デジタル化を推進する起爆剤
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--「Gakken LEAP」設立のきっかけをお聞かせください。
細谷氏:現在、私たちは中期経営計画「Gakken2023」に基づいて活動しており、成長に向けてグローバルとDXを軸に据えています。これまで学研ホールディングスにデジタル事業本部を置いて進めてきましたが、それだけでは従来のやり方や既存コンテンツ、営業チャネルに頼らなければならずスタートアップのスピード感にも追いつけませんでした。
こうした中、今年の4月頃から学研の目指す教育・医療福祉とは何なのかを学研ホールディングスの経営層で改めて議論をしはじめて、「特に教育では出版や物販、塾等の事業をばらばらにデジタル化しても進みが遅く、まとまってこれまでとは異なるスピードで進めなくてはならない」という考えに至りました。これがGakken LEAP設立のきっかけです。
山内氏:学研は教育のコンテンツが豊富で、塾や学研教室等のリアルな教育現場もあります。ただテクノロジーを駆使して事業を進めるとなると、エンジニアを中心に仕事を進めることには馴染みがなく、10年後にデジタル領域で40%超の売上を満たそうとするときに、大きなうねりを作る必要がありました。
もちろん、これまでもグループ全体でデジタル化は進めていました。今あるコンテンツやデータ、人材を集めてコアなデジタル組織で推進するために、今回Gakken LEAPでは既存プロダクトの部隊も取り込んで改修して良いものにする。そしてさらにこの力を結集して、新しい事業もやっていきたいと考えています。こうした二層の狙いをいかに実現できるかですね。
デジタルサービスの核となる「Gakken ID」
--「Gakken ID」の導入も、この流れの一環でしょうか。
山内氏:顧客視点のサービス構造を作るという大きな目標を実現するには「Gakken ID」が足掛かりになるでしょう。これまでは、学研グループの塾や学研教室の会員、学習参考書の購入者といった縦軸の組織やサービス構造ごとに顧客が分かれていて、幼児期に何らかのサービスを使っていただいても、小学校入学とともに学研教室入会といった動きにはつながりませんでした。
学研には幼少期から高齢者まで幅広い事業があり、それらを連携すればさらにお客さまからの満足度を高めることができると考えています。学習履歴や目標等を把握しながら、お一人おひとりにメリットがある形でさまざまな提案ができれば、連続性のある教育サービスの提供が実現できます。また社内的にも事業間の接続もしやすくなり、マーケティングコストや商品・サービスの開発コスト等の抑制効果にも期待できるでしょう。
現在、学研では「Gakken ID」に紐づくデジタルサービスをいくつか保持しています。たとえば、学研教室の小中学生を中心に保護者とお子さまおよそ20万人の会員に学習支援機能や連絡帳機能を提供している「マナミル」というアプリ、また幼保園と家庭を連携する「hugmo(ハグモー)」というアプリも提供しています。これらを基盤に、さらにお客さまにご利用いただくデジタルサービスを提供し、今後はIDをもつ学習者が利用できるEdTechサービスや、その保護者が利用できるリカレントサービスの提供につなげたいですね。それを行うのがGakken LEAPの役目です。
既存のプロダクトとサービスをブラッシュアップ
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--現在、検討されている新しい教育サービスや事業はありますか。
細谷氏:すでに学研には学研教室も含めた塾や教材、保育園・こども園等があり、教育の多くの領域に参入しています。既存のデジタルサービスに「Gakken ID」を付与し、今以上に高品質に、充実させていきたい。日本の教育の中でも断トツとなるデジタルサービスに磨き上げたい。それが今、まずは私たちがやらなければいけないことだと考えています。
そして、まだ学研グループがもっていない部分もあります。特にリカレント教育のデジタル領域は今後チャレンジする予定です。まだまだ開拓余地がある幼少期のデジタルサービスにも取り組んでいきたいと考えています。ただ、こちらが走りすぎてもいけません。お客さまの声を聴き、社会全体の様子をみながら進めたいと思っています。
山内氏:新しいサービスだけでなく、今あるサービスについても発展させていきます。「マナミル」を例にすると、これまで開発は外注していましたが、より良いサービスにするためには要望があれば絶え間なく更新をしていくべきものなので、エンジニアをしっかりと抱えて内製化の体制を整えてアップデートしたいと考えています。今後は、他のサービスとの連携や学研教室のオンライン化も視野に入れています。そして次のステップで、さらにEdTechによる学習サポートサービスに発展させ、必要な機能を強化していくことになるでしょう。
