兵庫県の高校は2022年度からBYODで「1人1台」へ
--御校のICT環境について教えてください。
兵庫県の高校では現在、コンピュータ教室の他に、授業で使用するための「Surface Go 2」が整備されています。私の勤務する兵庫県立神戸甲北高等学校では、3クラス分と教員分、計123台が導入されました。
ICT環境を整えていましたが、昨年度の休校を受けて一気に整備が進み、「Surface Go 2」の他にも、ホームルーム教室へプロジェクターが入り、Wi-Fiのアクセスポイントも校内に整備されました。以前は自分でプロジェクターを持っていって繋げていましたが、ようやくPCを持っていくだけでよくなりました。
昨年度の休校期間中は「Surface Go 2」の導入前でしたので、教員用のPCを使ってTeamsでの3者面談や、オンラインで家庭学習用の教材配布などを行いました。他にも、授業のビデオを撮って公開するなど、学校全体で取り組んだというより個々の先生が各々工夫していた感じです。また、家庭にネットやPCの環境がない生徒に関しては、県からの貸し出しで対応しました。
--現在は「Surface Go 2」が導入されたことで、活用も広がりそうですね。では、今後のICT環境の整備の予定はいかがですか。
兵庫県では独自に「学びのイノベーション」として、2022年度から高校の教育課程が新しく変わるのに合わせ学びの形も変えていくために、2022年度の入学生からは「1人1台」のBYODを予定しています。
実際に何を導入するかは、OSも含めて各校で検討しているところです。本校では、体操服を購入するように、学校である程度の推奨機種を決め、共通のものを家庭で購入していただくことを考えています。つまり個人所有のものを持ってくることになります。
セキュリティやインストールするアプリについては、各校でどういう教育をするかによって決めていくと思います。ただ、個人的な意見としては、学校所有ではなく保護者が購入する個人所有のものなので、それに制限したり、特定のアプリを学校から指示したりするのには限界があると感じています。緩やかに、自由に使わせることになるかと思います。
--先生方の今現在のICT環境はいかがですか。
職員室に1人1台の教員用PCがあって、これはそれぞれの机で校務に使っています。端末を管理するという面でも、学校自体ノウハウもあり、教育委員会も管理しやすいため、すべてWindowsで統一しています。配布プリントを作るのは「Word」で、授業でプレゼンをするときは「PowerPoint」、事務作業や成績をつけるときには「Excel」と、フル活用しています。生徒の学習用にコンピュータ教室が2つあり、82台のコンピュータと2台のサーバーが動いていますが、これもすべてWindowsです。授業でもWord、Excel、PowerPointを用途に応じて活用し、最近ではOffice365の活用もはじめました。
PC選びの重要なポイント
--高校生用のPCを選ぶ際、何をポイントにすると良いでしょうか。
まず「学校でどんな使い方をさせたいのか」という学びのイメージをもつことが大切です。3年間生徒が使うことを想定し、いろいろなことがしっかりでできる機種を選定しておかないと、実際に活用がはじまったときに非常に困ると思います。
小学校や中学校とは少し違い、高校生が使う場合は単純に受け身ではなく、作るという場面が多くなります。レポートを書いたり簡単な論文も書いたりしますので、文字だけでなく、写真を入れたり図を書いたりデザインを決めたりします。ですから、クオリティの高いものを作れる機種であることも必要なポイントです。
他にも、プリントアウトがどのプリンタでも容易にできないと不便です。ペーパーレスの時代になっていくとはいえ、プリントする場面も少なくありません。
また、タブレットなどに搭載されているカメラ機能は年々性能が向上しているものの、表現力という点では足りないと感じることがあります。一眼レフのメモリカードを読み込んだり、USBメモリで簡単に受け渡しができたりする点も、選ぶポイントのひとつだと思います。調べ学習や協働学習で、データを生徒どうしで簡単にストレスなくやりとりできることが重要です。
--松本先生は、GIGAスクール構想であげられている3つのOSの端末を実際に購入し、使い勝手を試されたようですが、キーボードについてはいかがでしょうか。
キーボードで文字を入力する作業というのは、極力、無意識のうちにやりたい作業であると思います。使いづらいと思考が中断してしまいます。ですので、文字入力がしっかりできることはとても大事です。いくらスマホが発達しても、やはりキーボードを使ってのほうが文章を書きやすいですし。神戸甲北高校では論文を書く授業もありますが、長文を書く、推敲するといったときには断然ノートPCが適しています。マルチウィンドウで何かを参照しながら書くといったときにも、向いています。
ちなみに、現在の高校生は結構タイピングスキルが高いです。教科「情報」が始まった20年位前は、本当に人差し指でポツポツと入力する生徒が多かったのですが、何年か経つと新入生も入力ができるようになっていて、家庭でもPCを使うようになってきたのだなと思いました。しかし、タブレットやスマホが普及したことで、タイピングができない生徒が増えた時期もありましたが、ここ数年はまたキーボード入力がうまくできる新入生が多くなってきて、小学校や中学校でしっかりやっているんだなと感じました。
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高校生なら「プロが使うソフト」を使わせたい
「インストールしているソフト」というのも重要です。現在は、クラウドでアプリケーションを使う時代になってきていますが、日本の場合はどこでも常時オンラインというわけにはいきません。たとえば、修学旅行や野外活動、遠足に行って京都の寺社を探索しながらレポートを書く、というときなどに、オフラインでもまったく同じ機能を使えるソフトやアプリがインストールされているというのは非常に重要だと思います。
