「ケアテック・イノベーション・コンテスト2025」(主催:篠原欣子記念財団、後援:厚生労働省)の第1回最終審査会・表彰式が2026年3月22日、東京都内で開かれ、小・中学生部門から計5名が受賞した。
ケアテック・イノベーション・コンテストは、介護や障害者支援、学習支援、ヤングケアラー、メンタルヘルスなど多岐にわたる「ケア」の領域を対象とし、社会課題の解決に挑むアイデアを募集する取組みだ。小・中学生から大学生、研究者、スタートアップまで幅広い層が参加できる点が特徴で、形となった試作品を紹介する「プロトタイプ部門」と、自由な発想やアイデアを競う「アイデア部門」の2部門で構成されている。
主催する篠原欣子記念財団(以下、しのはら財団)は、「人々の可能性や幸せ=Well-beingの最大化」をミッションに掲げ、社会課題の解決に資する活動を支援している。本コンテストもその一環として創設され、受賞者には総額7,000万円規模の研究開発助成金が用意された。


ケアの未来を拓く、テクノロジーへの期待
当日は、全国から選ばれたファイナリストたちが東京・京王プラザホテルに集結した。
主催者を代表して開会のあいさつに立った、しのはら財団代表理事の篠原よしみ氏は、日本社会が直面する介護課題の深刻さと、テクノロジーへの期待について言及した。
篠原氏は、1970年代に女性の就労機会を広げるため人材サービス事業を立ち上げた同財団創設者、篠原欣子氏の志に触れつつ、「今なお多くの女性が、家族の介護を担うことでキャリアの継続を断念せざるを得ない状況にある」と指摘。年間数万人規模で発生している介護離職や、介護施設の待機者約30万人という現状をあげ、課題の大きさを示した。
さらに、2040年には85歳以上の人口が約1,000万人に達する一方で、介護人材が最大70万人不足するとの見通しに触れ、「従来の延長線上では解決できない」と強調。そのうえで、「テクノロジーには、この景色を一変する力がある」と語り、テクノロジーの導入は介護スタッフの負担軽減、賃金向上、介護保険料の抑制にも寄与するとの見通しを明らかにした。
こうした背景を踏まえ、本コンテストについて「単なるアイデアの競いあいではなく、日本発のケアテックで世界の課題解決に挑む第一歩」と位置付ける。受賞者に対しては、引き続き事業化・社会実装に向けた支援を行っていく方針も示した。
最後に篠原氏は、「日本は高齢化という課題において世界の最前線にある。ここで生まれた解決策は必ず世界に広がる」と述べ、「皆さんの挑戦が社会の形を変える瞬間を楽しみにしている」と参加者へエールを送った。

中学生2名が「VRリハビリ」と「交流アプリ」のプロトタイプを発表
プロトタイプ部門では、事前審査を通過した最終審査対象者13名が順番に登壇し、各5分の持ち時間で完成度の高いプレゼンテーションを行った。テーマは、認知症患者と家族のための見守りAI、失語症リハビリAI、上肢完全麻痺者のための外骨格ロボ、立位型歩行椅子、3Dプリンタによる点字自動生成システムの開発など多岐にわたり、起業家、理学療法士、大学に籍を置く研究者などの発表者に加え、中学生2名も最終プレゼンに挑戦した。
VR技術を活用したリハビリ支援アプリ(中2・坂元有星さん)
中学2年生の坂元有星さんは、AI開発が趣味だという。母親の担当医から「AIを活用して、リハビリを楽しくすることはできないか」と言われたことをきっかけに、「リハビリを遊びに変える」ことをテーマとし、VR技術を活用したリハビリ支援アプリを開発した。利用者はVRで見えているボールを手で打つなど、ゲーム感覚で楽しくリハビリができる。ボールの速度や間隔の調整、スコア表示など、利用者に応じた設定が可能で、腕の基本的な動作を自然に引き出す設計に加え、座ったまま安全に使用できる点にも配慮されている。

孤独解消・自己表現のための交流アプリ(中1・飯尾龍成さん)
中学1年生の飯尾龍成さんは、共通の趣味をもつ人同士がつながり、オンライン・オフラインの双方で交流や活動を企画できるアプリを紹介した。背景には、「友達を作る機会が少ない」という子供たちの声や、いじめや不登校といった社会課題への問題意識がある。利用者同士の交流を通じて孤独を解消したり、自己表現や社会参加の機会を広げたりすることを目指している。飯尾さんは2025年11月に、法人を立ち上げ、プロジェクトの実証実験をすでに開始しているそうだ。

小学生3名が提案、見守り・詐欺対策・深海生物に着想
アイデア部門は、この日までに8名の受賞者が決定しており、登壇した受賞者は各3分で自分のアイデアを発表した。学習障害者のための読字支援インターフェースグラス、重度知的障害児の家庭内ABA療育支援ロボット、呼べば来るトイレ、産後の母親の孤立を優しさの循環で救うソリューションなど、ユニークなアイデアが披露された。小学生の受賞者3名については、事前に撮影した動画発表が放映された。
ここでは、小学生受賞者3名の発表を中心に紹介する。
高齢者の徘徊や見守りに着目(小5・杉浦尭拓さん)
小学5年生の杉浦尭拓さんは、認知症患者の徘徊や高齢者の見守りに着目したアイデアを提案した。認知症の人が外出先で事故に遭うケースが増えている一方、介護現場の人手不足が深刻だ。杉浦さんは、自身の祖父が認知症で徘徊を繰り返していた経験からこの課題に関心をもったという。家族だけで支えることの難しさや、見守りの限界といった現実を踏まえ、「安心して外出できる環境」をどう実現するかをテーマに据えた提案がなされた。

