こうした転換はグローバル化が進む社会に対応したものであり、今後はますます使える英語教育、実践英語力の強化が重要になってくる。子供たちの英語の実践力を伸ばすには、学校現場でどのような教育が効果的なのだろうか。
今回は、子供たちの英語の実践力を養うためにさまざまな工夫を取り入れている先進校2校で英語教科を担当している先生方にお話を伺った。松蔭中学校・高等学校 グローバル・ストリーム(GS)主任・英語科教諭の篠原弘樹先生と、義務教育学校である京都教育大学附属京都小中学校 英語科主任の今西竜也先生の対談から、英語を使いこなす実践力を養う英語教育の工夫について探る。
--両校の英語教育の特徴を教えてください。
篠原先生:私が担当しているGS(グローバル・ストリーム)コースでは、中高6年間の目標として、学校の英語教育でTOEFL iBT80まで届くことを掲げています。英語教育の特徴は毎日のオンライン英会話で、月曜~金曜にオンライン英会話を30分ずつ行っていまして、世界各国の英語話者と1対1の会話を行い、それをベースにさまざまな取組みを展開しています。さまざまなテーマで話すことで、英語だけでなくグローバルな視野や考え方をも身に付けていくのが目標です。
今西先生:小中一貫の本校では小学1年生から英語の授業がありまして、6年生まで週2時間の英語学習をしています。1年生から4年生までは英語に慣れ親しみ、5~7年生で少しずつ本格化し、8・9年生では英語を使って何かができることを目標にしています。1回習ったことをそれで終わりとせず、同じようなテーマや場面を少しずつ広げながらスパイラルに重ねていく「漆塗り」で、何度も学習して英語の力を定着させていきます。最終的には英語を使って知識を深めたり、考えを相手に伝えたりできるようになることが目標です。
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インタビューやエッセイなど英語をあらゆる場面で使う
--実践英語力が重視されている中、指導ではどのような工夫をされていますか。
篠原先生:本校では学んだことをすぐにオンラインでの英会話で実践できるので、使える英語が身に付きやすい環境になっています。しかし、単に英語を使えるだけではだめだと思っています。生徒自身が一緒に成長しないと、本当の意味で将来使える英語力が身に付かない。英語をツールとして教えながらも、どれだけ人間力・人格形成の部分の成長を促していけるかを意識して指導しています。

具体的にみると、本校では探究&教科横断テーマを設定していて、そのテーマに沿って、国語や英語、総合的な学習の時間へと教科を横断して内容を深めていく取り組みを行っています。たとえば中学2年生の1学期になると、保健では生命を生み出す体の成熟を学び、技術家庭科では幼児の生活と家族を学ぶので、それらを抽象化して「女性と将来」というテーマを設定しました。オンライン英会話では、世界各国の方へ「理想の子どもの人数とその理由」についてインタビュー調査をする。インタビューを通して、生徒は世界の現状を認識しその後さらに日本や世界の出生率の問題を考えて、日本の出生率の問題について改善案を書く形までもっていきます。
英語が使えるというのは、ある意味英語でどれだけ知りたい情報を取ってこられるかが大事なので、インタビュー形式というのは特に実践的な力を養うのに向いていると思います。そこに教科が横断できる学びを設定すると、英語だけでなく他の知識も定着しやすく全体的な力を伸ばしていけます。なので、使える英語の指導はもちろんですが、その他の教科との連携した取り組みの部分も特に意識しています。
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今西先生:英語の力を伸ばすとなると、どうしても文法や英作文に目が行きがちです。文法や単語の知識は、どの場面で使うかというのをわかっていないと意味がないので、たとえば中学2年生で学ぶ比較級だったら、生徒がどうしても比較表現を使わないとならないようなテーマで話したり、エッセイを書いたりという工夫をしています。
