文部科学省は2023年6月14日、消費者教育に関する取組状況調査の結果をまとめた、令和4年度「成果につながる事業展開に向けた実践的調査研究」報告書を公表した。過去調査の再分析と事例調査から、消費者教育の現状と課題の把握、今後の消費者教育の推進を図るためのヒントを提示している。
2022年4月1日に民法が定める成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことを受け、国や関係省庁、自治体、教育現場において若年者への消費者教育が実践されている。文部科学省は、消費者教育をめぐる最近の状況と課題を把握するべく、消費者教育に関する過去調査の再分析および自治体や大学における取組事例調査の結果をまとめた報告書を作成。Webサイトに公開した。
過去調査の再分析では、2010年度、2013年度、2016年度、2019年度、2021年度に実施された「消費者教育に関する取組状況調査」の調査結果報告書をもとに、経年比較などを実施した。
再分析の結果、教育委員会においては、「コーディネートを行う人材や機関等がいる・ある」割合が、2016年度の16.8%から2021年度は21.1%に増加。消費者教育コーディネーターの増加が確認された。また、コーディネーターを配置することの効果として、コーディネーターを配置している自治体は、配置していない自治体に比べ、成年年齢の引き下げにともなう「学校教育分野での消費者教育に関する取組み」を実施している割合が高く、「教職員対象の研修における消費者教育に関する内容」を扱っている割合も高くなっている。
課題について、コーディネーターを配置している自治体では「どのような取組みをすればよいかわからない」「関連する機関・民間団体などとの連携が十分でない」といった課題の割合が低かった。コーディネーターを配置・活用することで、関係機関と連携することが可能となり、消費者教育に関する取組みにさまざまな効果があることがわかる。
大学における再分析の結果では、講義やゼミで消費者教育を取り扱う大学が増加。2013年の32.7%から2021年は50.6%まで増えている。啓発・情報提供や相談窓口以外の消費者教育に関する取組みを行っているのは国立大学、規模の大きい大学に多く、「クーリング・オフ等の制度や契約の取消に関する知識」「インターネットでの架空請求」など、幅広いテーマの啓発・情報提供を行っていた。啓発・情報提供以外の取組みを実施している大学では、学外機関との連携割合も高く、「消費生活センター」や「警察」などと幅広く連携している。
事例調査については、有識者の意見をもとに積極的な消費者教育を行っている自治体・大学の事例をピックアップし、ヒアリング調査を実施。自治体は、学校や消費生活センターと連携した取組みを行っている「近江八幡市」と、消費者教育コーディネーターを配置した取組みを行っている「御殿場市」を紹介。大学は、消費者教育に関する講義を行う「岐阜大学」と、生協と連携した取組みを行う「千葉大学」の事例を紹介している。
御殿場市では、消費者教育コーディネーターを継続して配置することで、小中学校と連携し取組内容を調整をすることが可能。市立小学校の中から消費者教育の研究指定校を選定し、消費者教育の見える化の実践を行ったほか、保護者を対象とした消費生活センター通信の発行、出前講座など、多岐にわたる消費者教育を推進している。
岐阜大学は、2022年度より消費者教育を扱う年2回のランチセミナーを開催。2023年度からは全学共通科目の1コマで消費者教育を扱うことになり、入学初年次セミナーとして全15回のまとまった講義時間を確保したことで、学生の意識の変化がみられたという。教職員に消費者被害から学生を守るという大学の責務を理解してもらうことも重要なポイントだとしている。