細谷氏:私たちは、保育園・こども園や塾、学研教室、サービス付き高齢者向け住宅等のリアルな場を持っています。そこでは、お客さまだけでなく、そこで働く人間の満足度を高めることも大切です。デジタル活用による管理業務の効率化を実現し、業界の働き方を変化させることに寄与し、それが業界全体に波及すれば、日本全体を変えていける可能性もあると考えています。
新たな学びの創出に向けてスタートアップとともに歩む
--スタートアップ企業への出資や、共同での開発等もあるのでしょうか。
細谷氏:はい、その予定です。GIGAスクール構想によって公教育に端末が導入され、今後は塾や受験制度、家庭学習がどこまで追いつくかになると思います。ぜひ新たな学びの創出を見据えて仲間を増やしたいと考えています。
山内氏:デジタルサービスは、ゲーミフィケーション等の「面白い」「楽しい」、あるいは「手軽」といった要素が良さです。スタートアップはそうした要素をうまく取り入れていますので、私たちもその知見を得ながら、これまでの蓄積と融合することが役割だと考えています。
細谷氏:新しい教育へのヒントを得る、また自分たちでできないことに関しては、出資先にしてもらうことが狙いのひとつです。同じ考えや理念をもった方々に、ぜひ加わっていただきたいですね。
データ活用とプロトタイプ
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--Gakken LEAPが目指すデータ活用法について詳しく教えてください。
山内氏:先ほどのGakken IDで蓄積される学びや行動履歴、お客さまの教育に対する思いやご要望等の「データ活用」がまずありますが、そのデータから得られるもの自体で教育の課題や解決策を世に問うていくリサーチ的な事業も考えられますね。このほか、本当に勉強に集中できているかどうかをAIで判別してアドバイスにつなげるといった学習効果を捉えた取組みも検討しています。
また、学研は出版や物販等のビジネスも行っていますので、在庫や流通のデータを把握し、どういうコンテンツにどのぐらい力を入れるかといった最適化も考えられますね。
さらには、データから要望をくみ取り、内製化できる体制を活かして、顧客との対話の中でプロトタイプからサービスを組み立てていくようにしたいと考えています。これまで社内にはエンジニアやデザイナー、UXを検討できる人がいませんでした。そのため試作品を作るのが難しく、外部に一括発注して失敗するケースもありました。この流れをお客さまに問いながら直すものにしたい。学研にとっては、とても大きな転換点です。
変革期にエンジニアを積極採用
--学研は大きく変わりますね。
細谷氏:こういったことをすべて実現できれば大きく変わると思っています。そのために今、エンジニアをはじめとして採用活動を積極的に展開しています。
Edtechのスタートアップ企業にない強みとして、学研にはGakkenIDだけでもおよそ30万人のお客さまと接点があります。新しい発想で創造したプロダクトをすぐにお試しいただくこともできます。学研はいままでもさまざまな挑戦をしてきましたが、個々の商材が業界トップになることとともに「気付いたらやっぱりこれも学研だった」という世界が、デジタルでも起こってほしいと思います。
山内氏:長い目で見たときには、確かにそういうものを目指したいですよね。大人になって学び直したい人に、子どものときにこんなものに興味関心があったのだから、これを勉強してはどうかという提案までできれば新たな学びにもつながるかもしれない。そういった10年、20年先の心ゆたかな社会を創る計画にチャレンジするエンジニアに来てほしいと願っています。
学研に場所とコンテンツがあるのは何よりの強みです。学研教室では子どもたちがどのように学んでいるかの様子がわかります。何を提供すれば良いのかを肌感で理解してデジタルの開発ができます。また図鑑や辞書、学習参考書等のさまざまなコンテンツがあり、それを作る人たちもいる。そうしたアセットや自由度がある環境であることは大きな強みですね。
日本の教育を変えるために先陣を切る
--今後の展望をお聞かせください。
山内氏:「大人の学び」を視野に入れて進んでいます。学研は子どもたちに強く、医療福祉事業にもかなり力を入れている。ただ大人の学びの領域では書籍はあるものの、あまり充実しているとはいえません。「大人の学び」の分野でもこれまでの蓄積を使って学ぶ人にアダプティブな形でやっていけると良いと思います。
細谷氏:私も山内も今年から学研に加わりましたが、その大きな理由は教育の会社だからです。教育は今、なかなか解決できなさそうな問題が目に付きますが、そこで民間の立場から挑戦しながら、政府に提言をしながら変えていく志をもつことができるのが「学研」で、それはとても良いポジションです。日本を変えていく先陣を切る挑戦をGakken LEAPならば実現できる。多くの方にGakken LEAPに興味や期待をもっていただきたいと思います。
--ありがとうございました。
インタビューでは、学研の豊富なコンテンツや教育現場のノウハウに「Gakken LEAP」が加わることで、日本の教育を本当に変えていくという強い意思がうかがえた。今後の動向に期待は高まる。