たとえば「アメリカと中国のどっちに住みたいですか」といった質問をして、エッセイを書かせる中で「こっちのほうが広い」などと比較級で伝える場面に出会っていけるように、教師側が発問や素材を工夫して、使わざるを得ない状況にもっていく。使っていく中で「ああ、こういうふうに使えるんだな」という実感がわくようにして、知識としての英語から、実際にどの場面で使えるのかということをわかるようにしています。
さらに、英語では自分自身のことを言わないと意味がないように思います。自分自身を英語で伝える「自己表現」を多く行っていまして、これは自分を表現するだけでなく、同時にクラスメイトの話を聞く機会にもなる。自分と相手の意見を合わせて新しい案を作り出したり、他者との交流の中で自分自身も成長できるようになったり、というのを意識して指導にあたっています。
グループワークや作文で習熟度に合わせた学びを
--英語の習熟度が異なる児童・生徒への対応はどうしているのでしょうか。
篠原先生:思考力や表現力を鍛えるために、基本的に自由度が高く個別でやりがいのある課題を多く出しています。たとえば自身で作成したエッセイを覚えてきて、定期テストで書くといったものがあります。エッセイの作成自体は、自分の英語力で考えを表現するので、習熟度に関係なく取り組めると思います。また、オンライン英会話も1対1なので、取り組みに個別でできるものが多くあれば、英語の習熟度が違っても特に大きな問題にはなりません。
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今西先生:おっしゃるとおりですね。本校では英作文を書かせるときに、英語が得意ではない生徒でもある程度書けるようなテーマを設定しています。できることでまず自信をつけてほしいと思っているので、「ここまでできたら良い」というラインは低めに設定して、習熟度に差があってもみんなが取り掛かれる課題から始めるんです。そのうえで、できる子は論理的な部分で段落分けをしたり、一般的な意見を紹介したり、いくらでも肉付けできるようにしています。加えて、文法的なところで細かいミスを指摘しすぎてしまうと英語を話したり書いたりするのが億劫になってしまうので、内容がわかれば、なるべく減点やダメ出しをせず、その内容に対して評価するようにしています。
あとは、教科書を使ってコーススタディに入っていくのですが、最初はなるべく文法の説明を書かせず、まず口頭でやり取りをして実際に使えるという感覚をもたせて、そのあとで読んだり書いたりしていく。足場架けをしていくことで習熟度の差を克服していきたいと考えています。
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--得意な子と得意ではない子、どちらも伸ばす工夫はあるのでしょうか。
今西先生:全員がわかる授業をすると簡単すぎるので、頑張ったらついてこられるレベルを設定して、ついてこられない生徒には個別にサポートもするやり方を考えています。個人的には真ん中よりちょっと上くらいのレベルに合わせて授業をすると、頑張れば7割の生徒がついてこられるように感じます。もちろんそれだけで終わらせずに、要所要所で「わかりにくかった人は教科書のこのページにまとめが載っているよ」とか、「プリントがほしかったら来てね」というようにフォローを入れますね。
篠原先生:担当のGSコースでは、考査ごとに取り組む指導法があります。最初に英語・ICTでオンライン英会話を活用して体験ベースで知識等をインプットする。その後、総合的な学習の時間でグループに分かれてネット検索、意見共有、まとめを行います。その後日本語でのディベートやディスカッション、日本語で小論文の作成、同時に英語でエッセイを書き、日本語と英語の両方を鍛えていきます。ここで大事になるのが、他者と意見を共有したり、お互いにフィードバックしあったり、の刺激しあいながら学ぶ学び合いの部分です。
得意な子と得意でない子で習熟度が違うという場合、習熟度別の取り組みで伸ばしていくことが考えられますが、本校ではみんなが刺激し合って成長して欲しいので習熟度別にはせず学び合えるような環境を意識しています。英語のみのスキルを伸ばすのではなく、他教科も横断して総合的な力をつけることを目的としているので、探究活動やグループ学習でも学び合うという点で、むしろ習熟度別でない方が良いように思います。ある子は英語の表現力はあるけど考察力がもう少し欲しい、もちろんその反対もあり、それぞれが自分の得意な部分で刺激しあえるような環境を作り上げていくことが大事だと思っています。
