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【EDIX2022】教育産業全体でデータ利活用の意識改革を…GIGAスクールアドバイザー髙谷浩樹氏

 第13回学校・教育総合展(EDIX)東京3日目に開催されたセミナーに、デジタル庁GIGAスクールアドバイザーの髙谷浩樹氏が登壇した。

教育行政 その他
セミナー「GIGAスクールの先へ、デジタル庁が示す教育データ利活用ロードマップと実現への課題」
  • セミナー「GIGAスクールの先へ、デジタル庁が示す教育データ利活用ロードマップと実現への課題」
  • デジタル庁GIGAスクールアドバイザーの髙谷浩樹氏
  • 令和の政府のデジタル化推進に向けた動き
  • デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針
  • デジタル庁が目指す姿
  • デジタルトランスフォーメーションの定義
  • これからの産業構造の変革
  • 教育のデジタル化のミッション・ビジョン
 2022年5月13日、第13回学校・教育総合展(EDIX)東京3日目に開催されたセミナー「GIGAスクールの先へ、デジタル庁が示す教育データ利活用ロードマップと実現への課題」に、デジタル庁GIGAスクールアドバイザーの髙谷浩樹氏が登壇。デジタル庁のこれまでの動きと、2022年1月に公表した「教育データ利活用」について、そして髙谷氏の私見として、教育データ利活用促進に向けた課題について語った。

デジタル庁GIGAスクールアドバイザーの髙谷浩樹氏
デジタル庁GIGAスクールアドバイザーの髙谷浩樹氏

これまでのデジタル庁の動き



 まず、GIGAスクール構想やデジタル庁の発足等、令和のデジタル推進の大まかな動きが説明された。令和元年、学校教育の情報化の推進に関する法律が成立すると、GIGAスクール関連補正予算が可決、成立した。令和2年9月には菅内閣が発足。デジタル庁創設をはじめとしたデジタル化の加速が表明されたのち、3か月という短期間で「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」等が閣議決定された。髙谷氏によれば、日本のIT社会の実現を目指す動きは2000年の森内閣時代に「E-ジャパンの構想」として本格化しており、ITインフラの整備が進められてきた。しかし、日本の大部分で通信環境が整う中でも、現場でのIT利用の体制がなかなか整わず、それがコロナ禍で顕在化したという背景があった。

令和の政府のデジタル化推進に向けた動き
令和の政府のデジタル化推進に向けた動き

 令和3年5月にはデジタル改革関連法案が成立。9月にはついにデジタル庁が発足し、3か月後には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定された。そして令和4年1月、「教育データ利活用ロードマップ」が公表された。

 「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」が謳われている。これは、ITが得意な人や、ITのニーズの高い企業等を中心にデジタル活用が進められてきたことへの反省が込められているとのことだ。

デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針
デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針

デジタル社会形成10原則
デジタル社会形成10原則

 次に「デジタル庁が目指す姿」を紹介し、「『データ』はデジタル社会において非常に重要なキーワード。データは、分析して使えば使うほど価値が出る。データの付加価値を引き出すためには、データ標準の策定や包括的データ戦略が必要になる」と述べた。

デジタル庁が目指す姿
デジタル庁が目指す姿

 2021年12月24日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、デジタル社会の実現に向けたさまざまな基本的な施策が定められているが、髙谷氏は「この計画に基づいて動いているのはデジタル庁だけではない。デジタル庁が司令塔となり、各省庁と連携してデジタル化を進めている」と説明した。

デジタルトランスフォーメーションの定義と現在地



 続いて、令和4年1月にデジタル庁が公表した「教育データ利活用ロードマップ」で示されている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の定義について触れた。

デジタルトランスフォーメーションの定義
デジタルトランスフォーメーションの定義

 DXの初期段階は、アナログの物理データのデジタル化を意味する「デジタイゼーション」。次に、デジタル化したデータを活用し、プロセスを効率化する「デジタライゼーション」。この2段階を指して狭義の「デジタルトランスフォーメーション」とよぶこともあれば、さらにデジタル社会の文化や風土の変革を含め広義の「デジタルトランスフォーメーション」とよぶ場合もある。

 このように定義されるDXの必要性はさまざまな分野で叫ばれているが、髙谷氏は「教育分野だけでなく、DXに取り組む多くの企業が初期段階のデジタイゼーションに留まっており、デジタルのメリットを享受することができず困っている」「仕事のプロセスをデジタルに合ったものに変えていく必要がある」と指摘した。教育分野についても、GIGAスクール構想の1人1台端末の整備だけではデジタイゼーションの段階にすぎない。次のステップであるデジタライゼーションでは、ICTをフル活用し、学習者主体の教育への転換や教職員が子供たちと向きあえる環境の整備が求められる。ロードマップでは、さらにデジタル社会を見据えた教育を行うことまでを目指している。

