2020年4月にスタートした小学校の新学習指導要領では、「聞くこと」「読むこと」「話すこと[やり取り]」「話すこと[発表]」「書くこと」の4技能5領域の目標が設定された。そして、小学校・中学校・高等学校で一貫した英語教育を行い、英語でのコミュニケーション能力の育成を図ろうという英語教育改革が進められている。
その取組みの一環として注目を集めているのが、東京都立高校入試における英語スピーキングテストの導入だ。東京都教育委員会は、2023年度(令和5年度)の都立高等学校入学者選抜より、東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J、「イーサット・ジェイ」と読む)の結果を活用すると、2021年9月24日に発表している。
ESAT-Jとは?
ESAT-J(English Speaking Achievement Test for Junior High School Students)は、中学校における英語学習によって身に付けた「英語を話す力」を客観的に評価するため、2022年度から都内の公立中学3年生の全生徒を対象に実施されるもの。試験の実施・運営に実績のある事業者として選ばれたベネッセコーポレーションが、東京都教育委員会と共同で開発・実施する。
試験では、タブレット端末、イヤーマフ、イヤホンマイクを使用。英文の読み上げや質問への応答、自分の意見を述べる問題等が出題される。受験者には、A~Fの6段階評価や学習アドバイスが記載されたスコアレポートが返却され、「話すこと」の能力測定や指導充実に役立てられる。
都立高校入試の第一次募集・分割前期募集においては、中学校がテスト結果(A~Fで評価)を調査書に記載。高校はその評価を20点満点に点数化したものを、学力検査の得点と調査書点の合計(1,000点満点)に加えて総得点を算出し、入学者の選抜に活用する。
今年度は2022年11月27日(予備日12月18日)に実施予定で、2022年7月7日より受験申込受付を開始した。
なお、ESAT-J実施日(予備日を含む)になんらかの事情によって受験できなかった場合、「仮のESAT-J結果」が各都立高校で算出され、入学者選抜に活用される。不受験者の「仮のESAT-J結果」は、2月に実施する学力検査の英語の点数が同程度の他の受験者10名程度のESAT-J結果(20点満点)の平均値から求める。
都立高校入試におけるESAT-J活用への有識者の声
都立高校入試におけるESAT-J活用について、慶應義塾大学名誉教授で一般社団法人ことばの教育代表理事を務める大津由紀雄氏や、神奈川大学外国語学部教授の久保野雅史氏ら、外国語教育の専門家は以下のような理由から中止を求めている。
ESAT-Jを受験するのは都内の公立中学校の生徒であることから、他県の中学校や都内の国立・私立中学校の生徒が都立高校を受験する場合には不受験者として扱われる見通しで、一定数の不受験者が存在することになる。
しかし、前述のとおり、ESAT-Jの不受験者のスコアは、英語学力検査で同程度の点数を獲得した他の受験者のスコアをもとに算出される。この算出方式の前提となっているESAT-Jと学力検査の明確な相関関係は示されていないことに加え、不受験者のスコア算出は高校ごとに行われるので、学力検査の点数が同程度の受験者が各高校に10名程度存在する保証はない。その結果、推定スコアのぶれが大きくなり、場合によっては、学力検査の点数が上の不受験者と下の受験者の序列が逆転し、合否に影響を及ぼす可能性があることが指摘されている。
そのほか、アチーブメントテストとしてのESAT-Jの有効性への疑問や、導入決定までの経緯への疑義、公教育が民間企業の利益に利用されるのではといった声もあがっている。
あなたの意見を教えてください
これまで評価が難しかった生徒の「話す」能力を測ることができると期待される一方、都立高校入試への利用については疑問・反対の意見もあり、物議を醸している本件について、リシード読者の方々はどのように感じているだろうか。ぜひ、下記のアンケートより意見を聞かせてほしい。
ESAT-Jの都立高校入試に関するアンケート