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「ソフトスキルとは何か?」英国イートン校から学ぶ次世代リーダー教育法

 グローバルスカイ・エデュケーション(以下、GSE)ディレクター 須川健太郎氏
に、「ソフトスキルとは何か? 英国イートン校から学ぶ次世代リーダー教育法」をテーマに寄稿いただいた。

事例 グローバル敎育
グローバルスカイ・エデュケーション ディレクター 須川健太郎氏
  • グローバルスカイ・エデュケーション ディレクター 須川健太郎氏
  • イートン校
  • 「EtonX」バーチャル・クラスルームのようす
  • シラバス例:立ち直る力
 大人たちが働き方改革を求められる今、次世代を担う子どもたちの教育環境も急ピッチで整備が進んでいる。予測困難な時代に、必要なスキルとは何か。そのスキルを身に付けるためにはいつから何を始めればよいのか。

 グローバルスカイ・エデュケーション(以下、GSE)ディレクター 須川健太郎氏に、「ソフトスキルとは何か? 英国イートン校から学ぶ次世代リーダー教育法」をテーマに寄稿いただいた。

日本のリーダーシップ教育の現状・課題



 将来の予測が困難な現代の状況を表す言葉VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)。少子高齢化・過疎化、大規模災害などを背景に課題先進国とも称される日本でもその対応が迫られています。

 このVUCA時代に求められるリーダー像と日本のリーダーシップ教育および人材育成との間にはギャップがあります。本格的なリーダーシップ教育はおもに企業に入ってから実施される中、若いうちからベンチャー起業しVUCAを切り拓くようなリーダーの育成には、ますます早期のリーダーシップ学習機会が必要とされます。

 アクティブ・ラーニングを軸にリーダーシップ教育の要素は取り込まれてきましたが、経験学習が中心となり、スキル型学習と連動して内省と実践を繰り返す深い学びへの道筋は限られているのが現状です。さらに、全世界を極度の不確実性へと陥らせているWithコロナ到来により、学習環境は急変し、その困難さに拍車がかかっています。

これからのVUCA withコロナ時代に必要な「ソフトスキル」とは



 次世代に求められるリーダーとは、使命や目的をまとめ、多様な意見を束ね、ストーリーを作りあげ、メンバーの役割を決めて繋がりを活性化し、発信する、といった姿でしょう。LinkedIn社のWorkplace Learning Report によれば、92%の多国籍経営者がソフトスキルは専門スキルと同等またはそれ以上に重要だと答えています。

 世界的なリーダーや経営者たちが求める人材像は、ステークホルダーが何を求めているかを考え、相手のニーズに応えられるというビジネスや対人関係の本質への理解であり、人間が人間にサービスを提供するうえで不可避な性質のものです。21世紀型スキル、OECDコンピタンシー、世界経済フォーラム・ビジネススキルなどグローバルに参照されるスキルセット群を見ても「創造性」「協調性」「共感力」や「誠実さ」などの「ソフトスキル」が肝要とされています。

 「それであれば自分だって部活や行事、課外活動、さらには仕事の現場で培ってきた」と思いあたる読者は多くいらっしゃると思います。ただそれを体系的な教育プログラムで学んだという人は限られるでしょう。また大人になればなるほど、教科分化、受験、偏差値、課題提出、就活、成果指標、英語資格等々、即効的な結果に追われていきます。自己や他者と向き合い成長を重ねていく学習体験は自ずと薄れてしまいます。さらに他者との距離感が前提となるwithコロナ環境で、いかに人間力たるソフトスキルを磨いていけばよいものでしょうか。

世界のトップリーダーを多数輩出する英国イートン・カレッジのEdTechプログラム



 英国の超名門校イートン・カレッジは、500年以上の伝統を誇り、これまでに20名もの歴代英国首相を輩出しています。品格を重んじた全人教育で名高く、世界の多くの学校がイートン式の教育を取り入れています。

 その教育哲学、いわばイートン・カレッジの考える帝王学を反映したフューチャースキル養成プログラムが「EtonX」で、オンラインを通じて全世界60カ国980もの教育機関で導入されています。世界各国で限られた現地分校を開設する英国伝統他校とは一線を画し、テクノロジーを活用してバーチャル・クラスルーム環境も備えたEdTechプログラムにより、多様性と社会使命に満ちた取り組みを実現しています。

イートン校
イートン校(画像提供:EtonX)

「EtonX」におけるソフトスキル醸成方法



 ヘンダーソン学長は「イートンの中心にある価値観は、アカデミックな学習だけでは成り立たない。アイデアを提示し、他人と協力し、新たな課題に備える、など全人的なソフトスキルが重要である。変化する世界で成功するために必要なスキルを養成するべく、それらの価値に忠実なオンライン学習体験環境を創造した。」と言っています。

 「EtonX」は、日本で体系的に欠けている早期のリーダーシップ教育を補完する強力な存在となります。創造的な課題解決、多面的探究、起業家精神、パブリック・スピーキング、人の心を動かす、レジリアンス(立ち直る力)といった11のコース群は、自分事として主体的に学ぶように設計され、世界中のクラスメイトと多様性のある議論を交わしながらソフトスキルを磨くことができます。

 たとえば、「自らTEDトークを題材に内省し、考えをまとめて他者へ発信する」「自分の興味を掘り下げて、そのフロー体験を日常に置き換える」「プロジェクトを進める動画を使い、あたかもチームの一員となって課題解決を図る」「マインドフルネスを実践する」など、自分事として内省し、自身の体験を発信する学び方からソフトスキルを醸成していきます。