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今西先生:そうですね。英語のスキルアップだけに特化する場合は習熟度で分けたほうが良いかもしれませんが、英語を実践で使うことを考えるといろんな人と出会うべきだと思います。たとえば英語が苦手な子だけが集まったら一言もしゃべらないままになってしまうのが、さまざまなレベルの子がいると、自信のない子も周りに合わせて話すことがあるので、習熟度別にしている学校でも各クラスでいろんな交流ができる工夫をすると良いかなと思いますね。
TOEFL Primary・Juniorと定期テストの相関で英語力を俯瞰
-- TOEFL Primary・Juniorテストは英語教育にどのような役割を果たしているのでしょうか。
今西先生: TOEFL Primary・Juniorは結果がスコアで出るので、合格・不合格で一喜一憂して終わりではなく、自分のことを知ることができるテストだと思っています。自分の苦手な部分を洗い出し、得意な部分に気付いて伸ばしていくことができます。
TOEFL Primary・Juniorのテストには、実際に英語を母語としている子供たちの生活シーンがたくさん出てきます。私の印象に残ったのは、教室に入ったときに先生が「コートは左側のフックにかけなさい」と呼びかけたシーンです。そうした場面は普通にあることなんですが、案外聞き取れなかったり、意味がわからなかったりすることが多いんです。
将来、留学や海外旅行をしたり、外国人と仕事をするといった中で生きてくるのは、何級をもっているというよりも、その場で自分の思っていることを伝えたり、相手の話していることがわかったりする力です。TOEFL Primary・Juniorのテストを受ける中で、本当に英語を使えるようになっているのかという部分に視点を向けさせる役割は大きいと思っています。
篠原先生:私も、日本の英語教育だけでは英語が偏ってしまうという危機感を強く感じています。日本で作られた教材を使用していると、どうしても日本的な英語に偏るので、実生活に関わる英語を含めていろんな英語を学んだほうが良いと思っています。TOEFLはそういう日本的な英語だけじゃない部分を気づかせてくれる部分であり、学齢に合わせた受け方ができるのが魅力だと思っています。英語力が高い生徒だと中学1年生から英検の高い級を受ける生徒もいますが、英語というより出題文自体の内容を理解できる準備が整っていないように感じています。その点、TOEFLはPrimaryやJuniorなどがあるので上手く学齢と合わせながら活用できるのが魅力ですね。
--先日、篠原先生が英語学習についての分析レポートを作成したと聞いたのですが。
篠原先生:はい、学校の定期テストとTOEFL Primary・Juniorのスコアを相関させる内容のレポートを書きました。それらを相関させると見えてくることが多くて、指導にも役立つことが多い。たとえば相関表でTOEFL Primary・Juniorも定期テストもスコアが高い右上エリアの子たちは、文法も英語の実践もどんどん伸びていっている。TOEFL Primary・Juniorのみ高い左上は英語を話せるけれど、文法や文章の構成力が弱い。定期テストのみ高い右下は文法の力や英語の正確さは高いけど、実践となるともう少しという具合です。この表だとひとりひとりの現状がわかってアドバイスもできるので、英語力の現状を計るのにすごく有用だなと感じています。
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今西先生:学校で指導する中で英語が苦手だと思っていた子が、TOEFL Primary・Juniorを受けたら満点だったんです。学校が問う英語の力と、TOEFL Primary・Juniorが問う英語の力が合致していないのがショックで、ずっともやもやしていたのを、はっきりさせたのがこの表なんです。この表でいうと、彼は一番左上にいることになります。
この表は、指導をどう変えていくかというのを考え直すきっかけになりました。また、中学1年生~3年生を担当している英語教師が3人いるので、お互いに学年の表を見せ合うことで自分の指導の偏りを知るなどの学び合いができ、集団の形が見えやすくなったんです。TOEFL Primary・Juniorが求める実践的に使える部分と、学校が教えていることが本当に役に立つのかという部分を顧みながら指導内容を改善していくというのは、非常に良いアイデアだと思います。