 ロードマップで述べられている教育のデジタル化のミッションは「誰もが、いつでもどこからでも、だれとでも、自分らしく学べる社会」、ビジョンは「データの(1)スコープ(範囲)、(2)品質、(3)組み合わせ、の拡大・充実により、教育の質を向上させる」ことである。

教育のデジタル化のミッション・ビジョン
教育のデジタル化のミッション・ビジョン

 またロードマップにおけるデータの利活用については、これまで行き届かなかった非認知能力や学校外での学び等の広範囲のデータを活用する「スコープ(範囲)」、目的に応じたさまざまなリソースの「組み合わせ」、標準化され、組織を超えて共有・活用できるデータの「品質」を重要な3つの要素として挙げている。

ミッション・ビジョンを取り巻く構造
ミッション・ビジョンを取り巻く構造

教育データ利活用ロードマップ策定について

教育データ利活用に向けた課題



 最後に髙谷氏は私見として、教育データ利活用を推進するために現在抱えている課題を説明した。

データ利活用と個人情報保護のバランス



 ロードマップでは、学校間や自治体間で記載方式がばらばらになっているデータを標準化し、必要なときに連携できるようにすることを目指しているが、個人情報が悪用されるのではないかという不安の声も多く見られている。それに対し、髙谷氏は「個人データの利活用とはどういうことなのか、正しく社会に浸透していない現状がある」と指摘した。

 平成29年度の「情報通信白書」で発表された調査によれば、「パーソナルデータを提供することに対してどう思うか」という質問に対し、日本は諸外国と比べて「不安を感じる」「よくわからない」という回答の割合が高いことがわかった。こうした現状を改善するためには、正しい個人情報保護についてしっかりと周知し、理解してもらう必要がある。

 「日本の多くの自治体では、情報漏洩への不安からデータを厳重に保護することに焦点が置かれがちであるが、それではデータ利活用が進まない。これによって不利益を被るのは、データ利活用によって本来利益を享受するはずだった人たちの『利益を享受する権利』が失われるということ。データ提供を希望しない人に応えながら、データ利活用を進めていく必要がある」と髙谷氏は述べた。

データの扱いに関する課題



 データ利活用ロードマップの作成に際し、さまざまな学識経験者や教育関係者、産業界へのヒアリングを実施したところ、以下のような懸念の声があがったという。

(1)ポータル等プラットフォームの複数方式の乱立
(2)情報と商流のロックイン
(3)有償・無償:持続的運営の不透明さ

 (1)(2)について、髙谷氏は「データは分析すれば分析するほど価値が生まれるため、オープンデータに取り組む必要があるにも関わらず、実際にはデータを知的財産のように捉え、独占しようとする『データ囲い込み信仰』が根強い。これでは、教育データの利活用が停滞してしまう」と指摘。必要なデータを匿名化して組織や業界の枠を超えて共有し、分析・利活用するという「データのオープン構造への意識改革」が必要だと述べた。

 (3)について、データを有償にするのかどうか、今後どのように運営していくのかについて懸念されている。髙谷氏は「デジタル庁や文科省等の関連省庁でもデータの取扱いについては試行錯誤しているが、デジタル社会の形成に産業界全体の行動力が必要不可欠だ。各企業自ら主体的に行動し、透明性・公平性を担保しながら健全で持続的な事業発展を目指してほしい」と述べた。

これからの産業構造の変革



 現在の教育産業におけるサービスは、学校向け・塾向け・教材というふうに分かれてデジタル化が進められている。しかし、デジタル社会における「ひとりひとりのニーズに合ったサービス」や、Society 5.0で目指す「人間中心の社会」を実現するにあたり、利用者個人やプラットフォーム基盤という軸をもち、人材や医療、福祉といった他の産業とも連携しながら発展を目指していく必要があるとした。

これからの産業構造の変革
これからの産業構造の変革

 最後に髙谷氏は、「消費が停滞し、少子高齢化が進んでいる今、教育産業を拡大していくことはなかなか難しいという実態がある。教育産業全体が自ら変革していかなければ、教育DXは進まない。教育現場にばかり目がいきがちだが、それを支える教育産業自体を今後どのように発展させていくかということを考えていただきたい」と述べ、講演を締めくくった。

 教育DXの必要性が叫ばれ、「デジタイゼーション」が急ピッチで進められているものの、データを利活用し目指すべき本来のあるべき姿については理解・実現が進んでいないのが実状である。教育業界全体が長期的な視野で教育DXに向きあい、共通した目標に向かって突き進んでいくことの重要性をあらためて認識させられる講演だった。
《多賀秀明》

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