「EtonX」バーチャル・クラスルームのようす
「EtonX」バーチャル・クラスルームのようす(画像提供:EtonX)

 またソフトスキルはチームの中で日常的に培われるものとして、「EtonX」の各コースでは、Buddy upといって学習状況を他者と共有しフィードバックをし合うことを奨励しています。一方向でも双方向でもない、多重方向な学習体験環境の一例です。

シラバス例:立ち直る力
シラバス例:立ち直る力(画像提供:EtonX)

GSEの取り組み~東京女子大学への導入事例~



 東京女子大学現代教養学部国際英語学科では、女性のグローバル・リーダーシップの在り方を軸として、世界に通じる実践的なコミュニケーション向上およびキャリア準備トレーニングを目的として「EtonX」を導入しました。イートン・カレッジは男子校ですが、海を越えて日本を代表するリベラルアーツ女子大がいち早く同プログラムを採択したことになります。

 実は「EtonX」のCEOは女性であり、プログラム理念の中心にある多様性をも象徴しています。同学は推薦合格者の入学前事前準備として、ライティングスキル、創造的な課題解決、多面的探究の3つのコースからの選択制でプログラムを実施しました。

 「エッセイを書くためには、さまざまな準備をし、読んでもらう人の事を考えて論理的に展開することが重要であると学びました」「大学での学びだけでなく、これからの人生をより豊かに生きる上で貴重なものになったと思う。これからグローバルな舞台で活躍できるように学んだことを復習し、活用していきたい」。

 こうした受講生の声から、実践的なスキル習得に加えてひとりひとりが「EtonX」をきっかけに大きな視野で将来を、そしてグローバルな舞台を見据え始めたことに頼もしさを感じます。セルフラーナーとしての内省の繰り返しと他者視点での発信、多面的な推敲の大切さに気付いていることもうかがえます。

 同学では、コロナ禍で試行錯誤の春学期を終えた後の夏期特別プログラムとして、「EtonX」グローバルキャリア講座も開講しました。今後もEtonXをカリキュラム内での実施に向けて準備を進めています。

GSEの取組み~日本での導入に関する課題と発展的解決~



 「EtonX」に限らず海外EdTechを利用する場合に、まずはこの質問が浮かぶこともあるでしょう。「英語でやるの?ついていけるのかな?」と。

 疑似留学・グローバル環境体験といった目的で、特にバーチャル・クラスルームをすぐに活用できるケースに加え、GSEでは英語への苦手意識だけで「EtonX」がもたらすソフトスキル醸成の機会が閉ざされてしまわないようにと工夫を凝らしています。ローカライズの一貫で日本語サポートプログラムを併設し、語学レベルに合わせて、日本語運用マニュアルの配布やコース進行支援ワークショップを実施しています。「英語で○○を学ぶ」という環境づくりが肝要となります。

 また早期リーダーシップ教育の欠如を補完するには、知識やハウツーに限らずいわば広義のリーダーシップ教育の視点が必要であると考えています。リベラルアーツの養成や、内省と発信の試行錯誤を通じてソフトスキルを高め、結果として品格をまとったリーダーシップ能力が醸成されるというストーリーに沿って、学習環境に見合った日本独自のコンテンツを補強しています。

 特にバーチャル・クラスルームで世界中の人々とディスカッションをするケースでは、語学に加えて多文化コミュニケーションへの理解を向上させる必要があるでしょう。さらには自国の文化に対する知見を高め自信をもって発信できる力こそも日本発多文化間リーダーシップにとっては極めて重要です。

 グローバルな環境にさらされた人なら、ああもっと日本を知っておけばよかった、という気分を味わったことは多いのではないでしょうか。私たちはこうした自らの振り返りと自責の念で、日本を深く知り伝える体験型の学習も用意しています。「EtonX」との組み合わせで日本発リーダーシップのより有効な基礎固めが可能になると信じています。

 人の移動を伴う海外交流が閉ざされている周知の状況の中で、あらゆる教育機関、企業、あるいは個人の方々から、海外研修の代替やグローバル環境のシミュレーションを続けたいという声を多く聞くようにもなりました。「EtonX」は知識習得型のイー・ラーニングとは異なり、自分を見つめ、他者とつながり、よりよい社会に向けて探求し、課題を見つめ、解決に努めていく、そんな生きる姿勢を自ら育む道標です。

 人との距離感があるグローバル環境、ひいては人工知能との距離感、共生といった未知の世界をどう生き抜いていくのか?1440年から人類の英知を昇華させてきたイートン・カレッジの教育に、ひとつのヒントがあるのかもしれません。そしてわれわれGSEは、日本文化社会を深く探求する癖を併せもち、自信をもってしなやかにグローバルVUCAを進む、人それぞれの日本発リーダーシップが満ちていく社会の姿を願っています。

グローバルスカイ・エデュケーション ディレクター 須川健太郎(すがわけんたろう)
大手総合建設企業にて米国法人ディレクター。不稼働資産バリューアップ、PPP事業などの新規事業開発。キャリアをまちづくりからひとづくりへ展開。大手民間教育サービス企業にて新規・国際事業を総括。語学学校M&A、オンライン教育企業提携、次世代国際学校開発などの事業開発。学校法人経営・国際化コンサルティングや、米国系財団での国内大学国際化支援にも従事。GSEでは、EtonXやVR学習など先端教育分野での事業・国際間パートナーシップ開発・統括。慶應義塾大学卒、Yale University School of Management MBA 修了。
《須川健太郎》

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