幅広いソフトを使えるという点でも、Windowsは良いと思います。
たとえば、Adobeの「Photoshop」を初めて見たときに、当時は10万円ほどしたのですが、「これは絶対使わなきゃいけない!」と思って、自腹で買ったのを今も覚えています。こうしたプロのツールを使うことは高校生でも大事だと思います。画像編集もさまざまなソフトがありますが、やはりプロが使っているソフトのほうが、将来社会に出た時に役に立ち、確実にキャリアにつながると断言できます。
情報の授業プログラミングでも「Visual Studio」という、やはりプロが使うツールを使っています。高校生では制作したり創造したりする活動がメインになっていくので、その活動をなし得る端末でないと難しいですね。
家庭用PCは「学校と同じ環境でできるもの」が良い
--これまで重要視する点をお聞きしてきましたが、実際に使われてみて、逆に「ここはあまり気にしなくて良い」という点はどこでしょうか。
ひとつは重さです。軽い方が良いのはもちろんですが、私が使ってみた3機種では、一番重いChromebookは約1.5kg、iPadは700gと2倍ほど違います。「重さが半分違う」というと、すごく違うように感じますが、実際その違いは700gだけなんです。小学生であれば重さは重要ですが、高校生の場合はそれぐらいであればそれほど気にならないと思います。
もうひとつは起動時間です。確かに、スリープモードから立ち上がる速さというのは、感覚的にはすごく気持ち良い。でも、それも3~4秒の違いです。そこを大事にするよりも、もっと堅牢さやキーボードの入力のしやすさ、創作に適した機体を選んだほうが良いですね。
--学校向けのPCもそうですが、今後は家庭で「子供専用のPCを持たせたい」と考えている保護者の方も増えていると思います。そうした方に向けて、PCの選び方をアドバイスしていただけますか。
人によって何がしたいかが違うので難しいですね。ゲームがしたいという生徒には予算があればハイスペックなものを勧めています。中には自作PCを作った生徒もいました。
大切なのは、学校でやっている活動を家でも行いたい場合、できるだけ同じ環境でできる機種を選ぶことです。たとえば、違うOSやソフトだと、フォーマットが違うせいで、デザインしたレイアウトが崩れてしまうこともあります。それを直すのには多くの時間と手間がかかりますし、そもそも同じ環境であれば存在しない無駄な時間ともいえます。そういう点で苦労がないようにしたいですね。また、情報の授業でやるプログラミングも、得意な子はどんどんやっていくので、家庭でもやりやすい機種だと良いですね。
あとは、先ほどのプリントアウトできる、キーボードが打ちやすいといったことも大切です。
導入してから先生が困らない機種を選定してほしい
--最後に、これから「1人1台」の環境を進めていく全国の先生方へ向けて、松本先生からメッセージをお願いします。
機種を決めるにあたっては、子どもたちの学びももちろんですが、実際に導入してから「印刷がしづらい」「創造の作業に向いていない」など、先生が困らないように考えてほしいです。現在は機種による金額の差もほぼなくなっているので、長年学校で使われていて運用実績と活用のノウハウがあり、ネットにたくさんの情報がある機種のほうが、間違いはないと思います。
高校の現場においては、やはり授業のやり方を転換しなければいけないと考えています。伝統的に高校の教員というのは講義をするということに慣れているので、ICT機器が入ってきても、基本的に「講義」というスタイルからなかなか離れられないのです。
しかし、1人1台の端末になってくると、それは1人1人の興味関心に基づいた学びになります。そのときに、教員が生徒の学習活動をうまくサポートできるかどうかというのが、大きな課題になるでしょう。
現在は、何か新しいことを始めても発表する場がまだ少ないですし、今試みたことは本当に効果があったのかを検証することも難しい。ですから、しばらくの間は、さまざまなことを思うとおりに、あれこれやってみるという時期がしばらく必要だと思います。
実践を広めるという意味でも、マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)として外に事例を伝えたり、先生同士のつながりを大切にしていきたいと思います。兵庫県では、「兵庫スクールエバンジェリスト」という制度を、2020年度からスタートし、今年度から正式に動かしています。現在、80人を超える小中高の先生方が技術を伝えていくリーダーとして活動しており、私もそのひとりです。
また、SNSなどを活用していると、全国のさまざまな先生と知り合いになって、情報交換ができます。私自身、「こんな実践があるんだ」「この点は気づかなかった」「この工夫は面白い」と教えられることがたくさんあり、とても面白いと思います。
--ありがとうございました。
長年、ICTをフルに活用した授業を実践してきた松本先生ならではの視点で、高校における「1人1台」端末の重要ポイントをお聞きした。現場レベルでの具体案として、高校での端末選定の検討材料として、また家庭での子供用PCの購入の際にも、ぜひ参考にしてほしい。
高等学校向け PC 一覧
松本吉生先生
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兵庫県立神戸甲北高等学校に勤務。1998年度から2000年度にかけて、文部科学省の「光ファイバー網による学校ネットワーク活用方法研究開発事業」に携わる。2013年度「兵庫県優秀教職員表彰」を受賞し、2004年からはマイクロソフトMVP(Microsoft Most Valuable Professional)を現在まで17回連続受賞。また、2016年から現在までマイクロソフト認定教育者(Microsoft Innovative Educator Experts : MIEE)を4回連続受賞しており、2020年1月14日に「令和元年度文部科学大臣優秀教職員表彰」を受賞。
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