習熟度に適した多読を進める
--リーディングセクションのスコアから算出されるLexile指数を、多読の取組みに生かしているとお聞きしたのですが。
今西先生:はい、本校は今2,000冊程の英語の本が英語ルームにおいてあります。それから、何百冊も読めるオンラインのサブスクリプションを副読本として保護者に購入いただいて、読めるようにしています。
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教科書はめくるたびに知らない単語と文法が出てくるストレスの多い本なので、生徒が実践の中で英語を使用できる感覚を得るために、多読を推奨しています。英語の読解力と文章の難易度を表す指標があれば、それに合わせて本を選ぶことができます。80~90%は知っている単語、だいたい知っている文法で書かれているので、1割わからなくてもどんどん読み進められるんです。
文章量は多少多いけれども、自分の力で読んでいける自信をつけ、実際に使えていると感じることで普段の英語学習のモチベーションにもつながれば良いと考えているところです。Lexile指数によって習熟度が違う生徒でも自分に合った本が読めるので、個別対応もできると思います。
篠原先生:今は本をあまり読まない子たちも多いので、小学校の時期からそうやって本に慣れるのは良いですね。本校では紙ベースの本による多読はしていないのですが、多読の要素は入れたいと思い、いろんなジャンルの短い英語動画を見ながら英語を勉強する取組みを進めています。内容が多様で1分程度の短いものが中心なので、YouTube等に慣れた子供たちもとっつきやすく、多読の代わりにと考えて導入しています。
今西先生:自然なインプットで良いですね。視覚的な刺激もありながら耳からもインプットがあるというのはすごく良いと思います。
--耳からのインプットで、より実践的な英語力が身に付きそうですね。
今西先生:実はこの前、篠原先生が勤めている松蔭の中学生が書かれた英語エッセイを見たのですが、これがなかなかセンスのある英語でした。センスのある英語って難しいのですが、おそらく外国の人と喋っている中で身に付けたのだと思います。英語っぽい書き出しには驚きました。一方で、細かい点では意味がわかれば指摘しないとのことで、そういうところが生徒を伸ばすうえで非常に大事だと思います。
篠原先生:エッセイを添削していると、生徒と文通をしているみたいで楽しいですね。中学2年生になると、結構意見も出てくるので私自身も知ることが多く、楽しく取り組んでいます。中学2年生の2学期は「賛否・答えのないもの」というテーマで、「出生前診断の賛否」や「日本の捕鯨の賛否」について調べて書いています。「出生前診断って英語でどう言うんだろう?」というところから始まって、調べていくうちに語彙もつき、内容も深まっていき興味深い考えがでてきます。そしてインタビューもしているので、英語らしい表現や出生に関連する単語もわかり、定着してきます。このような形で実践的な英語力と同時に、考え方・思考力を総合的に養っていくことが大切だと思っています。
英語を生活の一部として使い生徒の人格を育む
私立の中高一貫校、国立の小中一貫校と立場は違えど、両校ともに多彩な取組みを導入して、英語を実際に使いこなす実践を幅広く行っていることがうかがえた。それは単語や文法に重きを置きがちな従来の英語教育から抜け出し、英語を本来の言語として、日本語のようにあらゆる場面で、生活の一部として使う工夫を施した授業であり、英語を用いて生徒の人格も育むグローバル人材育成につながる授業となっている。そしてその指導を振り返り、現状を把握し、効果を顧みるのに用いられているのがTOEFL Primary・Juniorであることが印象的であった。先生方はTOEFL Primary・Juniorと学校の授業を組み合わせて、さらに英語教育を改善していき、生徒の実践英語力を高めていくのだろう。
TOEFL Primary、TOEFL Junior 活用事例
TOEFL Primary、TOEFL Junior 実施団体について