オレオレ詐欺を防止(小4・阿部孝太郎さん)
小学4年生の阿部孝太郎さんは、オレオレ詐欺を防止する装置のアイデアを発表した。電話の相手の声や番号を事前に登録し、それ以外からの着信があった場合には警告を表示。さらに、会話の中に「お金が必要」「カバンをなくした」といった詐欺特有のキーワードが含まれると、自動で質問を行い、相手が答えられない場合には詐欺の可能性を音声と表示で知らせる仕組みだ。ニュースで被害の増加を知ったこと、一人暮らしの祖父に実際に怪しい電話がかかってきた経験が、このアイデアの背景にあるという。

深海生物をヒントにした新たな支援技術の可能性(小5・藤本陽南さん)
小学5年生の藤本陽南さんは、深海生物の特性を応用した支援技術のアイデアを発表した。深海という、暗く音のない環境で生きる生物たちは、人間にはない優れた感覚や能力をもっている。「その環境は、視覚や聴覚に制約のある人々の状況とも重なるのではないか」という気付きから、深海生物の機能をヒントにした新たな支援技術の可能性を探る提案となった。

小・中学生5名が受賞、高い問題意識を評価
表彰式では、受賞者と助成金額が発表された。小・中学生からは計5名が受賞。プロトタイプ部門で最終プレゼンテーションを行った中学生2名と、事前に受賞が決定していたアイデア部門の小学生3名が名を連ね、その豊かな発想が高く評価された。
審査員を務めたのは、介護、医療、研究、投資、事業開発、情報学など、多様な分野の専門家7名。審査員からは、「熱意と原体験に基づく発想を重視した」「ニッチな課題を支援できるのは、財団だからこその意義」としたうえで、それぞれの視点から「ケア」を支えるアイデアが評価された。

小中学生の発表については、「高い問題意識に驚き、学ぶ点が多かった」との声が上がるなど、身近な経験に根ざした発想が審査員の心を掴んだ。
また、話題はヘルスケア領域における社会実装の難しさにも及ぶ。専門性に加えて営業やマーケティングなど多様な視点が求められるとして、「アイデアを形にし、社会に届けていく力」の重要性が指摘されいた。
さらに、本コンテストの参加者に向けて「生きることと、生きたくなることは違う」との言葉が紹介され、そのアイデアやプロトタイプが、単なる機能的支援にとどまらず、人の心に働きかける“ケア”の在り方を体現していくことへの期待が寄せられた。
スタートアップ投資の立場からは、「審査の結果と、その後のスタートアップの成功は必ずしも相関しない」と、受賞の有無に関わらず挑戦を続けることの価値が強調された。
審査委員長を務めたしのはら財団副理事長の古市克典氏は、「初開催のコンテストだったが、非常に盛りあがった。皆さまとともに『ケア』の分野に大きなうねりを起こし、世界的な課題解決につなげていきたい」と期待を寄せた。
未来を創る5つの声、受賞者たちの想いと夢
表彰式の後、小中学生の受賞者に、応募のきっかけや受賞の感想を聞いた。
プロトタイプ部門で受賞した坂元有星さん(中2)は、「普段は緊張しやすいタイプだけれど、今日は自信をもって落ち着いて発表できました。さまざまなアイデアは浮かぶものの、高度なVR開発には高性能なパソコンが必要で、形にできないこともありました。いただいた助成金はパソコンの購入に使い、これからも人々の暮らしをより豊かにする開発を行っていきたいです」と話した。

飯尾龍成さん(中1)は、「最初は自信がありましたが、皆さんの発表を聞いていると『場違いではないか』と感じました。でも特別賞をいただき、認めてもらえたと感じて嬉しいです」と話した。アプリの開発は「外部エンジニアの知見も借りながら行っている」とし、「助成金は、アプリのバージョンアップに使う予定」と目標にも言及した。また、「同年代の人も含め、さまざまな視点の発表を聞いて刺激になりました。審査員の先生からも声をかけていただけて嬉しかったです」と語った。


アイデア部門で受賞した杉浦尭拓さん(小5)は、保護者がコンテストのことを教えてくれたことが応募のきっかけだ。「身近に認知症の人がいたので、アイデアはすぐに出てきました。賞をもらえるとは思っていなかったので嬉しいです。他の人のアイデアを聞くのも面白くて、僕ももっといろいろなアイデアを考えたいと思いました」という。

阿部孝太郎さん(小4)は、「以前からオレオレ詐欺の被害が気になっていました」という。「頭の中で考えたシステムをフローチャートにするのは難しかったですが、2日ほどでまとめ上げました。将来はロボットエンジニアになって、いろいろな人を助けたいです」と夢を語った。

藤本陽南さん(小5)は、コンテストにチャレンジした理由として、「もっと多くの人に深海生物に興味をもってもらいたいですし、私に深海生物の魅力を教えてくれた人たちに恩返ししたいと思ったからです」という。「将来は生物学者になって、好きな研究を深めたいです」と話した。


子供たちの「誰かを助けたい」という思いやりが、社会を動かす原動力になる。しのはら財団のコンテストは、その想いを形にする機会を与え、未来への挑戦を後押ししてくれる。結果以上に、アイデアを形にする過程そのものが最高の学びになるはずだ。今後もぜひ、多くの小・中学生にチャレンジしてもらいたい。














