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21世紀を生きる子供のフューチャースキルを育む、英語教育の挑戦と教員の役割…8/17ピアソンイベントレポート

 2025年8月17日、ピアソン・ジャパン主催によるTeacher Trainingsウェビナー「未来を見据えた英語教育とフューチャースキルの育成」の第1回「AI時代の英語教育とフューチャースキル」が開催された。本記事ではその要点を紹介する。

事例 グローバル敎育
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Teacher Trainingsウェビナー「未来を見据えた英語教育とフューチャースキルの育成」
  • Teacher Trainingsウェビナー「未来を見据えた英語教育とフューチャースキルの育成」
  • 大分大学教育学部准教授の大谷由布子氏
  • フューチャースキル
  • 主なテーマ:繰り返しと深まり・広がり
  • 単元構成の例
  • 『My Disney Stars and Heroes』の表紙画像

 2025年8月17日、ピアソン・ジャパン主催によるTeacher Trainingsウェビナー「未来を見据えた英語教育とフューチャースキルの育成」の第1回「AI時代の英語教育とフューチャースキル」が開催された。講師は大分大学教育学部准教授・大谷由布子氏。

 大谷氏は、言語習得・英語教育を専門とし、前回の学習指導要領の改訂の際、文部科学省初等中等教育局国際教育課英語教育促進プロジェクトオフィサーとして、小学校外国語、外国語活動教材作成を担当した経歴をもつ。本記事では、この第1回ウェビナーの要点を紹介する。

大分大学教育学部准教授の大谷由布子氏

教育現場は激動の10年

 冒頭で大谷氏は、「小学校学習指導要領の改訂はおおよそ10年に一度行われ、まさに時代を映す鏡である」と述べた。そして2017年の改訂以降の10年間を振り返り、注目すべき点として下記をあげた。

 ●小学校における教科「外国語」の誕生
 ●外国語活動の3年生への移行
 ●検定教科書の多様化と教材の広がり
 ●新型コロナ感染症による休校措置
 ●GIGAスクール構想による1人1台端末の普及
 ●生成AIの急速な台頭

 特に生成AIの登場については、「教育界では『黒船来航以来の最大の変革期』と評されることもある」とし、「日本の英語教育史を振り返っても、これほど急激かつ多面的な変化は前例がない」と述べた。

 2017年(平成29年)の改訂(編集部注:施行は小学校2020年より)は、2030年の社会を見据えて検討されたものであるが、「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説『総則編』」によると、これからの時代はグローバル化の進展、生産年齢人口の減少、技術革新に伴う社会構造の変化などにより、「予測困難な時代」が到来するとされている。

 そのうえで、子供たちが身に付けるべき能力として、以下のような資質・能力があげられている。
 
 ●変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決する力
 ●多様な情報を見極め、新たな価値を創出する力
 ●複雑な状況変化の中で、目的を再構築する力

 大谷氏は、「改訂から3年後、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、まさに『予測困難な事態』が現実となった。それでも、当時の改訂がこうした能力の育成を目指していたからこそ、学びを継続することができたのではないか」と振り返った。

Society 5.0と新しい教育像

 では、次の10年はどのような時代になるのだろうか。2025年8月現在、各教科の専門部会の設置が承認されており、秋以降には外国語に関する審議も本格化するという。その議論で国が見据えているのは、「Society 5.0」とよばれる超情報化社会であり、多様で複雑化する社会のビジョンである。

 そのような社会における学習環境の多様性について、大谷氏は次のように解説した。

 「たとえば、小学校35人学級を想定した場合、ギフテッドとよばれる特別な才能をもつ児童が約1人、発達障害の可能性がある児童が約3人、不登校または不登校傾向にある児童が約4.5人、家庭での日本語の使用が限定的な児童が約1人、さらに家庭の蔵書数が少なく学力の伸びに課題を抱える児童が約10.5人存在する。つまり、35名のうち約20名が何らかの特別な状況にあると想定されている」。

 こうした状況を踏まえ、ひとりひとりが個性を生かし、新しい価値を見出しながら幸福を追求できる社会を実現するためには、どのような教育が望ましいのだろうか。大谷氏は、次期学習指導要領の改訂で重視されるポイントを、以下の3点にまとめた。

改訂で重視される3つのポイント

【多様性を重視した教育への転換】
  これまで以上に、それぞれのペースで学習を実現する個別最適な学びと、対話を通じた納得解を形成する協働的な学びが求められる。教師の役割は、従来のティーチングから、コーチングへの転換が期待される。

【教育を取り巻く環境の再構築】
  ICTの普及によって個別学習は加速したが、十分なガイダンスなしに使われてきた側面もある。今後は「何のために、どのように活用するのか」、学習者自身が明確にし、自らの学びを主体的にデザインする力が不可欠になる。

【AI時代における英語教師の役割】
 中高等教育ではAIはすでに「使うかどうか」ではなく「どう使うか」に議論が移っている。英語教師の役割は、「相手の反応や表情を読み取りながら行う本当のコミュニケーションの楽しさと困難さとそれを克服することで得られる達成感を子供たちに体験させる」ことであり、このことが将来的に豊かなコミュニケーション能力の発達に寄与すると考えられる。

未来を生きる子供たちに求められる力とは

 ウェビナー参加者への事前アンケートからは、子供たちがこれからの社会で活躍するために必要とされる力として、「粘り強さややり抜く力」「批判的思考力」「協働力」「情報収集力」「聞く力」「考える力」「積極性」「英語力」といった項目が示された。大谷氏は「このことはまさに、困難に立ち向かう力や協働する力を重視する方向性を示している」と述べた。

