英検対策アプリ、定期テスト対策アプリなどを展開しています。

 塾に来る生徒は、学校の授業についていけない、自分で勉強をどうやったら良いかわからない場合が多く、やる気に火をつけるのがまず塾の先生の仕事です。人でなければできないことの周辺でテクノロジーに任せられるところはどんどん任せようと考えてやってきました。

 そうした中、「edich」を発案したKDDIさんよりご連絡をいただき、お考えを伺いました。KDDIは通信の会社で、日常的に家庭でも使うスマートフォンで「教育」をさらに進化させていきたいと。これまで私たちは塾内で学習を完結させることに注力してきましたが、もし宿題や家庭学習がテクノロジーに任せられるなら、とてもありがたい。ぜひご一緒できるところがあればやらせてくださいという形でご縁が始まりました。

塾発のEdTechベンチャー メイツ代表取締役の遠藤尚範氏
メイツ代表取締役の遠藤尚範氏

--家庭学習はテクノロジーでどう進化するのか教えてください。

遠藤氏:弊社が運営する学習塾の生徒の大半は私立の生徒で、その補習塾として運営しています。なかでも顕著なのは、中学受験で手厚いサポートを受けて一生懸命に頑張って合格したけど、入学後は自分次第とされている生徒たちです。手厚く面倒をみる学校もありますが、大学受験に向けて進度の速い学校も多いですよね。気が付けば、子供たちは自分は勉強ができないと思い込んでいる。そんな生徒も全力でサポートしますが、もっと早く来てくれたら良かったのにと感じることもありますね。

 「edich」は、質問ができる、何かあったら聞いて良い、スケジュールはこう立てるといった、中1の立ち上がり期の勉強など、早い段階から学習のペース作りを支援するサービスです。今の生徒たちはスマートフォンによる学習にもまったく抵抗がないので可能性を感じています。

熊谷氏:「edich」は家庭における支援に特化しているため、学校や塾で新たな教材を導入しなくとも、教室での学びと地続きの学習支援が可能です。

「edich」導入で、先生は生徒に向き合うことに集中可能



--学校現場での「edich」の活用の可能性について聞かせてください。

品田氏:「edich」は、わからなければ聞く相手がいて質問ができる、コーチングをしてもらえば、やる順番もわかる。怠けてしまうときもリマインドがあって、自分が試験に向けてやってみようと思って予定を組めば、コーチから褒めてもらえるなど、どんどん好循環が成り立つと思います。効率的にできれば余裕もできて、もっと自分でこれをやっておいたほうが良いなどと余白が生まれて自分で時間を活用できます。

 今までのEdTechでは、これをやれば学力が上がるというものが多くありましたが、そうではないアプローチの「edich」はとても面白いですね。宿題やテストの準備を効率的、効果的にやる部分は「edich」に任せて、先生は生徒に向き合うなど本来の仕事に集中できるのは、良いソリューションですね。

より楽しく、より主体的な宿題を支援



--「edich」の展望について教えてください。

遠藤氏:「edich」には学習スケジュールを立てる機能があって習慣化できます。コーチングを受けながら学習スケジュールの立て方を学べば、どんどん主体的に、「もっとこうしよう」が出てくると思います。

熊谷氏:宿題は誰のためにやるものなのか。自立している生徒ならば、宿題がなくてもどんどん興味があるものを自分で学びますよね。やる気を後押しするのはもちろん、もっと宿題が楽しくなるようなアドバイスができるものに「edich」がもうひとつ進化するべきかもしれません。

遠藤氏:たとえばコーチからポイントが与えられれば「温かみ」が出るかもしれない。そこで、どういうときに褒めるのが良いかといったデータが集まれば、だんだんと秘伝のたれではなくなっていきますよね。

「edich」は先生の右腕を目指すサービス



--最後に「edich」について一言ずついただけますか。

品田氏:今、GIGAスクール構想で家庭にデジタル端末が入ってきています。家に持ち帰ると遊びに使うのではと心配な保護者もいる。その価値を保護者にいかに理解してもらうか。「edich」で勉強すれば、そうした保護者にもデジタル端末が子供の学びに必要だと理解していただけるのではないでしょうか。

熊谷氏:実際に品田先生のお話を伺うと、先生方は本当に困っていることを理解できますね。先生だけでは解決できないところを解決する、「edich」を先生の右腕として使っていただけるサービスに磨いていきたいと思います。

遠藤氏:「edich」で先生の宿題の出し方が変わるのかといえば変わらないです。むしろ、これまでどおりに出していただいて良い。ただ今まで以上に、生徒がしっかりとやってくるようになります。本当に身構えずに、ぜひ一緒にやり方を考えていきたいですね。

左から聖徳学園中学・高等学校教諭 品田健氏、KDDI教育事業推進部 部長 熊谷健氏、メイツ代表取締役 遠藤尚範氏

--ありがとうございました。

edichとは



家庭学習支援サービスedich
 家庭学習にはまだデジタルデバイスが入り始めたばかり。子供たちの学びの中で、それをどう使うのがもっとも効率的で効果的かは手探りの状況だ。この「edich」で得られるサポートやデータの利活用が進めば、子供たちの学びは受け身なものから、さらに主体的で豊かなものになるだろう。今後の進化に期待したい。
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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