2020年9月、加賀市内の全小中学校にいち早く1人1台の端末が配備されて以来、加賀市立分校小学校ではグループ活動が大変活発になり、協働的な学びが促進された。その一方で、個別最適な学びをどのように進めるのかが課題のひとつとなっていた。そこで、全学年で自由進度学習を取り入れたことで、子供たちが大きく変化したという。校長の谷鋪秀治先生、教頭の齊官重治先生、研究主任で4年生担任の髙橋菜見子先生にお話を伺った。
◇協働的な学びの促進にはICTが欠かせない
◇オクリンクを使えばひとりひとりに丁寧に寄り添える
◇「学校が楽しい」と答える児童が83%から92%に
<プロフィール>
所在地:石川県加賀市
学校名:加賀市立分校小学校
児童数:122人
1クラスの人数:16人~29人
特色:「加賀市学校教育ビジョン」に基づき、「そろえる教育から伸ばす教育へ」「一人ひとり、それぞれの可能性を最大限開花させる教育へ」を実現させるべく、自由進度学習に取り組む。
協働的な学びの促進にはICTが欠かせない
谷鋪校長先生:加賀市は、未来のデジタル人材の育成に力を入れています。全国に先駆け、2017年から全小中学校でプログラミングの授業が始まり、2020年9月には1人1台の端末が配備されました。また、「加賀市学校教育ビジョン2023-2025」では、「そろえる教育から伸ばす教育へ」「一人ひとり、それぞれの可能性を最大限開花させる教育へ」というビジョンを掲げています。
本校は1学年1クラスで、図工や音楽の専科の先生もおりません。つまり、6人の担任が学年を超えて話しあい、力を合わせ、相談しながら端末の活用を進めていきました。ベテランの先生が若手の先生に使い方を教えてもらうようすも見られましたし、市の予算で配置されたベネッセのICT支援員さんにも、端末の操作方法やミライシードの活用方法、授業の教材作り等についてずいぶん助けていただいています。
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--端末が配備されたことで子供たちの学びは変わりましたか。
谷鋪校長先生:それはもう、大きく変わりました。特に、個人が考察を記入し、それをみんなで共有して対話を進める、スライドをグループで一緒に作る等、グループ活動については早い時期から活発にできるようになりました。ミライシードを使うことで一層促進されたと思います。
話すことが苦手な子もチャット等で積極的にコミュニケーションを取れますし、協働的な学びを急速に進めることができ、もうICTがない状態には戻れないという先生も多い。手応えは十分にあります。
しかし一方で、グループでの話しあいが進むと、なんとなくわかった気になってしまい、個の学びとしては格差ができてしまうこともわかってきたのです。現場としても、やはり個別最適な学びを進める必要性があるという実感を先生たちがもち始めていました。
--個別最適な学びをどのように進めていくかは、難しいところですね。
谷鋪校長先生:2022年度がはじまり、本校では研究主題を「主体的に学ぶ子を育てる授業づくり ~つけたい力を明確にした言語活動の精選を通して~」としました。それを実現するには、個別最適な学びが欠かせません。
個別最適な学びの実例があまり見当たらず、何から手をつければ良いのかと模索していた時、市から「個別最適な学びの1つの手法として自由進度学習に取り組みたい小学校はありますか?」と募集があったので、迷わず手を挙げたところ、先進的な取組みをしている他県の学校に視察に行くことになりました。
4年生を担任している髙橋先生が視察に参加し、ぜひ本校でもやってみたいということで、本格的に取り組むことになり、加賀市教育委員会のプロジェクトマネージャーである小林湧さんが伴走してくださることになりました。
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オクリンクを使えばひとりひとりに丁寧に寄り添える
--どのように自由進度学習を取り入れているのでしょうか。
髙橋先生:算数ですと、たとえば「面積」ならその単元について学習進度表を事前に用意しています。面積は13時限あるのですが、それぞれに対応したキーワードや教科書のページ、アナログの計算ドリルのページ、ミライシードのドリルパークで対応している問題番号等を前もって教師が振り分けておきます。
子供たちはそれを見ながら、その日の授業時間内に自分のやりたいものを自分で決めて取り組みます。授業はアナログとデジタルのハイブリッドで行います。