 大谷氏は次に、国際的なフレームワークである国際バカロレア(IB)の目指す学習者像を参照。国際バカロレア(IB)は、大学入学資格として広く知られているが、「多様性、共生時代を生き抜く未来志向型の人材の育成を目指しており、その教育プログラムの内容こそが、子供たちの未来に必要な資質を体現している」と説明した。

 また、2010年に全米外国語教育協会(ACTFL)が提唱した「グローバル環境で成功するために必要不可欠な能力」の総称である「21世紀型スキル」についても紹介。21世紀型スキルの構成要素は、「主要教科:読み書き計算(3Rs:Reading, Writing, Arithmetic)」「ライフキャリアスキル(生涯にわたる学習と就労に関わる力)」「学習と変革のスキル(4Cs:Critical thinking, Communication, Collaboration, Creativity)」「情報・メディア・テクノロジースキル(情報化社会に対応する能力)」である。

 さらに、今回のTeacher Trainingsのテーマである「フューチャースキル」をピアソンのレポート(「The Future of Skills」)から紹介。フューチャースキルには、子どもが社会的、経済的、環境的な課題に立ち向かい、将来的に責任ある地球市民としての地位を獲得するための力として、「自己に関する能力(自己管理能力や自己認識)」「対人能力(協調性、他者との協働力)」「社会性・社会認識」「深いコミュニケーション能力」「リーダーシップ」「創造力」「批判的思考力」といった力が含まれる。

 続いて大谷氏は、フューチャースキルを実際に学習に取り入れた好事例として、アメリカ・バージニア州フェアファックス郡と秋田県由利本荘市の由利小学校の取り組みを紹介したが、「全教科・全教員を通じて取り組むには環境が整った一部の学校に限られる」という現状に触れ、個々の教師が取り組める現実的な方法として「教材の活用」をあげた。

英語力とフューチャースキルの育成を支える教材

 大谷氏は、フューチャースキルを取り入れた理想的な教材の一例として『My Disney Stars and Heroes』を紹介した。この教材は、ディズニーの作品をベースに語彙や表現の学習からストーリー理解、歌やスピーキング、さらにはプロジェクト活動へと発展していく構成をとる。各単元には「自己管理」「自己認識」「社会認識」「関係構築」「責任ある意思決定」といったフューチャースキルを育むアクティビティも組み込まれており、英語とこれらのスキルを並行して習得できる仕組みになっている。

 また、使用される映像はオリジナル作品を単に切り取ったものではなく、言語材料やテーマに応じて厳選・再編集されている点も特徴としてあげた。その中には、現在進行形、規則変化をする過去形、三人称単数現在形のsやdoesといった小学校で扱われない言語材料も含まれるが、言語習得理論上、児童が無理なく学べるよう設計されており、「学校での外国語学習を下支えするもの」という考えを示した。

 ウェビナーでは、『塔の上のラプンツェル』を題材にした単元が紹介され、大谷氏は「耳から入った英語のインプットをアウトプットにつなげ、さらにフューチャースキルへの気付きと実践に結び付ける構成になっている」具体を説明。続いて取り上げられた『Be a hero!』アクティビティでは、子供たちの自己肯定感や自己管理能力、チャレンジ精神やレジリエンスを高める仕掛けが紹介された。

 講演の終盤で、大谷氏は先日逝去した、アポロ13号のジム・ラベル船長の言葉に言及。「“成功した失敗”と呼ばれる、1970年のアポロ13号の事故を乗り越えるために必要だった力として、ジム・ラベル船長は『協働する力』『リーダーシップ』『創造性』をあげている。私たちが目指す21世紀型スキルとよばれる力は、すでに55年前に起こった困難な状況下で実証されていた」と語った。そのうえで、「21世紀型スキルやフューチャースキルとよばれる力は、新規の能力ではなく、実は私たちが以前から大切にしてきた力、日本社会で共有されてきた価値観であり、それを時代の要請に合わせて再構築したもの。社会の多様化に合わせて私たちは改めてこれらの力を言語化し、再確認し、子どもたちの未来のために、創造性と情熱をもって粘り強く育成することが重要」と結んだ。


 ウェビナーからは、英語教育は「単なる言語指導」ではなく、生きるうえで必要な幅広い力を育てる機会であることを再認識した。社会が急速に変化する中、それに合わせて指導法や教材の改善に努めている教育関係者の皆さんに、改めて感謝の気持ちを感じつつ、この歩みこそが子供たちの未来を支えるのだと実感した。

 なお、ピアソン・ジャパンでは、このTeacher Trainingsウェビナーシリーズ「未来を見据えた英語教育とフューチャースキルの育成」の第1回と第2回のアーカイブ動画の視聴申込みを、下記にて受け付けている。「間隔反復で学習効果を上げる:Horizontal syllabusとアクティビティ」と題した第2回目ではAndrew Lankshear(郡山ザベリオ学園 小学校 教諭)を迎え、英語とフューチャースキルを効果的に教える実践的な方法やアクティビティを紹介した。

第1回のアーカイブ動画
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第2回のアーカイブ動画
視聴申込はこちら

※視聴申し込み期限:2025年12月12日


『My Disney Stars and Heroes』(ピアソン社)の詳細はこちら
《なまず美紀》

なまず美紀

兵庫県芦屋市出身。関西経済連合会・国際部に5年間勤務。その後、東京、ワシントンD.C.、北京、ニューヨークを転居しながら、インタビュア&ライターとして活動。経営者を中心に600名以上をインタビューし、企業サイトや各種メディアでメッセージを伝えてきた。キャッチコピーは「人は言葉に恋♡をする」。

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