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【クレーム対応Q&A】運動会の入場行進は不要

クラス担任として豊富な経験がある鈴木邦明氏に、学校へ寄せられるさまざまな相談に対応する際のポイントを聞いた。第147回のテーマは「運動会の入場行進は不要」。

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 学校に寄せられるさまざまな相談やクレーム。保護者や地域からの相談に先生はどのように対応するのが良いだろうか?クラス担任として豊富な経験がある鈴木邦明氏に、学校へ寄せられるさまざまな相談に対応する際のポイントを聞いた。第147回のテーマは「運動会の入場行進は不要」。

学校のあり方について取り組むべきこと

 2023年9月8日に文部科学省から通知(「教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策(提言)」(令和5年8月28日 中央教育審議会初等中等教育分科会質の高い教師の確保特別部会)を踏まえた取組の徹底等について)が出されました。多岐に渡り、現在の学校のあり方について取り組むべきことが書かれています。まだ目を通していない方はぜひ早めに読まれることを勧めます。

 その通知には「学校行事について、精選・重点化、準備の簡素化・省力化」と書かれています。学校には色々な行事があるのですが、準備に時間が掛かるものとしては「運動会」があります。コロナの影響で、半日(午前中のみ)で運動会を実施していた学校が多かったようです。それが2023年になり、コロナ以前の形に戻していく学校があります。

 コロナが落ち着いてきたからという理由で、コロナ以前の形に戻していくのは違うのではないかと私は感じています。コロナ前の学校教育活動がすべて最良なものであったのであれば、戻していくことも良いのかもしれません。今、冷静に学校を見てみると、コロナ前の形が決して最良の形ではなかったのではと思えるものもあります。

運動会の簡略化

 今回話題にする「運動会」はまさにそれに当たります。多くの学校では、運動会のために多くの授業時数を使っていました。色々とやりくりする中で時数の調整をしているのが実情でしょう。ダンスの出来にこだわり、暑い中で何度も練習に取り組むことなどは、プラス面もあるのですが、マイナス面もかなりあると思われます。練習や運動会当日に熱中症になり緊急搬送されたというニュースをこの時期になるとよく目にします。コロナによって、シンプルな形の運動会がこの3年程、行われていた学校が多かったです。それが今年度になり、戻ってきている面があります。冒頭で紹介した文科省の通知はそういったことへの危機感の現れとも捉えることができるでしょう。

 運動会の簡略化において、すぐにできるものが「式典(開会式、閉会式)」や「入場行進」です。式典などにはそれぞれには意味があるのですが、全体を考えるとシンプルな形にしていくことが必要なのではと私は思います。たとえば、入場行進をなくす事は簡単にできます。当日の時間を省くことにもつながりますが、練習のための時間を省くことにもつながります。私が勤めていた小学校では、運動会当日までに入場行進や式典の練習のために「全校練習(全体練習)」として、4~5時間位使っていたように思います。

 改めて、運動会でよく行われている「行進」というものの意味を考えてみることも良いでしょう。実は「行進」は戦前の学校で行われていた「教錬(軍事訓練)」の名残でもあります。昭和17年の「国民學校体錬科教授要項及細目(現在の学習指導要領小学校体育編にあたるもの)」では、教錬が全体の約25%を占めていました。具体的には「1.徒手各個教練」「2.徒手部隊密集教練」「3.礼式」「4.指揮法」「5.陣中勤務」「6.銃剣術」です。戦後、教育の民主化が行われ、戦前に行われていた軍事訓練的な内容のほとんどが学習指導要領から削除されました。そういった中、わずかに残ったものが「行進」「整列」「前にならえ」などです。そういったものは、高度経済成長の時代においては、都合が良い面もあったのだと思います。教師(学校)が子供を一斉に管理するようなイメージとつながります。今の社会において、一般の人が行進をする姿はイメージができません。今は個別最適な学びを目指しています。そういった状況において、皆が一糸乱れずに行進することは社会の感覚から少しずれているのではと私は感じます。運動会が子供達にとって良い学びの機会となることを願います。

 本企画では、読者の皆さまからの質問を受け付けています。下記のボタンをクリックして表示されるフォームより送信ください。実際に学校へ寄せられた相談のほか、保護者が学校へ伝えた相談など、鈴木先生に対応方法を聞いてみたい相談事例を募集します。

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《鈴木邦明》

鈴木邦明

帝京平成大学 人文社会学部児童学科 准教授。1971年神奈川県平塚市生まれ。1995年東京学芸大学教育学部卒業。2017年放送大学大学院文化科学研究科修了。神奈川県横浜市と埼玉県深谷市の公立小学校に計22年間勤務。2018年からは帝京平成大学において教員養成に携わっている。「学校と家庭をつなぐ」をテーマに保護者向けにも積極的に情報を発信している。

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