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1限の授業は大きく3つに分け、最初の10分で一斉授業をし、その後25分でひとりひとりがオクリンクに学習のめあてを記入して自由進度学習を進め、最後の10分を使ってそれぞれにその日の学びを振り返り、全員で共有します。
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--先生はどのように子供たちとかかわっていますか。
髙橋先生:自由進度学習の時間には、めあてを記入したオクリンクを手元のパソコンで確認できるので、子供たちのようすを見ながらひとりひとりに丁寧に声をかけて回ることができるようになりました。その日の課題ができた子は、同じくらいの課題に取り組んだ子を紹介し、一緒に考えるように提案することもあります。
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また、これからの課題でもありますが、つまずいたところがあれば、たとえば九九をもう一度見直す、割り算の基本を見直す等、学年をさかのぼって取り組めるようにしたいと思っています。そうすれば、学力の底上げがしっかりとできると考えています。
--自由進度学習を取り入れる前後での変化はありますか。
髙橋先生:どの教科でも、一斉授業だとこちらもみんながわかるようにとヒントを出してしまうこともあり、同じような答えになることが多かったのですが、各自が自分の取組みに集中することができるので、自分の考えを自分の言葉で表現することが増えました。
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また、ノートに記入すると「そのまま残ってしまうので間違えたくない」という意識が強く働くのですが、オクリンクだと気軽に書いて、後で書き直すこともできます。間違えることに対する怖さがなくなってきているようです。
「学校が楽しい」と答える児童が83%から92%に
髙橋先生:自由進度学習を取り入れたことで、子供たちは受け身ではなくなってきました。最近、私のクラスでは、「自由進度学習」のことを「自己決定学習」とよんでいます。その日の授業の流れは学習進度表を見てわかるので、主体的に取り組む子も増えましたし、「自分で選ぶ」からさらに進んで、「自分でやり方を考える」ことも増えてきました。
私がお手本としてリコーダーを吹いた動画をオクリンクで送ったら、自分でもオクリンクで動画を撮って、できているかどうかを確認する子が出てきました。これまでは、「~して良いですか?」とすべて確認を取るような子供たちだったのですが、自分で考えてチャレンジしているようすが見えて、とても嬉しいですね。
--これからの課題等、気になるところはありますか。
齊官教頭先生:私は、正直なところ自由進度学習には少し抵抗もあったのですが、子供たちがやる気をもって学んでいる姿を見て、これはなかなか良いなと思い始めています。しかし、授業の中で個人に任せる部分が多くなるので、ひとりひとりの見取りがどこまでできるのか、また、どんな方法で行えば良いのかがこれからの課題だと思っています。
さらに、自由進度学習が成り立つためには、学級経営がとても大事です。今、うまく進んできているのは、各学級が授業と生活の両面でうまく行っていることの表れだと考えます。
今後、学年に応じた学習効果をさらに期待するために、自由進度学習の段階的な積み上げ、広がり等を、学年毎にどのレベルで設定していくかも鍵になってくるはずです。
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谷鋪校長先生:実は本校では、自由進度学習を取り入れる以前は、アンケートの際に「学校が楽しい」と答える児童が全国平均より低く83%にとどまっていました。しかし、今は10ポイントほど上がり、92%になりました。これは本当に喜ばしいことです。
授業中に先生が丁寧に声をかけることで自己有用感も高まりますし、これまで授業が簡単だと感じていた子も、自分のスピードで取り組めるので面白さを感じているようです。テストの点数で学習意欲が左右されていた子も、自分なりの学びを進めることや自分なりに理解できたことへの喜びを感じるようになっていると思います。
自由進度学習を取り入れてまだ半年。子供たちは今後も変化していくはずです。とても楽しみにしています。
撮影/株式会社 デザインオフィス・キャン 加藤武 取材・文/太田美由紀
※取材の内容は2023年2月時点の情報です。
※掲載にあたり一部の図版を編集しております。
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