学校に寄せられるさまざまな相談やクレーム。保護者や地域からの相談に先生はどのように対応するのが良いだろうか?クラス担任として豊富な経験がある鈴木邦明氏に、学校へ寄せられるさまざまな相談に対応する際のポイントを聞いた。第191回のテーマは「学校にプールは必要なのか?」。
学校での水泳授業の歴史
最近、学校のプールに関してマスコミで話題になることがありました。「栓の締め忘れによる水の流し放し」と「水泳授業の外部委託」についてです。この2つと関連しているのが「プールの老朽化」です。こういったいくつかの課題を抱える学校のプールについて、色々と考えていく時期に来ているのだと思います。
日本の学校での水泳授業について調べてみると、江戸時代の藩校において取り組まれていた記録があります。松代藩(現在の長野県)の藩校「文武学校」の学科の中に「遊泳」があります。ちなみに、他の学科は「和学」「漢学」「洋学」「洋算」「医学」「習礼」「兵学」「弓術」「馬術」「剣術」「槍術」「砲術」「柔術」「和算」「算道」となっています。「遊泳」で泳いだ場所までは記録がないのですが、プールではなく、川や池などを使っていたと想像されます。
学校において、本格的にプールにおいて水泳が行われるようになったのは、1960年代以降です。1950年代に子供が海や川で亡くなる事故などが度々発生したこと、1964年に東京オリンピックが行われたことなどが関係し、1960年代以降に学校のプールが増えていきました。1960年代には設置率は20%程度だったものが、1990年には小学校で80%、中学校・高等学校で70%を超える状況となりました。このように水泳教育が進んだことによって水難事故で亡くなる人の数も減ってきています。
水泳授業は必須ではない
現在の学習指導要領には「水遊び、浮く・泳ぐ運動、水泳」という形で書かれています。しかし、それは必ず実施しなければならないものではないとも書かれています。学習指導要領解説には以下のように書かれています。
適切な水泳場の確保が困難な場合には、従前どおり「水遊び」「浮く・泳ぐ運動」および「水泳」を取り扱わないことができるが、これらを安全に行うための心得については、必ず取り上げることを「指導計画の作成と内容の取扱い」に示した。
つまり、水の安全に関する心得については必須であるが、水泳などに関しては必須ではないということになります。
水泳授業の実施が年々困難に
近年、水泳の授業を実施する際、以前よりも難しさが増しています。夏の暑さが増していることもあり、気温が高すぎることによってプールの授業が実施できないケースが増えています。水に入っていても熱中症になる可能性があります。また、人員確保の問題もあります。小学校で教員の欠員がある状態の学校もあります。プール指導の際にプラスで配置していた人員の確保などが難しい状況もあります。また、施設の老朽化はさまざまな影響を与えています。
そういったプールに関する課題を踏まえ、水泳の授業を学校の外部で実施するという試みが各地で行われています。スイミングスクールや公営のプールなどを活用するものです。スイミングスクールのほとんどは室内プールであり、天候の影響を考えず、指導計画を立てることができるようになります。ただ、学校から施設までの交通機関(バスなど)の問題があります。そういった点がクリアできれば、こういった取組みはもっと広がっていくでしょう。
学校のプールの今後のあり方については地域によって違いが出てくることが予想されます。プールの老朽化対応には多額の費用がかかります。年間での稼働日数との兼ね合いでプールの新設が望ましいのかということについて、市区町村議会などでの議論が必要でしょう。プール新設の予算だけでなく、その自治体のその他のものとバランスを取る必要があるからです。予算の厳しい自治体ほど、選択肢は少なくなります。海沿いで水難事故の可能性が高い自治体であれば、コストをかけてでも学校のプールを維持し、水泳指導に取り組んでいく必要があるでしょう。逆に状況に応じては、学校のプールを維持せず、先ほども書いたような他の方法を模索していくこともあり得るでしょう。
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